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第4章★堕ちた王子★
第7話☆話し合い☆
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風呂から出てきた菫にセージの言葉を伝えると、菫は嬉しそうに笑った。
「隠密部隊の皆さんは、仕事が早いですね。ありがたいです」
セイをどうするか話し合ったところ、とりあえず話は聞きに行きたいと菫が言ったため、稲田一族別邸に行ってみることにした。
4人が到着すると、紙人形が慌ただしく動いており、荷物をまとめているようだった。
「なんだ、引っ越しか?」
リョウマが不思議なものを見るような目で紙人形を眺めている。
「納得したのでしょうか、裕から追放させられて……」
菫が呟くと、カオスが心配そうに菫の手を取って手を繋いできた。
「怖いな、分家。私初めて会うのよ……」
「……カオスが変なこと言われたら俺もイヤだ……カオスだけどこかで待っていられないか」
「終わるまでは別室にいさせれば良いのでは?」
リョウマの提案を受け、カオスはカルラが使用していた離れの部屋で待っていてもらうことになった。
「菫様、気を付けてね。何かあったらお兄ちゃんを盾にして逃げてきてね」
「おい、妹よ……」
カルラのツッコミに菫が笑うと、カオスと別れた3人はセイたちに会いに向かった。
「菫様!」
マユラが驚いた表情で菫を見て、部屋の中で突然土下座をした。
隣にいたセイもマユラに倣ってゆっくりと土下座をする。
「セイが夢見術をかけて、申し訳ありませんでした」
「……解いたんだ、術。すごいね、姫様」
呑気に言うセイに、リョウマがイラッとしたのか大きな声を上げた。
「誰のせいでこうなったと思っている。セイ、お前は俺の敵と認定した」
「まあまあ」
菫とカルラがなだめるようにリョウマを止める。
「リョウマ義兄さんが菫様の夢見術を解いたんだ?」
「いいや。俺は何もしていない。菫が、精神力の強さで自力で解いた」
リョウマの言葉に、菫は一瞬リョウマを見て目を細めた。
「……大体セイは俺と菫に言うことはないのか? まずお前に義兄と呼ばれる筋合いはない。それと、夢見術にかけることは、下手したら一生目醒めないかもしれない危険な行為なのだということを理解しろ」
「……ごめんなさい」
シュンと小さくなりながら、セイは謝った。
マユラも土下座をしながらリョウマに謝る。
「全ては私の不徳の致すところです。分家3人の子供に命令し、それぞれ稲田一族に有利になるよう、行動させていました」
リョウマはフンと笑い、マユラを見下ろす。
「俺の妹と結婚させたがったり、長男をけしかけて、菫にちょっかい出したりしていたそうだな」
「申し訳ありません」
マユラがリョウマに頭を下げる。
菫はリョウマに合図を送ると、頷きあった。
「えっと、少しお話を聞きたいです。センジュ様も、シデン様も座って下さい」
全員が応接間に集まり、正座をする。
「まず、わたしを天界国ではなく、倭国隠れ里の総合病院に運んで下さり、ありがとうございました」
菫が頭を下げる。
それを聞いたカルラとリョウマは拍子抜けしたようにカクッと同時に頭を垂れた。
「何でまずお礼を言うかな~。菫らしいけどさ~」
「そうだ、怒れ! 病院に行くことになった原因は誰にあるかを考えろ!」
菫は2人を見てクスッと笑う。
「原因は王家ですよ。元々優秀な陰陽師を城付きにさせようと触れ回ったのが原因です。代々プレッシャーをかけていたのはわたしたちなの。申し訳ないことをしました」
「……菫、それはやめてくれ」
カルラがふと抑揚のない真面目なトーンで菫を真剣に見て言った。
「えっ?」
