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からくり牢屋敷・白鴉異聞~記憶の江戸に咲く
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第一章 消えた死体
江戸の夜は、いつだって何かが蠢いている。
浅草寺裏の裏長屋、明かりも途絶えた丑三つ時、黒い影が路地を滑るように動いていた。
湿った土の匂い。遠くで鳴く野良犬の声。提灯の灯りすらない、闇そのものの中に、それはあった。
「おい、見たか。あの死体……跡形もなく、消えやがった」
駕籠かきの善助は、震える声で仲間の彦蔵に囁いた。二人は先ほどまで、近くの長屋に住む大家の命で、見回りをしていたのだ。
見回りの最中、路地の隅に倒れていた血まみれの男の死体。
その死体が、今や――影も形も、ない。
「なにかの見間違いじゃねえのか?」
「馬鹿言うな、見たんだ。腹ぁ裂かれててよ、内臓が――」
「やめろ、言うなっての!」
だが、あの死体は確かにあった。善助が足で突っついた時には、すでに冷え切っていた。
腹を割かれ、胸の上に奇妙な細工が置かれていたのを覚えている。
それは、からくり細工だった。
竹と金属でできた、奇妙な人形。目が光って、口をぱくぱくと動かしていた。
「なんだってこんなもんが……」
そのとき、風が吹いた。
つむじ風のように、奇妙な音を立てて駆け抜けたその瞬間、善助が見下ろしていた死体と人形は、まるで蜃気楼のようにかき消えた。
「……祟りじゃねえのか」
彦蔵が青ざめた顔で呟いた時、どこからか笛の音が響いてきた。
ひゅぅ……ひゅぅぅ……と、不気味に尾を引く旋律。
善助は気が狂ったように叫び、路地裏を逃げ出した。
――江戸市中では、その日から「死体が消える」という噂が広がっていった。
「……ほう。今度は浅草裏ですか」
南町奉行所を退いた浪人・綾小路隼人は、茶屋の奥で煙管をくゆらせながら、目の前の町医者から話を聞いていた。
町医者・三宅玄庵は、隼人が与力だった頃からの古い馴染みである。
「腹を裂かれた死体が消えた? またその手か……」
「うむ。しかも、残っていたのはまたしても“あれ”だ。例の、からくり細工」
玄庵が懐から取り出した布包みの中には、手のひらに乗るほどの精巧な細工人形が入っていた。
金属の関節、竹で編んだ胴体、瞳の部分に嵌められた水晶のような玉――
「見たところ、これは……からくり師・影山一座の仕業だな」
「影山……あの奇天烈なからくり芝居の連中か? 浅草辺りで興行をやってると聞いたが」
「それだけじゃない。あの一座の中には、幕府の技師くずれや浪人も混じっている。中には抜け忍もいるって話だ」
「おいおい、随分と賑やかじゃねえか。で、こいつが何を意味するってんだ?」
「これは警告だ。いや、示威かもしれんな」
隼人は、からくり細工の背中に刻まれた模様をじっと見つめた。
それは奇妙な文様だった。
三つ巴のように渦を巻き、その中心に“黒い羽”が彫り込まれている。
「――黒羽衆か」
「やはり、知っていたか」
玄庵は静かに頷いた。
黒羽衆(くろばねしゅう)。
江戸の闇に潜む謎の組織。その存在は噂でしか語られず、奉行所でも“夢物語”扱いされていた。
だが隼人は知っている。この江戸には、法で裁けぬ“もう一つの支配者”がいるということを。
「いいか、隼人。お主はもう奉行所の人間ではない。深入りすれば、命が危うい」
「命など、とっくに投げ捨てたさ。それより、この細工。もう少し調べさせてもらうぜ」
「おい! まさか、お主――」
隼人は笑った。その瞳には、かつて奉行所でも恐れられた“闇の目付け”の光が戻っていた。
「――からくりを追えば、奴らの巣も見えてくる」
*
三日後。
浅草裏の芝居小屋にて。
「さあさ、お立ち合い! 本日限りのからくり芝居、“死人使いの唄”でございますよ!」
影山一座の口上が飛ぶ中、隼人は裃姿で観客に紛れていた。
芝居の中で使われるからくりは精緻で、まるで生きているように動く。
だが、隼人の目は別のものを見ていた。
芝居の中で使われる“黒い羽”の紋。
