8 / 31
1章 人質姫が人質でなくなってから
7
しおりを挟む
「シャーロットちゃん!」
ドアを閉めるとすぐにフレッドはシャーロットの側まで来た。
「ダメじゃん。せっかくコーディさんも心配してついて行ってくれたのに、こんなところで二人っきりになっちゃ! コーディさんはどうしたの?」
「あ、あの、現場でやっておくことがあるから、先に執務室に行くように言われて……」
オロオロとそう言うシャーロットを見て、ふ、と息を漏らす。
疲れたように、どっかりとシャーロットの隣に腰を下ろした。
「ごめんごめん。いい。オレの八つ当たり。でもさー、シャーロットちゃんは女の子なんだから、部屋に二人っきりになっちゃダメだよ。襲われちゃったら大変だから」
フレッドはちらりと隣に座るシャーロットを見る。
本当は、これはオレの距離じゃない。
シャーロットちゃんの正面に座るべきだ。
けれど、すごく近くに居たかったんだ。
「でも、エドワード様は私に暴力を振るう方ではありませんわ」
「うん。そうだね。でもさ、女の子にとっての暴力って、殴る蹴るだけじゃないから。特に、身分の高い女の子は、もしものことがあれば、その相手のお嫁さんにならなきゃいけなくなることもあるから気をつけてね。今日はちゃんと執務室のドアを開けてたね。エライエライ」
シャーロットの方に身を向けて、頭を撫でると、シャーロットは頬を真っ赤にした。
「フ、フレッド様! 私はもう子どもじゃありませんわ!」
うーん。
子どもじゃないから言ってるんだけどな。
まあ、いいか。
「ところで、機関車の方はどうだった?」
隣に座ったまま、フレッドは話を進める。
「ええ。とても良い勉強になりましたわ」
シャーロットは一生懸命に講義の内容をフレッドに説明した。
「そうだね。是非、ボナールに欲しい乗り物だけど、資金的にまだ早いかなあ。今の状態でランバラルドへの借金返したら、あんまり残らないもんなぁ」
「フレッド様、確かにあったら便利ですが、どうしてもと言うほどではありませんわ。技術面を磨いておいて、線路を各地に引くのはもう少し後にしてもよろしいのではなくて?」
シャーロットは首を傾げた。
シャーロットは、やはり機関車よりは植物の研究に力を入れて、まず国力を上げる方が先と考えたのだ。
「うん。そうだね、そっちを優先しよう。でもさ、ランバラルドと行き来するようになったら機関車があった方が便利だからなぁ」
シャーロットがライリーへの想いを断ち切ったことを知らないフレッドは、シャーロットがライリーを思う気持ちを大事にしてやりたいと思っていた。
いつか、シャーロットが正妃としてランバラルドに嫁いだ時に、機関車があればボナールの王としてシャーロットが政治をする時に、シャーロットの体が楽になるのではないかと思っていたのだ。
逆に、シャーロットはフレッドがランバラルドへ帰る日のことを考えていた。
元々、フレッドはランバラルドの宰相子息だ。
いつか、ランバラルドに帰るのだろう。
そしてたまにボナールに来る時に、機関車は使われるはずだ。
責任感のあるフレッドを理解しているからこそ、帰ってからも様子を見に来るフレッドが、容易に想像できた。
ふたりとも、機関車があればいいとは思いつつも、あれば別れが早くなるとも思っていた。
ドアを閉めるとすぐにフレッドはシャーロットの側まで来た。
「ダメじゃん。せっかくコーディさんも心配してついて行ってくれたのに、こんなところで二人っきりになっちゃ! コーディさんはどうしたの?」
「あ、あの、現場でやっておくことがあるから、先に執務室に行くように言われて……」
オロオロとそう言うシャーロットを見て、ふ、と息を漏らす。
疲れたように、どっかりとシャーロットの隣に腰を下ろした。
「ごめんごめん。いい。オレの八つ当たり。でもさー、シャーロットちゃんは女の子なんだから、部屋に二人っきりになっちゃダメだよ。襲われちゃったら大変だから」
フレッドはちらりと隣に座るシャーロットを見る。
本当は、これはオレの距離じゃない。
シャーロットちゃんの正面に座るべきだ。
けれど、すごく近くに居たかったんだ。
「でも、エドワード様は私に暴力を振るう方ではありませんわ」
「うん。そうだね。でもさ、女の子にとっての暴力って、殴る蹴るだけじゃないから。特に、身分の高い女の子は、もしものことがあれば、その相手のお嫁さんにならなきゃいけなくなることもあるから気をつけてね。今日はちゃんと執務室のドアを開けてたね。エライエライ」
シャーロットの方に身を向けて、頭を撫でると、シャーロットは頬を真っ赤にした。
「フ、フレッド様! 私はもう子どもじゃありませんわ!」
うーん。
子どもじゃないから言ってるんだけどな。
まあ、いいか。
「ところで、機関車の方はどうだった?」
隣に座ったまま、フレッドは話を進める。
「ええ。とても良い勉強になりましたわ」
シャーロットは一生懸命に講義の内容をフレッドに説明した。
「そうだね。是非、ボナールに欲しい乗り物だけど、資金的にまだ早いかなあ。今の状態でランバラルドへの借金返したら、あんまり残らないもんなぁ」
「フレッド様、確かにあったら便利ですが、どうしてもと言うほどではありませんわ。技術面を磨いておいて、線路を各地に引くのはもう少し後にしてもよろしいのではなくて?」
シャーロットは首を傾げた。
シャーロットは、やはり機関車よりは植物の研究に力を入れて、まず国力を上げる方が先と考えたのだ。
「うん。そうだね、そっちを優先しよう。でもさ、ランバラルドと行き来するようになったら機関車があった方が便利だからなぁ」
シャーロットがライリーへの想いを断ち切ったことを知らないフレッドは、シャーロットがライリーを思う気持ちを大事にしてやりたいと思っていた。
いつか、シャーロットが正妃としてランバラルドに嫁いだ時に、機関車があればボナールの王としてシャーロットが政治をする時に、シャーロットの体が楽になるのではないかと思っていたのだ。
逆に、シャーロットはフレッドがランバラルドへ帰る日のことを考えていた。
元々、フレッドはランバラルドの宰相子息だ。
いつか、ランバラルドに帰るのだろう。
そしてたまにボナールに来る時に、機関車は使われるはずだ。
責任感のあるフレッドを理解しているからこそ、帰ってからも様子を見に来るフレッドが、容易に想像できた。
ふたりとも、機関車があればいいとは思いつつも、あれば別れが早くなるとも思っていた。
1
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―
柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。
しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。
「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」
屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え――
「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。
「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」
愛なき結婚、冷遇される王妃。
それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。
――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる