刻の唄――ゼロ・クロニクル――

@星屑の海

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刻の唄――ゼロ・クロニクル―― 第一部

第1章 惑星ファル地表拠点奪還戦 5

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 作戦決行三時間前。
 夜も深まった午前三時。

 惑星ファル駐留軍臨時本部の普段は積み荷を集積する今は接収され軍用機の整備場となった格納庫に、零の姿はあった。周囲ではパワーローダーを着用した技師達が動き回り、整備ロボである自立式整備オートメンテナンスハンガーがずらりと並ぶ。そこには人型のアーマーに覆われた巨人が、静かな眠りに落ちていた。

 汎用決戦兵器グラディアート。自律特化型AIANI制御のユニットと異なり、キャバリアーが操ることを前提に生み出された十二国時代以降の決戦兵器。戦争は、キャバリアーが駆るグラディアート同士の戦いで雌雄が決すると言っても過言ではない。兵装次第では、比類ない重装甲と強固なフィールドを誇る戦艦をも沈めることが可能だ。

 頭部形状などにより計測に信頼性を損なわないため、グラディアートの全高は通常顎下までで計測される。平均的なグラディアートの全高は、一六メートル。この場にある機体もミディアムクラスのフレームを使用しており、その通例に漏れない。
 ざっと見渡すと二種類のグラディアートが格納されていて、技師の話によると最新の兵団主力機と前兵団主力機とのことだ。

 アイセンサが四つあり顔上部が二段重ねになった構造をした、顔半分を覆う白色のフェイスマスクが機械的な威圧感を与える頭部。エバーグリーン色をした機体の要所をプロテクターでガードした機体が、前兵団主力機ゲレイド。辺境域は未だ殆どがこの機体とのことだが、ここは国境惑星であるため率先して新型が配備され半数ほどは切り替わっているとのことだ。

 黒みがかった透過素材のフェイスマスクからアイセンサを透かし見せる、後部から側面をガードするようにヘルメット状の装甲が覆う頭部。ガンメタルグレー色をした重厚なフォルムの要所を守るプロテクター状の装甲が強固に纏まった機体が、ボルニア帝国兵団主力機パルパティア。五十年前に開発された未だ新鋭機で、帝国の力を象徴するような重装甲の機体だ。なのに、放蕩者の前皇帝が在位し皮肉としか言いようがないとは技師の言葉。宝の持ち腐れ、と。

 それらの機体を眺めながら、零は満更でもない顔で呟きを落とす。
「悪くはないか。ヘビー級の機体も、それなりに慣れてはいるし」

 と、そのとき遙か天面にある格納庫の天井ゲートの一つが開き滞空する小型大気圏内運搬艇グランド・ドーリーや小型航宙船の間を、くたびれた感じのフォグブルー色をした上下に長い小型汎用航宙船が重力制御で降りてきた。鷹の目イーグルアイで目を凝らす零の視線の先、航宙船の前面上方にあるブリッジの窓にブレイズの姿があった。作戦に当たって自前のグラディアートを使用するブレイズが、宇宙港に停泊させておいた一機から数機のグラディアート運搬に最適化された縦に長い形状が特徴の小型運搬艇バツテラと呼ばれる超光速航法《FTLN》能力を有しない自前の航宙船を取りに行っていたのだ。ブレイズの物は、最も小型のタイプでグラディ|アートを一機のみ搭載するタイプだ。

 宇宙港のマルチトランスポーテーション管理AIマザーから指示される経路に従い所定の場所へオートで着艦すると、一旦姿を消したブレイズがブリッジ下の扉から姿を現した。その後ろに、青系統のゴシック風フレアワンピースを纏った不思議な雰囲気のどこか人間離れした若い女性が続き、ややフォーマルな透ける布地を用いたヨークスリーブ袖をしたミモレ丈のジャンパースカートに身を包んだ女性が堅実な歩調でついてきた。

