短編集【令嬢の憂鬱】

モモん

文字の大きさ
94 / 99
ガラポンと少女

第3話 川砂利錬金

しおりを挟む
「確かに、チタンというのは知られていない新しい金属だと思う。しかし、なぜお前がそんなものを知っているのだ?……いや、そうか。お前の祖父が発見して、お前に教えたのだな!」

「違うよ。私が見つけてお爺さんに教えてあげたんだ。」

「バカな。なぜ7才の子供がそのようなものを見つけられるのだ……。宮廷錬金術師ですら知らない金属なのだぞ。」

「えっと、どう思ってもいいですけど、チタンは1000度くらいに加熱すると青くなってキレイなんですよ。」

「くっ、何でそんな事を知っているのだ。」

「自分で見つけた金属は、色々と条件を変えて試しているんですよ。」

「そ、そんなのは、宮廷錬金術師の仕事であって、子供がやる事ではない!」

「はいはい。何とでも言ってください。」

「ルード君、サヤカ君の使う錬成の術は凄いんだぞ。あれが出来るのであれば、それだけで実技試験は合格できるだろう。そうだ、明日は野外学習にして君にも見せてやろう。僕もあの術を覚えてサヤカ君と同じだけ金属を知っておきたいしね。」

 先生からそのように指示をされて、翌日は近くの川に出かけた。
 護衛に騎士が二人ついてくる。
 まあ、王子の外出ならば当然か……

 騎士たちが周辺の安全を確認して、私たちは川岸に出る。
 この辺りは中流域になり、川幅も10mくらいあった。
 岸の殆どは土だったが、流れが曲がっている場所や川底は砂利だった。

 ズボンの裾をまくりあげ、少し流れの中に入って川底の砂利をさらう。
 先生と殿下も同じように砂利を集めている。

 岸に戻った私は、砂利を集めた麻布を地面に広げた。

「最初は水分を抜きます。砂利全体を魔力で包んで水だけを分離します。」

「ふむ……全体に魔力を流して成分を把握して、水だけを……いや、意外と難しいねコレ。」

「くっ……」

「殿下、一点に集中するのではなく、全体を柔らかく魔力で包む感じです。」

「いや、僕たちが普段やるのは、知っている金属の成分を足がかりにして、そこから魔力を広げていく感じだからね。こ、こうか。」

「むぅ……」

「殿下、力みすぎです。もっと優しく魔力を広げてください。」

 それから結構な時間をかけて先生は水を分離したが、王子は魔力を使いすぎて疲れ切ってしまった。
 私たちが取り組んでいる間に、騎士たちは大きな麻布5枚に砂利を詰め込んでいる。
 私は、その分も水抜きをしていた。

「よし、後は研究室に戻って続けようじゃないか。サヤカ君、ルード君の砂利も水抜きをしてくれ。」

「はい、先生。」

 秋口とはいえ、まだ風は暖かい。
 赤とんぼが風に舞う中、私たちを乗せた馬車は城に戻っていった。

「それで、サヤカ君はどうやってあれほどの魔力操作を身につけたのかね?」

「えっと、2年前に魔力を授かって、最初はお爺ちゃんから身体の中を循環させる魔力操作を教わって、そしたら魔力の流れたところが活性化するのが分かったんで、全身に魔力を巡らせるようにしたんです。」

「ほう、身体中に魔力を……」

「一年間はそればっかりやっていました。それからポーション作りを教わってから、金属錬成の基礎を教わって川に行くようになって、夜は分離した金属を使って合金を作ったりしてました。」

「なるほどね、1年間は魔力操作だけをやって、それからプラントとメタル両方の指導を受けたのか。ルード君、錬金術師のジョブを受けて半年の君じゃあ太刀打ちできないよねぇ。」

