スキル買います

モモん

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第八章

第117話 シーサーの被害

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 港町シーサーを直撃した大嵐は、高気圧に押され東に進路を変えた。
 シーサーから首都までは約400km。
 朝10時ころ雨の降り出した首都では、これから6時間ほど豪雨に見舞われる事になる。

 主要なスタッフは、城に泊まり込んで不測の事態に備えたため、雨が降り出した時には模型を囲んで最新情報を確認している。

「風が強くなってきたわね。あと6時間というところかしら。」

「雲の動きは少しずつ早くなってきていますね。時速40kmを超えたくらいでしょうか。」

「レイミちゃん、悪いけどシーサーに行って被害状況を確認してきてもらえるかしら。」

「分かりました。何かあったら遠隔で連絡します。」

「そうそう、遠隔通話の魔道具を導入したいけど用意できるかしら。」

「全体で1種類のチャンネルでいいんですよね。」

「それ以上は望まないわ。」

「分かりました。嵐が去ったら作っておきます。」

「宰相!遠隔通話の魔道具とは何でしょう?」

「一般には普及させられないんだけど、離れた者同士で会話できる魔道具よ。それがあれば、こういう時にいちいちシーサーまで行かなくても、現地の町長と会話して被害状況とか確認ができるようになるわ。」

「そんな魔道具、聞いたことがありませんが。」

「デカルトとローズレアの一部にしか導入してないもの、知らなくて当然よ。逆に知っていたら怖いわ。」

「お母様、では私は行ってきます。」

「よろしくね。何かあったら、自分の判断で動いていいわよ。」

「うふっ、当然ですわ、お母様。」


 レイミは縮地+でシーサーに移動した。

「町長!」

「おお、レイミ様。大嵐の方はどうですか?」

「これから首都が影響圏に入っていくところですね。もう、雨が降り出したので、あと6時間くらいでしょうか。」

「そんな予測ができるんですか?」

 レイミは指をクルクル回して30cm程の雲を造り出した。

「今回の大嵐の雲は直系200kmくらいの大きさです。」

「……どうしてそんな事が分かるんですか?」

「風の精霊にお願いして、この雲よりも高い場所から見てもらいました。まあ、測ったわけではないので、だいたいですけどね。」

「なるほど。でも、そんなに大きいとは……イメージできませんね。」

「そうでしょうね。それで、この雲が時速30kmで動いていく。そうすると、雲が通り過ぎるまでにどれくらいの時間がかかるか計算できますよね。」

「えっと、200kmの雲が時速30kmで動くんだから……ああ、7時間弱っていう事ですか……」

「そう、理屈は簡単でしょ。」

「ああ、私は、自然現象なんだから、与えられたものを受け入れるしかないと思っていましたが、そうじゃなくて分析すれば当たり前の事なんだって……目が覚めましたよ。」

「うふふっ、世界は神様が動かしている訳じゃなくて、ちゃんと理屈に基づいて動いているんですよ。」

「はい。胸に刻んでおきます。」

「それで、被害の方はどうですか?」

「これまでに届いている情報では、木造住宅の倒壊が3棟で、屋根が吹き飛んだ家屋が5棟。人的な災害は事前に避難させたおかげでケガ3名と死者1名。ただ、これは船が心配になって港に様子を見に出かけた老人で、周りの静止を聞かずに跳び出していったらしいです。高波で壁に打ち付けられたようで、残念ですが仕方ないですね。」

