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終章 やるべき事、変えるべき事
1 彼女の生き方
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「ーーローレライ! ローレライ! ローレライはどこへ行った⁉︎ ローレライ!」
ジェラールは屋敷の中で声を荒らげ、必死に娘を探していた。
そんな鬼気迫るジェラールの勢いに驚いた多くの使用人は現在行っていた仕事の手を一旦止め、息を殺しながら非常に注意深くジェラールの姿を観察していた。
「ーーはい、お父様。私はここです!」
ジェラールがあれほど必死に探し回るローレライが登場した事で、この先何かよくない事が起こりそうだと多くの使用人がそう思った。
激しいお説教か、あるいは想像も出来ないような恐ろしい何かか、どちらにせよローレライお嬢様の涙を見る事になるかもしれないと使用人一同、覚悟を決めていた。
「おお! 探したぞローレライ! いったいどこにいたのだ?」
「はい。さっき摘んできた薬草を裏口で水洗いしている最中でした」
「そうか……」
「それで……いかがされたのです? お父様」
「ああ、いや……別に大した事ではないのだがーーん?」
ジェラールが八方から向けられる視線にようやく気付いた事で、それまで一箇所に集中していた意識と視線は瞬く間に消え失せ、後にはどうにも重苦しい気まずさだけが渦を巻いた。
ジェラールは仕事を再開した使用人達の姿をちらりと見遣って、そこにある確かな不快感から逃げるようにローレライの手を引いてその場を後にした。
「ーーなあ、ローレライ?」
「何でしょう? お父様」
「うむ、お前は本当にルクスに似て美人だな」
「ーーーーっ⁉︎」
「ああ! 違う、違う! 何を言っているんだ、私は。これではただの親バカではないか……。私が言いたいのは……いや、違うな。聞きたいのは、だな……その……何だ、少し変な事を聞くぞ?」
「…………?」
「ローレライは、その……太ったりはしないのか?」
「……え?」
「あー……つまりだな……同じ屋敷に住んで、同じ物を食べて、同じ生活をしている訳だが、ローレライは太ったりしないのかな、と……」
「ああ。太りますよ、当然」
「ーーそっ、そうなのかっ⁉︎」
「はい。お菓子を食べ過ぎてしまった次の日なんかは体重が増えてしまいますね、やはり」
「そっ、その場合……どうするのだ? やっぱりダイエットとか、やるのか? あっ! いや! なんとなく気になってな! 本当、なんとなく……」
「うーん……」
「どっ、どうした?」
「何もやっていませんね、たぶん」
「なっ、何も⁉︎」
「ーーはい。何も」
「だっ、だが……それではどんどん太ってしまうのではないか?」
「そうですね……。けれど、その次の日には大体、元の体重に戻っていますよ?」
「そっ、そんなバカなっ! 何もやらずに元の体重に戻るだなんて、そんなの卑怯じゃないかっ!」
「卑怯……?」
「ああ……いや……何でもない。こっちの話だ。それで……具体的には何kgから何kgに戻るのだ……?」
「そっ……それは……」
「ああ……そうだな……すまない。配慮に欠けた」
「いえ……」
ジャラールは酷く困惑した。
同じ生活を送っているローレライに聞けば、痩せるための手掛かりを掴めるかもしれないと思っていたのだが、耳に届く話はどうにも信じられない話ばかりである。
たとえ食べ過ぎたとしても、次の日には元の体重に戻っている?
勝手に痩せる?
そんな事がある筈ないじゃないか。
ローレライは何を言っているのだ?
手塩にかけて大事に大事に育てた愛娘は、いつの間にか非行に走ってしまったのか?
それは一大事ではないか!