「くっ……、ですが私には錬成のスキルがあります。」

「だが、先ほど採ってきたこの5袋の砂利を使って剣を錬成しろと言われたら、お前は剣を錬成する手前で断念する事になるのだぞ。」

「それなら、私は自前の鉄を使います。」

「あっ、それ面白そうですね。やってみたいです。」

「なにぃ!」

「あっ、殿下と勝負じゃないですよ。この砂利を使って、これまでに調べてきた一番切れ味の良いナイフを1本作ってみたいなって思ったんです。もちろん不錆鉄(ステンレス)ですよ。」

「な、何だそのステンとかいうのは?」

「ああ、レブロ師の言われていた合金だな。確か鉄に10%程のクロムという金属を加えるとか。」

「はい。これまでに試してきた中で、切れ味が良くて錆びない配合はクロム13%に炭素が0.3%。あとはマンガンやニッケルを微量加えたものになります。これだけの砂利があれば、ナイフ1本分の素材は集まると思います。」

「よし、じゃあ、砂利の成分分離ができたら、それも見せてもらおうじゃないか。」

「いいんですか?」

「勿論だよ。ルード君だって合金の配合比率なんてワクワクしちゃうだろ。」

「で、ですが、師匠はこんな小娘の妄言を本気にしてるんですか!」

「妄言かどうかは、実際に作ってもらえば分かる事さ。検証ができたら、サヤカ君の名前で宮廷錬金術師の皆に紹介する。新発見の金属素材と一緒にね。」

「そんな!見習いが実名で研究結果の報告など聞いたことがありません!」

「サヤカ君の研究成果は、皆で共有する事で宮廷錬金術師団の資産となるのだよ。これを公表しない事こそ損失といえる。そして、その先はルード君との共同研究だね。昨日聞いたブルーチタンのレイピアを作ってもらおうじゃないか。」

「ブ、ブルーチタンのレイピア……」

「素材が集められるかは分からないけど、見てみたいじゃないか。昨日見せてもらったブルーのチタンは美しかった。」

「それは……確かに……」

「君とサヤカ君の連名で、それを陛下に献上する。」

「あっ……」

「それが、公式の場で国民にお披露目されるところを想像して見たまえ。」

「震えそうですね……」

「それまでにルード君は国家錬金術師の資格をとって、その功績で宮廷錬金術師への推薦を勝ち取る。サヤカ君は、史上最年少で国家錬金術師の資格を得る。」

 何だか、先生には妄想癖でもあるんじゃないかと疑ってしまう。
 世の中はそれほど甘くないハズだ……

 10日後、砂利の成分分離が完了し、その素材で私はステンレスのナイフを錬成した。
 水の分離ができるようになったルード殿下も協力してくれて、ナイフの装飾を手伝ってくれた。
 柄に刻まれた文様や、鞘の彫刻は私に真似のできない見事なものだった。

「お手元の資料にありますように、ここにいるサヤカ・メディスンが9から16番目の鉱石を分離精製しました。サンプルはこちらにありますので、後ほどご確認ください。」

「まさか、そこの少女が16種類全てを発見したというのかね……」

「それも、彼女は鉱石からではなく、川底の砂利からそれを発見しています。彼女が着任してから、僕と見習いのルード君も一緒にその手法を習得し、今回麻袋5袋分の砂利を採取し、そこから抽出した金属だけでこのナイフを作り上げました。」

「し、信じられん……」

「そして、資料の2枚目に書きましたが、このナイフは主に鉄とクロムからできており、この成分で作られたステンレス製のナイフは錆びにくいとの事です。彼女の祖父でもある、引退された錬成師、薬聖のレブロ師によれば一か月雨ざらしにしても錆が出ていないそうです。」

「それは、錆止めの塗装が施されているのではないのかね?」

「ここにお持ちしたのは、錬成したままで塗装はされていません。先ほど団長にも鑑定していただきましたが、塗装は一切されていません。」

 先生の言葉に、壇上の団長という白髭のおじいさんが頷いた。
 この発表の後、先生の研究室には大勢の錬金術師が入り浸る事になった。
 私は質問攻めにあっており、ルード殿下は水の分離を実演して見せるのに忙しい。
 ゴメンね殿下……


【あとがき】
 宮廷魔法師団での生活スタート
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん>< 面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...