そして、客席にいた異様な風体の男――片目に眼帯をつけ、身体中に包帯を巻いた男が、隼人をじっと見つめていた。
「……ようやく、釣れたか」
隼人は腰の脇差に手をやりながら、静かに立ち上がった。
芝居小屋の裏には、地下へと続く秘密の通路があった。
そこに潜むのは、江戸の裏を支配する“からくり牢屋敷”――
この事件の核心にして、闇の果て。
第二章 町医者とからくり師
三宅玄庵の診療所は、神田佐久間町の裏手にひっそりと佇んでいた。
町人たちには“気のいい先生”として親しまれているが、隼人にとっては違った。
南町奉行所に在籍していたころから、玄庵は“毒と解剖と闇”に詳しい、いわば“裏の医師”だった。
「……死人の口の中に詰められていたのは、細かく砕いた雁皮紙(がんぴし)だ。文字は消えていたが、薬物の反応が出た」
玄庵は、小瓶を指で弾いた。濁った液体が、ねっとりと瓶の中で揺れる。
「阿片に似ているが、それだけじゃない。脳の一部を麻痺させ、からだの感覚を鈍らせる類いのものだな。まるで“生きながらにして死体のようにする”薬だ」
「……死体が“消えた”のではなく、“動いた”ということか」
「そう考えるのが筋だ。少なくとも、物理的に運び去る時間も手段も見当たらん」
隼人は顎をさすりながら、からくり細工を睨んだ。
手のひらに乗るそれは、いまだに微かにカタカタと鳴っている。
まるで、自分が見張られているかのように。
「……このからくり、誰が作ったか分かるか?」
「その道で名の通った者といえば、“あの女”しかおるまいな」
玄庵が言う“あの女”。
隼人もすぐに思い浮かべた。
十年前、江戸のからくり市で“魔性の指先”とまで言われた女細工師。
――お珠(おたま)。
「生きていたのか」
「近頃、深川で“奇器屋(ききや)”を開いておる。人目を忍ぶようにして暮らしているが、腕は未だ衰えず、らしい」
「そうか……行ってみるか」
*
深川、夜の堀割を越えた先。
廃寺の隣に建つ、傾きかけた長屋の一角に、その“奇器屋”はあった。
提灯も看板もない。だが、戸を開ければ、なかには所狭しと並んだ奇妙な細工の数々。
からくり人形、絡繰仕掛けの箱、音を出す柱時計、歯車の動く屏風。
そして、その真ん中に座っていた女が、顔を上げた。
「……綾小路の、隼人じゃないかい。まだ生きてたのね」
お珠は、紅い紐で髪を結い上げ、男物の羽織をまとっていた。
その手は、かつてと変わらず白く細く、指先だけが煤で黒ずんでいた。
「久しいな。十年ぶりか」
「忘れてたわけじゃないわ……あの夜のことを、ね」
お珠は、にやりと笑った。その口元に宿る哀しみと毒気は、昔と変わらぬものだった。
「この細工――お前の仕事じゃないか?」
隼人が懐から出したからくりを、珠は一目見るなり鼻を鳴らした。
「これを“わたしの作品”と呼ぶなら、あんたも目が曇ったね。これは、模倣。しかも下手くそな」
「下手、だと?」
「ええ。動きが鈍い。音も粗い。こんなものを“見せる”つもりなら、作ったやつは素人。だけど……“動かす”ために作ったのなら、話は別」
お珠の瞳が、ぎらりと光った。
「これは、からくりの皮を被った、毒の運び手よ」
「……“運び手”? どういうことだ?」
「中に仕込まれているのは、ほんのわずかな薬。けれど、これが音を立てて動き出せば、その振動で薬が拡散する仕組みになってる。つまり……これは“死の笛”なのさ」
隼人は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
毒を仕込んだからくりを死体に置く。
その音と動きで、現場にいた者に薬を吸わせ、混乱させる。
その隙に、死体を“消す”――
いや、動かして、連れて行く。
「……どこへ?」
「“からくり牢屋敷”へ、よ」
その言葉を聞いた瞬間、障子の向こうで物音がした。
隼人はすぐに脇差を抜いた。
障子を斬り開けば、そこにいたのは――黒衣の男。
顔を布で覆い、手には鉄扇。
「お珠殿、“これ以上は話すな”とのことです」
「ふん……黒羽衆の狗が。隼人、気をつけな。こいつら、本気で命を獲りに来るわ」
男は何も言わず、鉄扇を振った。風圧が走る。
隼人は咄嗟に刀を抜き、真っ向から受け止めた。
ギィィィン!