 零の姿を認めると、ダイブタンクで仮眠後までグチグチ作戦に文句を言っていたのが嘘のように、ブレイズは精悍な面を自信に満たし同様な声を響かせる。
「待たせたな、零」

 零が答えるより先に、年配の技師が先んじる。
「キャバリアー様、早速、積み荷のグラディアートを運び出させていただきます。小型運搬艇バツテラAIマザーに、送信したボルニア帝国軍認識コードを優先権コード群に割り込ませてください」
「了解。やってくれ、リース」

 背後のややフォーマルな格好をした女性に、ブレイズは振り向いた。その女性は人間ではなく、小型運搬艇バツテラAIマザーが対人インターフェースとして用いているヒューマノイドだ。自然な挙動で、女性はブレイズに答える。
「分かったわ」
 ヒューマノイドの女性が頷くと、小型運搬艇バツテラの後部扉が勝手に開きウイスタリア色をしたグラディアートが、歩行の駆動音を微かに響かせ中から姿を現した。

 傍らに来たブレイズが、零へ誇らしげな顔を向ける。
「ランスール、俺の愛機だ」
 グラディアート・ランスーール。頭部アーマーと一体となった三角形をしたフェイスマスクが特徴的な、要所を守るアーマーが丸みを帯び少なめで内部構造を覗かせる軽快な機体。左腕にはアダマンタイン製フィールド発生エネルギー伝導硬化型ラウンドシールドを装備し、メインウェポンのアダマンタイン製光粒子フォトンエッジ式バスターソードを盾裏にラックしていた。

 その機体に、零の視線は一瞬吸い込まれる。
 ――これは、少し意表を突かれたな。俺は、ブレイズの認識を誤っていたのか? 少なくともソルダ位階第四位ダイアモンドクラスと見ていたけど、食い詰めて見えてたし。このランスール、設計者は誰だか知らないが、独自の思想をよく纏め上げている。嫉妬するくらいだ。この広大な銀河で、少なくとも名機の部類に入るだろう。機体にブレイズが及んでいない可能性は十分あるけど……。

 夜空の瞳を怪しいほどの欲望にも似た興味で満たし、零はランスールを子細に観察した。そんな零をブレイズは感服していると受け取ったようで、機嫌良く隣の乙女を手で示す。
「で、こいつは、俺の契約ファントム・マーキュリー」
「初めまして、零・六合。今回の作戦ではよろしく」
 鈴のように涼やかな声が、零の耳朶を打った。フレアワンピースを纏った長い黒髪のたおやかな容姿をした、少女と女性の中間にあるような乙女。

 ファントムだ。一二国時代作られた精霊種をベースに開発されたバイオコンピューター。キャバリアーと精神感応し、グラディアート搭載の汎用人工知能AGIをスレイブとすることで半自律制御コンピューターの役割を果たし機体を制御する。グラディアートを汎用決戦兵器たらしめている核となる存在だ。そして、マーキュリーは疑似精霊として生み出された人造生命体――ファントムの中でも上位のもの特有の、溶け込むように自然ではあるが強い気を放っていた。

 生意気と感じ何となく気に入らないと思いつつ、零は確認するように尋ねる。
「ファントムの上位体は人の姿をしてるけど、彼女はファクトリーで作られるハイミドルモデルより上位のエンドモデルなんてものじゃない。名のあるクリエイトル制作か?」
「ま、名はあるかはともかく、ちょっとファントム系のクリエイトルと知り合いになってな。それで」

 曖昧に言葉を濁すブレイズに零は問い詰める視線を送ったが、目を逸らされただけだった。 グラディアートが高性能であれば勿論有利だが、ファントムの性能如何によっても機体のポテンシャル及びキャバリアー自身の戦闘力は大きく左右される。特にキャバリアー同士の戦闘でも対人戦では無効だった未来予知プレコグニシヨンが有効となる、グラディアート戦においては。零が見る限りマーキュリーは、なかなかお目にかかれないレベルのファントムに思える。そんな貴重なファントムを所有している者となると、第一エクエスにもそうそういるものではない。通常の国家が用意できる第一エクエスの機体以上と零が睨んでいるランスールといい、当初の納得がいかないといった思いを通り越し行きずりのブレイズに興味が湧いた。

