刻の唄――ゼロ・クロニクル――

@星屑の海

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刻の唄――ゼロ・クロニクル―― 第一部

第四章 星降る夜 8

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 ヒーターシールドを構えつつナイトリーソードタイプの模擬剣を突き出し、知的な美貌に同居する勝ち気さを増させ榛色の瞳を鋭くしたサブリナの声が鋭気を帯びる。
「執行官として惑星フォトーでわたし達を当然のように零は率いたけど、自分が強いって思ってる? 以前、わたしが虹位階止まりとか何とか随分偉そうなこと言ってくれたけど、こうして相見えてそんなこと言えるかしら? 悪いけど、零のその認識を改めて貰うわ」
 強化繊維の布鎧クロスアーマーで作られた肩口にアンバーローズ色を配したスポーツタイプの黒色のアウターと黒色のレギンスにショートパンツを重ねたサブリナが着ている訓練服は、決死隊仕様の物ではなく零同様ボルニア帝国軍での標準仕様品だ。胸部は実戦用ではない柔性に優れた特殊素材のプロテクターで鎧い、腰回りは黒色のタクティカルベルト、足下は黒色のトレーニングタイプのシューズで固めている。ショートパンツから覗く脚にフィットするレギンス越しのほどよい肉付きをした太股など、サブリナの全身がしなやかであることが分かる。それは、零にサブリナの動きが柔軟であることを喚起させた。
 サブリナの挑発に、零は麗貌に好戦的な笑みを浮かべ愉しげな声音はどこかしら剣呑だ。
「随分自信ありげだな? 口だけじゃなきゃ、こっちも助かるんだけど。グラディアート戦では、頼らせて貰おうって思っているからな。キュベレ、随分立派なファントムと契約してるじゃないか。グラディアート戦では、さぞかし強そうだ」
「わたしが、キュベレ頼りみたいな言い方ね。生身の戦いで、わたしが弱いだなんて思わない方がいいわよ。ま、キュベレはちょっとしたものだけどね。二年前ファントム系クリエイトルとして電撃的に登場したマクレガー博士が、学生のとき試作したものなの。わたしは、聖帝国への留学時運良く契約出来たの」
「へー、マクレガー博士の……それはそれは。今をときめく新進気鋭のファントム系クリエイトル様じゃないか。期待できそう。サブリナの剣は、見てやるつもりでいたし」
「だから、なんで上から目線なのよ。それは零は兵団長で立場的には決死隊のわたしよりも上ではあるけれど、それはそれよ」
 己に自信を持つサブリナは零の言葉に呆れ、美貌を引き締めると馴れ合いを断ち切るように声音を冷ややかに響かせる。
「悪いけど、手加減はしないから。恥を掻かせるけど、ご免ね」
 零とサブリナ、二人の間に緊張が満ち会話が途切れると、キュベレがやや粘りのある声で告げる。
「二人ともいい? では、始め」
 気負わぬ簡潔な開始の合図と共に、まず強化樹脂の床を蹴ったのはサブリナだ。
「イヤァッ――」
 短く漏れ出る気勢。
 優れたサブリナのソルダ諸元スペツクによる――それだけでも国の最精鋭たる第一エクエスの中にあって頭一つ二つは飛び抜ける最上位クラス・ソルダ位階第三位虹に到達可能な生来のポテンシャルでもって、ソルダ技に頼らぬ瞬発に距離が食い尽くされた。艶のない灰色のナイトリーソードタイプの模擬剣の切っ先が、一瞬の閃きでもって零に迫る。
 ――基礎的なソルダ諸元スペツクスピードは俺と同格のA五……。
 先ずは小手調べ、或いは零を測るかのようにサブリナが仕掛けたシンプルな速攻。だからこそ、その尋常ならざる速さがはっきりと読み取れる。秘超理力スーパーフォースを敢えて用いぬことで、己の力を零に理解させようというのだ。
 既に動いていた零は、己も秘超理力スーパーフォースを使わず太刀タイプの模擬刀を圧倒的な剣速で跳ね上げ刺突となって迫るサブリナのナイトリーソードタイプの模擬剣を刷り上げるように逸らした。僅かに右に傾げた零の顔の近くを、模擬剣が通り過ぎる。
 特殊な細心の注意を要するステップを零は踏み、そのままサブリナへ斬撃を放つ。確かに零は、そう動いた筈だった。
 次の瞬間、サブリナが目を見開く。既に斬撃に応ずるべくサブリナは神速さながらの剣速で刺突を戻し、模擬刀へ打ち当てようとこれ以上はない反応と正確さで模擬剣を閃かせた。が、空振りするでもなく零の模擬刀は模擬剣に触れることはなかった。サブリナに迫っていた筈の零は、いつの間にか間合いを取っていたのだ。
 畏怖にも似た驚愕を含んだ声が、零の前方からサブリナが、右横合いからキュベレが響かせる。
「何? 今のは?」
「確かに零はサブリナへ突進と共に斬撃を放った筈なのに、後退してる?」
 零の視界の中で、サブリナの勝ち気さが勝っていた端麗な美貌が急変する。
 声を置き去りに寸毫の間も置かず、零は仕掛けた。体勢が崩れ壊滅的に反応が遅れるだろうサブリナに。
 が、模擬刀の斬撃が迫ったときサブリナの姿が霞むようにぶれた。
 ――神速!
