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第二章 勇者

そのメイド-壁画になる

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大五郎はそのまま二日間眠り続けています。

「案ずるな。
突然あのような形で雷撃を放ったのじゃ。
心と体が驚いているのだろう」

「雷撃…ですか」

「普通の者は火・水・風・金そして大地の属性を得ることができる。
そして、それらに属さない雷の属性は勇者のみが持つ力じゃ。
普通は、剣に乗せて放つといわれてきたが、あのような使い方があったとはのう」

「あのようなとは?」

「鉄の球に雷を纏わせたのじゃ。
ふむ、とすると、雷撃を遠隔で放てることになるから、魔王にも有効やも知れんて」

「魔王には雷撃が有効なのですか?」

「逆にいえば、雷撃しか効かないと言われておる。
じゃから、魔王討伐は勇者にしかできんのじゃよ」

「大五郎にしか…」

「そういうことじゃ。
それ以外の者は、いかにして勇者と魔王が一騎打ちできる状況を作り出すか。
勇者を温存できれば勝ち、勇者を消耗させてしまえば負けじゃよ」



その日の夕方になって大五郎は目を覚ましました。
私の心配を他所に、第一声は「腹減った」です。

ちょうど新作のチーズ入りハンバーグを焼いていたのですが、いきなりご飯は食べずに単品で5個も食べてまた眠りにつきました。
ちなみに、草履サイズの大きなやつをです…



翌朝、妙子さんが駆け込んできました。

「どうしたの?」

「いいから、ちょっと来て」

妙子さんに引っ張られて要壁までついていくと、壁一面に書かれた絵が…
スリングショットを構える大五郎と、後ろから支えるメイド服姿の私の絵が、壁全面に書かれていました。
黒と薄墨で書かれたのでしょうが…

「だ、誰がこんなものを…」

「夕べ一晩で書き上げたらしいのよ」

「恥ずかしいんですけど…」

「これだけの事をやったんだよ、あんた達は」

「そ、そんな…」



「文殊よ、例の絵、評判になってるみてえじゃねえか」

「わし、書道の菩薩…」

「水墨画だって、書道の一貫だろうよ」

「そうだけど、菩薩ってのは仏であって、タケミカヅチみたいな神じゃないんだから…」

「神仏融合つってな、日本じゃごっちゃになって区別できねえんだよ」

「区別できるつーの。わし、祀られてるのはお寺だかんね。
神社じゃないから」

「お寺に行って、宮司さンおられますかって時代だぞ」

「その話は聞いたことあるけど、逆はないよね」

「確かに、神社行って住職さんはねえか…
でもな、神界も彼岸ほとけのせかいも大した違いはねえと思うよ」

「違ーう。神は悟りなんて開いてないっつーの!」

「おっ、それって名誉欲だよな。煩悩が出てるじゃんよ」

「うっ…」
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