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第2話 魔王様、それはストーキングです!

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 俺は久しぶりの魔族の肉体に少し困惑していた。というのも、人間暮らしが長すぎて、魔力とか魔法とかどうやって使っていたか思い出せないからだ。えーと。まず、この空間をどうやって快適な引きこもりライフに適した空間に変えていくかだな。

 まずは、もうちょっと寝返りを打てるぐらいのスペースと、ネット環境が欲しい。最低限、暇つぶしのゲームとか。漫画をゴロ寝しながら読みたい。

 無いな。無いよな。超文明世界チキュウならまだしも、剣と魔法でドンパチやってるこの世界にあの素晴らしき発明が生まれようはずもない。いや、後200年くらい待てば大魔王の居ない平和な世界なら可能か? いやいや、あのネットとかいうのも元はと言えば軍事技術の応用らしいし、やはりある程度の混沌はそこにあるべきなんじゃないのか?

 とりあえず俺は夢を叶える第一歩として、棺らしき空間を取り払い、地下室と呼べるぐらいの空間を確保することに決めた。

「えーと、魔法魔法……。呪文が必要だったか? 念じればいいんだっけか」

 俺は棺の周りの土を削るよう念じてみた。

 ん? なんかキテル気がする! 念じれば大概のことは実現する気がする! さすが大魔王! やればできる子、YDM(やればできる魔王)!

 そしたら次はこの忌々しい棺を引き延ばして……、ハイ、できました! 男の城1LDK! イン地下! 天井高はもうちょっと欲張ってもいいかな? なんせ家賃はタダ! あ、じゃあ本格的に風呂トイレ別までいっちゃおうかな。土中の成分を分解再構築……、棺に穴を開けましておめでとう! 独身時代を思い出すなぁ。風呂トイレ別への憧れ。

 後、酸素の確保。大魔王と言えど呼吸は致しますからね。小さな穴を間隔を開けて並べれば目立つまい。

 さて、これが我が城Ver.2! トラップやボスの配置は無いけれど、見果てぬ夢はそのままに! これで、俺の夢の舞台は整ったわけだ。やりたいことを探す俺だけの城。これは逆に魔王だった頃を思い出してきたぞ。まだ一地方の暴れん坊だったころの俺。自分の縄張りを手に入れてイキリ散らかしてたっけ。

「さてと、ではではやりたいことリストの作成をば……」

 必要なもの1、筆記用具。必要なもの2、紙。

 …………。気付いてしまった。思い出してしまった。ここは、ニホンじゃないって事を。メモなら携帯という常識をぶち壊す世界だということを。そして何なら筆記用具と言えば羽ペン、紙と言えば羊皮紙を指すことを。

 不便。

 紙の原料は木なはずだから根っこ辿れば何とかなるだろ、と思っていた時期が私にもありました。いやあ、正確に知らないと中々魔法でも再現できませんわな。こんな時、スマホを指でなぞればW○ki先生に辿り着くことが出来るのに。知らないことは知らないものですね。

 ほんと、不便。

「ここは一旦、石板に文字を刻むという原始的な方法で行こう。地下から岩を採掘、薄く切り伸ばして。削るのも魔法があれば簡単簡単。ピクロス感覚!」

 この能力、できればニホンで使いたかった……!

 あの快適なニホンで魔法が使えたりなんかしたら俺はもう、あらゆる代償を払ってでもあの世界に居座っただろう。事ここに至って初めて、チキュウの民族の異世界に対する憧れというものに共感、イイねを押したい気持ちになった。

「さて、やりたいことリストその1、勇者パーティーの誰かと付き合う」

 朧気ながらこの世界の記憶も魔法と同時に蘇ってきたところだ。勇者アリアは確か……四角四面の堅物で、金髪、常時ポニテ。正直胸はそこまででもないが、良く言えばスレンダーでモデルタイプとも言える。所謂賢いバカだが、顔の整い方は群を抜いていた。ああいう手合いは会話が難しい。俺が元魔王だと知るや否や最大魔法をぶちかましてきそうだ。だが、ニホンでの知識がある俺にならきっと攻略は可能なはずだ。

 剣士フォルテナ。赤髪ショートヘアに勝気なセリフが目立つ……、がしかし。ああいうのに限ってプライベートは乙女丸出しだったりするんだな。胸は剣士にあるまじき積載量。遠心力に振り回されないで頑張れ! というのが素直な感想。

 プリーステスのドルチェ。真面目、おっとり。黒髪ロング。多分、あの勇者パーティーでは一番苦労しているんじゃないだろうか。分厚い僧服に隠されているが結構なボディの持ち主と思われる。得てしてツッコミ気苦労キャラに回されがちな性格だが、この個性派勇者パーティーにおいては正にそれが顕著に表れている。

 そして、魔導士にして元盗賊でアーチャー、錬金術を嗜むロリエルフのリベラ。三つ編み茶髪。属性を盛りすぎ。手下が仕入れた情報によると、本人的には飽きっぽいが、エルフの高寿命が幸いして、それぞれマスタークラスになってしまっているという。チームに一人はいるんだよな、こういう奴。居ないか。ニホンの感覚だとまだこれでも序の口かもしれんな。

 以上、手下の情報と、実際に少し会話して、戦ってみてのレポートであります。現場からは以上です。

 正直、彼女らのことをもっとよく知りたい。魔王視点から得た情報では足りません。というわけで、手っ取り早くドローンを作成したいと思います。ドローン。もちろん、私、構造なんて一欠片もわかりませんので、ここは一つ、語源となった蜂さんに魔眼を付与して飛ばしたいと思います。後で外に出てキラービーを捕まえよう。とりあえずは勇者たちが離れるのを待つべきだな。

 うーむ、しかしドローンで盗撮とか、ここがニホンならやってることはタダのストーカー。だがしかし、この世界にストーカー規制法は無いし、むしろ俺、魔王。やりたいこと、やったもん勝ち。青春n……。

 まあ、せめてものプライドとして、覗き行為はやめておこう。こちらとて、一度人間、しかも法治国家を経験した身。魔王に存在するはずのない良心が疼く。転生した家がまともで本当に良かった。

 さて、次にやりたいことはと……。
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