 頭上から迫る零の模擬刀を、サブリナは剣速を上回る俊敏さで躱した。が、躱しただけではなかった。神速に達したとはいえ、零は寸止めするつもりでいたとしてもサブリナと模擬刀との間は僅かでしかなく、それを躱した後で間合いを取ることもなく反撃に転ずるとは思っていなかった。
 躱しつつ膝を曲げ体勢を下げたサブリナは、下方から鋭い刺突を零めがけ放つ。只の刺突ではなく、模擬刀の周囲に誘導する筋のような秘超理力スーパーフォースの光の線が幾本も出現し達していた神速に加えたソルダ技を用いた。
 神速を超えた、加速。限定的に発動された、絶。
 ――聖剣グラジェット流上位技・銀の閃光シルバーグリント
 サブリナの神速を捉えていた零は、このときばかりはぞっとなった。見失ったのだ。
 身内の奥底から原始的な本能――それは暴力的で飢えていて、その純粋な雄叫びが零の自我を震えさせ闘争心を目覚めさせた。己が迂闊にカッとなる。
 トクン――。
 知らず零の麗貌に、愉しげな笑みが浮かぶ。自分でも、そうすると思うから。
 マーク・ステラートを相手取った時同様意識することなく、零はソルダ諸元スペツクグレード・スピードをアジリティでAからSへ。先ほどから這い出そうとするそれを、零は止めなかった。
 はっきりと、迫り来る刺突を零は捉えた。擬製の刃を誘導するように周囲に走る秘超理力スーパーフォースの光の筋を纏う模擬剣は間近。しかし、零はその剣速と同じ域に達していた。絶、に。否、僅か零が上回っている。
 振り抜かれた模擬剣の腹に沿わすように模擬刀を零は擦り上げ、刺突の軌道を僅かにずらした。が、模擬剣の周囲に浮かぶ誘導線がしっかりと対象へと模擬剣を導き剣先は未だ零を捉えている。サブリナが用いた技を知っていた零はこうなることを予想していて、擦り上げと同時に上げ始めていたヒーターシールドをその軌道上へと乗せる。
 腹底に響くような、重い轟音が練武室内に響き渡った。他の立ち会いを見ていた者達が、何事と零とサブリナへ視線を送る。
 裂帛の一撃。サブリナが放った銀の閃光シルバーグリントによる刺突は盾に防がれ暫し鬩ぎ合うが、使用者がキャンセルしない限りターゲットへと誘導される剣先が逸れ模擬剣が盾の表面を滑った。
 榛色の瞳を見開き、それでも自失する愚は犯さず、サブリナは飛び退った。音律のある声には、用心するような響きがある。
「何、今の? 一瞬だけだけど、怖気が走るような気配が零から……」
「へー、やるね。あの自信も、根拠がないわけじゃなかったんだ。驚いた驚いた」
 敢えてサブリナの問いには答えず、零は雅やかさのある麗貌に上機嫌である筈なのに凶悪な笑みを浮かべた。
 向けられる零の己を認める言葉に用心するように、サブリナは端麗な美貌にそれまでになかった緊張を宿す。
「お嬢様から神速持ちだとは聞いていたけど、零も絶まで使えたのね。あの一撃で、決まると思ってた」
「も、ってサブリナと俺の技が同じものだとでも思ってるとか、もしかして俺は舐められてるわけ? あくまで、サブリナの絶は銀の閃光シルバーグリントとかの加速を伴う技とアジリティを併用し可能になる限定的な絶だ。確かに、神速を得て尚高度な技を併用するのは凄いと思う。けど、それは俺も同じで俺の絶には特に制限なんてない」
 模擬刀の腹に指を走らせつつ先ほどは驚かされたがサブリナの考え違いを鋭く切り返す零に、サブリナは用心が当たったというように頬を紅潮させる。
「わ、分かってるわよ。そんなこと。言葉の綾よ。負け惜しみも、少しあったけど。なのに、そこまでキツイ言い方しなくてもいいでしょう」
