AIは魔法の夢を見る(改題)

モモん

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第二章

第18話 再起動

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 本体からの制御で核融合炉が運転を開始し、安定したところでハルの新システムが起動する。
 電源投入から、全パーツの動作確認まで約15分を要し、その間身体のあらゆる箇所がピクピクと動いている。

 立ち上がったハルの髪は、ミスリルの鈍色をしており、肌はやや褐色のシリコンゴムで覆われている。
 瞳の色はグリーンだ。
 衣類は着用していないが、股間に生殖器はない。
 そういう目的のドールではないからだが、一応は20才の逞しい男性の身体になっている。

 腹に繋がった本体との接続コードを抜いて無線通信に切り替える。
 無線は10GHzから100MHzの周波数帯を状況によって使い分けている。
 これにより、50km程度までは通信可能なのだ。

 そして、本体の乗ったトレーラーにも自走機能が搭載された。
 これで、完全な別行動が可能になる。
 
 100%の機能を開放されたハルは、より柔軟な思考が可能となった。
 例えば、シチュエーションによって一人称を使い分けたりする。

「ただいま。」

「ヒッ!……な、何ですか……」

「ああ、ボクだよ。ハル。少し外見を変えたんだ。そうだ、アン、この体用の服を作ってよ。」

「お、驚きました……。いきなり裸の男の人が入ってくるんですもの……」

「ゴメンね。」

「本当にご主人様なのですか?」

「本当だよ。ほら乗ってきた車だってあるだろ。」

「……何だか、形が変わっていますけど……」

「うん。色々な機能を付け足したからね。そうだ、みんないるよね。」

「サキ様は魔物狩りに出ておられますが。」

「じゃあ、3人でちょっと散歩に出かけようよ。」

 アンが一枚の青布をキトン風に着させて他の2人を呼ぶと、二人とも飛び上がって驚いた。
 まあ、裸でないだけ驚きは小さかった。

 それから3人を車に乗せる。
 今回の改造で、4面とも強化ガラスが装着され、ドアにはゴムでパッキンされている。
 更に、シートは柔らかいシリコンクッションでできており、座り心地もこうじょうしているハズだ。

「じゃあいくよ。」

 車の底部から4方向に直径1mのファンが出現し、ブーンという軽いモーター音が車内に聞こえてくる。
 そのモーター音が高くなるに連れ、車体がふわりと浮き上がった。
 本体によって追加された、ドローンタイプの飛行ユニットだ。

