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第1章★女帝、降臨★
第7話☆女帝☆
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その後お面をしまった太一は、目を細めて菫に手を差し伸べると、白狛犬に乗せて飛び立った。
倭国跡地の側に空間をずらして結界を張っており、そこに稲田一族別邸が建っていた。
天倭戦争でも壊されずに立派なまま残っているため、稲田一族本家、分家の者は隠れ里ではなく現在ここで暮らしていた。
白狛犬から降りた2人は、立派な門の前に立つ。
「いざゆかん。敵の本拠地へ!」
太一が覚悟を決めて言うものだから、菫はクスッと笑ってしまった。
「笑うところでありますか?」
太一が苦笑しながら菫を見る。綺麗な青い目が菫の目を捉えていた。
「大丈夫よ、太一様。リラックスしていきましょう。いつも通りのあなたでね」
太一が何か言われたらフォローをしてあげたいと菫は思っているが、ただ菫も八雲の妻、マユラと会話するのは久しぶりだ。
結局裕やワタルを倭国の王に推している彼らが、菫の意見を聞いてくれるか、未知数だった。
「たのもーう」
「ふふ、道場破りじゃないんだから……」
太一の声に菫が笑ってしまうと、数体の紙人形が紙の音を立ててこちらにやってきた。
魔人くらいの大きさの彼らは、スッと菫と太一の荷物を持つと、着いてくるように促しているようだった。
「歓迎されるみたいで良き良き、ですな」
挑戦的に笑いながら、太一が呟く。
意外と好戦的そうな表情に、菫は驚いて太一を見ていた。
気が弱いような素振りは狐のお面を被っていたからだろうか。
にやりと不敵に笑う太一の表情は、好戦的な自分の弟に良く似ていた。
「あら、いらしたのね。愛人1の悪魔が」
皮肉を込めた女性の声が襖の奥から聞こえてきた。
威圧感のある声にギクリと2人は襖の前に立ち止まると、慌てて廊下に正座をした。
「悪魔の子、太一でございます」
言わされているのか、稲田一族
の中では愛人の名前を言うのが禁じられているのか、自分の母を悪魔と言わなければならないことを菫は悲しく思った。
「立ち会いで参りました、菫です」
「……菫様?」
和室の中からバタバタと音が響くと、スッと襖が開いて紙人形が2体襖を開けてくれた。
部屋の中には4人の魔人がいた。
上座に1人、声の主なのか女性が座って菫を驚いた目で見ていた。
マユラ様だ、と菫は思った。
「菫様! お久しぶりでございます!」
マユラは黒髪を後ろで纏め、真っ赤な口紅と気の強そうな眉で菫を見ていた。
「お久しぶりです、マユラ様。お元気そうで良かったです」
菫が笑顔で挨拶すると、マユラはお辞儀をして菫を迎えた。
「まあ菫様、お美しくなりましたね。さあどうぞ、お入りになって」
まるで太一をいないものと思っているのか、菫の隣にいたにも関わらず菫だけを招き入れた。
「太一様も入りましょう」
当たり障りのないように菫が促すと、太一はお辞儀というより土下座をするような格好でピクリとも動かなかった。
「太一様?」
菫が言ったが、マユラは菫の背中を押して中に入らせるだけで、太一を見向きもしない。
「マユラ様、太一様も候補者でしょう。なぜ無視をするの」
少し強めの口調で菫が言うと、マユラは小さくチッと舌打ちをすると、汚らしいものを見る目で太一を見た。
「菫様の寛大さに感謝するのね、悪魔。入りなさい」
「は、い……」
萎縮してしまっている太一の側に行くと、菫は太一の手を取って隣に座った。
「菫様? 悪魔の隣にいますと、悪魔の肩を持っているようで不快ですわ。これから当主を決めるにあたり、王家である菫様には贔屓は禁物です」
ピシャリと強い口調でマユラに言われ、菫は太一の手を離してマユラに向かって微笑む。
「あら、わたしったら。ごめんなさい、マユラ様。でも、悪魔悪魔と、太一様という素敵な名前があるのですから、そう呼んで差し上げて下さい」
「菫様……ボクは悪魔で十分ですから」
「きゃはは! 身の程を弁えていますのよ、悪魔は。ねえ、菫様? 悪魔の子がそう言っているのですから、菫様もそう呼んで差し上げて下さいな」
マユラが菫を見て勝ち誇ったような顔で笑った。
これは強烈だわ、と菫は太一を横目で見て思った。
「わかりました。ではマユラ様。あなたのことは本家のお嫁さんと、呼ばせて頂きますね」
稲田一族の血が入っていない部外者、と暗に言っているように聞こえるよう、にこにこと菫が極上の笑顔で言った。
するとマユラの側に控えていた3人のうち1人が「プッ」と吹き出した。
「誰! 今私を笑ったのは!」
マユラが3人を見下ろして言ったが、3人は沈黙して何も言わなかった。
