12 / 24
ツーステップ
とある日
しおりを挟む
その日は嘘のように身体が軽かった。
あれほど私に影響を与えていた世界中のものが、その矛先をようやく別の方へと向けてくれたらしい。
私はこの世界に再び受け入れてもらえたようだ。この世界と、 再びひとつになれた。
そんな気がした。
私は窓を開け放ち朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
あれほど拒絶していた酸素がたまらなく美味しいと感じる。
これほど清々しい気分は久しぶりだ。
よく晴れ渡った青空、耳に心地よい小鳥のさえずり、肌を優しく撫でる風。
まるで別世界にでも来たかのようだ。
それくらい昨日と今日とでは世界が違って見える。
あの地獄のような日々はようやく終わりを迎えたということなのだろうか?
それとも今日だけ特別に神様が私に与えてくださった休日なのだろうか。
私は高鳴る胸を弾ませつつ慎重な足取りでオリバーの部屋へと向かった。
オリバーの部屋は二階の西側にある。私の部屋は東側だから距離は少しあるけれど、ミレニアさんに支えてもらえば転倒することもなく歩いていけるだろう。
私は一歩一歩慎重な足取りで歩みを進めながら、オリバーのことを考えていた。
彼とはもう一ヶ月近くまともに会っていない。
私の身体の具合が悪いからと距離を置いてくれているのだ。きっと、苦しんでいる姿を見られたくないという私の気持ちを汲んでくれているのだろう。
そんな彼に感謝を込めてずいぶんとれていないスキンシップもとりたいものだ。喜んでくれると良いのだが。
そんな事を考えながら歩いていると、あっという間にオリバーの部屋の前に到着していた。
ミレニアさんが扉をノックしてくれ、私がオリバーの名を呼ぶ。
「オリバー。いる? 私、アーリィよ」
私の呼びかけに反応するように中から大きな物音が聞こえた。
「ーーーーア、アーリィ!? 何で!? か、身体は!? 身体の方はどうしたんだい!?」
ずいぶん慌てた様子のオリバーの声が中から聞こえてきた。
ガタゴトと、騒がしい物音も続いている。
きっと突然私が部屋に来たから驚いているのでしょうね。
私はこの一ヶ月自室に篭りきりでオリバーの部屋を訪れることなんて全くなかったのだから。
驚くのは無理もない。
「今日はすごく体調が良いから顔を見にきたのよ」
それにまともに食事を摂れていない私はこの一ヶ月でかなり痩せ細ってしまっている。
会えばもっと驚くのではないだろうか。
扉一枚隔てた距離でオリバーの驚く顔を想像しながら私は扉に手を掛けた。
「入るわよ、オリバー」
「あ、あ、うわあ!」
うわあ? どうしたのかしら?
ゆっくりと扉を押すとそこには息を切らせたオリバーが立っていた。
久しぶりに見たオリバーはいつかのような苦笑いを浮かべている。それに妙に着衣が乱れていて、汗ばんでいるのはなぜだろう?
まるで激しい運動でもした後のような状態だ。
オリバーは運動量の激しいスポーツなどは好まない性格のはずだが……しかも部屋の中でなんて。
「オリバー、何だかすごく辛そう。体調が良くないの?」
「あ、いや、そんなわけじゃ……」
オリバーは小さく開いた扉からこちらを覗き込むようにしてそう口にする。
「本当? 顔色もよくないみたいだけれど」
「ああ、これは、その、う、うん。実は……そうなんだ。何だか最近体調が良くなくって……。君のことを心配するあまりよく眠れていないし」
「まあ、そうだったの。心配かけてごめんなさい。あなたがそんなに心配してくれているだなんて……」
私はオリバーの体調が心配になり扉を押し開けようと手に力を込めた。
「あ、あ、大丈夫! 本当! 全然、大丈夫だからさ!」
そう口にするオリバーは私が押す扉を中から押し返してきた。
「え……」
「うん、大丈夫、大丈夫!」
「そ……そう? 仕事が大変なのも分かるけれど、きちんと休まないとだめよ」
「わ、分かっているよ」
そんな会話を交わした後でふとオリバーの後方、部屋の中へと視線を送ると私の視界はそこに人影をとらえた。
カーテンの影になっていて気付くのが遅れたが間違いなくそこに誰かいる。
風が吹いてカーテンの布地が大きく膨らんだ。
「あなたは……マシュー嬢?」
あれほど私に影響を与えていた世界中のものが、その矛先をようやく別の方へと向けてくれたらしい。
私はこの世界に再び受け入れてもらえたようだ。この世界と、 再びひとつになれた。
そんな気がした。
私は窓を開け放ち朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
あれほど拒絶していた酸素がたまらなく美味しいと感じる。
これほど清々しい気分は久しぶりだ。
よく晴れ渡った青空、耳に心地よい小鳥のさえずり、肌を優しく撫でる風。
まるで別世界にでも来たかのようだ。
それくらい昨日と今日とでは世界が違って見える。
あの地獄のような日々はようやく終わりを迎えたということなのだろうか?