火花が散り、お珠の作業台が吹き飛ぶ。
「逃げろ、珠! ここは俺が――」
「言われなくても!」
お珠はからくりの群れに手をかざすと、数体の細工人形が一斉に動き出した。
金属の脚が畳を跳ね、歯車が悲鳴のような音を上げる。
「鳴け、“死の笛”!」
からくりたちは、奇妙な高音を発した。
敵の男が怯んだ隙に、隼人は刀を振り抜いた――
斬撃が男の布を裂き、血が舞う。
「クッ……!」
男は天井へと跳び上がり、煙玉を残して姿を消した。
残されたのは、倒れたからくりと、息を切らす隼人とお珠だけだった。
「……こいつら、本気でやってくるぞ」
「来いよ、何人でも。殺し損ねたからには、最後まで踊ってもらわなきゃ」
お珠は、微笑んだ。
その顔は、どこか楽しげでもあり、恐ろしくもあった。
「……隼人。あんた、からくり牢屋敷に行く気かい?」
「ああ。必ず、真相を暴く。俺は、あの夜の借りを返しに行くんだ」
「じゃあ……もうひとつ、貸しを作ってもいいわね」
お珠が渡したのは、指ほどの長さの金属の棒だった。
細かく彫られたその棒には、“影山”の銘と、“壱”の文字。
「その鍵で開く場所がある。からくり牢屋敷の、“最奥”よ」
「最奥……」
「そこには、死んだと思ってた人間が、“生きて”いるかもしれない。動く死体なんて、序の口だよ。あそこでは、“人が物になる”のさ」
隼人はその鍵を握り締め、静かに頷いた。
――次に向かうは、牢屋敷の地下、黒羽衆の根城。
そこにこそ、この事件の本当の“始まり”がある。
第三章 闇の目付け、再び
夜の江戸。
風のない月夜に限って、音はやけに響く。
綾小路隼人は、深川の堀割を越え、密かに忍び込んだ。
向かうは、かつて南町奉行所の裏機構とされていた“闇の目付け所”の地下に隠された、“からくり牢屋敷”。
かつて己が仕えていた正義が、いつしか“人を監視し、操る機構”と化していた――
その事実を、隼人は数年前に知った。
そして、その反逆の代償として、彼は奉行所を追われたのだ。
「……戻ってくる羽目になるとはな」
隼人は、今もなお消えぬその怒りを胸に、牢屋敷の外壁をよじ登った。
忍びのような動きで、瓦を蹴り、屋根裏から内部へ侵入する。
薄暗い廊下。
壁のあちこちには、今も歯車が軋む音。
昔は機構による囚人監視が行われていたが、今は何もいない……はずだった。
――ギイッ。
突如、からくりの目が、音もなく開いた。
「……見張りがいるか」
不自然に開いた壁板の中から飛び出してきたのは、人間の形を模したからくり兵。
だが、腕には刃、脚には火薬仕掛けの推進装置が埋め込まれていた。
「こんなものまで量産してるのか……!」
隼人は、刀を抜いた。
打ち合うこと数合、火花が散り、鉄の腕を弾く。
からくり兵は音を立てて倒れたが、続いて二体、三体と現れる。
「終わりなき迎撃か……!」
隼人は走った。
戦うのではない、“核心”に向かって走るのだ。
途中の通路で待っていたのは――
「久しいな、隼人」
そこにいたのは、隼人とかつて同じく“目付け”を務めた男、九条左門。
南町奉行所を去ったあと、消息を絶っていたはずの男。
だが今、その瞳は、闇の奥で鈍く光っていた。
「左門……お前が、黒羽衆と通じていたのか」
「通じていた? 違う。俺が、黒羽衆そのものになったのだよ」
「貴様……!」
「見ろ、隼人。民は笑っている。からくりに守られ、毒を避け、静かに従う。人間は、己の自由ではなく、秩序にこそ安寧を見出す。お前も、かつてはそ
う考えていただろう?」
「……違う。秩序のために命を奪っていい理屈なんて、ない!」
隼人が駆けた瞬間、左門の袖から閃光。
炸裂する煙玉。視界を奪われる隼人。
その隙に、壁の裏から槍を持ったからくり兵が襲いかかる――
ギン!
