人生ゲーム

第弐拾参章

神々の威光

　こうして、ゼウスの番が終わり、ハデスの順番になった。しかし、ハデスはサイコロを取ろうとはせずに盤上の駒を見つめていた。

　「何をしておる？次はお主の番だぞ？それとも、今更臆おくしたか？」

　すると、ハデスがゼウスに問いかけた。

　「ゼウスよ、なぜこのようなゲームをやろうと思った？みなが邪魔ならばその武力を持って征すれば良かろう？その方が貴方様にとってもなんのリスクもないはずではないか？」

　ハデスの言葉に一同がゼウスに視線を向けた。全ての視線を一心に受けてゼウスが口を開いた。

　「確かに、ハデスの言う通りだ。本来であれば皆みな楽な道を選ぶであろう。だが、武力を行使して得た地位になんの意味があろうか？リスクを背負わぬ者が上に立つことこそ最も愚かな行為だと私わたしは考えている。人生とは、常に平らな道だけではなく凸凹な時もあれば、壁が立ちはだかったり、分かれ道に迷うこともあれば、山があり谷がある時もある。私自身命をかける覚悟もなく皆を従したがえることなどできるはずもあるまい！皆の命を天秤にかけるのであれば、私自身の命もかける覚悟だ！」

　ゼウスの言葉を聞きハデスが薄く笑った。

　「実に素晴らしい演説であった。さすがは最高神殿だ。ゲームを止めてしまい申し訳ありませぬな。それではゲーム再開と行きましょうか。」

　そう言うとハデスがサイコロを手に取った。運命が再び動き始めた。

　しかし、それと同時に思い知ることになる。世界は広いが人との繋がりは狭いと云いうことに･･･。

　ここは、人間界のとある廃ビル。この場所で今日も計画をねっているのは･･･。

　「さてと、今日は何に変装するか･･･。」

　ハデスのコマとなった人間。本日はそんな彼にスポットを当ててみよう。

　彼は、詐欺師として名をあげる以前はどこにでも居るごく普通の学生だった。家庭は決して裕福とは程遠い環境にあり、贅沢などする余裕もないほどの貧しい家族だった。

　しかし、そんな中でも彼は幸せだった。父親は幼少の頃にこの世を去り、母親がずっと1人で育てていた。母は辛い思いをしないようにと彼のことを常に気遣っていた。

　彼が辛い時や苦しい時、どうしようもない壁に直面した時はそっと寄り添い彼の心の支えになっていた。

　彼は決して裕福な家庭で育ったわけではない。しかし、彼にとって母親との時間は、どれだけ貧しくても楽しい時間だった。

　しかし、その幸せは無慈悲むじひに、残酷ざんこくに終わりを迎えることになる。

　彼の唯一の拠り所であった母親は、金品を騙し取られ、それでも彼のことを支え続けていた。貯金も底を尽き、頼るあてもなく、彼に食事を与えることだけで精一杯だった。

　そのこともあってか、彼女の身体は限界を迎えていたのだろう。身体を病み、遂には動くことすら出来ずに寝たきりになってしまったのだ。

　病院へ行く金もなく、数日後に彼は目の前で母親を失った…。


　その事がきっかけとなり、彼の復讐が始まる。自身の家族を奪った詐欺師を見つけ出し、同じ苦しみを与えるために…。

　しかし……。

　彼はまだ気づいていなかった。自分自身の過ちとこの行動がどれだけ愚おろかなことかを…。愛するものを失う悲しみは自分自身が1番理解しているハズなのに、その悲しみをどれだけの人間がしているのかこの時はまだ知るよしもなかった。

　後に主人公和真の心に大きな傷を与え、その事がきっかけとなり和真の心に闇を生み出してしまうことになる。だがこの話はまだ遠くない未来の話であり後に神々の脅威となる出来事の予兆よちょうとなるのだ…。

　時を同じくして、和真たちの通う学校…。

　「ねぇー、ちょっと待ってよ！和真ってば！ねぇー！！」

　必死で和真を追いかけていた葵。しかし、今の和真には葵の声は届かなかった。あの時見た光景が今でも和真の脳裏のうりに焼き付いて離れないからだ。和真は神の存在を信じたわけでもましてやあの光景を信用した訳では無い。だが、今までに起こったこと、そして美空との出会い。その全てが作られていたのだとしたら？もしその全てが神々の掌てのひらの上での出来事だったとしたら？和真にとってその真実は耐え難く、いつも冷静な和真のことを動揺させるには十分すぎた。

　そんなことを考えながら歩いていると、突然誰かに肩を叩かれた。和真が少し体をビクリとさせて振り返ると、そこには頬を膨らませて少し涙目な葵が見つめていた。

　「なんだよ？葵か…びっくりさせんなよ。」

　和真の一言に葵が応えた。

　「なんだよじゃない！1人で先に帰るわ呼び止めても足も止めずにズカズカと歩いていくわ。おかげで喉も乾いたし小走りになったし疲れた！」

　葵が子供のように和真に怒った。しかし、今の和真にとってはその行動も発言もイラつかせる火種にしかならなかった。

　「うるせぇよ！葵はいいよな？何も考えずそうやってわがまま言い続けられるんだからな！もう俺のことはほっておいてくれよ！そういうの今はイラつくんだよ。」

　そういうと和真はまた歩き始めた。葵は何が何だかわけも分からなかった。なぜ怒られたのかなぜ怒らせたのか。葵の目に涙が溢れた。

　「私だって…何も考えてない訳じゃないのにな…。」