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第8章 天界編

地獄の94丁目 後の祭り

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 ◆出張報告書◆
出張日時:天歴X年 愛の月 慈しみの日
出張先:地獄
出張目的:天界の間抜けの後始末

 うーん……ダメか。

出張目的:天界に仇なす敵、ドラメレク=ディアボロスの捕縛。
報告事項:めんどくさかt

 いやいや。

報告事項:天界における最高刑とも言えるコキュートスへの封印を手下を使って脱し、堕落の限りを尽くし、虐殺に手を染めた稀代の悪魔王。その断罪を敢行いたしました。
経過報告:手下を使って復活を果たしたドラメレクは当時の魔王であったデボラ=ディアボロスを襲撃、撃破。その際、人間一名が犠牲となっております(後に復活を果たしたとの事。こちらに関しては別途報告事項有)。その後、手下と共に自らの居城に引きこもり、書き記すのも憚られるほどの悪逆・淫猥の限りを尽くして籠城。偵察も一人犠牲となっております。その上あろうことか地獄の戦力を一カ所に集め、武の祭典を開催いたしました。この一事においても騒乱罪の適用も可能かと思いますが、ともかく事態を重く見た天界は“曇天”の派遣を決定。実行部隊は曇天の隊長、ニムバスとその部下ミスト。作戦内容は、ミストが武闘大会に参加し、ある程度弱らせた上で捕縛を実行。作戦は無事完遂され、ドラメレクとその部下四名を拘束いたしました。現在、天界の牢獄、“天獄”にて監禁中ですが、再度地獄の最下層、コキュートスに部下共々移送し、封印する予定です。

 ……っと。めんどくさぁい!! 事務処理は苦手!! 隊長には絞られるし訓練メニューは追加されるし本当に地獄なんかもう関わりたくなぁい!

特記事項:我々がドラメレクを拘束した後も武闘大会は継続され、新魔王として、旧魔王デボラ=ディアボロスが再度着任したようです。天界とのつながりもあり、反逆の可能性が低い反面、特例による人間復活の際、怪しげな施設を作り出しているようで、追跡調査の必要性を進言いたします。

 ……うん、こんなもんかなぁ。隊長は問題無いって言ってるみたいだけどぉ。ま、こっちはドラメレクの後処理があるから別の人が派遣されるでしょ。これ以上面倒事に巻き込まれるの嫌だしぃ。

 それにしてもあのデボラとか言う新魔王、挑発にも乗ってこなかったしぃ。どっかの単純バカと違ってやりにくそうだなぁ。あぁいう手合いにはクロードさん辺りをぶつけとけばおとなしくなりそうだけどぉ。あたしあの人嫌いだしなぁ。ネチネチしてるし、目がいやらしいし、どことなく胡散臭いし。

 はぁ。報告書も書けたし今日はもう寝よ。


  ☆☆☆


「アイツ、天界の使者かよ」

 クソッたれ。気分が悪い。長い事封印されてたところをベラドンナ達が解放してくれたってのに娑婆の空気を味わったのはほんの一瞬。確かにやりたいことはある程度やったが、圧倒的に不満。不満だ。まーたこんな狭い檻に閉じ込めやがって。下手に意識がある分、こっちの方が拷問じゃねーか。この檻、散々ぶん殴ってもびくともしねぇし。看守はすぐすっ飛んできてグダグダ言うからぶん殴ろうとしたら檻よりもたくさん殴られたし。全く痛くはなかったが屈辱的だ。

 こうなってくるとコンフリーの料理が懐かしい。ベラドンナの体が懐かしい。ちょろちょろくっ付いてきたガキ共が懐かしい。散々いたぶった雑魚が懐かしい。闘技場での戦いが懐かしい。魔王つったって特に権限があるわけでもねぇし、むしろ一盗賊として派手に駆け回ってた方が楽しかったんじゃねぇ? コンフリーとベラドンナにリヒトとシュテルケも捕まったようだから今度こそ牢獄からの脱出は絶望的。

 いっそのこと殺してくれと思うが天界は殺しはご法度。今までいたぶった奴が「早く殺してくれ」なんて懇願してきたのを笑いながら見てたがまさか俺がそうなるとは。退屈だ。退屈こそ何よりの拷問だ。


  ☆☆☆


「ハァ……ハァ……ハァ……ッ! ドラメレク様ぁぁぁっぁぁあ!!」
「……あの女囚また?」
「……ええ。ココは牢獄ですけど天界に有る“天獄”なのですから。あのような嬌声はひどく不愉快なのですが、止めても無駄ですし話は聞きませんし」
「そもそも手足は拘束してるはずなのになんであんな声上げてる訳?」
「理由は全く不明です。様子を見に行きましたが……その……何かを……どうこうしているわけではなかったです」
「えぇ……」
「しばらく放っておくと静かになるのですが、ある程度時間が経つとまた」
「アレが始まるわけね」
「先輩、正直私、頭がおかしくなりそうです」
「もうすぐ移送されるそうだからそれまでの我慢よ」
「ンッ……アッ、アッ、アッ……ドラッ、ドラメレク様ぁぁあぁぁっ!!」
「我慢、我慢我慢ガマン……」
「そうよ、辛抱よ!」
「あああああああああっ」
「無理ですぅぅぅぅぅっ!!!」


  ☆☆☆


 コンフリー、瞑想中。


  ☆☆☆


「これで良かったのでしょうか」
「なぁにが」
「お父様の教えを守ってやりたい様にやってきましたが」
「そぉだな」
「これで良かったんでしょうか」
「終わりとしては最悪だがしょうがないんじゃねーの?」
「私達、コキュートスに封印される程非道なことしましたっけ?」
「うーん。大悪人を封印から解き放ってるんだからそりゃ非道なんじゃねーの?」
「なるほど。そういえばそうでしたね。自分で手を下したわけではないのですっかり忘れてました」
「ま、お父様に会いたくて……なんて涙ながらに訴えてみるという手もあるにはある」
「情けない話ですが、まあ。一考の価値ありですね」
「試してみてもいいけど、ちゃんと泣くんだぞ?」
「こうですか? うわーん! お父様ぁ! どこぉ!」
「(ダメだこりゃ。ま、今更騒いでも後の祭り。祭りの後にはふさわしいかな)」



  ☆☆☆


「起きたか、キーチロー。さっき地獄から連絡があってな。ドラメレク一派は曇天の隊長に悉く捕縛されてコキュートス送りが決まったそうだ」

 凄まじい二日酔いの起き抜けに情報が入ってこない。ドラメレク? えーと、そうそう……俺を殺したにっくき敵、だった。だったがもう復讐の機会は半永久的に失われた。まぁ、復讐なんて柄じゃないし。そうは言っても人生がだいぶおかしな方向に縒れたわけだし一発ぐらいはぶん殴りたかったけど。

「う、痛ててて。そう、それはいい知らせ」
「それとな、アルカディア・ボックスな。天界の査察が決まった」
「うん……それは悪い知らせ」

 平穏は未だ遠い……。
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