「船はどうですか?」

「陸に引き揚げた浅底船21隻のうち、3隻が大破。あの大嵐にしては奇蹟的に小さな被害ですよ。」

「良かった。他はどうでしょう?」

「まあ、色々と補修は必要でしょうが、あの規模にしては軽微な被害と言えそうですね。」

「分かりました。そうそう、商会の方でパンとスープの炊き出しを始めているハズですから、町長も顔を出してやってください。」

「本当ですか!やっぱり、みんな眠れない夜を過ごしましたから助かります。」

 レイミは商会に寄って、収納からパンとスープを取り出して補充した。
 全住民には行き渡らないだろうが、それなりの数は用意できたようだ。


 レイミは城に戻って状況を報告し、支援は必要なさそうだとレイチェルに伝えた。

「ここも、大分風が強くなってきましたね。」

「ちゃんと、避難場所でおとなしくしていてくれれば問題ないわ。」

「そういえば、若いスタッフが増えましたね。」

「ええ、国務大臣が選抜した防災のスタッフよ。結構、緊張感をもってやってくれてるみたいね。」

「雨雲の方は、少し薄くなってきた感じがします。」

「そりゃあ、これだけの雨を降らせているんだから、薄くなってもらわないと困るわよ。」

「あとは川の氾濫ですね。特にここからノーズローまで伸びるミレーユ川の流域が心配です。」

「でも、大嵐の影響は南側だけだから、そこまでの心配は要らないんじゃないかしら。心配ならば、シルフィーを飛ばせて、様子を見ておけばいいじゃない。」

 レイチェルに言われて、レイミはシルフィーを呼び出して、ノーズロー上空に縮地+で移動させた。
 ミレーユ川の水流は増えて茶色く濁っているが、土手を超えて氾濫している様子はない。
 というか、北の方は晴れていて、自分がいる城の外とは違いすぎる。

 シルフィーを城に呼び戻したレイミは、城の中にある魔道具開発室の工房へ移動した。
 遠隔通話の魔道具を作るためだ。

 遠隔通話というのは、元々魔物の保有していたスキルなのだが、レイミがそれを奪取して分析した結果生まれた魔道具である。
 本来の使い方は、スキルを発動した時に相手を選択するのだが、それをチャンネルという概念を置き換える事で、同じチャンネルを使えば複数の相手とも会話できるようになった。
 ただし、これが広まってしまうと、チャンネルさえ合わせれば秘匿性が失われてしまうし、混線する恐れもある。
 そのため、チャンネルの設定はレイミしか知らないし、魔法陣も公開していないのだ。

「こんにちわ。」

「おお、開発室にお見えになるなんて珍しいですねレイミ様。」

 魔道具に携わる者で、レイミがこれまでに開発した魔道具の数々を知らない者はいない。

「ほら、大嵐で屋敷に帰れないからここで作業させてください。」

「へえ。それって、俺らも見せてもらえるのかな?」

「えっと、申し訳ないですけど国の極秘なのでお見せする訳にはいかないんです。ごめんなさい。」

「ちぇっ、ダメなのか。ケチだな。」

「えっ?ああ、ここの開発室って、貴族しかいないんでしたっけ。ちゃんと成果をだせないとクビになっちゃいますものね。大変ですこと。」

「なにい!」

「聞き捨てならないよな。ちょっと名が売れてるからってよお。」

「ああ。許せねえよな。」

 3人の若者が作業台に座って加工を続けるレイミを取り囲んだ。

「あらあら、そういうのやめておいた方がいいですよ。」

「煩い。つべこべ言わず、お前の発明した魔法陣を全部出せ!」

「あら、早速違法な事を言い出しましたね。これでまた貴族家が一つ消滅しちゃうなんて残念な事ですわ。」

「ふざけた事をぬかしてないで早く出せ!」

「なにシカトして作業を続けてんだ!」

 一人の屈強な男がレイミの肩を掴んだ……が、レイミはビクともしない。
 これは結界ではなく、物理障壁を肌に纏っているからだ。

「な、何だ!どうなっている!」

 男は苛立ちを隠せず、レイミが加工中のアルミ製の箱を台から叩き落とした。
 ガンと音をたてて箱が床に転がり、スピーカー代わりに加工した薄い膜がは破れてしまう。

「ふう、しょうがないですわね。言っておきますが、ここまでは我慢したんですよ。でも、作業の邪魔をするというのなら容赦はしませんわ。」

 薄い笑いを浮かべて立ち上がるレイミは、3人の男に微笑みかけた。


【あとがき】
  貴族のボンボン暴走
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