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第3章★心を操る秘薬開発★
第7話☆カルラ陥落☆
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「カルラ様、もう少しだけ待ってもらえますか?」
唇に吸い付いていたカルラは、菫の言葉に体を離した。
「なに口答えしているんだ? お前は俺の言うことだけ聞いてろって」
再び唇を近づけたが、菫はカルラの胸を押し戻した。
すると、死の監獄入口付近から、誰かが数名、フードを被ってやってきた。
「あ、きましたね」
菫は嬉しそうにその魔人に向かって手を振る。真ん中にいた背の低い魔人が、同じように手を振った。その反動でフードが取れて、美しい黒髪が目に入った。
「カルラ様、見て」
カルラにギュッと抱きつきながら菫が笑う。
カルラは不思議そうに菫を見下ろしてからそっと肩を持って菫を引き離し、胸ポケットに入れていた眼鏡を掛けた。
カルラはハッと息を飲み込んで目に涙を溜める。
「カオス……?」
「はい、カオス様です」
「えっ……どうして……生きてたのか……?」
涙を拭わず、ぽろぽろと床に零すカルラを見て、クスッと笑いながら菫はカルラの眼鏡を外し、そっと彼の胸ポケットに差してから、指でカルラの涙を拭った。
今度は手を跳ねのけなかった。
「一緒に逃げちゃったの」
「えっ……」
涙で顔がぐしゃぐしゃになっているカルラに、クスッと笑った菫はカルラの頭を抱き締め、自分の胸を貸してあげた。
「カオス様はどうしても身代わりになると言って下さいましたが、連れて逃げちゃいました。わたしの苦手な大臣たちは、カオス様をわたしの遺体として天界国に見せつけたかったようですが、それを聞いたわたしが、カオス様を連れて逃げちゃったの。後で怒られましたが、後悔はしていません。だから未だにわたしの遺体が発見されていないのね」
「菫!」
勢い良く菫に抱き着いたカルラは、ベッドに倒れ込んだ。反動で菫も倒れ込む。
「痛い、カルラ様」
強く菫の体を抱き締めていたカルラは、「ありがとう」と声にならない声で言い、顔をぐちゃぐちゃにして大声で泣いた。
「ほら、もうすぐカオス様がきますよ、お兄ちゃん」
「ごめん……ごめんね。傷つけてごめん。痛くしてごめん……いじめてごめん……泣かせてごめん」
「大丈夫。大丈夫だよ、カルラ様。わたしもカオス様にお兄さんの話は沢山聞いていたのに、カルラ様だと知っていたら、もっと早く会わせられましたね……申し訳なかったです」
菫は真面目にカルラに向かって頭を下げた。カルラはそんな菫の健気な様子に、再び涙が止まらなくなってしまった。
どうして謝るの、と言いたかったが声にならなかった。
菫は戦争に関して自責の念を感じている。倭国民のために全てを投げ出している感じがする。
きっと好きにさせることで国民の怒りを全て受け止める覚悟なのだろう。
カオスから散々聞いていた菫の性格だったのに、信じないで色々責めてしまった。菫は笑って許してくれているが、冷静になるとカルラは真っ青になってしまった。
カオスは身代わりを買って出ていたならそれなりの覚悟があったはず。
それを強引に連れ出してくれたということは、復讐相手どころかむしろ恩人じゃないか……
「お兄ちゃん! 生きてたんだね」
「カオス!」
カルラの部屋に入ってきたカオスは、長い黒髪をツインテールにして揺らしながら兄に抱きついた。カルラもカオスを抱きしめると、二人はひとしきり泣いた。
「連れてきてくれてありがとうございます」
菫はフードをかぶった魔人におっとりと頭を下げながらお礼をしている。隠密部隊だろう。菫は倭国にいたとき、隠密部隊を総括していた。
「菫様、俺、天満納言にあなたのことを書いた手紙を出してしまいました……!」
青くなったカルラが言うと、菫は「大丈夫」と笑い、カルラを安心させた。
「天界城に、倭国の仲間を潜り込ませています。彼に伝えているので、手紙は破棄させました」
「良かった……」
カルラは心底安堵すると、カオスと話し始める。
「兄ちゃん、お前は死んだと思ってた」
「私もお兄ちゃんは死んだと思ってたよ。まさか天界国の騎士団長まで上り詰めているなんて、出世したね」
