倭国の針神様

モモん

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第一章

第8話 女将さんの家の屋根に寂しそうにしている神様がいた

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「女将さん、屋根の上に神様がいるけど……。」
「そうか、やっぱり、まだいたのか……。まあ、入ってくれ。」

 女将さんの家は、それなりの広さはあったが、他の人の気配はない。
 一人で暮らしているようだ。

「まあ、とりあえず飯にしようじゃないか。」
「うん。」

 女将さんはウサギ肉を汁にして、白米と雑穀を混ぜた飯を炊いて食わせてくれた。
 
「この汁、旨めえな。」
「そうだろう。キノコで出汁をとってるからな。」
「俺、コメを食ったの、久しぶりだ!」
「余計に炊いたから、好きなだけ食ってくれ。」
「女将さんは一人で住んでいるのか?」
「ああ。夫も子供も、随分と前に死んじまった。流行り病でな。」
「そうか……。」
「あたしの母親は、マトイの部落出身でな。」
「えっ、そうなのか。」
「あたしには、マトイの力はなかったが、母にはあったらしい。」
「それで、いろいろ知ってんのか。」
「ああ、小さいころに聞かされてたからな。」
「何の神様だったんだ?」
「ほれ、そこに掛けてある時計の神様だそうだ。」
「トケイって、何だ?」
「時計を知らんのか。時間を教えてくれる機械だよ。時間は知っているか?」
「馬鹿にすんなよ。一日を24に分けて、それを60に分けてんだろ。塾で教わったぞ。」
「そうだ。あたしの名前、トキは母さんがつけたんだと言っておった。」
「その時計ってのが時間を表してくれるんなら、確か、長い針と短い針で……、その時計には、1本しか針がないぞ。」
「ああ。長いほうの針はここにある。」

 女将さんは立ち上がり、神棚から小さい布包みを取り出した。
 布を開くと、そこから黒い針が出てきた。

「ああ、屋根の上にいた神様とおんなじ形だ……。」
「やっぱりそうかい。母は、外に出る時は、いつもこれを持ち歩いていたと聞いている。30年くらい前に、死んでしまったがな。」
「じゃあ、30年間、ずっと屋根の上にいるのか?」
「それは、私には分からんよ。多分、この家にはいたんだろうけどね。」
「そっか。爺ちゃんが死んだときも、お釜様は寂しそうだった。俺が声をかけたら元気になってくれたけど。」

「……、なあ、時計の神様を、外に連れて行ってやれんかな……。」
「えっ?」
「お前の話しを聞いてると、神様はもっと飛び回ってるもんだろ。」
「んーっ、確かに縛られてる時の神様は、元気ねえかな。」
「だからよ、この針を持って、神様を連れ出してやってくれよ。でないと、あたしは……。」
”キュキュッ”
「えっ、呼んでくるのか?」

 神様たちは天井を突き抜けて消えていき、戻った時には6人になっていた。
 俺は時計の針を手にして呼びかけた。

「……なあ、時計の神様よ。俺と行かねえか?」
”キュキュ”
「ああ、時計はここに置いたままでいい。針だけ俺が持っていくよ。」
”キュッ”
「そうか、月音(つきね)様っていうのか、よろしくな。」
”キュキュキュ”

「時計はここに残しておいて欲しいってさ。」
「そうかい。外に連れ出してくれるんだね。ウッ……。」
「何だよ。女将さんが泣くことはないだろ。」
「だってよお、30年もここに縛ってしまったんだぞ。」
”キュキュ”
「あはは、30年なんて、神様には関係ないんだそうだ。うん?」
「どうした?」
「神様達が、時計をいじってる。掃除してるみたいだな。」
「掃除?」
「ゼンマイってのを巻けっていってるけど、何だ?」
「まさか、まだ動くのかい……。」

 女将さんは時計の蓋をあけて、蝶々みたいなのを取り出して穴に突っ込み、カチカチと回している。
 そして、下についている丸いのを、指で軽くはじいた。

「何だいそれは?」
「振子といってな、一日一回ゼンマイを巻くと、一日中これが揺れてるんだ。」
「へえ、面白れえな。」

 時計は突然ボーンボーンと音を立てたので驚いたが、どうやら正常に動き出したみたいだ。


「なあ。」
「うん?」
「お前の母ちゃんを連れてきて、ここで一緒に住まないか?」
「えっ?」
「あたしの店と針神様。時計の月音様。タツキちゃんとサカキの木剣と神様。今日一日で、十分な縁ができちまっただろ。」
「……、だけどよ、俺たちは忌部で嫌われてんだろ……。」
「誰にだい?」
「だってよお、人と話しちゃダメだとか、店に表から入っちゃダメだとか、用事が終わったら村に長居しちゃダメだとか……。」
「誰に言われたんだい?」
「部落の長に……。破ったら、狩人の資格を取り消すって……。」