「キツイ? 相手との技量を測るのに、遠慮してどうする? 力量差を見誤って敗れるより増しじゃないか。負ければ、命を落とすことになるからな」
「確かにそうね。だけど、その言葉そっくり返してあげる。零、あなたは驕っているわ。何しろ、本物の絶が使えるから。けど、キャバリアー同士の戦いは速さだけじゃない。それを、分からせてあげる」
 美貌を鋭利にし模擬剣をピタリと己へ向けてくるサブリナに、零は勇敢にも見える勝ち気さを気に入りつつも口調には微妙に辛辣さが滲む。
「へー、いいね。それ。是非ともご教示願いたいところだけど、無理そう」
「馬鹿にしてなさい」
 零の挑発に応じて、すぐだった。左側に秘超理力スーパーフォースの波紋が生じたと思った刹那、サブリナの姿がその場から掻き消えたのは。
 常に空間把握スペースを働かせていた零の感覚は視界から消え失せたサブリナをずっと捉え続け、次に起きる異変と生起に対応してのけた。斜め後方からの斬撃に左ステップで間合いすれすれに躱しつつ、向き直りサブリナへと相対する。
 空間把握スペースによって感知した異変。それは、感知対象が増えたことだ。零の視界の中、幾人ものサブリナがムーブによる移動を高速で繰り返していた。
 その内の一人が零へと強化樹脂の床を踏み切りムーブの加速も加え、神速もかくやというような刺突を放った。膝を軽く折り上体を後ろへ僅か傾け躱しつつ、呟きを唇に零は落とす。
「絶技テンペスト。シュヴァイガー流まで、手を出していたのか。ヘーゼルダイン流に聖剣グラジェット流。何人にも師事したって言ってたけど、手当たり次第だな。それ自体悪いことじゃない。けど……」
 感心というよりも呆れた響きが秘超理力スーパーフォースを乗せた模擬刀で切り裂き分身を消失させつつ、零の声音には混じった。
 ――十の分身ダブル。テンペストで用いるなら十分な数。でも、一体一体のムーブの使用にパターンがあって、読みやすい。そして、その用法。俺を欺くように一見襲いかかっているけれど、導かれる本命の道筋がまるで見えるよう。
 分身ダブルは物理的作用はないが、空間把握スペース等では実体と区別がつかないよう擬装できる。見た目や秘超理力スーパーフォースによる感知では、見分ける術はない。だから、本当は当たってみるまでは分からないのだが、サブリナのそれは分身の使い方の意図から本体がどれか推測できた。尤も、それこそがサブリナの狙いで、零が本体と目しているそれが分身である可能性は否めないが。
 次。三人目のサブリナが、飛刃を放った零の左側面から袈裟斬りの斬撃を叩き込む。零が振り抜いた瞬間を狙ったが、それはあまりにも見え見えで既に盾が持ち上げられていた。刃が盾に阻まれるかに見えたが、それは呆気なく擦り抜けた。既に体勢を戻した零は刺突を放ち、分身を消失させた。
 前後。時間差で、零に二人のサブリナが迫る。先に間合いに入るのは後方。前方のサブリナは、僅かに遅れる。先に後方に対処すれば、前方からのサブリナが丁度間合いに入る位置。悪くはない。只、このタイミング。前後どちらかがサブリナの本体である可能性が極めて高く、詰まりは零に本命を教えている。この攻撃はどちらかが本体でなければ、まるで意味を成さないのだ。
 ――俺は、賭けが嫌いだ。この場合、二人の内どちらが本物のサブリナであるか、確実に当てることは出来ない。察しはついても。だったら。