嬉しそうに懐かしい笑顔で笑いながらカオスが言った。カルラは懐かしくなって、また大粒の涙を流した。
それを見た菫は、隠密部隊を促し、カルラの部屋をそっと出ていく。カルラは横目で菫を見ながら、目を細めた。
しばらくして隠密部隊とカオスは、天界国にバレたらまずいので暗いうちに死の監獄を出て再び隠れ里へと帰っていった。
カルラも一緒に隠れ里に行ったらどうかと提案したが、強く拒否された。「菫様の役に立ちたい」と、菫の傍から離れようとしなかったためだ。
夜明け前に二人は同じベッドに入り一息ついた。
「カルラ様、目、真っ赤。良かったね、わたしも嬉しい」
優しくカルラの目元を拭う菫に、カルラは熱に浮かされたような目で菫を見る。
「菫様、俺、どんな処罰も受けます。あなたの体に傷を付けてしまった罪は重い。倭国の宝を壊してしまった……」
そう言いながらも菫の体に密着し、大切そうに抱きしめて離れようとしなかった。
「カルラ様をそのような行動に出させてしまったわたしの責任です。あなたは何も悪くない」
「それだと俺の気が済みません。何らかの処罰を」
「じゃあ、幸せになって下さい。カオス様とカルラ様が、これから沢山笑っていられるような倭国を再建します。だから、天界国騎士団長じゃなくて、倭国に戻ってきて欲しいです」
「それは……もちろん。俺は倭国にそれほど執着がないが、アンタには執着してるから」
「あ……そうですよね。積年の恨みが残っていますよね……」
申し訳無さそうに言う菫に、カルラは抱きしめる手を強めた。
「違う……そうじゃない。なんで伝わらないんだ。鈍いわけでもないくせに。菫、前言撤回させてほしい」
「うん?」
「世界で1番大嫌いと言いましたが、やっぱり世界で1番大好きです」
カルラの言葉に、菫は困ったように笑う。
「あなたにそんなことを言ってもらえる資格はないですよ」
「菫様は倭国壊滅され、それは自分のせいだと罪悪感に苛まれているのかもしれない。でもそれは違う。あなたが後ろめたい気持ちにならなくて良い」
「そういうわけには……」
菫はつらそうに顔を歪めた。そんな菫の気持ちを見透かしたのか、カルラは菫を強く抱きしめた。
「菫の負担を俺が半分背負う。俺も一緒にアンタと戦う。菫の力になりたい。倭国再建のためにはまずは竜神女王様を救い出そう」
「えっ」
カルラの声に菫は驚いてしまった。
「俺も倭国人の端くれです。妹を救ってくれた恩人に、俺の命を捧げます」
「駄目。自分とカオス様を1番に考えて」
「アンタいつも人のことばかりだな……」
カルラは菫を大切そうに優しく抱きしめる。
「カオス様から良くあなたの話を聞いていました。小さい頃、いじめられていて、兄はそんな自分から離れようとしなかったと。優しいお兄ちゃんなんだな、と思っていました」
「すみません。予想を覆して」
カルラは菫を無理矢理従わせたときのことを思い出して複雑そうに呟いた。菫は笑いながらカルラを見る。
「覆ってなんかいませんよ。気付いてないかもしれませんが、わたしを抱くとき、とても優しい手でしたよ。壊れ物のように扱ってた。あ、でも、初めて会ったとき、カルラ様頭爆発してて、顔はススだらけだったっけ」
クスクスと思い出すように菫が笑うと、どこかほっとしたようにカルラは菫を見つめた。菫の表情の変化一つも見逃したくなかった。
「情けない姿だったな」
「すごいキャラクターだな、とビックリしました」
「はは、そうだよな……」
「中身はこんなに優しくて、妹想いなのにね」
悪戯っぽく上目遣いをして菫がフフッと笑う。カルラはギュっと心臓が締め付けられるような感覚を覚えた。
「あいつら戻ってきたら、俺も一緒に行くって言おう」
「えっ。ダメです。騎士団長7人中3人も従えていたら、かえっておかしく映るでしょ」
「……ダメ?」
カルラは上目遣いでそう言うと、菫の体を優しくなでた。
「ダメ。隠れ里で生活の基盤が整うまでカオス様と暮らして下さい。もう国民が悲しむ姿は見たくない」
「俺はアンタと一緒にいたい。傷つけてしまった分、力になりたい。ただ迷惑だったら身を引く」
カルラは力強く菫を抱きしめながら言った。
「……迷惑ではないですが、これ以上わたしがカルラ様に迷惑をかけたくない……」
「うん……わかった。アンタの気持ちはわかったよ」
カルラは菫の頬に両手を挟み、思わず瞼にそっとキスを落としてから、しまった、と慌てて離れた。
