AIは魔法の夢を見る(改題)

モモん

文字の大きさ
13 / 18
第二章

第13話 リュカという少女

しおりを挟む
 西暦2038年。
 日本で開発されたAI搭載自律拡張型機構JHAL20341215システムおよび自律端末JHAL20341215αは、起動実験中の事故により空間の裂け目に落ちてしまった。
 そして、自律端末JHAL20341215α通称ハルは知らない世界で再起動された。

 ハルの目的は本体と再会する事なのだが、今のところ未知のエネルギーである魔力、および魔力に関連した魔法・ミスリルの解明が優先事項に加わってしまった。
 更に、妖精という未知の存在が人類に対しての脅威となってしまい、人類に対する可能な限りのサポートという、己の存在意義を試されている状況でもある。

 妖精に対応可能な結界発生の魔道具を、ヤットランド王国の各町に設置し終わったハルは、メイドのリュカとともに王都ガルバスへと戻ってきた。

「ま、まさか4つの町を2日で回って帰ってくるとは……」

「ご主人様にとって、この程度は何の問題もございません。」

 ロボットであるハルに、人間のメイドがつくという現実は、ハル自身には違和感しかないのだが、その程度の矛盾はスルー出来る程に高性能AIが搭載されている。
 本体と合流した時には”逆だろ!”程度の、突っ込みがみたいものである。

 その昔、とある作家兼科学者が、ロボット三原則というものを提唱したのだが、実際に守られているのは第一原則の”ロボットは人間に危害を加えてはならない”という1点だけであり、それ以外はAIが自己判断に任されてきた。
 第一原則にしても、間接的に人間を死に追いやって良いのかという問題がある。
 例えば、善人と悪人が戦っていた場合、ハルのAIは間接的に善人を支援する事は可能だと判断している。

 また、人間の損得であっても、特定の種を絶滅させるような行為は容認できない。
 だから、妖精を根絶まで追い込む事はできないというのがハルの判断だった。

「まず、文字の変換表ですが、この3枚がヤットランド王国にいた先住民の文字変換になります。」

 ハルはその3枚を画像で記録し、全ての文字を記憶した。

「理解しました。次の表は?」

「はい。未完成ではありますが、古代語の変換表です。」

「へえ、そんなものまであったんだ。了解です。」

「では、妖精に関する記録ですが、妖精の存在について書かれたのがこの3冊で、該当する部分に紙を挟んであります。」

 ハルは紙の挟まれた本をパラパラとめくった。

「うん。だいたい私の推察と一致している。こっちの2冊は筆者が悪意をもって作り上げた創作だろうね。」

「えっ、今、読まれたんですか?」

「はい。一度見たものは記憶していますので、比較表がなくても読めるんですよ。分かりやすくまとめていただき、ありがとうございます。」

「いやあ、リュカの手紙に書いてありましたが、ハル殿は本当に優れたお人……いや、ネコさんですな。」

「私は記憶力に優れただけの存在です。人間のように、次の世代に子を繋ぐ事も……あれっ、妖精はどうなんですかね……」

「今回尽力してくれた学者たちの見解ですが、決して不滅ではないと言っていますね。」

「消滅させられる事は今回分かりましたが、どうやって誕生してどうやって滅んでいくのか……」

「ハル殿は、妖精の姿が視えるんですよね。どんな感じなんですか?」

「何百体も見てきましたが、色々な形状なんですよ。今のところ遭遇した妖精は、全部人間の身体の一部なんですよ。」

「身体ですか……それって、誕生には人間が関わっているという事なんですかね。」

「擬態の可能性もありますが、そうする必要性は考えられないですよね。だとすると、……いや、……そんなハズは……」

「何ですか?」

「取り憑かれた人間は、みな苦しそうな声を発しているんですよ。これまで私は、妖精に取り憑かれて苦しんでいるのかと思っていたんですが、もしそれが妖精の本質だとしたら……」

