刻の唄――ゼロ・クロニクル――

@星屑の海

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刻の唄――ゼロ・クロニクル―― 第一部

第1章 惑星ファル地表拠点奪還戦 11

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「やれやれ、君たちは信用がならないな」
 重厚な執務机を挟んで相対する零とブレイズに、モリスはお役所の官僚的雰囲気を崩したりはしなかったが、それでも爽やかに整った面に苛立ちめいたものを浮かべ口調は咎めるものだった。場所は、ファラル城塞の最上階。制御ルームを出て少し歩いた、惑星ファル駐留軍司令官執務室。一時間ほど前に、女帝軍重要拠点奪還先遣隊群十万が到着し、状況を確認後そのまま増援群へと呼称と活動目的が変更され、惑星ファル周辺域に安寧が訪れた。

 モリスは、手で弄んでいた敵将のアンティークな遺留品である万年筆を放り出し続ける。
「囮になると言っておきながら、囮になったのは我が本軍の方だ。してやられたよ。ファラル城塞を奪還できたからいいものの、一歩間違えば惑星ファル駐留軍は壊滅していた。僕も君たちの処遇をどうしようか、悩むよ」
 目元に暗鬱さのある茶色の瞳にじっと見詰められ、つと零は視線を逸らした。

 モリスの背後に広がる窓外の景色は、大分色合いを濃くしていた。零とブレイズが、ファラル城塞の制御AIマザーの優先権コードの最上位にボルニア帝国惑星ファル駐留軍を設定したのが、つまりファラル城塞を奪還したのが正午前。先遣隊群が到着したのはその約三時間後で、今は夕刻まであと少しの宵の口。荒涼とした辺境惑星の地表に、色合いを増した光線照射量調整用の人工の水晶原石めいた月を内包した空を形成する空間がのしかかる。

 糾弾とは行かぬまでも想像していたよりも硬い態度のモリスに、ブレイズがやや慌て司令官室に入る前の、この手柄は俺たちのものといった態度を投げ捨て責任を転嫁し始める。
「お、俺は、零の奴に乗せられただけでして、どうかその点をご考慮いただきたく」
「やっておいて何だ? 女々しいな。言い訳より、俺の功績だって誇れよ。武人だろう?」
「何だ、手柄は要らんのかね?」

 冷たい視線を送り零が睨むブレイズに、おどけた様子で叱った子供を取りなすような態度をモリスは取り、背もたれに身体を投げ出すようにして一拍おいて続ける。
「ま、敵も君たちの脅しが効いたようで、援軍を警戒して撤退した。女帝軍の先遣兵団群もすぐさま駆けつけてくれて事なきを得た。近傍のリベック恒星系に軍勢を集結させていた女帝陛下が、自ら惑星ファルへの援軍派遣の指揮を執っておられ、亜空間航路封鎖が解けたことを知ると、この星を発進した情報運搬超光速艇ICFTLBの到着を待たず重要拠点奪還先遣隊群十万を送り出したらしい。安心したまえ。君たちの戦功はちゃんと上申しておいたよ」

 物腰は柔らかいがそれが却って他者を拒むモリスには珍しく、砕けた様子でそれまでの詰る態度を翻し命令違反はファラル城塞奪還の功績の前には目を瞑ると言外に言い渡した。そのとき、高所にあるタワー最上階からの雄大な景色を見せていた窓に無数の光点が煌めいた。

 寛容なモリスに応じようと口を開きかけていた零は、それへ目が釘付けとなり呟く。
「あれは……」
「艦隊か? あの数、尋常じゃないぞ」
 空に滲み出るように見る間に数を増やすその光の群に、隣のブレイズからも警戒するような響きが漏れ出た。

 零とブレイズの様子に視線を追ってモリスが振り向き発した声に、敬意の響きが混じる。
「女帝陛下のお出ましか……先遣隊群からは聞いていなかったが。この迅速な行動。さすが、皇帝位を力で奪ったお方。果断だ。惑星ファルは、国境惑星。重要拠点とは言っても、さすがに直接出向いて来られるとは思っていなかった。正式な辞令はまだ出ていないが、わたし以下惑星ファル駐留軍は正式に新皇帝ヴァージニア女帝陛下へ臣下の礼をとることになる」
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