「菫様? 少し見ないうちにずいぶん生意気になってしまわれて、残念ですわ」
マユラが菫に向かって強く言う。未だ顔を上げられない太一に代わり、菫はにこにこと頷いた。
「うふふ、お互い様、ですね」
「うふふ……」
マユラと菫の間に見えない火花が散ったようだった。
太一は顔をあげると、菫を眩しそうに目を細めて見る。
「マユラ様、太一様がこんなに萎縮してしまっているわ。朗らかで優しくて、饒舌に楽しそうに話す太一様が。誰のせいかしらね」
菫が首を傾げる。マユラも菫を見て妖艶に笑った。
「弱いからではなくて? 弱いと強い者に萎縮するのは当然の摂理ですわ」
「ふむふむ、なるほど」
菫が納得したように頷く。
「では、太一様が当主になった際は、強い者の立場になるのね。早く当主を決めましょう」
「……お座り下さい。菫様……太一……」
マユラが悔しそうに太一の名前を呼ぶ。
先程から震えている太一の手を、菫は守るように掴んだ。
「ねえマユラ様。あなたがそんな態度だと、わたし太一様の味方しちゃう。平等にしなきゃいけないのに、これじゃ裕に怒られてしまうわ。お願いマユラ様。太一様にもどうか優しく接して下さい。目を吊り上げていると、せっかくの美人が台無しだわ」
「……わかりました、菫様」
「ありがとうマユラ様、大好き!」
菫はマユラの側に行くと、マユラにギュッと抱きついた。
マユラは驚いたように目を丸くしたが、やがてため息をついて菫の背中に手を回した。
「やるな、あのお姫様」
「……調子が良いだけだろう、能無しが……」
先にきていた候補者の誰かが
呟いていたが、菫は気にせずマユラに抱きついていた。
全員が集まるまで個室に案内された太一は、緊張から解き放たれたようにため息をついた。
「菫様、すみませぬ。情けない姿を……」
「いえ。今まで良く耐えましたね……この家では窮屈だったでしょう。しかしマユラ様の様子だと、当主になるのは大変そうですね……」
「はい。恐らく先に来ていた分家の息子……あの3人の中の誰かになるでしょうな」
太一の消えそうな声に、菫は心配そうに太一を覗き込んだ。
「八雲様の遺言状は王家が持っています。それを読めばもしかしたら変わるかもしれません。悲観しないで下さい。太一様、わたしあなたの朗らかで楽しい人柄が好きなの」
「ありがとう……」
稲田一族別邸にきてからの太一はまるで別人で、菫は心配になってしまった。
太一は深くため息をつくと、気合を入れるように1度拳を握りしめていた。
☆続く☆
倭国跡地の側に空間をずらして結界を張っており、そこに稲田一族別邸が建っていた。
天倭戦争でも壊されずに立派なまま残っているため、稲田一族本家、分家の者は隠れ里ではなく現在ここで暮らしていた。
白狛犬から降りた2人は、立派な門の前に立つ。
「いざゆかん。敵の本拠地へ!」
太一が覚悟を決めて言うものだから、菫はクスッと笑ってしまった。
「笑うところでありますか?」
太一が苦笑しながら菫を見る。綺麗な青い目が菫の目を捉えていた。
「大丈夫よ、太一様。リラックスしていきましょう。いつも通りのあなたでね」
太一が何か言われたらフォローをしてあげたいと菫は思っているが、ただ菫も八雲の妻、マユラと会話するのは久しぶりだ。
結局裕やワタルを倭国の王に推している彼らが、菫の意見を聞いてくれるか、未知数だった。
「たのもーう」
「ふふ、道場破りじゃないんだから……」
太一の声に菫が笑ってしまうと、数体の紙人形が紙の音を立ててこちらにやってきた。
魔人くらいの大きさの彼らは、スッと菫と太一の荷物を持つと、着いてくるように促しているようだった。
「歓迎されるみたいで良き良き、ですな」
挑戦的に笑いながら、太一が呟く。
意外と好戦的そうな表情に、菫は驚いて太一を見ていた。
気が弱いような素振りは狐のお面を被っていたからだろうか。
にやりと不敵に笑う太一の表情は、好戦的な自分の弟に良く似ていた。
「あら、いらしたのね。愛人1の悪魔が」
皮肉を込めた女性の声が襖の奥から聞こえてきた。
威圧感のある声にギクリと2人は襖の前に立ち止まると、慌てて廊下に正座をした。
「悪魔の子、太一でございます」
言わされているのか、稲田一族
の中では愛人の名前を言うのが禁じられているのか、自分の母を悪魔と言わなければならないことを菫は悲しく思った。
「立ち会いで参りました、菫です」
「……菫様?」
和室の中からバタバタと音が響くと、スッと襖が開いて紙人形が2体襖を開けてくれた。
部屋の中には4人の魔人がいた。
上座に1人、声の主なのか女性が座って菫を驚いた目で見ていた。
マユラ様だ、と菫は思った。
「菫様! お久しぶりでございます!」
マユラは黒髪を後ろで纏め、真っ赤な口紅と気の強そうな眉で菫を見ていた。