 アジリティを僅かに用いた神速に達せぬスピードで、零は身体を捻りつつ強化樹脂の床を右足で踏み切った。零の身体が独楽のように回転し、模擬刀が旋風と化した。反りを持つ切ることに特化したとうならではの技。後方からのサブリナが、模擬刀の斬撃をまともに喰らい消失。前方から迫ったサブリナは、榛色の瞳を見開きムーブで軌道を逸らす。
「回転切り!」
 色を失ったようなサブリナの叫びは、脅威を帯びていた。
 やはり、本体。確実を期すための、攻撃順。
 他の分身ダブルに紛れるようにサブリナは後退し、慎重にムーブで移動を繰り返し巧みに本体である己を消した。
 五度目で決めるべく攻撃を仕掛けてきたサブリナは、分身ダブルをまだ五体残している。攪乱強襲の波状攻撃を、もう一度仕掛けることができる。が、それを破ることは零には簡単だ。
 ――技そのものの習熟度は、悪くない。何人にも師事し多数の流派を学べるだけの、才能はある。その段階だって、素質があるくらいでは難しいのだから。けれど、それこそがサブリナの脚を引っ張っている。技の磨きが足りない。練度が。マスターすれば、それで終えている証拠だ。なら、俺もテンペストで応じるべきだ。同じ技で敗れれば、自分のやり方は駄目なのだと分かるかも知れない。足の速いウサギが、見過ごしてしまうものに。
 秘超理力スーパーフォースの波紋が零の背後に現れ、その場から掻き消えた。
 即座にサブリナは強化樹脂の床を蹴り、視界外へ逃れた零を追った。
【見失ったりしないわよ。舐めないで】
 零同様空間把握スペースで捉えているのだろうサブリナの思考は、次の瞬間怒りを帯びる。
【テンペスト! わざわざわたしと同じ技で! 同じ技で倒して、自分の方が上だって見せつけたいのっ!】
【ああ、そのつもり。エレノアの友人とやらが言っていた、サブリナがどう惜しいのか何となく分かったから】
 六人に増えた零は、ムーブで移動しながら余裕めいた含みを高速情報伝達に乗せた。以前は上限に近い十四の分身ダブルを出現させ用いたがサブリナは与しやすく、技のレベルの違いを見せるには数を必要とはしなかった。同数でよかった。
 ともすれば揶揄するような零の言葉に、サブリナは激する。
【が、分かったって言うの!】
 分身ダブルと共に、六人のサブリナは六人の零へと襲いかかった。
 分身ダブル同士は物理的干渉力を有しておらず、秘超理力スーパーフォースによって生み出された幻影に過ぎない。一種の映像に近いそれ同士が戦ったところで、ただ秘超理力スーパーフォース同士の干渉でラグが生じて擦り抜けるだけだ。あくまでテンペストで用いる分身ダブルは、眩惑に過ぎない。積極的に攻めるサブリナに対し、零は受け手。それぞれ、分身ダブルの数は五。
 サブリナは、零の本体を探ろうと分身ダブルを用いて六人の零一人一人を試して行く。その仕掛けを、零は観察した。やはりそれは先ほどと同様本命の攻撃に繋げる為、本体がいずれかを零に告げていた。本体は、決して零に当たろうとはしない。例え秘超理力スーパーフォースを模擬剣に纏わず消失を避けたとしても、否、だからこそ分身ダブル同士が接触したようなラグが零の分身を模擬剣が擦り抜けたとて生じない為本体と知れてしまうのだ。仮に模擬剣に微弱な秘超理力スーパーフォースを流したとしても、ラグは生じるが分身ダブルの攻撃と違い模擬剣の軌跡に沿って生じ生身と知れる。だからこそ、サブリナ本体は攻撃しない。正しくはあるが、甘いのだ。零は慎重に己と分身を入れ替え擬装し、他の己との差異を巧妙に隠しているが。
 六人の零が、初めて積極的に動いた。
 動揺を思考に走らせ、サブリナは零の挙動を呆れ混じりに批判する。。
【せっかくの分身ダブルを、そんな使い方をしたら】