接触のハードルが下がっている、とお互い何となく感じていることは、お互いが知らなかった。
☆続く☆
唇に吸い付いていたカルラは、菫の言葉に体を離した。
「なに口答えしているんだ? お前は俺の言うことだけ聞いてろって」
再び唇を近づけたが、菫はカルラの胸を押し戻した。
すると、死の監獄入口付近から、誰かが数名、フードを被ってやってきた。
「あ、きましたね」
菫は嬉しそうにその魔人に向かって手を振る。真ん中にいた背の低い魔人が、同じように手を振った。その反動でフードが取れて、美しい黒髪が目に入った。
「カルラ様、見て」
カルラにギュッと抱きつきながら菫が笑う。
カルラは不思議そうに菫を見下ろしてからそっと肩を持って菫を引き離し、胸ポケットに入れていた眼鏡を掛けた。
カルラはハッと息を飲み込んで目に涙を溜める。
「カオス……?」
「はい、カオス様です」
「えっ……どうして……生きてたのか……?」
涙を拭わず、ぽろぽろと床に零すカルラを見て、クスッと笑いながら菫はカルラの眼鏡を外し、そっと彼の胸ポケットに差してから、指でカルラの涙を拭った。
今度は手を跳ねのけなかった。
「一緒に逃げちゃったの」
「えっ……」
涙で顔がぐしゃぐしゃになっているカルラに、クスッと笑った菫はカルラの頭を抱き締め、自分の胸を貸してあげた。
「カオス様はどうしても身代わりになると言って下さいましたが、連れて逃げちゃいました。わたしの苦手な大臣たちは、カオス様をわたしの遺体として天界国に見せつけたかったようですが、それを聞いたわたしが、カオス様を連れて逃げちゃったの。後で怒られましたが、後悔はしていません。だから未だにわたしの遺体が発見されていないのね」
「菫!」
勢い良く菫に抱き着いたカルラは、ベッドに倒れ込んだ。反動で菫も倒れ込む。
「痛い、カルラ様」
強く菫の体を抱き締めていたカルラは、「ありがとう」と声にならない声で言い、顔をぐちゃぐちゃにして大声で泣いた。
「ほら、もうすぐカオス様がきますよ、お兄ちゃん」
「ごめん……ごめんね。傷つけてごめん。痛くしてごめん……いじめてごめん……泣かせてごめん」
「大丈夫。大丈夫だよ、カルラ様。わたしもカオス様にお兄さんの話は沢山聞いていたのに、カルラ様だと知っていたら、もっと早く会わせられましたね……申し訳なかったです」
菫は真面目にカルラに向かって頭を下げた。カルラはそんな菫の健気な様子に、再び涙が止まらなくなってしまった。
どうして謝るの、と言いたかったが声にならなかった。
菫は戦争に関して自責の念を感じている。倭国民のために全てを投げ出している感じがする。
きっと好きにさせることで国民の怒りを全て受け止める覚悟なのだろう。
カオスから散々聞いていた菫の性格だったのに、信じないで色々責めてしまった。菫は笑って許してくれているが、冷静になるとカルラは真っ青になってしまった。
カオスは身代わりを買って出ていたならそれなりの覚悟があったはず。
それを強引に連れ出してくれたということは、復讐相手どころかむしろ恩人じゃないか……
「お兄ちゃん! 生きてたんだね」
「カオス!」
カルラの部屋に入ってきたカオスは、長い黒髪をツインテールにして揺らしながら兄に抱きついた。カルラもカオスを抱きしめると、二人はひとしきり泣いた。
「連れてきてくれてありがとうございます」
菫はフードをかぶった魔人におっとりと頭を下げながらお礼をしている。隠密部隊だろう。菫は倭国にいたとき、隠密部隊を総括していた。
「菫様、俺、天満納言にあなたのことを書いた手紙を出してしまいました……!」
青くなったカルラが言うと、菫は「大丈夫」と笑い、カルラを安心させた。
「天界城に、倭国の仲間を潜り込ませています。彼に伝えているので、手紙は破棄させました」
「良かった……」
カルラは心底安堵すると、カオスと話し始める。
「兄ちゃん、お前は死んだと思ってた」
「私もお兄ちゃんは死んだと思ってたよ。まさか天界国の騎士団長まで上り詰めているなんて、出世したね」
嬉しそうに懐かしい笑顔で笑いながらカオスが言った。カルラは懐かしくなって、また大粒の涙を流した。
それを見た菫は、隠密部隊を促し、カルラの部屋をそっと出ていく。カルラは横目で菫を見ながら、目を細めた。