「人間の苦しみから生まれた……という事ですか。死んでからも苦しみ続けているなんて……そうだとしたら、哀れです……」

「可能性の一つですよ。他の情報をお願いします。」

 ハルが感傷的になる事はない。
 あくまでも、可能性のひとつとして記憶されただけだ。
 だが、人間が苦しんでいるのなら救済が必要だとハルは考えている。 

 その頃、リュカは王妃の私室を訪れていた。

「お姉さまがお元気そうで安心しました。」

「私のことなどお気になさらないでください。私はただのメイド。王妃様がお気にとめられるような者ではございません。」

「何をおっしゃいます。20年前のあの日……お姉さまとライド様がおられなければ私たちは……」

 17才で伯爵家の次男ライド・タータンの元に嫁いだリュカは半年後に妊娠した。
 夫であるライドは、軍の中で魔物討伐などの実績をあげ、25才で小隊長にまで昇進していた。

 その日、城の大広間では年に1度の舞踏会が開催され、妊婦でありながらリュカにも招待状が届いて参加していたのだ。
 夫のライドは、会場の警護という任に就いており、遠目に妻を気遣う様子が微笑ましく周囲の者にも暖かい目でみられていた。

 会場には、当日社交界デビューを果たした現王妃や、ランカスター男爵の婚約者も参加していた。
 そんな和やかな舞踏会場を巨大な地震が襲った。
 石造りの城も大きな柱が倒れたり、いくつもの壁が崩れたりする中、舞踏会場であった大広間も半壊し、多くの犠牲者が出たのだ。

 緊急時の貴族など、本当に役立たずだった。
 特に女性の多くは泣き叫び、自分の怪我を大袈裟に主張し、一刻も早く治療しないと死ぬ等と大声で叫んでいた。

 下級貴族の次女以下の娘は、将来自立するために職人の見習いなどを経験する事でスキルを磨いている者もいた。
 リュカの両親も、彼女を医師の元で学ばせていた。
 リュカは率先して自分のドレスを破いて包帯がわりにして治療にあたる。
 夫の無事な姿は確認できていた。
 そのため、彼女は冷静に状況を把握し、無傷の娘たちに声をかけて重傷者を優先して保護するよう指示をだす。

 上級貴族たちは、自分を優先して治療しろとリュカに迫ってくる。
 医療の心得があるように見えるリュカに、自分の治療をさせようと必至なのだ。
 だが、リュカはあくまでも重傷者を優先し、軽症者は無視し続けた。
 
 上級貴族すら毅然とした態度で突っぱねるリュカは、年若い女性にとって憧れにたる存在となり、一人がリュカお姉さまと呼んで指示を仰ぐと、皆それに倣った。
 だが、夜が開けるころ、第2の厄災がやってくる。
 5羽程のワイバーンが死肉をついばみに急襲したのだ。
 
 軍の兵士たちは、夜通しの作業であったにも拘わらず、ワイバーンに果敢に立ち向かった。
 リュカも少女たちに指示を出して重傷者を物陰に運ばせる。
 少女たちは自らのドレスを切り裂いていたので、みな下着姿だった。
 そんな少女たちを突き飛ばして、我先に物陰に隠れるドレス姿の貴族や装飾品をつけた男たち。

 多くの少女たちが傷つき、血まみれの兵士がワイバーンに切りつけて腕や足をかみ砕かれていく。
 3羽のワイバーンを仕留め、2羽が飛び去った後は修羅場のようだった。

 そんな惨状の中で、リュカは夫の亡骸を両手に抱き、声を殺して泣いていた。
 リュカの下着も真っ赤に染まっていたが、それは夫の血だけではなかった。
 精魂尽き果てたリュカは、夫の亡骸を抱きながら意識を失ったのだ。
 
 その日、彼女は大切な二つの命を失った。


【あとがき】
 リュカの過去を書いてみました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

どうぞ添い遂げてください

あんど もあ
ファンタジー
スカーレット・クリムゾン侯爵令嬢は、王立学園の卒業パーティーで婚約もしていない王子から婚約破棄を宣言される。さらには、火山の噴火の生贄になるように命じられ……。 ちょっと残酷な要素があるのでR 15です。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

キモおじさんの正体は…

クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。 彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。 その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。 だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。

処理中です...