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第8章 天界編

地獄の104丁目 風雲急を告げる

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 今日の当番は白金魚のエサやり。白金魚のレディを呼び出すと、その後ろに子供たちもついてきた。

「俺の知ってるお魚は一度に大量に産卵するんだけど、レディはあんまりだね?」
「これでも大量に産んだのですよ? でも、私達の卵は堅過ぎて中々割れないのです。だからそれが最初の試練」

 難儀なことだ。

「孵らなかった卵は宝石として人気があるのよ! でも、白金魚が住む川には大抵魔魚が溢れ返ってるから取るのがとんでもなく難しいの!」

 ローズは準備体操をしているが、まさか……な。

「あら、それでしたら今度川底から拾ってきましょうか?」
「えっ!!? ホント!?」
「いつもお世話になってますし」

 いいのかそれは。一応自分の産んだ卵だろうに。

「やった!!」

 ローズは飛び跳ねながら鼻歌交じりにエサを投げ込み始めた。俺は一緒に連れてきたダママと休憩。今日のお昼はサンドイッチだ、

「ちょっと! サボってないで手伝ってよ!」
「いや、ローズが着いて行きたいって言うから……」
「私の目当ては白金卵!」

 不埒な目的をはっきりと宣言されてしまった。いや、プラチナ目的か?

「でも、思ったより少ないから大丈夫でしょ?」
「うう、まぁ」

 曇天が査察に来てから早三カ月。不気味なほど音沙汰がない。なので、通常業務をこなしつつ地獄へ寄ってはパートナーを送り込んだりして繁殖施設としての面目躍如の活動を行っていた。

 繁殖と言えば曇天が怒らせた竜の夫妻だが、竜王の孫は無事にひ孫を生んだ。卵から孵ったのは立派なオス。らしい。どこを見たらいいのかわからなかったが、夫妻がそういうのだから間違いないだろう。彼もまた、未来の竜王候補なのだろうか。子竜の目が開いて一通り食事もこなすようになったところで元の所へ帰って行った。曇天にちょっかいを出された時はどうなる事かと心配したが、本当に良かった。竜の出産に立ち会ったのは人間では初めてだそうだ。もはや人間と呼んでいいのやら、と言うところは置いておいて。

 デボラはこの頃、地獄に居る事が多い。いや、天界もか。とにかく、アルカディア・ボックスの中ではしばらく見ていない。ベルも一旦、デボラの秘書に戻って一緒に各地を飛び回っているらしい。会社は俺が休んだ時より戦力ダウンしていて忙しいらしいので早く帰って来て欲しいものだ。

「ほい、エサやり終わり!」
「ご苦労。褒めてつかわす」
「私の魔王様はデボラ様ですぅ。調子に乗らないでくださいー」
「はい、すいませんでした」

 ローズの元私邸、現社宅と言っていい建物に帰ってくると、ちょうどステビア、セージもエサやりを終えて帰ってきた。

「サラマンダーのリサが吐く炎、ヒクイドリ夫妻が食べてたよ! 全然足りなそうだったけど」

 何という食物連鎖(?)、リサだけにエサを与えていればアグニとベスタも満足するかと思いきやそんなうまい話はないらしい。ちゃんと地獄の炎を召還してあげないと。

「唯一、フェニックスだけ……エサ、要らないみたい」
「うーん。ローズみたいに邪心とかそういうの食べてるのかな。不思議な生き物」
「魔力の塊が好きみたいね。この間、デボラ様の魔法そのものを食べてたから」
「なら、食糧問題はほぼ無いに等しいな。ラタトスクのマリスはトレントのウッディーから木の実をもらってたし」
「フェンリルのヴォルはそろそろ自分たちで狩りしたいって言ってたよ。僕もなるべく生きたエサをあげるようにしてるんだけど、自然な事じゃないしね」

 エサはとにかく本人達の意向も踏まえつつ、好みの食べ物を模索している。変な食べ物をあげて病気になったりしたら困るので、基本的には地獄で採取したものを与えているが、ダママみたいに人間界のクッキーやパンを平気で食べるやつもいる。

「き、き、キーチローーーーーーさーーーーーーん!!」

 ……忘れてた。

「アルミラージのピョン太とヘルコンドルのハッピー、それにヘルワーム達のエサやり! お、終わりましたーーーー!!」

 妖狐の妖子さん、ベルが抜ける事が多くなったので、臨時職員として来てもらうことにした。報酬はもちろんデボラ。いや、デボラとの時間。のはずだったが、最近こっちに来ないので、報酬ポイントは溜まっていく一方だ。まさかデボラが返ってこない理由ってこれじゃないだろうな。

「キーチロー君、ダママの散歩、終わりましたよ!」

 キャラウェイさん、修行のついでとか言って最近よくダママと出かけていく。ダママはたまに泥だらけで帰ってくるが、ローズが楽しそうに洗っているので問題なし。

「今日はいっぱい走ったー」
「いい汗かいたわね!」
「キャラウェイ足早い!」
「はっはっはっ、まだまだ現役は続行できそうですね」
「すごいですね。最近、ダママとヴォルは動きが早くて一緒に遊ぶの大変なのに」
「早いことは早いですがまだまだ追いつけますし、持久力では負けませんよ!」

 犬と狼に持久力で勝るとは。さすが元魔王。

「あれ、皆さんお揃いですにゃ。僕もミルク頂けますかにゃ」

 ケット・シーのノリオがトコトコ歩いてきて俺の膝の上に乗る。もう、動きが完全に猫そのもの。ただの可愛い猫。正直たまらん。こういう可愛さを持ってるのはマリスとピョン太とノリオだけだな。

 俺がノリオの喉をゴロゴロしていると、ノリオの髭がピンと張った。

「キーチローさん、なんか嫌な予感がするにゃ」
「ん? どういう事?」

 と、その時、俺のスマホ(魔)が着信を知らせた。

「もしもし? ベル? どうした?」
「キーチローさん! 曇天が……!」
「もしもし? ベル? 曇天が何?」
「デボラ様が!」

 ノリオの嫌な予感が俺にも伝わる。

「デボラに何かあったのか?」
「曇天に……、曇天に拘束されました!」

 俺は全てを聞き終わらないうちに、地獄への扉を開いていた。
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