グレーな聖女の備忘録〜国や家族の歴史とかって本当に大切なんだからきちんと後世に伝えてよね!

清水花

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6 お世話になりました。

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「ーーお勤めご苦労様です」
 王都からずいぶんと離れた郊外でひとり、警備にあたっている男性にそう声かけて私はお辞儀をした。
「旅の無事を心より願っております!」
 背筋をピンッと伸ばした男性は広角を大きく上げた爽やかな笑みを浮かべながらそう言った。
 けれど、そんな爽やかな笑みにはあまりに似つかわしくない濡れた瞳をしているのはなぜだろう?
 何か悲しい事でもあったのだろうか? 
 詳しい事は当然私には分からないけれど、早く元気になって欲しい。
「ーー考えてみれば家族で外出って久しぶりじゃね?」
 前を歩く弟のセシルが気怠そう振り向きながらそう口にする。
「そう……だな。ん? もしかして今回が初めてなんじゃないのか? なあ? 母さん」
「それはそうよ。貴方達はともかく、私達は国から出る事を固く禁止されていたんだから……」
「じゃあ、今日はホーリーズ家にとって記念すべき初の家族旅行ってわけだ⁉︎」
「ふむ。そう考えれば国外追放というのもあながち悪くないのかも知れないな! 聖女という呪縛から解放されたおかげで、こうして家族揃って旅行に出かけることが出来るんだから。国外追放さまさまだ!」
「おっほっほっー!」
「家族旅行って……。どうして貴方達はいつもそう楽観的なのよ……国外追放よ? 意味分かってる? 帰る家がなくなったのよ?」
「永遠に旅を続ける根無草!」
「本当の自分自身を見つけるための永遠の旅路。まさに旅は男のロマンだな!」
「はぁっ……全くもうっ……どうして男っていつもこうなのかしら」
「無駄よ、母さん……。父さん達は今後の事なんて全く考えていないんだから。どころか、行くあても無い今の状況を楽しんじゃってる……どうかしてるわ」
「はいはいはい! 俺、洞窟とかで暮らしてみたい! それでドラゴンとか倒す!」
「ふっふっふ……。旅といえば洞窟がつきもの。そして洞窟に住まうドラゴンを討ち取る事こそ男の使命。そして人々は皆、口を揃えて言う。《最強のドラゴンバスター》トーマス・ホーリーズここにありと」
「いやいや父さん、ドラゴン倒すの俺だって!」
「なんのなんの。セシル、お前のパンチじゃまだドラゴンの鋼鉄の皮膚は貫けん! ここは父さんの《ダイナミックソルジャーロケットパンチ》に任せておきなさい」
「シュッ! シュシュシュッ!」
 と、父さんとセシルのバカ話に便乗するように、ジロウは右の前足を素早く動かし猫パンチを繰り出している。
 もしかするとジロウは今、ドラゴンと必死に戦っているのかも知れない。
「おっ? なんだ、ジロウもやる気じゃん!」
「一緒にドラゴンバスターの称号を手に入れるかっ⁉︎ どわははは!」
「おっほほー!」
「では行こうか戦士達よ。血湧き肉躍る戦いの場へーー」
「ああ。戦場こそが俺の帰る場所だ」
 ドラゴン退治に向かうらしい父さんとセシルとジロウは仲良く並んで王都を抜ける門をくぐった。
「ーー賑やかですね」
 若干の苦笑いを浮かべた門番の男性にそう言われ、私は途端に顔に火がついたかと思うほど恥ずかしくなった。
「すみません、お騒がせして……大きな子供が二人もいるものですから……」
 母さんがそう言うと門番の男性は、あははと笑った。
「じゃあ、行きましょうか? セシリア」
「うん」
 先に門をくぐった父さんとセシルとジロウを追いかけ、母さんと私も王都を抜ける門をゆっくりとくぐった。
「ーーーーっ⁉︎」
 瞬間、とても嫌な感じのする不気味な視線を感じて私はとっさに後ろを振り返った。けれど、そこには爽やかな笑みを浮かべた門番の男性が当たり前に立っているだけで、さきほど感じた不気味な視線の正体なんてどこにもありはしなかった。
 不思議に思いつつ、ふと見上げた王都の空は先ほどまでの晴天が今は嘘のように分厚い雨雲に覆われていた。









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