稀代の魔物使い

モモん

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第Ⅳ章 ワイバーンの故郷

敵襲

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子供たちはワイバーンにおびえながらも一生懸命働いてくれます。

お姉ちゃんも時々様子を見に来ます。

「お姉ちゃん、あの子他の子供たちと話さないんだけど」

「ああ、セシルね。
あの子は目の前で両親を殺されたみたいなの。
それで、感情を外に出さなくなったらしいわ」

そんなセシルがこんなことを言ってきました。

「シーリア様、あの……」

「どうしたの?」

「違っていたらごめんなさい。
あの子、どこか痛いみたいなんです」

「そんな感じがした?」

「はい」

「じゃあ、一緒に確かめてみましょう」

「はい」

私はセシルがそう感じたワイバーンに触れます。

「そう、翼の付け根が痛いの……」

『手当!』

「どう、大丈夫?」

「うん。大丈夫ね」

「シーリア様、すごいです。
魔法を使えるんですね!」

「ううん。私にはなんの力もないの」

「だって、治った……」

「これはね、この子に働きかけて、大丈夫だよ。
これくらいの傷や炎症なら自分で治せるよって教えてあげてるだけ」

「自分で治せる?」

「魔物の持っている力を引き出してあげる感じ」

「それで、自分で治しちゃったんですか」

「そういうこと。
だから、私が治したわけじゃないの。
ワイバーンが痛がってるってわかったんだから、きっとセシルにもできるよ」

10人の中でも、そういうことを感じることができるのはセシルだけでした。

私は、セシルに魔物使いとしての素質があると思い、一緒に連れ歩くようになりました。

「魔物の感じていることがわかるっていっても、過信しちゃ駄目よ」

「過信ですか」

私は自分の手をセシルに見せます。

「ほら、噛まれたあとがあるでしょ。
信頼関係のできていない魔物に、不用意に手を伸ばして噛まれたの」

「シーリア様でも、そんなことが……」

「3日間くらい熱を出して寝込んだわ。
だから、油断しないようにね」

「はい」

セシルは変わっていきました。
食事中のワイバーンに肉をお代わりしたり、ブラシで背中をかいてあげたりできるようになってきました。

ワイバーンの中にも、そろそろ飛行術を覚え始めるものが出てきたころ、それが起こりました。


「敵襲だ!」

「すぐにアートランド伯爵に伝えろ!」

ラトランドにとって不幸だったのは、飛行訓練の最中だったことです。
訓練中の数匹が鬼ごっこから離脱して、近づいてくるワイバーンたちに向かいます。

ギー ギー ギー

何か、会話を交わしたと思ったら、こちらのワイバーンが相手の背に乗る人間だけを爪で切り裂きます。

奇襲をかけてきた28匹のワイバーンは、城を攻めることなく私たちの近くに着陸します。
背に乗った人間は全員死んでいました。

「ひっ」 「うわっ」 「いや」

切り裂かれた死体に、子供たちの悲鳴があがります。

「慣れちゃ駄目だけど、目を背けるのも駄目よ。
戦というものが存在する以上、人はこうやって死ぬの。
今回はワイバーンが対応してくれたけど、ワイバーンがいなかったら、国の中で死人が出る。
戦ってそういうものなの」

死体の中には、王女の姿もありました。
ミーちゃんに穴を掘ってもらい、死体を入れて焼いてもらい埋めました。

ワイバーンにつけられていた鞍を外して、構造を確認します。
どっちみち、私たちも同じようなものを作るんですから、参考にさせてもらいます。
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