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人は、
しおりを挟む異常正常の天秤は、行ったり来たりのシーソーゲーム。
「新型ウイルス患者の受け入れ強化を要請か……頭が痛いな」
橋本は、うーんと頭を抱える。
当直明けの重たい瞼を擦りながらTVに映る政治家の顔を必死の形相で睨みつけてみる。しかし画面の政治家は仏頂面をくずさない。
確か新型ウイルスの担当だったはずの坊主頭のその政治家は、生真面目そうに質疑応答を行いここが正念場だと仕切りに繰り返した。
はぁーと、気の抜けた声が出る。
使い古されたくすんだ黒のちゃぶ台につっぷす。
壁にかけてある丸型の黒い時計は、俺はこんなに働いているのだからお前もとっと動けと言わんばかりに、チクタクチクタクと音を鳴らすことに勤しんでいる。
この半年で状況は大きく変わった。
といってももともと尋常じゃない患者を治療する地域医療において、新型ウイルスの台頭は患者が増えるだけであり、状況は変わっていないのかもしれない。
ただ前よりひどくなっただけだ。
しかし厄介なのが、幻覚症状を患う患者だ。
彼らはなりふり構わず暴れ回るため、相応の施設を用意しなければならず、そんな余裕はないのだ。
鬱屈な心境を誤魔化すように、冷蔵庫から引っ張り出したまま放置されていた缶ビールのプルタブを引いた。ぷしゅー、という音を聴くと冷め切ったビールを喉に押し込む。
のどごしを気にする余裕もなく眠っていた。
・30度後半の高熱
・凶暴化(幻覚症状の可能性が高い)
・凶暴化している間は熱による倦怠感等はない様子
・熱に対して苦痛を感じていない様子の患者も多々
橋本は、実際に対話した患者の情報をもとに電子カルテに病状を打ち込んでいた。
液晶画面の、無機質なあかりを見つめながら橋本は患者の様子を思い出す。
病院からの呼び出しを受けた橋本は、眠い頭を起こして患者の病室を訪れていた。
先導する、この病棟を統括する年配の看護師が、重苦しい南京錠に鍵を差し込む。
看護師は軽くこちらをみると、すぐに扉に視線を向け入室を促した。
橋本は軽くうなずくと、スライド式の扉を開ける。
ベットの上には、新型ウイルスと戦う患者が横たわっていた。
こちらに気づくと、襲い掛かろうと体を動かすが体に巻かれたベルトによってジタバタともがくだけとなる。
掛け布団はくしゃくしゃになって床に落ち、脇なおいてあったであろう花瓶は粉々に砕けて床に散らばっていた。
うああ、と患者の呻く声が聞こえる。
簡単に周りをチェックすると、データの回収をする。
やがてそれも終わり、部屋を後にしようとすると憎い、と呪文のように繰り返す姿が見えた。
その言葉の真意はわからない。
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