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イヴァン・グコフの場合
9. 月のみぞ知る
しおりを挟む「騒ぐなよ? お前の犬みたいな欲情した声を、可愛い同僚に聞かせてもいいんなら」
「ふっ…………」
放してと、怒鳴りたくなるのを耐える。
そうだ、元から広くない部屋の少し離れた寝台には穏やかな寝息をたてる何も知らない無垢な少女が寝ているのだ。
イヴァンは今王宮で最も人気のある英雄の一人として持て囃されている。
顔を知らない方が珍しく、もしもこの場を誰かに見られれば、どんな噂が流れることか。
そして確実に、その噂はロゼにとって良くない類だろう。
ロゼが落ち着いたのを確認したイヴァンは、二人分の体重で軋む寝台に構うことなく、その耳元に囁く。
都合よく、ロゼの使う寝台は元は二人分らしく、少し狭いだけでなかなか自由に動くことができた。
「もしかして、俺が来ると思ってベッドを用意してたのか?」
揶揄うように耳元で不愉快な笑いを漏らすイヴァンを睨みつける。
そんなはずがないだろうと怒鳴りたいのにそれが出来ず、また口から手を放されたとしてもイヴァンに逆らうことの出来ない身の上では反論は逆効果にしかならない。
イヴァンが、どうやってロゼの部屋を探り当てたのか、また部屋の鍵はどうしたのかと問いたくても問えない。
そしてそれを知ったところでどうなるというのだ。
今、自分を押し倒すイヴァンが欲望と嗜虐の籠った目で見下している現実が全てだ。
見慣れた隊服ではない、白いシャツ一枚に私服であろう麻のズボン越しから押し付けてくる硬くなった男の欲望が全てだ。
イヴァンが口から手を放しても、ロゼは抵抗することなく、ただシーツを握りしめてイヴァンを睨みつけた。
どうせ、睨んでも睨まなくても犯されるのなら、少しでもこの胸の内の憎悪を投げつけてやりたかった。
だが、ロゼは忘れていた。
その、気丈なまでの鋭い視線が男達の欲を煽り立て、より興奮させることを。
案の定、間近の黒い瞳にほんの少しの怯えと、それに抗うほどの憎悪とプライドに満ちたロゼの鋭い視線にイヴァンはぞくぞくするような興奮を感じていた。
それはイヴァンの下半身に直結し、昼間に自身に惚れている適当な女達をつまみ食いとして抱かなかくて良かったと心底思ったほどだ。
好物を食べるためとは言え、他の物を食い散らかさないのは自分でも珍しいと思いながら。
「言っただろう? 可愛い奴隷のために、今夜たっぷり可愛がってやると」
俺は約束を守る男だと、最初の契約のときにロゼに言った。
例え、ロゼがイヴァンが心底嫌悪する過去を持つ卑しい女であっても、一度した約束をイヴァンは守る。
ロゼがイヴァンの恩着せがましい物言いに、震えるほどの怒りを覚えたとしても。
「……ここでは、嫌です」
ロゼは、こんな弱弱しいことしか言えない自分の立場に今日何度目かの死にたくなるような惨めな思いを抱いた。
「嘘をつくなよ」
ロゼの拒絶を、イヴァンは残酷なまでの晴れやかな笑みで返す。
そして、硬くなった自身のペニスをその股に押し付ける。
寝間着一枚のロゼは、その生地越しの刺激に、反射的に息を呑んで口を押える。
「んっ……ッ」
「なぁ? ここ、もう感じてるんだろう?」
耳元に、息を吹きかけながら、ロゼの細い腰を掴んでイヴァンはぐりぐりと硬いそれをロゼの一番敏感なところに押し付け、擦りつける。
ロゼは必死で漏れてしまいそうになる自身の認めたくない甘い吐息を我慢した。
同室で寝ている同僚の寝息に、冷や汗が出る。
「ずっと、我慢してたんだよな? 俺のを、昼間銜えてからずっと、ここを濡らして、待ってたんだろう? ここに、この、いやらしい下の口に、上の口と同じようにぶっといのを銜えて、中に出して欲しかったんだろう?」
「いやっ」
思わず声を出して否定する。
しかし、その声はとにかく弱弱しく、切ないものだった。
ロゼがいくら否定しようとも、本当は分かっていた。
ロゼのそこが、昼間のときと同じ様に濡れ始め、身体中が熱くなり、自身の肉体から甘い誘う匂いが出始めたのを。
これも、消えない呪いの一種か。
それとも調教されたロゼの肉体が目覚めたからなのか。
頬を赤くし、目元に生理的な涙を溜めて、甘い吐息を我慢して唇を咬む。
すやすやと何も知らずに寝ている同僚の存在に怯えながら。
イヴァンの、じれったいほどの腰の動きに、必死に耐える。
「淫乱だからなぁ、俺の奴隷は」
低く、明らかに興奮した色めいた笑いによって耳を擽られ、それすらも感じる自身をロゼは絶望的な思いで耐えた。
ロゼ達だけではない、何も事情を知らない同僚がすぐそこで寝ているのに。
ロゼ達の関係も、ロゼの本性も知らない者がいるこの部屋で事に及ぶわけにはいかない。
今ですら、二人分の重みで軋む寝台や、イヴァンの荒い息に、いつ同僚が起きるのかも分からないのだ。
ここでイヴァンのそれに貫かれたら、ロゼは声を我慢することができないだろう。
そうなれば、廊下にも響き渡り、違う部屋の者達にも聞かれてしまう。