「稲田一族が優秀な子を成したいと、父が他に愛人をたくさん作った。人道的には非難されて然るべきだ。だけど、八雲が俺の母とそういう関係になっていなかったら、俺もカオスも生まれていない。菫、俺が菫と出会えたことまで否定しないで欲しい……」
「カルラ様……」
2人がしばらく見つめ合っていたからか、センジュがため息をついて口を開いた。
「王家の意向はともかく、稲田一族も変にプライドが高かったから、優秀な血族の伝統を捨てきれなかった。王家のせいだけではありませんよ、菫様」
菫はカルラから視線を外すと、マユラたちに向かって深く土下座をする。
「それと、裕が勝手に皆さんを追放して、申し訳ありませんでした」
「フン、お前が謝ることはないぞ。こいつらは勝手に自滅しただけだ。倭国王女と太一に夢見術をかけた報いだろう」
リョウマが偉そうに言うと、マユラがリョウマを見た。
「セイから聞きました。天界国赤騎士団長様は菫様を倭国王女と知り、正体を黙っている代わりに奴隷のように扱っていると」
マユラの話を聞いたカルラが、ケラケラと笑い転げてしまった。
「ヒヒヒっ、そういう設定なんだ~なるほどね。ヒヒっ」
稲田一族が一斉にカルラを蔑むような目で見据え、カルラは首を竦めた。
「結婚する女の兄に対して、良くそのような言い回しができるな」
フン、と鼻を鳴らしてリョウマが吐き捨てるように言う。
「まあ、ルージュはセイのことなど気に入っていないようだがな。妹とセイの結婚は破談ということでいいな?」
「待って下さい、リョウマさん」
マユラがすかさずリョウマに言った。
「変わらず、セイと結婚してもらいたいのです。金銭の援助はもちろん致しますので」
マユラと分家の子3人は、リョウマに深くお辞儀をした。
「フッ、ぬけぬけと。最後のプライドも脱ぎ捨てたか。それほど貴族の称号と代々赤騎士団長の遺伝子が欲しいか」
リョウマがマユラを見据えて言うと、マユラは悔しそうに拳を握りしめて下を向いた。
「……稲田一族が倭国を追放されたため、すでに我々の地位は地獄の底に落ちました。這い上がるには、あなたのような優秀な血筋が必要です……」
リョウマは憐憫の目をわざとマユラに向ける。
「血筋のために自国の王を殺した男の妹と結婚したいのか? 憐れな女だ」
「……」
マユラが押し黙ってしまったためか、長男のセンジュが代わりに口を開いた。
「稲田一族の圧力を知らないから言えるんです。稲田一族はとにかく優秀な陰陽師を生まなければならない。そのためなら王の首を取った男の妹とも結婚しなければならないときもある。あなたは勘違いしているようだが、セイだってルージュさんと好き好んで結婚したいわけじゃない。子孫繁栄のため仕方なく、だ」
「クソ長男が……」
リョウマの呟きに、カルラが眼鏡をずりあげて「ヒヒヒっ」と笑った。
「そっちだって金が必要なんだろ。俺たちがその融資をする。お互い損はないはず」
「……損だらけだ。犯罪者と妹を結婚させるなど、俺は許さん」
「しかし、婚約パーティーの招待状を皆さんに送ってしまいました。1ヶ月後の休日、お披露目パーティーですよ」
「は?」
リョウマが目を丸くしてセンジュを見る。
「ルージュさんも、天界国側の招待状を作成して、送付していますよ」
「は? は?」
「うわ~やられたね、リョウマ」
カルラが言うと、リョウマは身を乗り出してマユラに詰め寄る。
「勝手に出したのか?」
「いいえ、コテツさんやエリザさんが積極的に作成していましたよ、招待状」
「ふ、ふざけるな……父上と母上がだと……?」
黙って聞いていた菫が、声を出した。
「セイ様とルージュ様の気持ちが1番大切だと思いますよ」
その言葉に、マユラと分家3人が呆れたようなため息をついた。
「菫様、今俺たちの話を聞いていましたか? 全く、これだから苦労知らずのお姫様は……呑気でいいですね」
センジュの言葉に、リョウマが睨みつけた。
「呑気だと? 貴様、菫のこと何も知らないでぬけぬけと……表にでろ、俺が考えを矯正してやる」