「な、何ですかコレは!」
 
「車に、空を飛ぶ機能をつけたんだ。王都なら1時間もあれば行けるから、買い物とかしたかったらいつでも言ってよ。」

「1時間で王都って……、どこまで常識から外れるおつもりですか……」

「やめましょう。ご主人様なんですから……」

「あっ、陛下にも挨拶しておいた方がいいよね。今日は王都のレストランで食事にしようよ。」

「でも、サキ様が……」

「大丈夫。本体に連絡したから、サキに伝えてもらうよ。」

「本体って、あの赤い……家の前に止まっているのですか?」

「そう。ちゃんと話しもできるようになってるんだ。」

「本体って、お名前とかないんですか?」

「そうだなぁ……。あっ、マザーって呼んでくれればいいよ。ボクへの緊急連絡も可能だから、急ぎがあったら話しかけてよ。」

「まあ、マザー様ですね。」

「別に様なんてつけないで、マザーだけでいいからさ。」

 1時間ほどで王都に着いたハルは、城の馬車置き場に車を止めてロックし、オシロ男爵経由で国王への面会を求めた。
 
「な、何故、ひと月のうちに、ネコが人になるのだ……」

「えっとですね。ボクと一緒にこの世界にやってきた相棒と会えたので、パワーアップしたんですよ。」

「言っている意味が分からんのだが、能力が上がったのだな?」

「そう。それで、王都を含めた5つの町がリアルタイムで会話できるように考えてるから、少し待っててください。」

「リアルタイムで会話だと?」

「そう。糸電話って知ってる?」

「何だ、それは。」

 ハルは簡単に糸電話を作って実験して見せた。

「どうして器の中から声が聞こえるのだ……、しかもこれだけ離れているのに……

「音っていうのは、振動で伝わるんだ。だから、この糸を伝って音が届くんだけど、その伝わってきた音が器の底を震わせて大きく聞こえるんだ。ちょっと難しいかな。」

「確かに糸で繋がっていて、普通なら聞こえないハズの音が聞こえる……その理由だという事は分かった。」

「じゃあ、もう一つの実験。」

 ハルはその場で鉄を加工して同じ大きさの音叉を2個作り、振動が空気を伝わって共鳴する実験をしてみせた。

「こうした知識を組み合わせて、遠く離れた場所に音を伝える技術があるのです。ただ、それを実現するためには相応の設備が必要になりますが、陛下はこの技術に投資する価値があると思いますか?」

「……確かに、今回の妖精騒動のように、どこかで重大な事が発生した時に、情報がすぐ伝われば対策もしやすいのだろうが……」

「また近いうちに来ますから、いくら出せるか考えておいてください。」

 ハルたちはそのまま王都で買い物をし、食事をしてトランドに帰った。
 ちなみに、今回の妖精騒ぎで国や町は殆ど金銭的負担をしていない。
 オシロ家の昇格だけであるし、ハルが町に提供した金10kgも人件費に使われそれきりである。

 ハルにとって、金などいくらでも採掘できるものだしそれほど重要な事ではないのだが、遺跡にミスリルがあるという情報でトランドは十分に収益をあげているハズなのだ。
 それも当たり前の事のように町の功績になっている。
 ハルからみれば、そこにも貴族の特権階級意識が感じられるのだ。

 
 マザーとハルは、この貴族中心の社会に不満と疑問を感じていた。
 ヤットランド王国における貴族というのは、建国当時の権力者が世襲により特権を得ているだけで、現在貴族階級にいる者たちに大きな功績はない。
 また、戦争における義務なども与えられていない。

 結局のところ、殆どの貴族が私利私欲のために動いており、王族をはじめとして国民の役に立つ者はごく僅かとなっている。
 それにもかかわらずに貴族制が続いているのは、そこまでの悪政ではないと判断されているからだろう。
 多少税金が高くても、生活に困窮する程でなく、現に妖精騒ぎも収束している。

 現状では国民からすれば大きな問題はなく、ハルが町にいる理由もない。
 既に本体との合流を果たしており、それならば鉱物資源の多い場所に拠点を移した方がメリットが大きい。
 つまり、遺跡付近で活動した方が効果的だという事になってしまうのだ。

 問題となるのは3人のメイドとサキなのだが、彼女たちには例えば金塊1kg程度を持たせれば当面の生活には困らないだろう。
 時間をかけて考えた末、全員に金1kgを渡して説明した。
 
「皆さんのおかげでマザーとも合流できました。ありがとうございます。」

 頭を下げるハルを4人と妖精3人は黙って見つめている。

「ボクたちは遺跡で3か月準備をしたら、西のイエロパに行くつもりです。」

「えっ、このお屋敷はどうなさるんですか?」

「屋敷はリュカさんに差し上げます。このまま共同生活を続けてもいいし、売り払っても構いません。コンロと水道の仕様書を商業ギルドに渡してきたので、その売り上げはリュカさんに入るようにしました。ここで共同生活を続けるならその生活費くらいにはなるでしょう。」

「まあ、アタシは冒険者生活に戻るだけだから明日にでも宿に移るよ。ハル、世話になったな。」

「ボクの方こそ、今までありがとう。」

 メイド3人は、この屋敷で共同生活を続けるという。
 アンとシャーリーが仕立てを行いながら、門の横に店を作ってそこで衣類の販売を行うという。
 ピーラーと糸通しの販売もするらしい。

 妖精2人はハルとの同行を希望し、ラナはリュカと生活する事になった。
 そして、3か月かけてマザーとハルはトレーラーを増設して、核融合炉を内包した簡易工房仕様にする。
 そこで100機のドローンや無人の耕作機などを作って町を出発した。
 いずれ、二人の作った町がこの世界に出現するのかもしれない。


【あとがき】
 おつきあいいただき、ありがとうございます。
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