それとも今日だけ特別に神様が私に与えてくださった休日なのだろうか。
私は高鳴る胸を弾ませつつ慎重な足取りでオリバーの部屋へと向かった。
オリバーの部屋は二階の西側にある。私の部屋は東側だから距離は少しあるけれど、ミレニアさんに支えてもらえば転倒することもなく歩いていけるだろう。
私は一歩一歩慎重な足取りで歩みを進めながら、オリバーのことを考えていた。
彼とはもう一ヶ月近くまともに会っていない。
私の身体の具合が悪いからと距離を置いてくれているのだ。きっと、苦しんでいる姿を見られたくないという私の気持ちを汲んでくれているのだろう。
そんな彼に感謝を込めてずいぶんとれていないスキンシップもとりたいものだ。喜んでくれると良いのだが。
そんな事を考えながら歩いていると、あっという間にオリバーの部屋の前に到着していた。
ミレニアさんが扉をノックしてくれ、私がオリバーの名を呼ぶ。
「オリバー。いる? 私、アーリィよ」
私の呼びかけに反応するように中から大きな物音が聞こえた。
「ーーーーア、アーリィ!? 何で!? か、身体は!? 身体の方はどうしたんだい!?」
ずいぶん慌てた様子のオリバーの声が中から聞こえてきた。
ガタゴトと、騒がしい物音も続いている。
きっと突然私が部屋に来たから驚いているのでしょうね。
私はこの一ヶ月自室に篭りきりでオリバーの部屋を訪れることなんて全くなかったのだから。
驚くのは無理もない。
「今日はすごく体調が良いから顔を見にきたのよ」
それにまともに食事を摂れていない私はこの一ヶ月でかなり痩せ細ってしまっている。
会えばもっと驚くのではないだろうか。
扉一枚隔てた距離でオリバーの驚く顔を想像しながら私は扉に手を掛けた。
「入るわよ、オリバー」
「あ、あ、うわあ!」
うわあ? どうしたのかしら?
ゆっくりと扉を押すとそこには息を切らせたオリバーが立っていた。
久しぶりに見たオリバーはいつかのような苦笑いを浮かべている。それに妙に着衣が乱れていて、汗ばんでいるのはなぜだろう?
まるで激しい運動でもした後のような状態だ。
オリバーは運動量の激しいスポーツなどは好まない性格のはずだが……しかも部屋の中でなんて。
「オリバー、何だかすごく辛そう。体調が良くないの?」
「あ、いや、そんなわけじゃ……」
オリバーは小さく開いた扉からこちらを覗き込むようにしてそう口にする。
「本当? 顔色もよくないみたいだけれど」
「ああ、これは、その、う、うん。実は……そうなんだ。何だか最近体調が良くなくって……。君のことを心配するあまりよく眠れていないし」
「まあ、そうだったの。心配かけてごめんなさい。あなたがそんなに心配してくれているだなんて……」
私はオリバーの体調が心配になり扉を押し開けようと手に力を込めた。
「あ、あ、大丈夫! 本当! 全然、大丈夫だからさ!」
そう口にするオリバーは私が押す扉を中から押し返してきた。
「え……」
「うん、大丈夫、大丈夫!」
「そ……そう? 仕事が大変なのも分かるけれど、きちんと休まないとだめよ」
「わ、分かっているよ」
そんな会話を交わした後でふとオリバーの後方、部屋の中へと視線を送ると私の視界はそこに人影をとらえた。
カーテンの影になっていて気付くのが遅れたが間違いなくそこに誰かいる。
風が吹いてカーテンの布地が大きく膨らんだ。
「あなたは……マシュー嬢?」
0
あなたにおすすめの小説
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる