鉄女である私を怒り狂わせた、あの男のスリーステップ

清水花

文字の大きさ
3 / 24
ワンステップ

黒い三令嬢

しおりを挟む
「あなたは? まさか、私のオリバー様に何か御用かしら?」

 私は必死に考えを巡らせるが自信を持って正解だ、と言える回答が全く意識に登りはしなかった。

 私のオリバー様。私の、オリバー様。

 オリバー様はこちらのご令嬢のものなのだろうか?

 私が知らなかっただけなのであろうか? 私の認識不足なだけなのであろうか? 

 オリバーの身体はオリバーのものだと私は考えていたが、違っているのであろうか?

 もしくは身体ではなく、意識的な、精神的な話なのであろうか?

 精神は彼女のもので、身体は……身体だけはオリバーのものという事なのであろうか?

 であるならば、結婚式を三ヶ月後に控える間柄の私、アーリィ・アレストフはいったいオリバーの何を所有しているという事になるのだろう?

 精神や身体 が違うとするのなら……この場合、心などが該当するのであろうか?

 あるいは、未来とか。

 結局、どれだけ考えても納得の出来る答えは思い浮かびはしなかった。

 そもそも、オリバーが自分のものだという感覚がよく理解出来ない。

 あくまでもオリバーはオリバーで、私は私だ。

 他の人間の所有権など、他の人間にあるものなのだろうか?

 私がそんな思考の迷宮に陥っていると、

「ーーーー何を勝手な! オリバー様は私のーーーー」

「ーーーー私は昔からオリバー様だけをお慕いしてーーーー」

 と、他の御二方も騒ぎ出したので私はさらなる混乱に巻き込まれていく一方だった。

 オリバーはいったい誰のものなの?

 そんな事を考えているとやがてオリバーが私の存在に気付いて大きく肩を震わせた。

「ア、アーリィ! いや、これは、その……違うんだ!」

 オリバーはひどく狼狽えた様子でそう口にする。

 オリバーに寄り添う女性達はオリバーの左手、右手、胸を引っ張り合い離れようとはしない。

 そしてなぜだか三人のご令嬢達は私のことをしきりに睨み続けている。

 まるで不倶戴天の敵にでも出くわしたかのような必死の形相で。

 私、何かした?

「オリバー。違う、と言われても私には何が違うのかさえ分からないのよ。この状況、これはいったいどういう事なの?」

「こ、これは、その……」

 オリバーは私に目を向けず視線を地に落としている。

「オリバーさまぁ! 今日はガイアンと一緒に過ごす約束でしょう?」

「オルテンに似合う髪飾りを選んでくださるって言ったじゃないですか!」

「マシューを景色の良い湖畔に連れて行ってくれるんじゃないんですかー?」

 三人の御令嬢達はオリバーの身体を引っ張り合いながら口々にそう言った。

「あ、いや、それは、だから、今日じゃなくて、困ったな……」

 オリバーは照れ笑いを浮かべてそう口にした。

 と、ここまでオリバーと御令嬢達のやり取りを見てようやく私はこの状況を理解し始めていた。

 どうやらオリバーは三人の御令嬢達と会う約束をしていて、その約束が重なってしまったようだ。

 そこに私まで現れて、どうにも収拾がつかない事態になってしまった、という事なのだろう。

 で、あるならば私がとるべき行動は決まっている。

「オリバー。今日は出直します。また連絡をください」

「あっ、アーリィ、待って!」

 オリバーが呼び止めるが、私は笑顔を彼へと向けて踵をかえした。

 彼は今日、忙しいのだ。これくらいの気遣いが出来ない私ではない。

「帰るって言ってるんだから、良いじゃないですかぁ!」

「オリバー様、早く私とーーーー」

「マシューもう我慢できませんよー!」

 背後から聞こえて来るそんな言葉を聞きながら、私はふと社交の場で聞いたある噂を思い出していた。

 私はその噂の内容にあまり興味を持たなかったので適当に聞き流していた。

 だからはっきりと思い出す事は出来ないが、確かこんな内容の噂だったと思う。

 それはとある三人の御令嬢についての噂で、その御令嬢達は自分好みの異性を見つけるとその男性にしつこく求愛行動を繰り返す、という内容だったと思う。

 そしてその求愛行動が原因で口論になる男女もいるとか、いないとか。

 確か、そんな話。

 その御令嬢達のそれぞれと名前と異名のようなものを聞いた気がするのだけれど、残念ながら思い出せない。

 白いーーーー違う。

「ガイアンだけを見てくださいよぉ! ねぇ、オリバーさまぁ!」

「オリバー様はオルテンの方がタイプですよね」

「オリバー様はマシューの全てが好きなんですよねー!」
 
 ああ、そうだ。

 黒だ。

 黒い三令嬢。ガイアン、オルテン、マシュー。

 確か、そんな名前だった気がする。


 








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落令嬢、執事に逃げられる~手紙を見てしまった私の、必死な七日間~【全8話】

長田桂陣
恋愛
没落した伯爵家の令嬢コーデリアには、たった一人の使用人がいた。 献身的な執事ウィリアム――通称ウィル。 母の治療費で財産を使い果たし、父も亡くなった今、この屋敷に残っているのは彼女とウィルだけ。 料理も掃除もできないわがままなコーデリアは、完全にウィルに依存していた。 ある日、コーデリアは偶然ウィルの部屋で一通の手紙を見つけてしまう。 『執事ウィリアム殿を新しい執事長として迎え入れたく存じます。破格の待遇でお迎えいたします――マグナス公爵家』 ――ウィルが、出ていく? でも、聞けない。「本当に行くの?」なんて。 だって、答えが怖いから。 それからというもの、わがままを言うたびに後悔する日々が始まった。 ――待って!「では公爵家に行きます」とか言わないわよね!?

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

処理中です...