火花が散る。が、槍は寸でのところで逸れた。
「おい、隼人……情けねぇな」
「……源八……!」
現れたのは、元・北町の同心、阿波屋源八。
武骨な体に、重そうな大鉄扇を担いでいる。
「ちょいと頼まれてな……昔の仲間が地獄に向かうってんじゃ、見過ごせねぇ」
「お前も来たのか……!」
「お珠って女に脅されたのさ。あいつ、物だけじゃなく、人も操りやがる」
二人は背を預けて、からくり兵たちに向かう。
「左門! 貴様の秩序に未来はない!」
「ならば――証明してみせろ。お前の刃でな!」
左門は静かに、奥の扉を開けた。
「“最奥”へ行くがいい、隼人。そこでお前は見る。人が“物”になる瞬間を」
*
闇に閉ざされた階段。
そこは地中深く、誰も立ち入ったことのない禁域。
お珠が言っていた――“その鍵で開くのは最奥”。
そして、そこにこそ、事件の本質があると。
「行くぞ、源八」
「ああ……悪い予感しかしねぇがな」
その奥に広がっていたのは、“牢”ではなかった。
まるで“劇場”だった。
人の形をしたからくりが何十体も並び、中央には巨大な舞台装置。
舞台の上には――“動く死者”たち。
いや、それは、生きた人間を“操る”ための機械だった。
頭に奇妙な笠をかぶり、目に光を失った者たちが、まるで芝居のように命令通りに動いている。
「まさか……脳を薬で“人形化”させて……操っているのか?」
「そうさ」
背後で声がした。
そこにいたのは、白衣をまとった男――
三宅玄庵、だった。
「玄庵……お前も……!」
「からくりの鍵は、薬にある。記憶と自我を曖昧にし、“刺激”に反応するように調整する。痛みも苦しみもない。まるで夢を見ているように“生きる”だけだ」
「それが……お前の正義か……」
「いや、これは“治療”だ。人は自由では生きられない。だが“制御された幸福”なら、それもまた、ひとつの生」
隼人は剣を抜いた。
その手が震えるのは、怒りか、哀しみか。
「……あんたら、完全に狂ってるぜ」
源八が低く唸った。
「おい、隼人。これはもう“事件”なんて次元じゃねぇ。江戸そのものが、蝕まれてやがる」
「……ああ。だが、止めるぞ。何があっても」
「死ぬぞ?」
「かまわん……死んでも、ここで終わらせる」
隼人は、“影山・壱”の鍵を、中央の制御装置に差し込んだ。
ギィィィ――
轟音とともに、装置全体が悲鳴のような振動を発し、からくり人形たちが一斉に狂い出す。
「おいおいおい、何しやがった!?」
「終わらせたんだよ……!」
爆発のような音。崩れ落ちる劇場。
死のように静かな中、隼人の瞳だけが燃えていた。
第四章 黒羽衆、集結
轟音とともに、地の底から吹き上げる黒煙。
からくり牢屋敷の最奥――
“制御劇場”と呼ばれた空間は、隼人の手によって崩壊を始めていた。
歯車は狂い、操られていた“人形”たちが床に崩れ落ちる。
彼らは目を開けたまま呻くように声を漏らしていたが、もう何も命令には従わない。
「……意識は戻らねぇのか?」
源八の問いに、隼人は黙って首を振った。
「記憶を消し、神経に薬を流し込むような真似をされて……もう元には戻せん」
「……あんたらのやってたことは、医術なんかじゃねぇよ」
源八が床に落ちた白衣の三宅玄庵を睨みつける。
「玄庵、お前、どうしてここまで……」
「……生かすためだよ。人は自分の意志で苦しむ。それを奪えば、平穏が手に入る」
「その平穏のために……幾人を人形にした」
玄庵はもう、反論もしなかった。
その瞳には、光も、熱も、もはやなかった。
静かに劇場の奥の扉が開いた。
からくり細工でも薬学でもない、“人間”の気配。
ゆっくりと足音が響く――
現れたのは、黒き羽織に身を包んだ、異様な風貌の男。
「ようやくお目通りか……“黒羽衆の長”よ」
隼人は、その男の名をかつて一度だけ耳にしたことがある。
町奉行所の裏記録にだけ残された、禁じられた名。
