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2章 お茶会

18 婚約破棄の理由

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 秘密のお茶会開始からしばらくして私もようやく緊張が解けてきて、紅茶にクッキーに自ら手を伸ばす事が出来るようになってきました。

 例のテーブルマナーに関しては場の雰囲気を壊さないように、少しお行儀悪く飲食するなどして皆様に合わせる事にしました。

 私はもともと正しいテーブルマナーを苦だと思っていなかったので、お茶会の趣旨を考えるとわざわざお行儀の悪い真似をする必要は全くなかったんですけどね。

 むしろお行儀の悪い事をしている時の背徳感や罪悪感が逆にストレスでした。

 私が望む息抜き法はそうですね……。

 やっぱり、お勉強の時間にこっそりお昼寝するのが一番ですかね。

 窓際に置いた椅子に座って、暖かな日差しを浴びながら肌を優しく撫でる風に吹かれてお昼寝。最高ですね。

 うん。そもそも私は寝る事が大好きなんですよ。

 だって、寝ている時に見る夢。最高に楽しいです。普段は出来ない事もたくさん出来ますし、なにより夢ですから空を飛ぶ事だって出来るんです。魔法を使ったりも。少し前に魔法は無いって言いましたけど、あれは現実には無いって意味です。夢の中でならちゃんとあるんです。

 美味しいアップルパイが山ほど出てきたり、雲の上でお昼寝できる素敵な魔法が。

 みんな笑顔になって。

 みんな幸せになれるーーーーそんな魔法が。

 なんて。ついつい自分の世界に浸ってしまいがちですが、今はお茶会です。

 しかし、普段と勝手は違えど楽しいお茶会です。ローズティーもクッキーも普段のそれとは大違いで最高に美味しいです。

 滅多には味わえない紅茶とお菓子の味をじっくり味わっていると、

「ーーーーで、ローレライ。結局なんだけど、一体何があったの?」

 ベアトリック様のそんなお言葉にジェシカ様もアレンビー様もルークレツィア様もそれぞれ楽しんでいた会話を途端に中止して、私の方へ意識を集中させうんうんと頷きます。

「それは……こ、婚約破棄についての話でしょうか……?」

 ベアトリック様ははっきりと感情のこもった眼差しで私を見つめ、コクリと小さく頷きました。

 婚約破棄ーーーー。

 その言葉を口にするだけで、私の胸の中では今まで感じたことのない悲しさや絶望と言った暗い感情が渦を巻いてお腹の底に少しずつ少しずつ溜まっていきます。

 それは確実に私の中で起こっている物事ではありますが、私自身何がどうなっているのかよく理解出来ていません。

 ただひとつ解る事は、これ以上それを溜めてはいけないという事だけ。

 だから私はあの日の事をなるべく考えないようにしているんです。

 あの日の事。それからあの日の前後数日をいくら思い返しても何も分かりませんし、考えれば考えるほどお腹の中に得体の知れない何かが溜まっていくんです。

 それがいつかお腹の中にいっぱい溜まって、身体の外に溢れ出しでもしたら大変な事になる気がしてならないのです。

 そう考えると怖くて仕方ありません。

 でも、困りましたね。

 あの日の事はなるべく思い出したくはありませんし、誰かに語って聞かせるなんて絶対に嫌なんですが、私を心配してこんなに楽しいお茶会を開いてくださったベアトリック様に何も話さない訳にもいきませんよね、さすがに。

 手紙には無理に話さなくてもいいと書いてありましたが、はたしてどうしたものか……。

 私は少し考えた後、正直に話す事にしました。なるべく無理のないように、辛い部分を避けるようにして。

「自分自身に起こった事なのですが、その理由が全く分からないのです。何も心当たりがなくて本当に突然あのような事になってしまって……」

「ふむ。そういう事か……ローレライみたいな子が失礼な真似するわけないし……。じゃあーーーー」

 と、ベアトリック様が言いかけた時にほぼ同時にアレンビー様が口を開きました。

「じゃあーーーーやっぱり浮気とか?」




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