「お、おねがいっ ここでは、し、しないでっ」
ロゼの耳元に口を寄せるイヴァンに、必死に小声で訴える。
もう、敬語を使う余裕すらない。
間近でロゼはイヴァンに顔を覗き込まれる。
ほんの一筋の月の明かりだけでは、イヴァンが今具体的にどんな表情をしているのか分からない。
笑っているのか、蔑んでいるのか、怒っているのか。
怖いと思った。
イヴァン本人もそうだが、こんなときでも、一度火をつけられたせいで淫らな欲が消えない自分の肉体が。
イヴァンの惨い仕打ちよりもずっと厄介なのは、その惨い仕打ちに感じて、どんどん快楽に溺れてしまう自身の肉体の変化だ。
認めよう。
確かにロゼはイヴァンの行為に感じて、その肉棒を無意識に欲しがってしまう。
それは、過去の自分に戻ることを意味し、このままでは必死に制御した呪いが解かれて、ロゼは恥も何もなく、ただ男達の欲望を満たすだけの存在に逆戻りしてしまうということだ。
ロゼが死ぬ気で抗い、やっと逃げ出した過去が、無慈悲なまでにロゼを再び襲おうとする。
それは嫌だ。
それだけは、許してほしい。
せっかく見つけた自分の居場所を奪わないで欲しいと、ロゼはイヴァンに懇願する。
この最低な男に慈悲を乞うことしかできない自分にただ絶望するしかない。
頬に涙が伝っていることすら分からず、ロゼは震える手で目の前のイヴァンの手を取った。
意外なほど、イヴァンは抵抗しなかった。
ロゼが何をするのかを観察するように、意地悪な腰の動きも止める。
プライドを溝に捨てるような自分の行動に、羞恥心が湧く。
それでも、ここで犯されて周りに気づかれてしまうよりはずっといい。
周りに見られたとしても、今のロゼはその視線にすら感じてしまうかもしれない可能性に比べれば。
軽く、唾を飲み込んで、ロゼはイヴァンを見上げる。
「な、なんでもします…… ご主人様が、満足するまで、この身体を好きにしてください」
そして、幾多の人間を殺めた、血に濡られた褐色の手に自身の乳房を押し付ける。
ロゼの、寝間着一枚越しの乳房のやわらかな感触に、イヴァンは無意識に大きく唾を飲み込んだ。
いつもは侍女服に隠された乳房は意外なほど大きく、布越しにしっとりとした肌の感触、弾力がイヴァンを誘惑する。
何よりも、イヴァンの淫らな腰の動きに、その小さな突起は硬くなっていた。
掌に当たる乳首や、汗ばみ鼻を擽るロゼの匂い。
そして、今まで見た中で一番怯えたような、羞恥に塗れた表情がどうしようもなく欲を駆り立てる。
媚びるように、寝間着の裾から白い脚をイヴァンの腰に摺り寄せる、手慣れた仕草。
更にもう片方の手を取って、ロゼは自分の頬に当て、そして少し息を吐いたあとにその指をふっくらとした唇に寄せた。
決別し、逃げた過去。
それなのに、今自分は再び過去の自分に戻ろうとしている。
男を浅ましく誘惑し、淫らな肉体で全てを搾り取っていた過去の自分へと。
どんな表情でイヴァンが自分を見つめているのか分からない。
ただ、今を守るためには、どうしてもイヴァンから主導権を握らなければならない。
それは、つまり自分からイヴァンを誘惑し、彼を魅了しなければならないということだ。
屈辱的だが、もうそれ以外道はない。
ちゅっ
イヴァンの硬く剣だこがある血に濡れた指をしゃぶる。
淫らに、誘うように。
腰も、自分からその興奮して爆発しそうなペニスに押し付けて、脚を強請るようにイヴァンの腰に巻き付けた。
「ここ以外で…… ご主人様が、欲しいの」
甘い、吐き気がするほど甘い声だ。
ロゼは一体この声で、この仕草でどれだけの男を誘惑したのだろうかと、暗い物騒な感情が目覚める。
全ての男を魅了するような色香だ。
普段の仕事に真面目なロゼの姿を知る者から見れば、まるで別人と思うだろう。
そんな淫靡なロゼの姿を間近で見降ろしながら、イヴァンは邪悪な笑みを浮かべる。
暗い欲望が溢れるままに、押し付けられたロゼの乳房を強い力で握りしめた。
「んっ……!」
「……いいぜ、そこまでお願いするんだったら、お望み通り、ここじゃない所で犯してやる」
耳元でロゼの羞恥を嬲るように笑うイヴァン。
その声は、今までで一番欲に濡れているのに、とにかく冷たいものだった。
ぞっとするような悪寒が背筋を駆け抜け、ロゼは正気に戻りそうになる自分を叱咤した。
とりあえずここでは抱かれることはないと、自分に言い聞かせながら。
イヴァンが隠そうとしても隠しきれない狂暴さに目を瞑って。
そしてイヴァンの気持ちが変わらないように、今度は首に両腕を回して逞しいその身体にしがみ付く。
「嬉しい……」
熱の籠ったロゼの吐息に、少しだけイヴァンの狂気的な欲が収まる。
そしてイヴァンは早速自身の約束を破りたくなった。
今すぐここで犯したくなるのを必死に耐える。
ロゼもまた、自身の肉体を燻る欲望の熱に必死に耐えて、見ないふりをした。
お互いがお互いに欲情していたことを、月だけが知っていた。
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