“真宮玄道(まみや・げんどう)”――
五代前の将軍の側仕えであり、表の歴史から完全に抹消されたはずの存在。
「わしを知っておるか、隼人」
「噂だけはな。だが、お前が生きていたとは……」
「生きておるとも。“からくり牢屋敷”を設計し、黒羽衆を組み上げたのは、このわしよ」
「なぜそんなことを」
「江戸を守るためだ。武士が腐り、町人が力を持ち、世界が乱れはじめた。わしはそれを正す“法”を打ち立てた。技術と薬、それらで人の心を封じ、“大江戸自動機関”として生かす。反乱も、悪も、起きぬ世界を作る。それが――真の統治というものだ」
「……狂ってる」
隼人は刀に手をかけた。
「人を物のように扱い、正義だと? それが“守る”ことか?」
「ならば問おう。お前は、この混乱の世で、どれほどの命を救った? 見捨てた命の方が多かったろう。わしは見捨てん。生かすために、自由を奪う。それが、わしの理だ」
「その理を、俺は認めん」
「ならば――力で示せ」
真宮が右手を掲げる。
――ガシャリ。
天井から降りてきたのは、黒羽衆五人。
全員が異能の武芸者。
手には銃、鎖鎌、毒吹き矢、鉄爪、火炎の仕掛け箱。
「なるほど……まとめて来やがったか。上等だ、黒羽ども!」
源八が鉄扇を構える。
「隼人、俺はこいつらの相手をする。お前は――」
「行く。真宮を斬る。それがすべての終わりだ」
「死ぬなよ、バカ野郎!」
隼人は一陣の風のごとく、真宮に向かって踏み込んだ。
真宮はその場で、鞘から細身の刀を引き抜く。
それは江戸でも一振りとされる“斬光の白刃”。
「さあ、来い。闇の目付け。お前の正義と、わしの正義……どちらが真に“江戸を救う”か、見せてみろ」
──銀の閃きとともに、二人は激突した。
剣戟が三度交わされる。
真宮の太刀筋は理そのもの、隙がない。
対する隼人の剣は“流れ”。まるで風のように重ねられる打突と捌き。
「ぬう……! この太刀筋……ただの武士ではないな!」
「当然だ。俺は、すべてを捨ててここに来たんだ!」
剣が交差するたびに、地が震える。
真宮の刀が光を放ち、隼人の刃が音を斬る。
五十合。
百合目。
そして──
「これで終いだ。“千鳥返し”!」
隼人の奥義が、真宮の胸元を斬り裂いた。
白羽の如く、真宮の着物が宙を舞う。
だが、真宮は即座に後ろへ跳び、壁際に倒れる。
「……見事だ。隼人……これほどの男が、江戸にいたとは……」
「終わりだ、真宮。お前の正義は、もう……」
「否、終わらぬ……わしが消えても……“第三機関”が残る……」
「なに?」
「黒羽衆は……表と裏のさらに“裏”……天領の中枢にまで手が届いておる……江戸の未来は、既に――」
その言葉を残し、真宮玄道はその場に倒れた。
沈黙。
場の全てが静まり返った。
「……勝ったのか?」
源八が血まみれの体で寄ってくる。
「……いや。まだ終わってない。やつの言葉が真なら……これからが“本当の戦い”だ」
隼人はポケットから、お珠に渡された“第二の鍵”を取り出す。
そこには「上方」と彫られていた。
「源八……俺たち、旅に出るぞ。今度は……上方だ」
「ちっ……また厄介な話になりやがったな……」
ふたりは、闇の牢屋敷をあとにした。
夜明け前の江戸の空に、かすかな光が差し込んでいた。
第五章 大坂炎上
大坂――天満橋の袂(たもと)。
隼人と源八は、にぎわう船宿街に立っていた。
江戸とは違う、ざらついた空気。
豪商たちの富と欲望が、街を光と影に二分している。
「……なんつう場所だ。匂いが違ぇ」
源八が鼻をひくつかせる。
「この街には、金と鉄と煙の匂いが染みついてる。人の匂いが、どこか遠くにある」
隼人は、渡された鍵に刻まれた「上方」の文字を思い出していた。
からくり牢屋敷と同じ“構造”が、この街にもある。
それが、黒羽衆の“第三機関”。
