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変な男の人たち

普通の人 その2

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久保田さんはホテルに入ると、シャワーを浴び、シャカシャカと念入りに歯を磨き出した。
そしてホテルにあるガウンをきっちりと着て、コンドームを枕元に置いた。

さあやるぞ、とばかりに用意周到。

ちょっと今までにはいないタイプだ。
いいのか、悪いのか。
判別はつかない。

欲望でするというより、儀式のようだった。

久保田さんのエッチは普通だった。

どんな事をしたかと問われても
思い出せない。
それほど印象に残らなかった。

しかし、嫌な事もされなかった。

思い出せるのは終わった後、久保田さんは腕枕し、優しい笑顔で私を見つめたことだった。

何から何まで普通だった。
それとも今までが異常だったのか?

ベッドの中で色々話をしたのだが
その話も普通だった。

タバコは吸わず、酒は付き合い程度。
ギャンブルはパチンコを少しやるくらい。
会社の人に連れられてゴルフに行ったり、釣りに行ったりはするが、それも自分の趣味ではなく単なる付き合い。
好きな音楽、映画、特になし。
コアな趣味もなく、自己主張もなく、こちらの話を素直に聞くばかり。

なんというつまらない人だ。

しかし、こんな普通な人が他にいただろうか。

付き合うならこんな人がいいのかもしれない。
強烈な個性はないが、優しくて、大人しい。

正直、自分の気持ちが分からなかった。

このまま久保田さんと付き合うことになるのだろうか?
そう思うと複雑だった。

「この人が好き!」

そう思ったことは一度もなかった。
もちろん久保田さんに対してもそんな感情はなかった。


自分でもよく分からないまま
その後も久保田さんと二人で会った。

それは3回目に会った時だった。

「彼女がいるんだよね」

と久保田さんは言ったのだ。
3度も会って罪悪感が芽生えたのだろう。

久保田さんは人畜無害みたいな顔して浮気をしていたのだ。

なんという悪い奴だ。

しかし正直

「久保田さんと付き合わなくていいんだ」と思った瞬間、なぜかホッとした。

「ごめんね」

と久保田さんは言ったが

私がこんな性分だったから良かったものの
普通の女性だったら「私は浮気だったのね!キーッ!」と激怒する案件だ。

私が怒り狂い、彼女に全部言ってやる!なんて言い出したらどうするつもりだったのだろう?

まったく人というのは分からない。
こんな大人しい顔で、彼女がいるくせにキラキラした所に行こう、とは。意外と大胆不敵だ。


その後、久保田さんは、財布に入れてある彼女の写真を見せてくれた。

「きれいな人だね」
と私が言ったら
「うん」
と言った。

「うん」じゃねえよ
と、思ったが、久保田さんはそれから彼女の話を始めた。

長く付き合っていて、彼女の方が「どうするの?結婚するの?しないの?結婚しないなら別れる!」と半ば脅され、来年結婚することになったのだそうだ。

押されて結婚。
久保田さんらしい。

マリッジブルーだったのか?マンネリだったのか?
久保田さんが浮気した理由は分からないが、こんないい旦那になりそうな真面目な人が浮気するのだ、と今回のことは少し勉強になった。

もう会うのやめようか、と私が言うと
うん・・と、静かに久保田さんは頷いた。



それから時々久保田さんとは職場で顔を合わせた。
久保田さんの方は気まずそうだったが
私は「自分には何の罪もない」と思っていたので、さほど気にならなかった。

久保田さんはやがて結婚するのだが
職場の人は口々に
「あの人はいい旦那さんになるだろうね」
「優しくて真面目そうだもんね」
と言った。

それを聞くたびに

とんでもない。
こいつ、私と浮気してたんですよ。

とこっそり心の中で呟いていた。

前回の細谷さんの時にも思ったが
人を見た目で判断してはいけない。




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