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第三章 箱の中の彼は秘密を造る
13 ガールズバー①
しおりを挟む東屋は中園と星野のことを思い浮かべる。
と言っても東屋が二人に会ったのは今日を含めて二度だけだったので自然と二人の印象は初めて出会った時のことが強く思い出された。その日の出来事は出来ればこのまま忘れてしまいたかったが、そうもいっていられなくなってしまった。
本当に二人はそのような間柄だっただろうか?
「……待ってください、先生!行かないでください!」
それは先月、まだ楢村が会社に入りたての頃だった。半ばそれは懇願のように出掛けようとする高梁を東屋は引き止める。
「お願いします!一生のお願いです!土下座でも何でもしますから!」
まるで子供の駄々のように嫌がる東屋を高梁は呆れ顔で見ていた。
「別にちょっと飲みに行くだけだろ?一生のお願いを使うほどか?…こら、土下座はせんでいい」
高梁は事務所の床に膝をつく東屋の二の腕を掴んで彼女を立ち上がらせようとする。
その様子を見ていた楢村はやっていた仕事を中断して、二人のそばにあるキッチンカウンターの椅子に腰掛けた。
「高梁先生、せめてその“場所”を変更してあげれば、ありかちゃんも許してくれると思いますよ?」
「楢村まで東屋の味方かよ…仕方ないだろ、幹事の所長が勝手に決めたんだから」
東屋は掴まれていた腕を払うと拳で高梁の胸を叩いた。
「“ガールズバー”って…ガールズバーってなんなんですか!キャバクラとは何が違うんですか?女の子がいっぱいいるお店ですか?」
「ただ話しして酒飲むだけだよ」
「なんなんですか?先生には私がいるのに初対面の女性と何を話すんですか?私に言えないようなことですか?」
「お、おぉ…そうだな。」
「『そうだな』じゃ、ない!」
東屋の勢いに気圧されて若干引き気味の高梁は、うっかり「ガールズバーに行く」と口を滑らしたことを後悔していたことだろう。部下なら笑い事として許してくれるという高梁の予想は見事に外れた。部下にここまで反対されるとは思わなかったらしい。
「分かった。そんなに心配ならお前も一緒にくるか?」
高梁は着ていたジャケットを脱ぐと肩にかけながら東屋に聞いた。
「副所長も今日来るんだが、女はそいつ一人だからな。男ばっかりよりお前もいれば少しは安心するかもしれない。」
東屋は彼の顔を見て目をぱちくりさせた。
「い、行きます。行きます……ケド……!」
次から次へと沸き起こる胸のもやもやで気が狂いそうだ。
「現場監督が女性って初耳なんですけど⁉︎工事始まったの一年も前ですよね?」
「もういい、置いてく」
「せんせー⁉︎⁉︎」
高梁は一人事務所を後にする。
私を無視して車に乗り込む高梁の助手席側に急いで座った。
私だって別に先生に“めんどくさい女”だと思われたくはない。
先生の好きにしても構わないが、それなら私に言わないでバレないようにして欲しい。
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