情報を求めて訪れたのは、かつて隼人の兄弟子であった男が営む表向きは薬種問屋「久宝堂」だった。
「おぉ、お前さんかい。まさかこんなところで会えるとはなあ」
迎え入れたのは、髭面に無数の傷を持つ老練な男――雨森定蔵(あまもり・じょうぞう)。
「定蔵さん。ひとつ、頼みがある」
隼人が手短に事情を説明すると、定蔵の顔が険しくなった。
「“第三機関”……か。ああ、耳にしたことがある。天保の初め、ある豪商が忽然と姿を消した。家も、奉公人も、丸ごとだ。その跡地に、奇妙な“文庫蔵”が建てられた……誰も近寄らねえ。噂じゃあ、夜な夜な歯車の音がするってな」
「そこに案内してくれ」
「いいや、行くな隼人。あれは“人間”が踏み入れちゃいけねぇ場所だ。俺も昔、仲間三人と入ろうとして……二人は戻らなかった」
「……それでも行く。江戸を守るには、そこを潰すしかない」
定蔵はしばらく目を伏せたあと、うなずいた。
「……なら、これを持ってけ」
差し出されたのは、黒羽の刻印が入った古い印籠。
「これは?」
「“玄道”の紋だ。かつて将軍直属だったときの、な」
「つまり……真宮玄道の?」
「お前の親父さんが使ってたやつだよ」
「なに?」
隼人の体がこわばる。
「どういうことだ。親父はただの牢番だったはずだ」
「いや――あの人は“黒羽衆”の初代監視官だった。内側から監視する役目だ。だが、任を解かれ、すべてを封じて江戸の片隅に消えた……」
「……俺は、ずっと嘘の上で生きてたってわけか」
隼人は歯を食いしばりながら、印籠を握りしめた。
「行こう、源八。今度こそ、すべて終わらせる」
*
天保文庫蔵。
それは船場の裏手、小路の奥にぽつねんと建つ、白漆喰の二階建ての土蔵だった。
見張りもいなければ、人の気配もない。
「気味が悪ぃな……静かすぎらあ」
源八が背を丸める。
隼人は扉の前に印籠をかざした。
――カチャリ。
何かの錠前が外れ、扉がゆっくりと開いた。
中に入った瞬間、冷気と共に、鉄のにおいが鼻を突く。
そこには、壮絶な光景が広がっていた。
壁一面に刻まれた、無数の“血の封書”。
からくり仕掛けのような机、天井から吊るされた透明の球体の中で眠る人々――
その一人ひとりの首には、“施療番号”がぶら下げられていた。
「……まるで、人間を保管してやがる……」
「いや、これは……生体から記憶を抜き出す実験だ」
「え?」
「俺の親父が言ってた。黒羽衆の最終目的は、“理想の統治”のための記憶の統一……つまり、“すべての民が同じ記憶を持つ国家”を造ることだった。戦も反乱も、自由も消える。ただの均質な“民”だけが残る。生きる屍だ……」
「それが奴らの理想ってのかよ!」
そのとき。
「よくぞ、ここまで来たな、隼人」
闇の奥から現れたのは、江戸で死んだはずの真宮玄道――ではない。
よく似た顔立ち、だが若い。目には異常な光があった。
「……お前は」
「私は真宮幻之助(まみや・げんのすけ)。あの者の息子にして、第三機関の主。親父が果たせなかった夢を、俺が完成させる!」
幻之助は掌を広げる。
すると眠っていた人々が、まるで指示を受けたように目を開き、機械仕掛けのように立ち上がった。
「こいつらは……操られてる!」
「すべての記憶を統一し、苦しみも迷いも消す。それがこの国の救いだ!」
「お前のやってることは、人間の否定だ!」
隼人は抜刀し、幻之助に切りかかる。
幻之助は体術に優れ、からくり刀で迎え撃つ。
刃が交差し、蔵の中で炎が散る。
源八は人形たちを蹴散らし、奥へと突き進む。
「こっちの中枢を壊しゃ、こいつらも止まるはずだ!」
「頼んだ、源八!」
隼人はすべての剣を幻之助にぶつけた。
斬り結び、ぶつかり、押し合う二人の戦い。
やがて隼人の剣が、幻之助の胸を貫いた。
「……なぜ、俺の……理想は……間違って……」
