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4章 おまじないがもたらすモノ

2 個性

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 ノルマンディー侯爵閣下。

 お父様の古い友人で今も親交の深いお方。

 手先が凄く器用なようで、昔から木製の家具などをよく作製していたようです。自身が作ったそれらには強いこだわりを持っていて、私の目にはどこからどう見ても凄く立派な作りのクローゼットも御本人が気に入らなければその場で処分してしまうほどなんです。

 それに、その腕を買われて家具の修理を依頼される事も間々あるそうなのですが、依頼された修理には一切手を付けず、あろう事か依頼主の許可を得る事なく家具を破壊しては全く別の物を新しく一から作り直す事もあるようです。

 私が知る限りでは馬車の車輪の修理を依頼したら椅子になって返ってきた、という話が一番新しい情報ですね。

 なので、業を煮やした依頼主と口論になる事もそう珍しくはないようなのですが、最終的にはノルマンディー侯爵閣下の『それではワイルドでは無い!』の一言で大抵の相手が折れてしまうのだとか。

 ワイルド。

 これはもう、完全にノルマンディー侯爵閣下の口癖ですね。いえ……信念と言った方が適切なのかもしれません。

 ノルマンディー侯爵閣下は物事を決定するにあたって必ずワイルドか否かを自身の感覚で精査してから決断するようにしているようなのです。

 ワイルドであれば良し、ワイルドでなければ悪し、みたいな。

 決定の基準が良いか悪いか、あるいは善か悪かで決められていないところは私としては結構、怖い事なのですが……。

 しかしそれでも、口論や小さないざこざといった事はあれど、誰しもビックリしてしまうような事件めいた噂は聞かないので、人としてある程度の倫理観を持った行動は出来ているのでしょう。

 そもそも、侯爵様なのですから私が心配するような常軌を逸した行動を取るはずがありません。

 あくまでも、私が勝手に思い描いて心配しているだけです。杞憂です、杞憂。

 そんな変わり者ーーいえ……個性の非常に強いノルマンディー侯爵閣下には私より二つ年上のお子様が一人いらっしゃって、そのお方もお父様である侯爵閣下に負けず劣らずの個性の持ち主なのです。とは言え、かなりタイプが違う個性ですが……。

 あの父親にしてこの子あり、という言葉がここまでぴったりと当てはまる親子は、たとえ国中を探し回ったとしても、あの親子だけではないでしょうか。
 
 私も幼い頃から面識があって、姉様、姉様と慕っては遊んでいただいていました。

 アリー姉様と一緒に遊んで一番楽しかった思い出は、やはりトランプを使った遊びが一番記憶に残っていますね。

 中でも、アリー姉様に教えていただいたポーカーという遊びがあるのですが、このポーカーという遊びを少しアレンジした一人ポーカーという遊びをよくやって遊んで頂きました。

 基本的なルールは全く変わらないのですが普通、アリー姉様に配られるはずのカードが私に配られます。だから私は二人分のカードを持っているという事ですね。

 そこで私がアリー姉様に配られる筈だったカードの内容を伝えます。

 すると、ダイヤのAとクラブのKを捨てて別のカードと交換して欲しいなどの要望をアリー姉様がしてくるのです。

 私は要望通りにカードを交換し最終的なカードの状態をアリー姉様に伝えます。

 その後、私は自身のカードを通常通りに選び、交換します。

 そして私の最終的なカード内容をアリー姉様に伝えてどちらの勝ちなのかを確認する、という遊びなのですが……あれ? 成長した今改めて考えてみると、これってアリー姉様が本来やるべき事を面倒だからって全部私がやらされていただけなような気がするのですが……。

 気……気のせい……ですよね、きっと。

 その証拠に記憶の中のアリー姉様はあんなにも楽しげな笑顔を浮かべて……あれ? ベッドに仰向けで寝てました? ドレスを着たまま? あれ? 変ですね……。

 やはり私、心もそうなんですが少し変になってしまったようです。

 とにかく。

 個性が強いあの親子の住む屋敷へと、私達ポーンドット親子は今から向かうようです。

 今から心配で仕方がありません……。






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