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調教
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しおりを挟む気が付けば、メリッサは身を清められ一人で寝ていた。
ディエゴの居なくなった寝台は広すぎて、少し冷たい。
なんとなくだが、メリッサはディエゴが昼間の時にだけメリッサに会いに来ているのではないかと推測している。
だが、そんな推測などはどうでも良い。
どうせメリッサは外に出ることができず、いつものように裸でディエゴを待つしかない。
ディエゴの信じられない告白を聞いた後、メリッサは久しぶりにディエゴに殺されそうな勢いで犯された。
その時の殺意を示すようにメリッサの細い首には白い包帯が巻かれている。
ディエゴに首を絞められ、殺されかけた時は安堵と恐怖が一遍に押し寄せてきた。
漸くこの屈辱から解放されるという喜びと安堵、自分が死んだ後にカイルがどんな目に遭うのか分からないという恐怖だ。
そして結局メリッサはカイルのことが心配で、この場では死ねないと思い必死にディエゴの手に爪を立てた。
その後、気絶したのだ。
使用人達に存在を無視されながら、メリッサは虐げられることもなく、王女の頃と変わらない豪華な食べ物や飲み物、幼い頃からの好物だったお茶やお菓子を好きなだけ与えられていた。
傷の手当もいつも適切にされていて、今のところまだ死ぬほどの致命傷は与えられていない。
裂傷で痛む股に軟膏を塗られ、引っ叩かれた頬には湿布を貼られた。
歯が折れなかったことだけが唯一の幸いだったが、口の端や舌は切れていた。
こんな状態では次にディエゴに口での奉仕を求められてもできないだろう。
粥ですら口に入れると沁みて痛いのだ。
だが、食事を残すとディエゴはメリッサの世話をする使用人を目の前に並べて鞭を打つ。
メリッサが他人の痛がる姿を何よりも恐れることを知り、そして罪悪感を抱かせるためだけに無力な彼女達を見せしめのように懲罰するのだ。
必死にメリッサは残した食事を呑み込んだ。
その後吐いてしまったメリッサに、使用人達は無言で片付けた。
彼女達がディエゴを、そしてメリッサをどう思っているのか分からない。
そもそもメリッサ自身が今の自分の立場が分からないのだ。
メリッサは一人でディエゴの告白について考えていた。
混乱しそうになるのを耐えて、努めて冷静に思考する。
そして、考えれば考えるほど混乱するのだ。
あの優しい伯父がディエゴを暗殺しようとした。
メリッサがディエゴを嫌悪し、拒絶する原因となった暗殺事件の首謀者が国王だと言う。
伯父である国王がそんなことをする理由が思いつかないのに、逆にそれぐらいの事がなければディエゴがこんな凶行を犯すはずもないと納得する自分もいる。
かつて、メリッサがディエゴの変わり果てた姿を見て急激な心変わりをした自分が怖ろしく、国王に縋り付いて泣いて詫びたときのことを思いだす。
自分の息子に地獄のような苦しみを与え、そして冷たいメリッサをひたすら慰めた国王。
あの時、国王はなんと言ってメリッサを慰めたのだろうか。
思い出そうとすると、どうしようもなく吐き気がした。
結局、ディエゴはメリッサに国王の暗殺の目的を教えることはなかった。
ただ、歪んだ笑みを浮かべて、メリッサを犯しながらその耳元に事件の全容を語った。
ディエゴを崇拝する臣下が国王の企みを知り、忠言したこと。
それを信じず、ディエゴはあえて国王の無罪のために秘密裏に調べたこと。
調べれば不審な点はたくさんあったという。
あの時ディエゴが飲んだ葡萄酒が元々国王が贈ったものであり、調べたところかなり前の段階で封に細工がされていたこと。
遅くまで国王の部屋で討論したディエゴの安眠のためにあえて使用人達に下がるよう命じたことや、ディエゴが殺さずに生かしておいた暗殺者達が国王直属の近衛兵の尋問ですぐに死んでしまったこと。
そして、何よりもディエゴを苦しめた猛毒がかつて王家が秘密裏に行っていた研究の副産物を改良したものだと分かった時、ディエゴはそれでも自分が国王に殺される理由がないと頑なに信じようとしなかったという。
そんな愚かな自分を嘲うディエゴに、組み敷かれたままのメリッサは尋ねる。
結局、国王の目的はなんだったのかと。
ディエゴの殺害は手段でしかなく、わざわざ王家の血筋を絶やすような行為をする理由が思いつかない。
何が、あの優しく温厚な国王を狂気に走らせたのか。
ディエゴを排除しようとした目的を。
それをメリッサから問われたディエゴはどうしようもない苛立ちと憎しみをメリッサに抱き、その口を黙らせるためにまだ傷の治っていない陰部を激しく責め立てた。
メリッサはこの時まだ知らなかった。
自分が知らずの内に国王の計画の共犯者にされていたことを。
*
どれぐらいの月日が過ぎたのかは分からないが、いつの間にかディエゴが隣国の王女を王妃として迎え、二人が正式に婚姻し、またディエゴが即位したと報告された。
メリッサは特に驚きはしなかった。
どうも少し感覚が麻痺しているらしく、メリッサの反応は鈍い。
昔、メリッサがまだディエゴと婚約していたときに後宮を大きく改造し、全体的に模様替えをしたことについてディエゴは唐突に話した。
そして、その後宮に隣国の王女を迎え、住まわせるという。
なるほど、確かにディエゴの表情はどこか浮かれている。
華々しい結婚式を挙げたくとも、この国は実質隣国との戦争に敗れ占領されている状態だ。
裏切り者のディエゴと侵略国の王女との結婚式を強引に行って、わざわざ国民の感情を逆撫ですることはない。
それなら王女の母国で披露宴を挙げれば良いのに、ディエゴはどうしてもこの国で挙げたいらしい。
自分で滅茶苦茶にしたのに、ディエゴにはまだ愛国心が残っているのかとメリッサは内心で嘲った。
そして、もしも隣国に吸収され、統治が上手くいってディエゴとその妻がメリッサと同じ様に華々しい結婚式を挙げたとしよう。
その場合も伝統に従って今メリッサが囲われている女神の神殿で愛を確かめるのだろうか。
その時自分はどこかに隠れなければならないのかと思いながら、メリッサはとりあえずディエゴの機嫌を損ねないように祝いの言葉を贈った。
何故か、ディエゴはメリッサの言葉に驚き、奇妙な表情を浮かべていた。
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