「人はな、苦しんで、悩んで、もがいて、それでも生きるんだ。お前の理想に、人の心はねえ」
幻之助は崩れ落ち、第三機関は完全に崩壊した。
天保蔵から火の手が上がり、大坂の空を赤く染めた。
それは、闇の理想が焼き払われた夜だった。
第六章 白鴉の城
江戸城――西の丸。
そこは将軍家の私的空間であり、また、誰も立ち入ってはならぬ「闇の権力」が棲む場所だった。
「これが“白鴉”の居城……か」
隼人は息を呑んだ。
大坂の“第三機関”を潰してから十日。幕府内部での黒羽衆の情報を求めて奔走する中、“黒羽衆”の“本体”は、将軍直属の機密部門に寄生するように潜んでいると判明した。
その中枢、それが「白鴉(しらがらす)」と呼ばれる存在。
江戸城西の丸奥にある、廃されたと伝えられる謎の楼閣。
「江戸の真の主は、あそこにいるのさ」
そう呟いたのは、老中の**水野忠邦(みずの・ただくに)**だった。
「……なぜ、あんたが俺を?」
「わしは、黒羽衆に操られていた。この十年、あれらの“記憶の兵”に政を委ね、将軍の耳にすら触れぬ策を通してきた。だがもう、限界だ。お前の手であれを――“本物の将軍”を救ってくれ」
「本物の、将軍……?」
水野は頷いた。
「十五代・徳川家慶公は、もう何年も前に……すでに“黒羽の記憶”に乗っ取られている」
その言葉に、隼人は凍りついた。
「……将軍すら、囚われているのか」
「西の丸の奥、“白鴉の城”の最上階に、“心核”がある。そこを潰せば、黒羽の記憶支配は断ち切れる。だが、そこには“白鴉”と呼ばれる存在がいてな……誰も、姿を見た者はいない」
「なら、俺が行く」
「死ぬぞ」
「かまわねえ。もう、誰にも背中は預けねえと決めた」
隼人は、かつて父が使っていた印籠を手に、城の奥へと向かった。
*
西の丸奥――白鴉の楼。
それはまるで、現実の建築ではなかった。
宙に浮くような階段。永遠に続く回廊。天井に広がる星空のような歯車の群れ。
時が溶け、空間がねじれ、己すら見失いそうな異界。
「……まるで記憶の中に迷い込んだみてぇだ」
隼人は、からくりのような兵士たちと戦いながら、最上階を目指す。
刀が鈍く響き、幾度も血を吐きながらも、隼人は登った。
そして、たどり着いた最上階。そこには――
玉座に座る、一人の白い男がいた。
「来たな、綾小路隼人。ようこそ“記憶の玉座”へ」
その声は、確かに人間のものだった。だが顔は、どこか“誰でもあり得る顔”をしていた。
「……お前が、“白鴉”か」
「ああ、我は“すべての記憶の集合体”だ。かつて名を持ち、かつて願い、そして人を棄てた存在」
「……お前は、人間じゃねえな」
「否。我こそが、人が積み上げた記憶の頂点。将軍家の記憶、武士の誇り、農民の嘆き、女たちの涙――すべてを“記録”し、そこから最適解を導き出す。人間は、ただ従えばよい」
「なら問う。“間違い”の記憶もあるか?」
「ある。だが、それも消去可能だ」
「……それが間違いなんだよ!!」
隼人は一気に刀を振り抜いた。
白鴉は手を掲げ、空中に浮かぶ“記憶の刃”で応じた。
戦いは激しく、まるで“精神と記憶の戦”のようだった。
隼人の過去、父の言葉、兄弟子の死、幼い頃の記憶がぶつかり合い、空間が歪む。
だが隼人は叫んだ。
「たとえ、痛みと苦しみの記憶でも、俺はそれを抱えて生きる! 間違いも、悲しみも、“俺”だ!!」
その刹那、隼人の刀が“記憶の核”を断ち切った。
「……なるほど。我は、人を――舐めていたか……」
白鴉は崩れ落ち、記憶の玉座が砕けた。
空間が音を立てて崩れ、すべてが闇に呑まれていく。
隼人はその中で、懐から一枚の文を取り出した。
「親父……俺は、やったよ。あんたが守りたかった“人の心”、壊さずに済んだ」
*
目が覚めたとき、隼人は江戸城下の河岸に倒れていた。
白鴉の城は跡形もなく消え、将軍家慶も正気を取り戻していた。
数日後。
