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3章 それぞれの道
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シャーロットが、あちこちに咲く花を説明しながらゆっくりと植物園の中を歩き、一周をする頃にはいい時間になっていた。
「ギルバート様、そろそろ帰ってお城でお茶にしましょう。ギルバート様がお喜びになると思って、私、昨日一生懸命クッキーとパウンドケーキを焼いたんですのよ」
シャーロットが微笑んでギルバートに手を差し出す。
「……あぁ、そうだな」
ギルバートはその手を掴み、二人はそのまま馬車まで歩いて行った。
馬車の中で、シャーロットは窓の外を眺めて、鼻歌を歌うほど機嫌が良かった。
「ギルバート様、お天気が良くて、植物園で食べたお弁当も美味しくて楽しかったですわね」
笑顔でそう言うが、ギルバートはシャーロットのあまりの機嫌の良さに、もしかしたら無理をしているのではないかと、ふと不安になった。
先ほどのシャーロットは、ライリーのことは吹っ切れているように見えたのだが……。
「……シャーロット」
向かい合わせで座っている馬車の中、シャーロットは笑顔でギルバートに応える。
「なんですの? ギルバート様」
「わたしと結婚するか?」
シャーロットは目を見開き、ギルバートの顔を凝視する。
「……どうなさったんですの?」
「いや、弁当が美味かったなと思って」
「ふふ。お弁当が美味しかったから結婚ですの? 結婚しなくても、ボナールに来ていただければいつでもお作りいたしますわ。それに、ギルバート様にもちゃんとした方とご縁がありますわよ。こんな私のような者と結婚しなくても……」
「そんなに自分を卑下するものではないぞ。シャーロットだって、立派な女性だ」
また沈黙が訪れ、カラカラと馬車の車輪が廻る音だけが車内にこだまする。
「ギルバート様、私のことお好きですの?」
「もちろん、好きだぞ。我が娘のように愛している」
「ですわよねー。家族のような"好き"ですわね。娘とは結婚できませんわよ?」
「……そうだな。ちょっと言ってみただけだ」
「ふふっ、私もギルバート様を家族のように愛していますわ」
「それは当然だな」
「ギルバートお父様、お帰りになられる時にはお菓子をおみやげにお持ち帰りくださいね。何がよろしいか、リクエストがあればお応えいたしますわよ?」
「そうだな。娘の手作りの菓子だ。日持ちのするクッキーはもちろん、馬車の中で食べるからスイートポテトも必須だな」
「まあっ!では、徹夜でお菓子を作らなくてはなりませんわ!」
「大丈夫だ。若いんだから徹夜の一度や二度。精進しろ」
そんな会話をしているうちに、馬車はボナール城に到着した。
ギルバートは、シャーロットの手作りお菓子を堪能し、夜はシャーロットとフレッドの3人で晩餐を囲んだ。
翌日はシャーロット自慢の温泉施設に招待してもらい、その施設から直接ランバラルドへ帰国する予定だという。
シャーロットはギルバートの帰国を残念がりながら、今夜はお菓子をたくさん作ると、張り切って晩餐の場を後にした。
「フレッド、この後少しいいか?」
「ギルバート様、オレは時間ありますけど……」
「では、あとでわたしの部屋に来てくれ」
ギルバートはナプキンで口元を拭うと、席を立った。
フレッドは一旦執務室に行き、少し仕事を片付けてから、ギルバートの部屋を訪れた。
「ギルバート様、失礼します」
ギルバートは侍女や侍従を下がらせ、一人ソファで寛いでいた。
「フレッド、ここへ座れ」
「はぁ。では」
フレッドは居心地悪く思いながら、向かい側へ腰を下ろした。
フレッドにとって、ギルバートは年下ではあるが身分が自分よりも上なこともあり、なんとなく素では対応できない相手であった。
テーブルの端に置いてあったティーセットを使い、ギルバートはフレッドに紅茶を入れて差し出した。
「……イタダキマス」
フレッドは紅茶に口をつける。
「実は今日、シャーロットにプロポーズをした」
ぶーっっ!!
