英雄王の末裔 ~青のラファール~

カザハナ

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~ライトフォーマー周辺~

旅立ちの儀式の内容と噂の少年

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「子供の成長と言う名の月日は経つのが早い物ね。もうラルを送り出す儀式をしなければならないなんて……」
「母さん?」
「あー……お前もあの小山に登るのか」
「兄さん?」
「あれな、精霊がよく来る場所、あそこにある山頂付近の“冬”を表す物を取ってこいって言うから俺は氷柱つららを取ってきたんだ。そしたら母さんが『これは確かに山頂にある“冬”を表す物。あの小山の物である証拠に精霊の祝福が掛かってる。でも、これはあの場所の麓にある物ね』と。勿論俺は山頂まで行って来たがな」
「フフッ。分かっているわ。あれはちゃんとあなたが上まで行ったから精霊が祝福したのよ。儀式には精霊への旅立ちの挨拶としてあそこに赴くんだから」
「じゃあ、何で兄さんには麓の物って言ったの?」
「ああ、それはね、旅立つ者の短所を一つ言う決まりがあるそうよ。これはそれに気を付けてと、注意を促す目的ね。ラファスの場合は面倒臭がりなんだからって具合にね」
「俺の面倒臭がりは、ある意味親父が原因だがな……」

 ラファス兄が遠い目をしてる。
(あー……ラファス兄は子供の頃父さんに、散々な目に遭わされたって言ってたもんなぁ)

「結局その後旅立つか留まるか選択させられるんだが、俺にはラルがいて、俺が色々教える気だったから、ラルが旅立つまでは、村に留まる事に決めていたんだよ。赤の血族には赤の血族が色々教える決まりだしな」

 母さんは赤であって赤じゃない。赤の血族と呼ばれるのは英雄王の血を確実に継ぐ者のみで、母さんは赤の伴侶だったからだ。

「ごめんねラファス兄。僕の為に村に留まらせちゃって。いつもありがとう」
「気にすんな。俺こそ仕事で近くに居れない時の方が多いしな。もしあの親父が生きてお前に教えてたならと思うとゾッとする。さすがに俺の時とは違うだろうが、あれは歩く災害。俺ですら手に負えないからな……」
「ラファスったら……」

 少し困った顔を見せるが、そんな事ないと否定の言葉を言わない母さん。確実に心当たりがあるようだ。

「俺は母さんを、本気で心底尊敬する。何せあの親父の伴侶だからな。ラルがああならなくて良かったと心底安堵してるんだ。だから気にせず旅立て」


 翌日、朝から親しい人達に旅立つ前の挨拶へと回り、昼過ぎに一度家に帰って昼食を取り、それから学校へと挨拶に行く予定だ。今日はアーヤも別行動で、あちこち回る事になっている。

「ちょっと学校に顔を出しに行って来る~!」
「今日儀式をするから早い目に帰って来るのよ!」
「分かったー!」

 先生達に挨拶して、少しだけ学校の図書室に寄る。僕ん家の地下の蔵書に比べればかなり少ないけど、ここにはこの村の住人が書いた物も納めてある。僕の目当てはそれで、たまに掘り出し物があるからだ。この図書室は村の誰もが利用出来る場所だから、勿論僕ん家の蔵書の書き写しもたくさん納めてあるけどね。
 因みに僕ん家の蔵書の殆どは、古代語表記。読み書き出来るのは赤の血族ぐらいかな。遺跡とかでたまに発掘される本に、僕ん家の地下蔵書で新品同様の同じ物があったりするのは仕方ないと思う。
(……あれ?この気配はあいつだ。喋った事ないけど、噂だけならよく聞く奴だ。鉢合わせなんて珍しい)
 少し離れた場所の扉が開き、僕と同い年の少年、セレヴィスが図書室内に入って来た。
 それに気付いた近くの席の女の子達が喋り出す。

「あの子が来た!やだぁ、シヤンに怒られるぅ~!」

 クスクス、あははとからかい混じりに笑っているが。
(声潜めてるつもりかどうかは知らんが、どう考えたってセレヴィスに聞こえてるっつうの。ほら見ろ、こっちに来てる。どう出る気だろ?面白そうだから見物しとこ♪)
 セレヴィスが、少女の前で止まり、少女は焦る。とその時、セレヴィスが少女の頬に親愛のキスをした。
(うっあぁ~……。嫌がらせ以外の何物でもないな、ありゃあ……。ま、あの女の子は自業自得だが……自分の身体張ってまでやるか?……何か自虐的で心配な奴だなぁ)
 固まる女の子を放置して、セレヴィスが歩き出す。
 セレヴィスが僕の横を歩いて来るのを見計らい、僕の方から声を掛ける。

「よぉ!お前さ、あんま自分を追い込むなよな。ああいうのは気にしてたら切りがないぞ」

 僕の声にセレヴィスはビクッと身体を震わせ、訝しげな顔で僕を見る。

「――俺に……言ってるのか?」
「おいおい、この距離で、あんた以外の誰に言うってんだよ」

 因みに今、僕の周りは誰もいない。横を通ったセレヴィス以外は。

「えっ、いや、えっと……?……お前、恐くないのか?」
「恐いって……シヤンの事か?悪いけど僕、あいつの天敵らしい・・・から。まぁ、こっちはあんなのどうでもいいけど。それとも、お前に関するの事か?どっちにしろ、恐くはないな。噂なんぞ気にしない。事実だろうと問題ない」

(シヤン、かぁ……あいつとはもう殆ど会わねぇだろうなぁ。会いたいとも思わんし)
 実はこのシヤンと呼ばれる少年、昔アーヤを苛めてたんだよね。子分を二、三引き連れて。女なんかと遊んでやるかとか何とか。で、丁度僕が居合わせて、じゃあ僕と遊ぼうってなった訳だ。
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