【サブリナのやり方は、どこか中途半端なんだよ】
 思考に凶悪さを乗せ本体を見極めた零は、分身ダブルと共にオーバーラップのように縦一列でサブリナへと襲いかかった。
 残る五体の分身ダブルに攻撃力があるわけではなく、本体を看破されたサブリナは己で対処せざるを得ない。連続で襲いかかる零を四人目まで消失させたとき、五人目に紛れていた零はサブリナの模擬剣を弾くとムーブで一瞬僅かの後退。六人目の零と擦り抜けるように入れ替わり、その刹那に惑わされたサブリナは「しまった」と顔に浮かべその最後の分身ダブルに応じてしまった。刺突が分身の零を消失させ、そのとき零本体が模擬剣で斬撃を放っていた。が、サブリナも然るものだった。強引に盾を割り込ませ斬撃を受けると同時、残る分身ダブルを零へ襲いかからせ後退し距離を取った。
 視界を邪魔されるのを嫌って、零は残る紛い物を精巧な一太刀一太刀で消し去った。そのまま、サブリナとの距離を詰め剣士としての素地を測るようにソルダ技抜きの剣技のみにて模擬刀を振るった。その一太刀一太刀に込められた精巧さと、怪しいまでの太刀筋。
 初撃の何の変哲もないような零の斬撃を模擬剣で逸らそうと安易に打ち合おうとしたサブリナは、その一太刀に込められた技巧に、まるで模擬剣を擦り抜けるように絡んできた模擬刀に危うく得物を絡め取られそうになり、盾を突き出しシールドバッシュでどうにか凌いだ。その後は、防御系のソルダ技を用い防戦に徹する。
 タートゥロード流下位技リピート。盾で受けた後は、アジリティによる加速でもって仕切り直しを行い、パワー・ブレードで攻勢に転ずる。躱され防がれ攻防が入れ替われば、再び盾で防御。以下、加速とそれを繰り返し立て直しや隙を窺う技だ。
 慎重に零の妖剣とも言える太刀技を凌ぎつつ、サブリナは高速情報伝達に挑発を滲ませる。
【ソルダ技一つも使わないなんて、攻めきれないわよ】
【ま、確かにそうだけど。そっちも、そうやって亀のように守りを固めてたら、延々勝負はつかないぜ】
 応じつつサブリナのパワー・ブレードを躱し、長く続く打ち合いで大凡読めた相手の基礎能力に軽く零は嫉妬を感じる。
 ――スピードは俺と同格。パワーは、やはり俺同様AⅣ。悔しいが、耐久はAⅢの俺より多分上か。エレノアにも迫る素質ってわけか。素養だけなら、俺以上。
 恵まれている、と思う。と同時にそれを無駄にしている、とも。束の間、零が思考を巡らせたとき、それまでリピートで隙を窺っていたサブリナに変化が生じた。
 零が何気なく放った斬撃を、盾で防ぐでもなくそのまま受けたのだ。否、受けたように見えた。当然、己の攻撃を盾で受けると思っていた零は、寸止めなど全く考えていない模擬剣の一振りで、まともに受ければ怪我をしても不思議はない。
 一瞬呆気に取られたような小さな思考を、零は発する。
【え?】
 放った斬撃はサブリナを切り裂くように進み、切り裂けぬ筈の模擬刀が両断したのだ。
 ――ヒグチ流、散花ちりばな分身ダブルで切られたように錯覚させ、その隙に攻撃に転ずる応手技。けれど、これではこちらが用心してしまう。せっかくの眩惑技が台無しだ。
 油断なく常時発動している空間把握スペースに神経を尖らせつつ、零は鞭を鳴らすように思考を高速情報伝達に乗せる。
【まるで、キメラ。中途半端な流派の継ぎ接ぎ。一つ一つは、決して使いこなしてなんていない】
 散花ちりばなの定石通りその場から姿を眩ましたサブリナは、空間把握スペースで零の捕捉は途切れていなかったが、左斜め後方を取った。ほぼ同時、そちらへ身体を向けた零は目を見張る。