思わずフレッドは含んだ紅茶を噴き出す。
「汚いな、何をやっているんだ!」
ギルバートはフレッドにポケットに入っていたハンカチを投げた。
フレッドはハンカチをキャッチし、口元を拭う。
「だって、ギルバート様、プロポーズって、えっ? プロポーズって言いました?」
「プロポーズと言った」
フレッドは顔色を青くし、ポカンと口を開けてギルバートを見ていた。
「プロポーズしただけだ。他に何もない」
「あるでしょうがっ! プロポーズですよ」
「だが、父親とは結婚できないと笑われた」
「は?」
「いや、ライリーの奥方になる者の話をしていてな。シャーロットはもうライリーのことは終わったことだと言っていたが、それを聞いて思わず、な」
「ええー……、なんですかその話の流れは」
ケホケホと咳き込むフレッドに対し、ギルバートは優雅に紅茶を飲む。
「シャーロットはもうライリーのことはいいと言っていた。それで、フレッドはシャーロットと進展はしているのか?」
フレッドはため息を吐く。
「進展? 進展ってなんですか? 美味しいですか? ソレ」
「まあ、やさぐれるな。ライリーも身を固める。そろそろおまえも身の振り方を考える時期に来ているのではないか?」
「そーですねー。でもオレは、もうボナールの人間なんですよ。今更ランバラルドへ帰って、ランバラルドで何か役に着くなんて考えられませんね」
「それなら、いっそのことフレッドがシャーロットと結婚するのはどうだ?」
「……はあっ?」
「ギルバート様、そろそろ帰ってお城でお茶にしましょう。ギルバート様がお喜びになると思って、私、昨日一生懸命クッキーとパウンドケーキを焼いたんですのよ」
シャーロットが微笑んでギルバートに手を差し出す。
「……あぁ、そうだな」
ギルバートはその手を掴み、二人はそのまま馬車まで歩いて行った。
馬車の中で、シャーロットは窓の外を眺めて、鼻歌を歌うほど機嫌が良かった。
「ギルバート様、お天気が良くて、植物園で食べたお弁当も美味しくて楽しかったですわね」
笑顔でそう言うが、ギルバートはシャーロットのあまりの機嫌の良さに、もしかしたら無理をしているのではないかと、ふと不安になった。
先ほどのシャーロットは、ライリーのことは吹っ切れているように見えたのだが……。
「……シャーロット」
向かい合わせで座っている馬車の中、シャーロットは笑顔でギルバートに応える。
「なんですの? ギルバート様」
「わたしと結婚するか?」
シャーロットは目を見開き、ギルバートの顔を凝視する。
「……どうなさったんですの?」
「いや、弁当が美味かったなと思って」
「ふふ。お弁当が美味しかったから結婚ですの? 結婚しなくても、ボナールに来ていただければいつでもお作りいたしますわ。それに、ギルバート様にもちゃんとした方とご縁がありますわよ。こんな私のような者と結婚しなくても……」
「そんなに自分を卑下するものではないぞ。シャーロットだって、立派な女性だ」
また沈黙が訪れ、カラカラと馬車の車輪が廻る音だけが車内にこだまする。
「ギルバート様、私のことお好きですの?」
「もちろん、好きだぞ。我が娘のように愛している」
「ですわよねー。家族のような"好き"ですわね。娘とは結婚できませんわよ?」
「……そうだな。ちょっと言ってみただけだ」
「ふふっ、私もギルバート様を家族のように愛していますわ」
「それは当然だな」
「ギルバートお父様、お帰りになられる時にはお菓子をおみやげにお持ち帰りくださいね。何がよろしいか、リクエストがあればお応えいたしますわよ?」
「そうだな。娘の手作りの菓子だ。日持ちのするクッキーはもちろん、馬車の中で食べるからスイートポテトも必須だな」
「まあっ!では、徹夜でお菓子を作らなくてはなりませんわ!」
「大丈夫だ。若いんだから徹夜の一度や二度。精進しろ」
そんな会話をしているうちに、馬車はボナール城に到着した。
ギルバートは、シャーロットの手作りお菓子を堪能し、夜はシャーロットとフレッドの3人で晩餐を囲んだ。
翌日はシャーロット自慢の温泉施設に招待してもらい、その施設から直接ランバラルドへ帰国する予定だという。
シャーロットはギルバートの帰国を残念がりながら、今夜はお菓子をたくさん作ると、張り切って晩餐の場を後にした。
「フレッド、この後少しいいか?」
「ギルバート様、オレは時間ありますけど……」
「では、あとでわたしの部屋に来てくれ」
ギルバートはナプキンで口元を拭うと、席を立った。
フレッドは一旦執務室に行き、少し仕事を片付けてから、ギルバートの部屋を訪れた。
「ギルバート様、失礼します」
ギルバートは侍女や侍従を下がらせ、一人ソファで寛いでいた。
「フレッド、ここへ座れ」
「はぁ。では」
フレッドは居心地悪く思いながら、向かい側へ腰を下ろした。
フレッドにとって、ギルバートは年下ではあるが身分が自分よりも上なこともあり、なんとなく素では対応できない相手であった。
テーブルの端に置いてあったティーセットを使い、ギルバートはフレッドに紅茶を入れて差し出した。
「……イタダキマス」
フレッドは紅茶に口をつける。
「実は今日、シャーロットにプロポーズをした」
ぶーっっ!!
思わずフレッドは含んだ紅茶を噴き出す。
「汚いな、何をやっているんだ!」
ギルバートはフレッドにポケットに入っていたハンカチを投げた。
フレッドはハンカチをキャッチし、口元を拭う。
「だって、ギルバート様、プロポーズって、えっ? プロポーズって言いました?」
「プロポーズと言った」
フレッドは顔色を青くし、ポカンと口を開けてギルバートを見ていた。
「プロポーズしただけだ。他に何もない」
「あるでしょうがっ! プロポーズですよ」
「だが、父親とは結婚できないと笑われた」
「は?」
「いや、ライリーの奥方になる者の話をしていてな。シャーロットはもうライリーのことは終わったことだと言っていたが、それを聞いて思わず、な」
「ええー……、なんですかその話の流れは」
ケホケホと咳き込むフレッドに対し、ギルバートは優雅に紅茶を飲む。
「シャーロットはもうライリーのことはいいと言っていた。それで、フレッドはシャーロットと進展はしているのか?」
フレッドはため息を吐く。
「進展? 進展ってなんですか? 美味しいですか? ソレ」
「まあ、やさぐれるな。ライリーも身を固める。そろそろおまえも身の振り方を考える時期に来ているのではないか?」
「そーですねー。でもオレは、もうボナールの人間なんですよ。今更ランバラルドへ帰って、ランバラルドで何か役に着くなんて考えられませんね」
「それなら、いっそのことフレッドがシャーロットと結婚するのはどうだ?」
「……はあっ?」
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