上 下
16 / 113
~ライトフォーマー周辺~

常識は学んできてから旅しなよ

しおりを挟む
「……兄さんさ、他の大陸の、ヘグルスとかって……気にしなかったの?」

 この世界の大陸は、各大陸によってヘグルスが違う。時には同じ大陸でも違うから、旅人は自分の出身の土砂を入れる大きな手鏡程のヘグルス変換機器を持ち歩く。土や砂その物に魔力があり、地の魔力が強ければ強い程、ヘグルスが強く重い。
 だからこそ、精霊王は一番影響力の少ないこの大陸の北に精霊界を生み出したとも言える。元々ヘグルスは9までで、精霊界との繋がりが地に影響を与えた為に更に強く重くなったようだ。だから世界の認識ではヘグルスは9までしかない。
 そして、ヘグルス。地の魔力が強いという事はその地に棲む魔物にも充分地の魔力が影響する訳で、フォルゼ領域内の影響を食らう地域、海域の魔物もとんでもない強さを持つ。だからこそ精霊達は、この領域に人がなるべく入らないよう領域内の村人以外は迷わせ追い出すのだ。

「えっ?どういう事???」

 中央大陸はヘグルスが1と2。その大半が1だ。もしヘグルス変換機器を持ってなかったら、立ち上がるどころか身動きすら出来ないだろう。そして、市販のヘグルス変換機器はそれ程性能が高くはない。一気にヘグルスの高い場所へ行けば機器や身体に負荷が掛かる為、普通は4か5の場所に先ずは行き、それからヘグルスの高い場所へと移動するのが常識であり、負荷を軽減する方法だ。そうして高い場所へと行ったなら、器機も身体も耐性が付く為、次からはそんな手間は取らずに済む訳だけど……。

「……東に着いて直ぐ、体調とか崩したりとかしなかった?」
「えっ、何で知ってるの?!確かに東に着いて直ぐ、身体が重いし頭痛いし、約1ウィテルム(※約一ヶ月。ただしこの世界の一ヶ月はこの世界の大体60日前後)程寝込んでも未だ本調子じゃないけど、環境がガラッと変わった所為だから仕方ないし……でもラファールよく分かったね?」

(馬鹿だ……。何となく分かっちゃいたけど、予想を遥かに上回らせやがる程の大馬鹿者だった……)
 アーヤも兄さんの話を聞いて、僕と同じ心境だろう。ヘグルスの高い場所から低い場所へ行くのは問題ない分ヘグルスが高い場所の出身者、つまり僕達は全く影響ないけど、逆はダメって教えた事あるからね。

「ラファール?どうかしたの?」

 僕が頭を抱えている姿を見て、???と?マークを浮かべた顔をしやがる兄さん。
(あったま痛~~~!あんたの所為だと気付いてねぇだろ?!)

「うん、解った。兄さんあんたの馬鹿さ加減が……」
「はあ?!」
「行き先は決まった。先ずは中央大陸だ」
「え?ちょっ、何で?!?」
「船員に聞かれなかったのかよ?!」
「え?何を??」
「東は初めてか、とか!」
「ああ、うん。聞かれたね」
「じゃあ何で来たんだよ!」
「え?何で、って?」
「聞かれたんだよな?じゃあなんて答えた?!」
「ええっと……東は初めてだけど、あちこち行ってるから旅慣れしてるよって」

(たっ、たかが中央大陸回ったぐらいで……!)

「そんな言い方するから誰も止めないんだよ!!」

 それまで黙って聞いていたセレヴィスが、戸惑いながら手を挙げる。

「えっと、質問。俺、今一理解出来てないんだけど、この兄さん何か不味い事でもしたの?」
「したなんてもんじゃないよ!普通はしない。断言出来る!」
「え、何それ……」
「え?何?何の事言ってるのさ?」

 取り敢えず、二人の言葉を無視して荷物袋を漁る僕。そして目当ての物を取り出しセレヴィスに渡す。

「これ、僕が作ったヘグルス変換機器。セレヴィスにあげる。村のヘグルスと一緒だから持ってて。因みにアーヤはもう持ってる。これは僕の予備だから」

 僕の渡したヘグルス変換機器を二人は眺める。

「え……何これ、小っさぁっっ!!」
「えっ?俺は初めて見たけどこれって小さいの?」
「小さいよ!ちょっと待って……ほらっ!これが市販のヘグルス変換機器だから!」

 兄さんが腰に提げてる物をセレヴィスに見せる。兄さんの手鏡大の丸いヘグルス変換機器に対して僕の渡したヘグルス変換機器は手の中に収まる小枝サイズ。
形も小枝っぽい。その上僕のは高性能だったりする。
 多分売り出せば、城の一つは買える位の値段を吹っ掛けても、欲しがる奴は欲しがる。特に軍部系が。まぁ売り出す気もなければそれ程の価値がある物だと教える気もないけどね。

「悪いけど兄さんにはあげれない。何せそれ、僕の予備だしもうないからね。それと、兄さんのヘグルス変換機器は多分壊れてる」

 僕の言葉にキョトンとする兄さん。言葉、通じてるよな?

「ええっと、これ貰えないのは残念だけど、何で僕のヘグルス変換機器が壊れてるの?」
「それは兄さんの使い方に問題があるから」

 因みに僕が作ったのなら兄さんみたいな無茶な使い方しても壊れる心配はない。言わないけど。
 この後セレヴィスに説明する為、兄さんにも聞かせたのは言うまでもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...