 クリエイトルとは、一二国時代後に生み出された、人間を越えた知能と直感を有する者。グラディアートやファントムや恒星船、次元機関ディメンシヨン・エンジンなどのエンジンや超光速航行機関などを設計することに特化した存在だ。そのクリエイトルによって、常人では汎用人工知能AGI等インテリジェンス・ビーングのサポートを受けたとしても到達不可能な物が設計され作られる。十二国時代を生み出した機械任せだった技術進化を人類が取り戻した、象徴的な存在でもある。

 何となく気まずそうに視線を彷徨わせていたブレイズが、天井ゲートを指さす。
「お、来たみたいだぞ。さて、デュポン司令、何を用意したかな」
「さぁ? 気を利かせてくれればありがたいけど、新鋭機のパルパティアはさすがに無理かな。ゲレイド辺りだろう? 重要な作戦に参加するっていっても、さすがにここでは新米だから」
 ブレイズの小型運搬艇バツテラよりも横に広い通常のグラディアートなら三機は搭載できるそれは、国境惑星の駐留軍とは言っても辺境域であるためか、かなりくたびれていた。

 運搬艇が着地すると、先ほどの年配の技師が他の技師たちに呼びかける。
「早速出して、自立式整備オートメンテナンスハンガーに放り込むから、用意しろ!」
 小型運搬艇バツテラの後部扉が整備もそこそこの年代物であるためか耳障りな軋みを響かせ開くと、これまた年代物と思われる所々破損箇所のあるグラディアートが歩み出てきた。

 年配の技師は零の前に立つと、どことなく媚びるような態度を取る。
「キャバリアー様、作戦までには補修は済ませますんで。二世代前の兵団群主力機、グラーブでさ。惑星ファル駐留軍も戦時中でして、ファラル城塞を撤退したとき、五万名いたキャバリアー様もトルキアのボーア共にやられちまって、今は二万強。グラディアートもかなり損傷が酷い機体が多く予備のパーツも底をついていまして、補給も受けられない現状では整備が完了していない機体が多数ありまして。分子アッセンブラーで作れるパーツは作ってますが、追いついていないもので。こいつは、ちょっと直してやりゃすぐ現役復帰させられますから」
 弁解がましい技師の言葉を聞きながら、零は搬入されたオンボロ機を見遣りげんなりした。

 イエローオーカー色をしたグラーブは、後方へ引っ張ったような頭部をしフェイスマスクはアイセンサと一体型となった黒い十字状になっている。機体を覆う装甲は、要所が丸みを帯びたアーマー状。ミディアムクラスの骨格を採用した、一般的な量産機であることが一目で分かるグラディアートだ。技師が纏ったパワーローダーと運搬用の自立ロボットが後から出てきてアダマンタイン製フィールド発生エネルギー伝導硬化型ヒーターシールドとアダマンタイン製光粒子フォトンエッジ式ブレードを運び出している。グラーブの左腕は半ばちぎれていて、シールドのラッキング機構が破損していた。

 直せば動くのだろうが、恐らく新鋭機で固めている敵との戦闘に対応できるか零に不安が掠めた。人型とか贅沢は言わないが、これでは手配されたファントムも期待は出来ないだろう。

 隣でブレイズの慰め口調が、零に流れ込む。
「ゲレイドどころか、廃棄予定の機体を回してきたか。こりゃ、これから死にゆく奴に現役機は渡せないってことだな」

 肩を竦めるブレイズを、零はじろりと睨んだ。年配の技師は、愛想のいい笑みを顔に貼り付け同様に愛想のいい声を放つ。
「ファントムは、グラーブにもう収まってますんで心配いりません」
「そりゃ、ファクトリー製ローミドル以下の大量生産品、カプセルに入った人形プーパってことだろう。これじゃ、最低ランク確実か」
 小声で零が口にする嫌みを、年配の技師は聞こえない振りをして整備の指揮を執るため離れた。零は、不機嫌にむすっとグラーブを眺めやった。
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