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4章 おまじないがもたらすモノ

6 正体

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 ーーパフン。

 そんな可愛らしい音をきっかけに閉じたままだった瞼を開けてみると、つい先ほどまで私を抱きしめてくれていたアリーお姉様が再びベッドの上に大の字で横になっています。

 アリーお姉様はまるで大仕事をこなした後のような清々しくも疲れきったような表情でいて、今は静かに天井を見つめています。

 ふと気が付くと、つい先ほどまで私の心を支配していた恐怖心はいつの間にか嘘のように消え去っています。

 さすがはアリーお姉様です。あれほど恐怖に支配されていた私の心をいとも簡単に救ってくれました。幼い頃からお世話になっていますが、こうして久しぶりに抱きしめられるとその凄さを再認識出来ますね。ものすごい安心感です。

「ありがとうございます、アリーお姉様」

「いえいえ。私があなたにしてあげられるわずかな物事のひとつだもの気にしないで。必要とあらばいつでも。ただーー私の気持ちが整っているとき限定だけれどね」

 アリーお姉様の気持ちが整っている。つまりはやる気の問題なのですが、そんな日はきっと一年間に一日あるかないかでしょう。でも、アリーお姉様は私がああなってしまえば自身の気持ちなど関係なく動いてくださるんです。

 アリーお姉様はそういうお方なんです。

「ふふふっ、はい」

「なに? 何がそんなに可笑しいの?」

「何でもありません。ふふふっ」

「ーーレライ、あなたって本当に不思議な子よね。おまじないを掛けた時にもあなた何だか可笑しな反応を見せていたけれど……ほら、覚えてない? 私がおまじないを掛けた直後の事なのだけれど……」

 そんなアリーお姉様の言葉を受け、私の頭の中では一つの記憶がゆっくりと浮上します。

 数ある記憶の中で一番目立つ場所に今もなお痛々しく鎮座している、幼い日の記憶です。

 それはまさに今、アリーお姉様がおっしゃっているおまじないの時の記憶です。当時おまじないだなんて知るはずもない私が、突如怪しげな事を始めたアリーお姉様に戸惑い、場の雰囲気を壊さないように必死に考えてリアクションをとったあの記憶です。

 今、思い出すだけでも恐ろしくなる空気感です。

 それにしても、アリーお姉様が事前にきちんと説明してくれていればあんな悲惨な事にはならなかったのに……。

「…………」

 そう思いましたが、事前におまじないを掛けるからねって言われていたとしても単なるごっこ遊びだと思って、やはりそれ相応の反応を見せていただけなのかも知れません。

 あの結末は変えられないのですね。運命はやはり不変という事なのでしょうか。

「……ん?」

 と、それまで見落としていた重大な事柄が私の意識上にのぼりました。

 見落としていたと言うよりも話の流れに逆らえずにそのまま放置してしまって、その結果忘れかけていた、と言った方が正確かもしれません。

 だってアリーお姉様、当たり前のように話をどんどん進めていっちゃうんですから。

 あの日あの時、アリーお姉様は私におまじないを掛けて私を守ろうとしてくれた。あの日のあれは決して、ごっこ遊びではなく正式な? おまじないの儀式だった。その結果、私に襲い掛かった悪意と危害は増幅しそれらをもたらした人物へと反射された。それがあの日のおまじないの効果だから、そういった結果が出た。

 こうして考えてみれば、とても理にかなった物事です。なるべくしてなった。ごく自然で当たり前の事のように感じます。

 ですが、

「あ……あのっ……」

「本当に忙しい子ね。今度は何?」

「アリー姉様は……その……魔法使い……なのですか?」

 これです。




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