「やめて……」
「落ち着けって、リョウマ」
菫とカルラが同時にリョウマを止めた。
☆続く☆
「隠密部隊の皆さんは、仕事が早いですね。ありがたいです」
セイをどうするか話し合ったところ、とりあえず話は聞きに行きたいと菫が言ったため、稲田一族別邸に行ってみることにした。
4人が到着すると、紙人形が慌ただしく動いており、荷物をまとめているようだった。
「なんだ、引っ越しか?」
リョウマが不思議なものを見るような目で紙人形を眺めている。
「納得したのでしょうか、裕から追放させられて……」
菫が呟くと、カオスが心配そうに菫の手を取って手を繋いできた。
「怖いな、分家。私初めて会うのよ……」
「……カオスが変なこと言われたら俺もイヤだ……カオスだけどこかで待っていられないか」
「終わるまでは別室にいさせれば良いのでは?」
リョウマの提案を受け、カオスはカルラが使用していた離れの部屋で待っていてもらうことになった。
「菫様、気を付けてね。何かあったらお兄ちゃんを盾にして逃げてきてね」
「おい、妹よ……」
カルラのツッコミに菫が笑うと、カオスと別れた3人はセイたちに会いに向かった。
「菫様!」
マユラが驚いた表情で菫を見て、部屋の中で突然土下座をした。
隣にいたセイもマユラに倣ってゆっくりと土下座をする。
「セイが夢見術をかけて、申し訳ありませんでした」
「……解いたんだ、術。すごいね、姫様」
呑気に言うセイに、リョウマがイラッとしたのか大きな声を上げた。
「誰のせいでこうなったと思っている。セイ、お前は俺の敵と認定した」
「まあまあ」
菫とカルラがなだめるようにリョウマを止める。
「リョウマ義兄さんが菫様の夢見術を解いたんだ?」
「いいや。俺は何もしていない。菫が、精神力の強さで自力で解いた」
リョウマの言葉に、菫は一瞬リョウマを見て目を細めた。
「……大体セイは俺と菫に言うことはないのか? まずお前に義兄と呼ばれる筋合いはない。それと、夢見術にかけることは、下手したら一生目醒めないかもしれない危険な行為なのだということを理解しろ」
「……ごめんなさい」
シュンと小さくなりながら、セイは謝った。
マユラも土下座をしながらリョウマに謝る。
「全ては私の不徳の致すところです。分家3人の子供に命令し、それぞれ稲田一族に有利になるよう、行動させていました」
リョウマはフンと笑い、マユラを見下ろす。
「俺の妹と結婚させたがったり、長男をけしかけて、菫にちょっかい出したりしていたそうだな」
「申し訳ありません」
マユラがリョウマに頭を下げる。
菫はリョウマに合図を送ると、頷きあった。
「えっと、少しお話を聞きたいです。センジュ様も、シデン様も座って下さい」
全員が応接間に集まり、正座をする。
「まず、わたしを天界国ではなく、倭国隠れ里の総合病院に運んで下さり、ありがとうございました」
菫が頭を下げる。
それを聞いたカルラとリョウマは拍子抜けしたようにカクッと同時に頭を垂れた。
「何でまずお礼を言うかな~。菫らしいけどさ~」
「そうだ、怒れ! 病院に行くことになった原因は誰にあるかを考えろ!」
菫は2人を見てクスッと笑う。
「原因は王家ですよ。元々優秀な陰陽師を城付きにさせようと触れ回ったのが原因です。代々プレッシャーをかけていたのはわたしたちなの。申し訳ないことをしました」
「……菫、それはやめてくれ」
カルラがふと抑揚のない真面目なトーンで菫を真剣に見て言った。
「えっ?」
「稲田一族が優秀な子を成したいと、父が他に愛人をたくさん作った。人道的には非難されて然るべきだ。だけど、八雲が俺の母とそういう関係になっていなかったら、俺もカオスも生まれていない。菫、俺が菫と出会えたことまで否定しないで欲しい……」
「カルラ様……」
2人がしばらく見つめ合っていたからか、センジュがため息をついて口を開いた。
