空、縛、空、解、

清水花

文字の大きさ
10 / 18

空話 1

しおりを挟む
 あれから3日が過ぎた。

 基地に連れ戻されたカナはあの日のことを何度も何度も思い出していた。

 ナオと行った、夢の世界。

 あの日のことを思い出すと胸が躍るようで、何時間でも思い出にひたっていられた。

 生きていて良かったと感じられた。

 そう思う中で、カナの周りではあれから不思議なことが起きていた。

 なぜか興奮気味の女性隊員達から『カナちゃん話し聞かせて』や『どうだった? どうだった?』などの質問責めにされたり、男性隊員からはニヤニヤしながら横目で見られたりしていた。

 なぜそんな事になったのか、もちろんカナには分からない。

 分からないし戸惑いもするが、でもどうでもいいとも思えた。

 そんな事を気に掛けている暇があるのなら、あの日のことを思い出していた方がよほど楽しい。

 カナが再び記憶を辿ろうとしたまさにその瞬間。

 基地内の状況は一変した。

 けたたましく鳴り響くサイレン、緊急事態を叫ぶスピーカーの声、慌てふためく周囲の人間を一喝するように怒声があがった。

 ーーーー総員戦闘配置。

 幾度となく聞いた、

 出撃命令。

 気付けばカナの隣にはダークスーツの男が立っていて、カナをまっすぐに見つめながら、

「奴等もついに本気になったらしい。たぶん今回が最後、総力戦だ」

「…………」

 カナが何も答えずにいると女性隊員の叫び声が響く、

「ノモト! 早く!」

 ダークスーツの男は視線を少し動かしたが、何も答えない。

「カナ……」

 名前を呼ばれたカナは男の方をちらりと見てから一旦視線を足元に落とし、ゆっくりと理解する。

 自分の死ぬ順番が来た。

 自分も仲間達のところへ逝くのだ。

 理解したうえで、目を閉じて自分に問う。

 死ぬのは怖い。だが、死んでも構わない。

 じゃあ自分はいったい何の為に死ぬのか?

 世界のため?

 全人類のため?

 それともーーーー

 答えは自分でも驚くほど簡単に出た。

 
 ーーーーナオを守りたい。


 ナオを守るために死にたい。

 ナオには生きていてほしい。

 どうせ死ぬなら、それがいい。

 カナは無言のまま、頷いた。

 そんなカナの返答にノモトと呼ばれた男は両の握りこぶしを強く握りしめ、そして。

「頼む」

 男の言葉にカナは小さくうなずき、踵を返した。

 出撃命令に慌てふためく群衆の中を縫って歩くカナの背中を、男は最後まで黙って見送った。


 カナが、再び空に舞う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

どう見ても貴方はもう一人の幼馴染が好きなので別れてください

ルイス
恋愛
レレイとアルカは伯爵令嬢であり幼馴染だった。同じく伯爵令息のクローヴィスも幼馴染だ。 やがてレレイとクローヴィスが婚約し幸せを手に入れるはずだったが…… クローヴィスは理想の婚約者に憧れを抱いており、何かともう一人の幼馴染のアルカと、婚約者になったはずのレレイを比べるのだった。 さらにはアルカの方を優先していくなど、明らかにおかしな事態になっていく。 どう見てもクローヴィスはアルカの方が好きになっている……そう感じたレレイは、彼との婚約解消を申し出た。 婚約解消は無事に果たされ悲しみを持ちながらもレレイは前へ進んでいくことを決心した。 その後、国一番の美男子で性格、剣術も最高とされる公爵令息に求婚されることになり……彼女は別の幸せの一歩を刻んでいく。 しかし、クローヴィスが急にレレイを溺愛してくるのだった。アルカとの仲も上手く行かなかったようで、真実の愛とか言っているけれど……怪しさ満点だ。ひたすらに女々しいクローヴィス……レレイは冷たい視線を送るのだった。 「あなたとはもう終わったんですよ? いつまでも、キスが出来ると思っていませんか?」

処理中です...