「なあ、今日、誰と話した?」
「えっと、女将さんと、お針子さんと、肉屋のおっちゃんと、人足の二人と、神社の二人かな。」
「その中で、誰かに嫌がられたか?」
「……そんなこと……ないと、思う。」
「だよなあ。宮司さんからは、タツキちゃんの婿になれって言われたし、タツキちゃんもその気になっちまった。」
「……いや、あれは……。」
「うちのお針子達だって、神祭に入れてもらって喜んでたし、肉屋だって喜んでたじゃないか。」
「……うん。」
「心配する事はないよ。お前は、神様に愛されてるんだから。」
「あっ……。」

 とりあえず、明日帰って母ちゃんと相談する事にした。

”キュキュ”
「えっ、風呂?」
「どうしたんだい?」
「大きな風呂があったって言ってる。」
「ああ、この家の風呂は大きく作ってあるからね。そういや、最近は風呂を焚いてなかったね。じゃ、やるか!」

 神様たちと一緒に風呂の大掃除をして、5人くらい入れそうな浴槽に水環様が水を張ってくれた。
 適度に沸いた風呂にみんなで浸かると、神様たちは大はしゃぎだった。

「ああ、こんな神鮮な湯に入れるとはねぇ。神様たちも一緒に入ってるんだろ。」
「うん。みんな大喜びだよ。」
「くっくっくっ、明日、宮司さんに自慢してやろう。」
「母ちゃんにも入らせてやりてえな……。」
「お前の母ちゃんを連れてくればいいさ。そうすりゃ、毎日入れる。」

 翌朝、早いうちに家を出て、神社に立ち寄る。

「ほう、弥七君の母親を養女に迎えると。」
「そうすりゃあ、弥七はこの村の住人になる。問題があるとすれば、忌仕事とされる狩人の事なんだが……。」
「ふむ、……ならば、神社付きの神饌料理人として雇用しましょう。」
「いや、神様は肉を食べないと聞いているけど……。」
「それは、仏教の考え方ですよ。血を不浄なものと考えるのも同じこと。神道にはそのような考えはありません。」
”キュキュ”
「あっ、神様もそうだって言ってます。」
「でしょ。だから、採ってきた獲物は全てこの神社で引き受けて、余ったものを肉屋に下賜すれば良いのです。」
「それって、いつでも肉が食べられるとか思ってないよね。」
「も、勿論です。」
”キュキュッ”
「ああ、神様が笑ってるよ。」
「ふふっ、弥七と神様の前じゃ、嘘はつけませんねぇ。宮司さん。」
「あっ……。」

「ところで、トキさんの身体から、仄かに良い香りがするのですが……、これは昨夜、タツキが巫女装束を着た時と同じ……。」
「へえ、分かるんだ。」
「な、何かあったのですね!」
「ナイショだよ。」
「それはないでしょ!」
「まあ、神様の満たしてくれた水を沸かして、神様と一緒に風呂に入っただけですよ。」
「なっ!何というもったいない事を!」
「神様もお風呂は好きみたいでね。」
「や、弥七君!今から風呂を入れて、神様に入っていただきましょう。」
”キュキュキュッ!”
「いや、俺は今から家に帰るんですから。」
”キュッ!”
「えっ、ウズメ様?昨日踊り疲れたって言われても……。」
「えっ、アメノウズメ様がおられるのですか!」
”キュッ!”
「分かりましたよ。次に来る時には用意しますから。」
”キュキュキュ”
「えっ、明後日の収穫祭で踊るから、その後でって……、分かりましたよ。明後日、来ればいいんですね。」
「しゅ、収穫祭に来てくれるんだね!」
「ウズメ様と約束しちゃいましたからね。」


【あとがき】
 実際にいくつかの神社で、肉をお供えする事があるようです。
 「諏訪大社御頭祭(おんとうさい)の神饌である鹿肉や、宮崎県・銀鏡神社例祭の猪肉など、鶴見神社でも野鳥の肉をお供えしたことがあります。」
 (「宮司の論文」さんから引用、https://turumi-jinjya.blog.ss-blog.jp/2011-02-11)

Youtube動画
https://www.youtube.com/watch?v=xtoZYlZEOHE
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