しばらくして隠密部隊とカオスは、天界国にバレたらまずいので暗いうちに死の監獄を出て再び隠れ里へと帰っていった。
カルラも一緒に隠れ里に行ったらどうかと提案したが、強く拒否された。「菫様の役に立ちたい」と、菫の傍から離れようとしなかったためだ。
夜明け前に二人は同じベッドに入り一息ついた。
「カルラ様、目、真っ赤。良かったね、わたしも嬉しい」
優しくカルラの目元を拭う菫に、カルラは熱に浮かされたような目で菫を見る。
「菫様、俺、どんな処罰も受けます。あなたの体に傷を付けてしまった罪は重い。倭国の宝を壊してしまった……」
そう言いながらも菫の体に密着し、大切そうに抱きしめて離れようとしなかった。
「カルラ様をそのような行動に出させてしまったわたしの責任です。あなたは何も悪くない」
「それだと俺の気が済みません。何らかの処罰を」
「じゃあ、幸せになって下さい。カオス様とカルラ様が、これから沢山笑っていられるような倭国を再建します。だから、天界国騎士団長じゃなくて、倭国に戻ってきて欲しいです」
「それは……もちろん。俺は倭国にそれほど執着がないが、アンタには執着してるから」
「あ……そうですよね。積年の恨みが残っていますよね……」
申し訳無さそうに言う菫に、カルラは抱きしめる手を強めた。
「違う……そうじゃない。なんで伝わらないんだ。鈍いわけでもないくせに。菫、前言撤回させてほしい」
「うん?」
「世界で1番大嫌いと言いましたが、やっぱり世界で1番大好きです」
カルラの言葉に、菫は困ったように笑う。
「あなたにそんなことを言ってもらえる資格はないですよ」
「菫様は倭国壊滅され、それは自分のせいだと罪悪感に苛まれているのかもしれない。でもそれは違う。あなたが後ろめたい気持ちにならなくて良い」
「そういうわけには……」
菫はつらそうに顔を歪めた。そんな菫の気持ちを見透かしたのか、カルラは菫を強く抱きしめた。
「菫の負担を俺が半分背負う。俺も一緒にアンタと戦う。菫の力になりたい。倭国再建のためにはまずは竜神女王様を救い出そう」
「えっ」
カルラの声に菫は驚いてしまった。
「俺も倭国人の端くれです。妹を救ってくれた恩人に、俺の命を捧げます」
「駄目。自分とカオス様を1番に考えて」
「アンタいつも人のことばかりだな……」
カルラは菫を大切そうに優しく抱きしめる。
「カオス様から良くあなたの話を聞いていました。小さい頃、いじめられていて、兄はそんな自分から離れようとしなかったと。優しいお兄ちゃんなんだな、と思っていました」
「すみません。予想を覆して」
カルラは菫を無理矢理従わせたときのことを思い出して複雑そうに呟いた。菫は笑いながらカルラを見る。
「覆ってなんかいませんよ。気付いてないかもしれませんが、わたしを抱くとき、とても優しい手でしたよ。壊れ物のように扱ってた。あ、でも、初めて会ったとき、カルラ様頭爆発してて、顔はススだらけだったっけ」
クスクスと思い出すように菫が笑うと、どこかほっとしたようにカルラは菫を見つめた。菫の表情の変化一つも見逃したくなかった。
「情けない姿だったな」
「すごいキャラクターだな、とビックリしました」
「はは、そうだよな……」
「中身はこんなに優しくて、妹想いなのにね」
悪戯っぽく上目遣いをして菫がフフッと笑う。カルラはギュっと心臓が締め付けられるような感覚を覚えた。
「あいつら戻ってきたら、俺も一緒に行くって言おう」
「えっ。ダメです。騎士団長7人中3人も従えていたら、かえっておかしく映るでしょ」
「……ダメ?」
カルラは上目遣いでそう言うと、菫の体を優しくなでた。
「ダメ。隠れ里で生活の基盤が整うまでカオス様と暮らして下さい。もう国民が悲しむ姿は見たくない」
「俺はアンタと一緒にいたい。傷つけてしまった分、力になりたい。ただ迷惑だったら身を引く」
カルラは力強く菫を抱きしめながら言った。
「……迷惑ではないですが、これ以上わたしがカルラ様に迷惑をかけたくない……」
「うん……わかった。アンタの気持ちはわかったよ」
カルラは菫の頬に両手を挟み、思わず瞼にそっとキスを落としてから、しまった、と慌てて離れた。
接触のハードルが下がっている、とお互い何となく感じていることは、お互いが知らなかった。
☆続く☆
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