「お久しぶりです、マユラ様。お元気そうで良かったです」
菫が笑顔で挨拶すると、マユラはお辞儀をして菫を迎えた。
「まあ菫様、お美しくなりましたね。さあどうぞ、お入りになって」
まるで太一をいないものと思っているのか、菫の隣にいたにも関わらず菫だけを招き入れた。
「太一様も入りましょう」
当たり障りのないように菫が促すと、太一はお辞儀というより土下座をするような格好でピクリとも動かなかった。
「太一様?」
菫が言ったが、マユラは菫の背中を押して中に入らせるだけで、太一を見向きもしない。
「マユラ様、太一様も候補者でしょう。なぜ無視をするの」
少し強めの口調で菫が言うと、マユラは小さくチッと舌打ちをすると、汚らしいものを見る目で太一を見た。
「菫様の寛大さに感謝するのね、悪魔。入りなさい」
「は、い……」
萎縮してしまっている太一の側に行くと、菫は太一の手を取って隣に座った。
「菫様? 悪魔の隣にいますと、悪魔の肩を持っているようで不快ですわ。これから当主を決めるにあたり、王家である菫様には贔屓は禁物です」
ピシャリと強い口調でマユラに言われ、菫は太一の手を離してマユラに向かって微笑む。
「あら、わたしったら。ごめんなさい、マユラ様。でも、悪魔悪魔と、太一様という素敵な名前があるのですから、そう呼んで差し上げて下さい」
「菫様……ボクは悪魔で十分ですから」
「きゃはは! 身の程を弁えていますのよ、悪魔は。ねえ、菫様? 悪魔の子がそう言っているのですから、菫様もそう呼んで差し上げて下さいな」
マユラが菫を見て勝ち誇ったような顔で笑った。
これは強烈だわ、と菫は太一を横目で見て思った。
「わかりました。ではマユラ様。あなたのことは本家のお嫁さんと、呼ばせて頂きますね」
稲田一族の血が入っていない部外者、と暗に言っているように聞こえるよう、にこにこと菫が極上の笑顔で言った。
するとマユラの側に控えていた3人のうち1人が「プッ」と吹き出した。
「誰! 今私を笑ったのは!」
マユラが3人を見下ろして言ったが、3人は沈黙して何も言わなかった。
「菫様? 少し見ないうちにずいぶん生意気になってしまわれて、残念ですわ」
マユラが菫に向かって強く言う。未だ顔を上げられない太一に代わり、菫はにこにこと頷いた。
「うふふ、お互い様、ですね」
「うふふ……」
マユラと菫の間に見えない火花が散ったようだった。
太一は顔をあげると、菫を眩しそうに目を細めて見る。
「マユラ様、太一様がこんなに萎縮してしまっているわ。朗らかで優しくて、饒舌に楽しそうに話す太一様が。誰のせいかしらね」
菫が首を傾げる。マユラも菫を見て妖艶に笑った。
「弱いからではなくて? 弱いと強い者に萎縮するのは当然の摂理ですわ」
「ふむふむ、なるほど」
菫が納得したように頷く。
「では、太一様が当主になった際は、強い者の立場になるのね。早く当主を決めましょう」
「……お座り下さい。菫様……太一……」
マユラが悔しそうに太一の名前を呼ぶ。
先程から震えている太一の手を、菫は守るように掴んだ。
「ねえマユラ様。あなたがそんな態度だと、わたし太一様の味方しちゃう。平等にしなきゃいけないのに、これじゃ裕に怒られてしまうわ。お願いマユラ様。太一様にもどうか優しく接して下さい。目を吊り上げていると、せっかくの美人が台無しだわ」
「……わかりました、菫様」
「ありがとうマユラ様、大好き!」
菫はマユラの側に行くと、マユラにギュッと抱きついた。
マユラは驚いたように目を丸くしたが、やがてため息をついて菫の背中に手を回した。
「やるな、あのお姫様」
「……調子が良いだけだろう、能無しが……」
先にきていた候補者の誰かが
呟いていたが、菫は気にせずマユラに抱きついていた。
全員が集まるまで個室に案内された太一は、緊張から解き放たれたようにため息をついた。
「菫様、すみませぬ。情けない姿を……」
「いえ。今まで良く耐えましたね……この家では窮屈だったでしょう。しかしマユラ様の様子だと、当主になるのは大変そうですね……」
「はい。恐らく先に来ていた分家の息子……あの3人の中の誰かになるでしょうな」
太一の消えそうな声に、菫は心配そうに太一を覗き込んだ。
「八雲様の遺言状は王家が持っています。それを読めばもしかしたら変わるかもしれません。悲観しないで下さい。太一様、わたしあなたの朗らかで楽しい人柄が好きなの」
「ありがとう……」
稲田一族別邸にきてからの太一はまるで別人で、菫は心配になってしまった。
太一は深くため息をつくと、気合を入れるように1度拳を握りしめていた。
☆続く☆
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