鉄女である私を怒り狂わせた、あの男のスリーステップ

清水花

文字の大きさ
16 / 24
スリーステップ

アリシア

しおりを挟む
 出産から早くも一ヶ月が過ぎようとしていた。

 その頃には私もすっかりと体力を取り戻し、普段通りの生活が送れるようになっていた。

 何もかもが今まで通りーーーーではない。

 私の生活は以前のそれよりも確実に慌ただしくなった。

 私の娘、アリシアのおかげで。

 ミレニアさん曰く、アリシアはよく泣く子のようで起きている時は私が抱いていないと決して泣くのをやめようとはしない。

 だから基本的に私はずっとアリシアを抱いている。

 たまに私が側を離れ激しく泣き叫んでいたとしても私が抱いた途端、嘘のように泣き止むのは母親として何だか誇らしい気持ちだった。

 その時の、私の姿を探すアリシアがついに私の姿を見つけた時の、あの表情がたまらなく可愛らしいのだ。

 全ての愛を注いで全身で抱きしめたくなる。

 そんな私達の光景を見たオリバーといえば、当然自分も同じように抱きしめようと試みるのだが、抱いた途端にアリシアは烈火の如く泣き叫んでしまう。

 慌てたオリバーはすかさず私にアリシアを託すと、納得のいかない様子で私のことを恨めしそうに見つめてくる。

 まあアリシアからしてみても、決してオリバーのことが嫌いという訳ではないのだろう。ただ単に私ではないから嫌がっているだけなのだ。

 私の代わりは誰にも務まらない。

 やはり命を共にした母親と子供というものは、何か目に見えない絆のようなものがあるのかもしれない。

 これはいわば母親の特権というものだろう。

 だからオリバーは直接アリシアを抱かず、私の側に立ってアリシアをあやすというのが基本的なスタイルだ。

 そんな状態でもオリバーはアリシアを可愛いがってくれている。

 どれだけ泣き叫んで嫌がられようともやはり自分の娘は可愛いのだろう。

 アリシアを中心としたそんな慌ただしい毎日が過ぎていく。

 きっと明日も明後日も邸の中にはアリシアの泣き声と笑い声が響き渡り、その度に私の胸は幸せでいっぱいになるのだろう。

 お父様やお母様。全ての人々に祝福され愛されアリシアは元気に成長していくのだろう。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...