上 下
31 / 106
第2章★閑話★

1☆天界国城下町散策☆

しおりを挟む
ゼンタ「お前、今日休みだろう」

菫「はい……ん? なぜ知っているのですか?」

ゼンタ「執事長に問い合わせた。俺も今日は休みを取った」

菫「?」

ゼンタ「城下町に付き合ってやる。普段城にいたら、流行りの店など知らないのだろう」

菫「流行り? 洋服とか、靴とかですか?」

ゼンタ「そうだ」

菫「……知らないです。わたしを誘っても無駄かもしれません」

ゼンタ「は? どういうことだ?」

菫「カボシ姫への贈り物を選べ、とかじゃないんですか?」

ゼンタ「は? バカかお前は! いつもバカなんだな、お前は!」

菫「え……ヘコむ……」

ゼンタ「いつも同じような格好をしているから、何か違う服を買えよ。ブランド物とか。みっともない」

菫「みっともない! 女中のお給料でブランド品など買えませんし、そもそもわたし自分が着るのには興味ないので、最低限生活できる服や小物があれば充分なんですけど」

ゼンタ「……いいからこい。お前この前ルージュさんに影でひどく言われてたぞ。休日に同じ安物の洋服ばかり着ていると。ああはなりたくないと」

菫「えっ……ルージュ様元気そう。良かった」

ゼンタ「そこか、気にするのは!」

菫「まあ洋服の件は事実ですから……」

ゼンタ「悔しくないのか?」

菫「? なにが?」

ゼンタ「俺は悔しい!」

菫「わ、びっくりした……テンション……」

ゼンタ「俺が服を見繕う。少しは見られるようにしてやる」

菫「え、わたしの気持ちが……置いてけぼり……」

ゼンタ「行くぞ、お前!」

菫「スミレです……いいかげん覚えて……」


***


ゼンタ「ええと、リラ・クレフィンは……この辺りだな……」

菫「あっ、ゼンタ様、わたし下着買いたかったの。寄ってもいい?」

ゼンタ「は? 待て、今度にしろ」

菫「ランジェリーショップなんて、ここを逃したらないかもしれないじゃないですか。ね、お願い」

ゼンタ「腕にしがみつくな」

菫「可愛いの買うから、ね?」

ゼンタ「誤解を招くようなこと言うな! ワタルさんに言いつけるぞ」

菫「わたし胸のサイズ、ちゃんと測ってもらおうかな。3年間測ってないんですよね」

ゼンタ「変わってないだろ」

菫「わかりませんよ、15歳のとき測ったきりなのよ」

ゼンタ(15歳から18歳か……確かに変わるかもしれないか……)

ゼンタ「行ってこい。俺は外で待っているから」

菫「嘘つき。俺が見繕うって言ってくれたのに」

ゼンタ「ふ、ふ、服のことを言ったんだ!」

菫「下着も服ですよ。ほら、あれなんか可愛いな。紫がいいかな。黒や赤もいいよね」

ゼンタ「……おい待て……下着ってそんなに高いのか……」

菫「うん? 値段? そう、高いんですよ」

ゼンタ「生地の面積は少ないのに……おい、何だそっちのデザインは……はしたない」

菫「まあ、ゼンタ様お目が高い。これは所謂勝負下着と呼ばれるものですわ」

ゼンタ「あたかも店員のように話すなよ……」

菫「こういうのがいいの? うーん、これ、大部分のおしり隠れないからなあ……」

ゼンタ「……お前、そんな紐みたいなやつ履いたことがあるのか」

菫(着物のときはこれがいいんだよね)

菫「えっと……ないです」

ゼンタ(間が開いたな……あるのかよ、履いたこと。ワタルさんの前でかな……すげーな、こいつ……)

菫「ゼンタ様がお好きならこれにしようかな」

ゼンタ「……」

菫「ゼンタ様?」

ゼンタ「あ、いや。可愛く着飾ってもどうせお前は……」

菫「えっ、なに? 素材が良くない? 胸が小さいからムダ?」

ゼンタ(こいつどれだけ俺を毒舌だと思ってるんだ……)

ゼンタ「違う。どうせお前は……その……1日6回も……するんだから勝負下着なんかいらないだろ。裸一択だろ」

菫「えっ……」

ゼンタ「え?」

菫「ゼ、ゼンタ様、そのことは忘れて下さいよ……」

ゼンタ(珍しい、照れてる……かわい……くない! こいつは生意気な女中!)

ゼンタ「ワタルさん、こういう紐みたいなのがいいのか……」

菫「ワタル!?」

ゼンタ「あの人ああ見えてムッツリななんだな……」

菫「も、もうゼンタ様ったら……そうだ、わたし胸のサイズ測ってもらってきますね」

ゼンタ「お、おい、こんなところに俺を1人にするなよ……」

菫「え? 一緒に個室、きます?」

ゼンタ(……1人にされるよりましか)

ゼンタ「行く」


***


菫「わーい、ゼンタ様、わーい」

ゼンタ「……」

ゼンタ(個室で上半身下着だけになって測るなら言ってほしかった……)

菫「ゼンタ様、1カップ大きくなってたの。わーい」

ゼンタ「お前……俺に下着姿見られて恥ずかしくないのかよ……」

菫「え? ゼンタ様ずっと恥ずかしがって後ろ向いてたじゃない。見てなかったでしょ?」

ゼンタ「それはそうだが……店員との会話は丸聞こえなんだが……」

菫「わーい。ほらゼンタ様、あの紐みたいな下着、買いましたよ」

ゼンタ「買ったの⁉ あれを⁉」

菫「うん」

菫(着物のときは紐タイプがいいんだよね)

ゼンタ「すげーな、お前……」

ゼンタ(こんな可愛い顔してあんな際どいの履くのか……)

菫「あとで見せてあげるね」

ゼンタ「見せる⁉ おい、それはダメだろ。お前……露出が過ぎるぞ」

菫「や、やだ。ただ買ったのを見せるだけですよ。履いたのを見せるのは、さすがに恥ずかしいです」

ゼンタ「買ったのを恋人でもない男に見せるのもどうかと思うが……」

菫(興味ありそうだから言っただけなのに……)

菫「あとはオレンジ色のふわふわした可愛いの買いました」

ゼンタ「あれか……お前迷ってたもんな、最後まで」

菫「はい」

ゼンタ「なんでオレンジなんだ? お前は絶対白を買うと思った」

菫「白? なんで?」

ゼンタ「いや……ワタルさんの色だろ。オレンジだとカルラさんの色じゃないか」

菫「!」

菫(きゃー、鋭い!)

菫「オレンジの気分だったの。今度買うときは黒にするね」

ゼンタ「! お前、からかうなよ」

菫「ごめんね、お待たせしました。お洋服、見に行きましょう」

ゼンタ「もう寄り道するなよ」

菫「うん」

ゼンタ「見ろ、これだ。お前には絶対このブランドが似合うと思ったんだ」

菫「わあ……素敵……音符がモチーフになっているのね……」

ゼンタ「可愛さの中に落ち着きもある。試着してみよう」

菫「……ゼンタ様、わたし見るだけにしておきます。素敵ですけどこんな高いの買えないです」

ゼンタ「……だから、俺が買うんだよ」

菫「えっ、ダメです。高すぎます」

ゼンタ「……見返してやるんだ、ルージュさんを」

菫「わたし何を言われても平気ですから……」

ゼンタ「俺がお前を着飾りたいんだよ。今回だけ、プレゼントさせてくれ」

菫(……なんでルージュ様に対抗してるの?)

菫「この格好、変?」

ゼンタ「いいや、かわい……変ではない。ただ今日はリョウマさんの家にルージュさんが遊びに来ている。突撃してお前のかわい……とにかく見返してやるんだ、ルージュさんを」

菫「ゼンタ様、今日はせっかくのお休みですから、見返すエネルギーがもったいないですよ。言いたい方には言わせておけばいいのよ」

ゼンタ「お前、鋼の心臓かよ……」

菫「お洋服買って下さるのはとても嬉しいですけど、そのお金をディナーに回して、少し贅沢なデートを楽しみたいわ、あなたと」

ゼンタ「……そうか」

菫「うん。わたしにお金使わないで、貯めて下さい。将来素敵な彼女が出来たら、彼女に使って差し上げて下さい」

ゼンタ「今日は……お前と全力でデートをしているつもりだ。この服はお前に似合うと思って、俺が選んだんだから、プレゼントさせてほしい。それから、少しランクは下がるが、夕食を食べて帰ろう」

菫「えっ、でも……」

ゼンタ「……俺が、そうしたいんだ。お前にきっと似合う」

菫(ここまで言われて断ったらおかしいか……)

菫「本当? 嬉しいゼンタ様。じゃあ、買ってもらおうかな。あなたのために着るわね」

ゼンタ「ああ」

菫「あと、この服着るときは紐のランジェリーもセットで履くわね」

ゼンタ「いやなんでだよ……」


☆終わり☆
しおりを挟む

処理中です...