「王家の意向はともかく、稲田一族も変にプライドが高かったから、優秀な血族の伝統を捨てきれなかった。王家のせいだけではありませんよ、菫様」
菫はカルラから視線を外すと、マユラたちに向かって深く土下座をする。
「それと、裕が勝手に皆さんを追放して、申し訳ありませんでした」
「フン、お前が謝ることはないぞ。こいつらは勝手に自滅しただけだ。倭国王女と太一に夢見術をかけた報いだろう」
リョウマが偉そうに言うと、マユラがリョウマを見た。
「セイから聞きました。天界国赤騎士団長様は菫様を倭国王女と知り、正体を黙っている代わりに奴隷のように扱っていると」
マユラの話を聞いたカルラが、ケラケラと笑い転げてしまった。
「ヒヒヒっ、そういう設定なんだ~なるほどね。ヒヒっ」
稲田一族が一斉にカルラを蔑むような目で見据え、カルラは首を竦めた。
「結婚する女の兄に対して、良くそのような言い回しができるな」
フン、と鼻を鳴らしてリョウマが吐き捨てるように言う。
「まあ、ルージュはセイのことなど気に入っていないようだがな。妹とセイの結婚は破談ということでいいな?」
「待って下さい、リョウマさん」
マユラがすかさずリョウマに言った。
「変わらず、セイと結婚してもらいたいのです。金銭の援助はもちろん致しますので」
マユラと分家の子3人は、リョウマに深くお辞儀をした。
「フッ、ぬけぬけと。最後のプライドも脱ぎ捨てたか。それほど貴族の称号と代々赤騎士団長の遺伝子が欲しいか」
リョウマがマユラを見据えて言うと、マユラは悔しそうに拳を握りしめて下を向いた。
「……稲田一族が倭国を追放されたため、すでに我々の地位は地獄の底に落ちました。這い上がるには、あなたのような優秀な血筋が必要です……」
リョウマは憐憫の目をわざとマユラに向ける。
「血筋のために自国の王を殺した男の妹と結婚したいのか? 憐れな女だ」
「……」
マユラが押し黙ってしまったためか、長男のセンジュが代わりに口を開いた。
「稲田一族の圧力を知らないから言えるんです。稲田一族はとにかく優秀な陰陽師を生まなければならない。そのためなら王の首を取った男の妹とも結婚しなければならないときもある。あなたは勘違いしているようだが、セイだってルージュさんと好き好んで結婚したいわけじゃない。子孫繁栄のため仕方なく、だ」
「クソ長男が……」
リョウマの呟きに、カルラが眼鏡をずりあげて「ヒヒヒっ」と笑った。
「そっちだって金が必要なんだろ。俺たちがその融資をする。お互い損はないはず」
「……損だらけだ。犯罪者と妹を結婚させるなど、俺は許さん」
「しかし、婚約パーティーの招待状を皆さんに送ってしまいました。1ヶ月後の休日、お披露目パーティーですよ」
「は?」
リョウマが目を丸くしてセンジュを見る。
「ルージュさんも、天界国側の招待状を作成して、送付していますよ」
「は? は?」
「うわ~やられたね、リョウマ」
カルラが言うと、リョウマは身を乗り出してマユラに詰め寄る。
「勝手に出したのか?」
「いいえ、コテツさんやエリザさんが積極的に作成していましたよ、招待状」
「ふ、ふざけるな……父上と母上がだと……?」
黙って聞いていた菫が、声を出した。
「セイ様とルージュ様の気持ちが1番大切だと思いますよ」
その言葉に、マユラと分家3人が呆れたようなため息をついた。
「菫様、今俺たちの話を聞いていましたか? 全く、これだから苦労知らずのお姫様は……呑気でいいですね」
センジュの言葉に、リョウマが睨みつけた。
「呑気だと? 貴様、菫のこと何も知らないでぬけぬけと……表にでろ、俺が考えを矯正してやる」
「やめて……」
「落ち着けって、リョウマ」
菫とカルラが同時にリョウマを止めた。
☆続く☆
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