「あの……お父様?」
「ーーなっ、何だ? どうした?」
「もしかして、ダイエットをしていらっしゃるのですか?」
「いやっ……その、あの、何だ、健康のために少し気を付けようとだな……思い始めたんだ。歳も歳だし……。ローレライは、その……ダイエットなどはしないのか?」
「私ですか? うーん……今まで気にした事もないですね」
「だろうな……そのほっそりとした体型では」
「あ、でも……」
「…………?」
「毎日、食べ過ぎないように気を付けてはいますよ?」
「食べ過ぎないように……?」
「はい。毎食お腹いっぱい食べるんじゃなくて、自分に必要な量だけ食べるって感じでしょうか?」
「必要な量……」
「朝食で言えば朝からそれほど多く動き回る事はないので、そんなに多くのエネルギーを摂取する必要はないかと……それに朝食の後はすぐに昼食ですから、少しぐらい足りなくても案外平気ですよ?」
「…………」
「その後の昼食ですが、日中は行動が増える時間帯ですし夕食までは少し時間が空くので、それに備えて朝食よりも少し多めに食べています」
「…………」
「それで夕食の時は……その時のお腹の減り具合で食べる量を変えています。でも、夕食の後は寝るだけなのでそんなに沢山食べる必要もないんですけどね」
「…………」
「ーーそんな感じです。何か力になれました?」
「…………」
「お父様?」
それまでジェラールの頭の中で乱雑していた何かがカチリカチリと音を立てながら繋がりーー形をなし始めた。
ジェラールは屋敷の中で声を荒らげ、必死に娘を探していた。
そんな鬼気迫るジェラールの勢いに驚いた多くの使用人は現在行っていた仕事の手を一旦止め、息を殺しながら非常に注意深くジェラールの姿を観察していた。
「ーーはい、お父様。私はここです!」
ジェラールがあれほど必死に探し回るローレライが登場した事で、この先何かよくない事が起こりそうだと多くの使用人がそう思った。
激しいお説教か、あるいは想像も出来ないような恐ろしい何かか、どちらにせよローレライお嬢様の涙を見る事になるかもしれないと使用人一同、覚悟を決めていた。
「おお! 探したぞローレライ! いったいどこにいたのだ?」
「はい。さっき摘んできた薬草を裏口で水洗いしている最中でした」
「そうか……」
「それで……いかがされたのです? お父様」
「ああ、いや……別に大した事ではないのだがーーん?」
ジェラールが八方から向けられる視線にようやく気付いた事で、それまで一箇所に集中していた意識と視線は瞬く間に消え失せ、後にはどうにも重苦しい気まずさだけが渦を巻いた。
ジェラールは仕事を再開した使用人達の姿をちらりと見遣って、そこにある確かな不快感から逃げるようにローレライの手を引いてその場を後にした。
「ーーなあ、ローレライ?」
「何でしょう? お父様」
「うむ、お前は本当にルクスに似て美人だな」
「ーーーーっ⁉︎」
「ああ! 違う、違う! 何を言っているんだ、私は。これではただの親バカではないか……。私が言いたいのは……いや、違うな。聞きたいのは、だな……その……何だ、少し変な事を聞くぞ?」
「…………?」
「ローレライは、その……太ったりはしないのか?」
「……え?」
「あー……つまりだな……同じ屋敷に住んで、同じ物を食べて、同じ生活をしている訳だが、ローレライは太ったりしないのかな、と……」
「ああ。太りますよ、当然」
「ーーそっ、そうなのかっ⁉︎」
「はい。お菓子を食べ過ぎてしまった次の日なんかは体重が増えてしまいますね、やはり」
「そっ、その場合……どうするのだ? やっぱりダイエットとか、やるのか? あっ! いや! なんとなく気になってな! 本当、なんとなく……」
「うーん……」
「どっ、どうした?」
「何もやっていませんね、たぶん」
「なっ、何も⁉︎」
「ーーはい。何も」
「だっ、だが……それではどんどん太ってしまうのではないか?」
「そうですね……。けれど、その次の日には大体、元の体重に戻っていますよ?」
「そっ、そんなバカなっ! 何もやらずに元の体重に戻るだなんて、そんなの卑怯じゃないかっ!」
「卑怯……?」
「ああ……いや……何でもない。こっちの話だ。それで……具体的には何kgから何kgに戻るのだ……?」
「そっ……それは……」
「ああ……そうだな……すまない。配慮に欠けた」
「いえ……」
ジャラールは酷く困惑した。
同じ生活を送っているローレライに聞けば、痩せるための手掛かりを掴めるかもしれないと思っていたのだが、耳に届く話はどうにも信じられない話ばかりである。
たとえ食べ過ぎたとしても、次の日には元の体重に戻っている?
勝手に痩せる?
そんな事がある筈ないじゃないか。
ローレライは何を言っているのだ?
手塩にかけて大事に大事に育てた愛娘は、いつの間にか非行に走ってしまったのか?
それは一大事ではないか!
「あの……お父様?」
「ーーなっ、何だ? どうした?」
「もしかして、ダイエットをしていらっしゃるのですか?」
「いやっ……その、あの、何だ、健康のために少し気を付けようとだな……思い始めたんだ。歳も歳だし……。ローレライは、その……ダイエットなどはしないのか?」
「私ですか? うーん……今まで気にした事もないですね」
「だろうな……そのほっそりとした体型では」
「あ、でも……」
「…………?」
「毎日、食べ過ぎないように気を付けてはいますよ?」
「食べ過ぎないように……?」
「はい。毎食お腹いっぱい食べるんじゃなくて、自分に必要な量だけ食べるって感じでしょうか?」
「必要な量……」
「朝食で言えば朝からそれほど多く動き回る事はないので、そんなに多くのエネルギーを摂取する必要はないかと……それに朝食の後はすぐに昼食ですから、少しぐらい足りなくても案外平気ですよ?」
「…………」
「その後の昼食ですが、日中は行動が増える時間帯ですし夕食までは少し時間が空くので、それに備えて朝食よりも少し多めに食べています」
「…………」
「それで夕食の時は……その時のお腹の減り具合で食べる量を変えています。でも、夕食の後は寝るだけなのでそんなに沢山食べる必要もないんですけどね」
「…………」
「ーーそんな感じです。何か力になれました?」
「…………」
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