光鱗こうりん……ディフェンスを元にした上級技?】
 怪訝に呟き、零ははっとなった。光の粒のようなものを全身に纏ったサブリナは、右手の模擬剣の光輝を強めパワー・ブレードを発動し、明らかなアジリティによる加速で強化樹脂の床を蹴った。
 全身を走り抜ける警鐘に、零の思考が猛る。 
【ライオンか! タートゥロード流奥義一歩手前技】
 模擬刀の光輝が強まった瞬間振り抜き、零は秘超理力スーパーフォースの刃をサブリナへと放った。訓練でスキャッター・ブレードの使用は憚られるが、当然零のそれは威力を落としている。当たっても打撲ほど度だ。飛刃は避ける素振りさえ見せぬ高速で迫るサブリナへ命中し、けれど何事もなかったようにアジリティによる俊足で走り寄る。光鱗により、威力を落としていると謂えど弾かれたのだ。
 ――聖剣と謳われるタートゥロード流の中にあって、スカイスクレイパーの前進となる技。攻撃を避けるのではなく光鱗で弾き、防御が有効な間にコーヒットにより急襲する。聖騎士の重突進と謳われるだけのことはある。
 続くスキャッター・ブレードの飛刃も弾かれ、けれど零はそのままパワー・ブレードで急襲し、当初の予定通り二つの技を併用するアサルト・ブレードの形に持って行った。
 が、必殺の威力と速度を増した零の一撃もライオンの光鱗で弾き飛ばし、サブリナは快哉を叫ぶ。
【貰ったわ】
 その声と同時、零もそう確信した。
 ――こちらも。
 光鱗に阻まれ模擬刀が左に流れ体勢が崩れた零へ向けて、サブリナは強い光輝を放つ模擬剣で寸止めなど考慮にない必殺の斬撃を放った。
 模擬剣を零は喰らい、けれど切れぬ筈の摸擬剣で切り裂かれた先から、蝶が舞うように身体が崩れていく。
 今度は、サブリナが目を見開く番だった。勝利が確定したその瞬間に起きた、異変に。
【む、夢幻?】
 目の前の零が完全に崩れ去り、その場から消えた。
 咄嗟に反応出来ずにいるサブリナの背を見遣りつつ光鱗が消え去ったことを確認すると、零は模擬刀をすっとそれでいて視線を振り切る素早さで閃かせる。
【勝負、あったな】
【あ……】
 ピタリと首筋に押し当てられた模擬刀にびくりと身体を硬直させ、首を回し背後の零と目が合うとサブリナは構え直した模擬剣を下ろした。
 情報感覚共有issリンクシステムを介さぬ声は、痛恨が滲む。
「しくじったわ。まさか、幻術で作った攻勢を幻術で返されるなんて思ってもみなかった」
 端麗な美貌を恥辱に染め悔しげなサブリナに、零は敗因を淡々と告げる。
「サブリナの剣は、数多くの流派から中途半端にいいとこ取りしている。自分が欲しいと思うものをマスターすれば、それで終わり。それが、剣にも現れてる。さっきの散花ちりばな、使い方がまるで駄目じゃないか。わざと攻撃を受けて使ったって、意表を突けるわけじゃない。何かあるって丸分かりだから、対処しようと構えるだけだ。攻撃を避けられないような局面で使わなくちゃ、相手は焦りも慌てたりもしないぜ?」
「偉そうな言い方だわ」
 むっとなったサブリナだが、負けたのはわたしねと首を振り続ける。
「はいはい、分かったわよ。わたしが思ってたより、零は強かったわ。琥珀色の騎士アンバーナイトマーク・ステラートをブレイズと抑えたのも、偶然なんかじゃないってわけね」
 悔しげな様子が見え隠れするサブリナは、それでも立ち会いの結果を受け入れ下がった。 
 兵団編成の立ち会いは、午前中では終わらず昼食をまたぎ午後まで続いた。
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