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スリーステップ
絶句
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「別れていただきたいの、オリバーと、今すぐ」
「えっ……それは……いったい、どういう……」
「はっ! いったいどういうことなのか、聞きたいのはむしろこっちの方よ! 可愛いオリバーを騙してこんなに傷つけておいて!」
「騙す……? 私が……何を……」
激しく捲し立ててくるお義母様に私は狼狽えることしか出来はしなかった。こんな状況、予想だにしていない。出来るはずがない。
お義母様の剣幕も、お怒りの理由も、仰っている内容も全てが全て分からない。
「アーリィさん、念の為あなたの口から直接聞いておいた方が良いわよね。アリシアの健診結果のこと……」
アリシアの健診結果。両耳の難聴。今、私達家族が抱えている最大の問題。
「ア……アリシアの、健診の結果ですか……」
「ええ、そうよ。あなたの口からきちんと聞かせてちょうだい」
「それは……」
正直なところ口にしたくはなかった。
最初に私が感じ取った違和感とお医者様が仰った決定的なひと言。どうあがいたって事実は事実なのだけれど、しかしそれでも口に出すのは辛い。
その事実を口にすれば、今は必死に押し留めている感情が言葉と一緒に一気に流れ出してしまう事になる。そう肌で感じる。
「どうなの? アーリィさん? それとも、言えないような事なのかしら?」
「アリシアは……その……耳が……」
やはり、どうしても声が震えてしまう。押し留めていた感情が、涙が溢れてきてしまう。
「耳が?」
「み……耳が……」
「聞こえない、のかしら?」
お義母様は淡々とそう口にする。その言葉には冷たく鋭い棘が備わっている。
「……はい……」
「そう……やはりオリバーが言ったことは本当だったの……。万が一にもオリバーの勘違いということもあると思ってこうしてわざわざ確認をしにきたわけなのだけれど、無駄足だったようね。残念だわ……」
お義母様は宙を見上げ力なく肩を落とす。
「では、離縁の話はこのまま進めても問題なさそうね。正式な手続きは後日、こちらに人を寄越します。あなたは手早く書類にサインをすること。オリバーの私物は今からーーーー」
「待ってください!」
「…………?」
淡々と進められる離縁の話をようやく止めることができた。
「なぜ……離縁の話が、持ち上がったのでしょうか」
「なぜって……」
お義母様は不思議そうな表情を浮かべて私を真っ直ぐに見つめる。
「アーリィさん。あなたがオリバーを、私達を騙したから。最初にそう言ったでしょう?」
扇子の奥から覗くお義母様の目もとにぐっと力が加わる。
「そんな……私、騙してなんかいません。どうして私がそんなーーーー」
「あくまでもあなたは私達を騙していないと言うのね。だったらオリバー、あなたの口から言ってあげたら?」
お義母様のそんな言葉に今までうつむいていたオリバーは、のろのろと視線を上げて私の事を恨めしそうに見ながらこう言った。
「ーーーーな子が、あんな子が、産まれるなんて僕は聞いてない……」
まるで幼い子供が泣いているような力のない声と表情でオリバーはそう口にした。
「あんな、子……?」
オリバーの言葉が私の脳内で反響する。理解できないその言葉はいつまでも私の脳内に残り続けた。
「ーーーーそう、今オリバーが言ったように私達はあんな子が君から産まれるだなんて聞いてない。だから私達は君に騙されたと言っているんだ」
それまで押し黙っていたお義父様が力強くそう口にした。
「加えて言えば、ああいったものはマカロフ家にはいらん」
途端に世界が私の元から離れ、歪んでいくような感覚に襲われた。
私から、あんな子が、産まれるだなんて、聞いてない?
だから、だから、騙された?
私に、みんな、ダマサレテ
アンナコハ、
アンナコハ、イラ、ナイーーーー
「えっ……それは……いったい、どういう……」
「はっ! いったいどういうことなのか、聞きたいのはむしろこっちの方よ! 可愛いオリバーを騙してこんなに傷つけておいて!」
「騙す……? 私が……何を……」
激しく捲し立ててくるお義母様に私は狼狽えることしか出来はしなかった。こんな状況、予想だにしていない。出来るはずがない。
お義母様の剣幕も、お怒りの理由も、仰っている内容も全てが全て分からない。
「アーリィさん、念の為あなたの口から直接聞いておいた方が良いわよね。アリシアの健診結果のこと……」
アリシアの健診結果。両耳の難聴。今、私達家族が抱えている最大の問題。
「ア……アリシアの、健診の結果ですか……」
「ええ、そうよ。あなたの口からきちんと聞かせてちょうだい」
「それは……」
正直なところ口にしたくはなかった。
最初に私が感じ取った違和感とお医者様が仰った決定的なひと言。どうあがいたって事実は事実なのだけれど、しかしそれでも口に出すのは辛い。
その事実を口にすれば、今は必死に押し留めている感情が言葉と一緒に一気に流れ出してしまう事になる。そう肌で感じる。
「どうなの? アーリィさん? それとも、言えないような事なのかしら?」
「アリシアは……その……耳が……」
やはり、どうしても声が震えてしまう。押し留めていた感情が、涙が溢れてきてしまう。
「耳が?」
「み……耳が……」
「聞こえない、のかしら?」
お義母様は淡々とそう口にする。その言葉には冷たく鋭い棘が備わっている。
「……はい……」
「そう……やはりオリバーが言ったことは本当だったの……。万が一にもオリバーの勘違いということもあると思ってこうしてわざわざ確認をしにきたわけなのだけれど、無駄足だったようね。残念だわ……」
お義母様は宙を見上げ力なく肩を落とす。
「では、離縁の話はこのまま進めても問題なさそうね。正式な手続きは後日、こちらに人を寄越します。あなたは手早く書類にサインをすること。オリバーの私物は今からーーーー」
「待ってください!」
「…………?」
淡々と進められる離縁の話をようやく止めることができた。
「なぜ……離縁の話が、持ち上がったのでしょうか」
「なぜって……」
お義母様は不思議そうな表情を浮かべて私を真っ直ぐに見つめる。
「アーリィさん。あなたがオリバーを、私達を騙したから。最初にそう言ったでしょう?」
扇子の奥から覗くお義母様の目もとにぐっと力が加わる。
「そんな……私、騙してなんかいません。どうして私がそんなーーーー」
「あくまでもあなたは私達を騙していないと言うのね。だったらオリバー、あなたの口から言ってあげたら?」
お義母様のそんな言葉に今までうつむいていたオリバーは、のろのろと視線を上げて私の事を恨めしそうに見ながらこう言った。
「ーーーーな子が、あんな子が、産まれるなんて僕は聞いてない……」
まるで幼い子供が泣いているような力のない声と表情でオリバーはそう口にした。
「あんな、子……?」
オリバーの言葉が私の脳内で反響する。理解できないその言葉はいつまでも私の脳内に残り続けた。
「ーーーーそう、今オリバーが言ったように私達はあんな子が君から産まれるだなんて聞いてない。だから私達は君に騙されたと言っているんだ」
それまで押し黙っていたお義父様が力強くそう口にした。
「加えて言えば、ああいったものはマカロフ家にはいらん」
途端に世界が私の元から離れ、歪んでいくような感覚に襲われた。
私から、あんな子が、産まれるだなんて、聞いてない?
だから、だから、騙された?
私に、みんな、ダマサレテ
アンナコハ、
アンナコハ、イラ、ナイーーーー
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