水野忠邦は政務から退き、幕府は“黒羽衆”の存在を歴史の闇へと葬った。
「……さて、俺の役目も終わりだな」
そう言って隼人は、かつての牢屋敷跡に立っていた。
そこには何もなかった。
だが、確かに“人の心”が戻ってきていた。
背後から、懐かしい声が聞こえた。
「よう。まだ死んでなかったか、隼人」
振り返れば、源八が立っていた。
その顔には、満足げな笑みがあった。
「さあ、飲もうや。江戸の空気でな」
「……ああ」
隼人はうなずき、ふたりは消えゆく夕日に向かって歩き出した。
かつての影を踏みしめながら。
第七章 火の鳥のゆくえ
江戸の町に、春が訪れていた。
桜は咲き誇り、人々のざわめきが道を満たす。
だがその静けさの底に、長い闇の記憶が横たわっていることを、誰も知らない。
いや――知っている者たちだけが、静かに口を閉ざしているのだった。
「……お前は、これからどうする?」
酒屋の二階、ほの暗い灯りの下。
源八が盃を傾けながら、隼人に問う。
「さあな。元の暮らしに戻るつもりはねぇ。剣なんざ、もう振りたくもねえ」
「坊主でもやるか?」
「……それも悪かねぇな」
ふたりは笑った。心からの、静かな笑いだった。
すでに、黒羽衆は壊滅した。
“白鴉の城”は跡形もなく消え、その記憶支配装置も二度と動くことはなかった。
しかし、それで全てが終わったわけではない。
政から離れた水野忠邦は、紀州に隠居したという。
将軍・家慶も、公には“病から快復した”という扱いになり、表立った変化はない。
だが、裏では“記憶操作”の実験文書や、残存する“黒羽の記憶片”が回収され、徹底的に封印された。
そして隼人は、何も語らず姿を消した。
唯一、江戸の片隅で“からくり修理屋”として生きる源八にだけ、文を残していた。
その文には、こう書かれていた。
『この国には、“記憶を喰う闇”があった。
だが、それに立ち向かう“痛みを抱く人間”もいた。
俺は、その片隅にいた。それだけで、もう充分だ』
それから、五年。
江戸の町に、ある“旅絵師”がやってきた。
琉球帰りの風体をした若い女で、名を沙耶(さや)という。
奇妙な絵を描くことで評判となり、町人からも大名からも人気を集めていた。
その絵はどれも、人々の“記憶”を映したような、不思議な構図だった。
ある日、源八の修理屋にも彼女がふらりと現れた。
「ごめんくださーい。懐中からくりが壊れちまって」
「ほう、お前さんのような旅人にゃ、なかなか高価なもんじゃねえか」
「ええ、大切な人からもらったものなんです。――そう、もう会えない人」
源八がふと目を細めた。
沙耶の瞳には、どこか“見覚えのある記憶”があった。
「……あんた、もしかして」
「ううん、違うの。ただ――夢で見たの。真っ白な鴉と、燃えるような剣を持った男の夢」
源八は微笑んだ。
「そいつは、いい夢だったかい?」
「うん。泣きながら目が覚めた。でも、すっごく……あったかかった」
沙耶は微笑み、懐中からくりを預けて帰っていった。
源八は、それを静かに机に置き、からくりを開けた。
中には――
「……!」
小さな羽が、ひとつ。
純白の、鴉の羽だった。
「――まだ、生きてやがったか。まったく、お前って奴は」
源八は空を見上げた。
そこには、春の陽射しに光る、一羽の鳥の影。
火のように、光のように、どこまでも飛び去っていった。
***
時は流れ、記憶は薄れていく。
だが、その奥には、確かに生きた者たちの足跡が残る。
江戸という大きな城下町の片隅で、
一人の剣士が闇と戦い、光を残した。
名は、綾小路隼人。
かつて、“記憶に喰われた男”――そして、“記憶に勝った男”。
彼の物語は、もう誰も知らない。
ただ、春風の中に、白い羽根が舞うだけだ。
(了)
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