稀代の魔物使い

モモん

文字の大きさ
上 下
22 / 172
第Ⅰ章 修行

一角獣の角

しおりを挟む
翌朝、目を覚ますと姉さんはもう起きていました。

「私の事なんだけど、聞いてくれる」

「うん」

「前にね、パーティーのメンバーに裏切られて、殺されそうになった事があったの」

「えっ」

「その時はセイレーンが助けてくれたんだけど、そいつは狂乱状態でね。殺すか殺されるかって言う状態だったわ。
私の選択肢は三つよ。
黙って殺されるか、私が殺すか、セイレーンに殺させるか」

「殺されるのダメ」

「そうね、殺されたくはなかった。だから自分で殺したわ」

「リアの場合と同じよ。私も、セイレーンに人殺しをさせたくは無かったの」

「あっ」

「でもね、相手が大勢とかで、自分ではできなかったらどうしたかって、未だに考えるわ」

「セイレーンに…」

「そうしなければ、自分が死んじゃうんだもんね。
それに、セイレーンよりも頭のいいミーミーだったらどっちを選ぶかな。
リアに殺させるか、自分で殺すか」

「……」

「私だって未だに夢に見るわ、あの時の事。
それにね、それが私とリアの二人しかいなかったら、私が殺すわ。
リアにそんな事させたくないから」

「……お姉ちゃん」

「誰がやったにせよ、人を殺すのはいいことじゃないわ。辛く、苦しい事よ。
でもね、あれを引きずって躊躇うことになったらあの子達も死ぬわよ」

「……」

「命令通りにやったのに、あなたから謝られたままなのよ。
少なくともリアの命令で8人の命は助かったの。
その感謝の気持ちをあの子達に伝えた?」

首を振りました。
そう、自分で悩むのは勝手だけど、あの子たちにありがとうって伝えないと……

「わたし、言ってくる」

「そうね」

外に出る時にギルマスのエイジュさんと会いました。

「おっ、シーリア。ちょうどいい、伝言があったんだ」

「はい」

「パパが帰って来られました。ありがとうって、サガンってヤツの娘さんから言付けられた」

「うん!」

ミーミーとピー助とチョロリは一緒でした。
わたしはみんなを抱き寄せました。
ありがとう、ありがとうって何度も言って。


「ピー助とチョロリはできるだけ広い範囲で監視して。町に向かってくる人がいたら教えてちょうだい」

ピー、ピュルー

「ミーちゃんは、いつでも出られるように待機よ」

ミー

「シーリア様、私どもの従魔もおりますので、あまりムリしないでください」

「大丈夫です。ちゃんと休憩はとりますから……って、ミーちゃん何してるの?」

ミー、と応えながらニコンの角をしきりに舐めています。
匂いを嗅いで、爪でひっかいて舐めてます。

そのあとで、ミーちゃんはどこかへ出かけていきました。
戻ってきたのは夕方で、2本の角を咥えています。

「まさか、それって一角獣の……」

土がこびりつき、苔が生えたそれは、生きているものから採取した訳ではなさそうです。
ミーちゃんは手ぶり?でキレイにしろと言っています。
洗い場を借りてブラシでこすると汚れは落ちましたが、経年によるクスミは落ちません。
ミーちゃんがもっとキレイにと言ってくるので、町兵さんにお願いしてヤスリで削ってもらいます。

「すごい、真っ白だね」

ミー、満足そうに鳴きました。

「でも、これって光るの?」

ミー

日が落ちた後で試してみると、半分ほどの光量ですが周囲を照らしてくれます。

「すごーい。でも一角獣の角なんて、どこで見つけてきたの?」

ミー、さすがにこれは理解できません。

二本の角を槍の先に固定して東西の門に設置してもらいます。
アンデッドへの効果は未確認ですが、単なる照明としても活躍できます。

帰ってきてから4日目の夜、リッパーが異変を知らせてきました。
トランザムさんに報告し、町兵を配置してもらいます。
事前の打ち合わせで、弓や魔法を使ってくるようならミーちゃんとチョロリに対応させます。
したがって、こちらは遠距離魔法や弓はは使いません。

敵は北東方向から進軍してきます。ニコンは正門横の城壁に陣取り、防御要員二人とピー助を貼り付けます。
第一陣はアンデッドのゾンビで、ニコンの光で浄化され門に近づくことさえできません。
予想通り弓を使ってきたので、ミーちゃんとチョロリを参戦させます。
十分とせずに弓は沈黙します。
敵も東西門に設置された一角獣の光に気づいたようで、南北からの攻撃を増やしてきました。
南北にも属性武器を携えた冒険者を配置してあります。
それと秘密兵器として聖水の散布があります。風の強い時には使えませんが、霧状の聖水は確実にアンデッドを駆逐していきます。

ミーちゃんとチョロリには、弓と魔法使いを処分したあとで、人間の集団を探すよう指示してあります。
死人使いを倒せば、アンデッドの進軍は止まるはずです。

しおりを挟む

処理中です...