61 / 255
6章 再生
9
しおりを挟む
ルーク様の名前を聞いた瞬間、わたしの前世の記憶が全て蘇った。
今まで感じていた違和感。
覚えのない思い出。
それらは前世の記憶だったのだ。
記憶が蘇って、とても悲しかった。
ルーク様をあそこに一人で置いていってしまったこと。
愛する家族を悲しませてしまっただろうことが、とてもとても悲しかった。
もう、どうすることもできないけど、どういう風に過ごしているか、こっそり見に行くくらいは許されるだろうか。
それに、ルーク様はローゼリア様と婚約したという。
あんなに毛嫌いしていたローゼリア様と婚約って、大丈夫なのだろうか……。
それとも、わたしが死んでから、徐々に近付いていって、愛に変わったのだろうか?
いずれにせよ、婚約もご結婚も、ルーク様のご意志なら良いのだけれど。
とにかく、幸運にもわたしはルーク様のお屋敷にご奉公に行くことができる。
もう、婚約者ではなくなってしまったから、何かあってもどうすることもできないけど、近くで見守ることはできる。
なによりも、わたしがルーク様に会いたい。
会いたくて会いたくて、ここに生まれてきたんだ。
もう一度あなたに逢いたくて。
生まれ変わっても記憶をしっかり掴んだまま、生まれてきたんだ。
デイヴィス侯爵家に行って、ルーク様に会いに行こう。
近くで、ルーク様にお会いするんだ。
わたしは希望を手に、侯爵家行きの支度を始めた。
出発の日。
「何か困ったことがあったら、すぐに帰ってくるんだぞ」
「はい」
「お父さんは、二週間に一度、本家と別棟の裏口から注文を受け取りに行くからな」
「はい」
「それから」
わたしの両腕を掴んで、目尻に涙を浮かべながら、まだ何か言おうとするお父さんを、お母さんがギロリと睨む。
「あなた。いつまでもそんなこと言ってたら、ニーナが行けないし、お待たせしている侯爵家の馬車の人にも申し訳ないわ」
「だって、おまえ」
「だってじゃありません! それに、二週間に一度は会えるんだからいいじゃないの」
ぐすぐすと、聞き分けのないお父さん。
わたしもお父さんに言う。
「お父さん。わたしにはお休みもあるのよ。お休みの日には帰ってくるわ。だから、安心してね」
「うん……うん」
ひよっこりと、デイヴィス家の執事フランクさんが馬車から降りてきて、お店に顔を出す。
「あのー、そろそろ出発したいのですが……」
フランクさんは、前世に会った時からおじいさんだったけど、全然変わっていなかった。
年、取ってないのかしら……。妖怪?
じーっと、フランクさんの顔を見るわたしに、「なにか?」と首を傾げるフランクさん。
「ごめんなさい。なんでもないです」
わたしは急いで鞄を掴んだ。
「では、お父さん、お母さん、ルフィ。行ってきます」
「……行ってらっしゃい」
3人は、わたしをぎゅっと抱きしめて、送り出してくれた。
馬車に乗り込んで、窓から手を振る。
「行ってきまーす!」
お店の外で見送ってくれた3人が見えなくなるまで、わたしは手を振った。
お店も見えなくなったので窓を閉めると、フランクさんか微笑んで向かいの席からわたしを見ていた。
「すみません。馬車で1時間もかからない距離なのに、今生の別れのように大袈裟で」
フランクさんはにっこり笑ってくれた。
「いいんですよ。今まで長い間家を空けたことなどないのでしょう。次のお休みには馬車を出して差し上げますから、ご実家に顔を出してあげるといい」
「はい。ありがとうございます」
「これから、侍女としての教育と実習が始まります。できれば、このままデイヴィス侯爵家の侍女として仕えてくださると助かります」
「はい。そのつもりです。どうぞよろしくお願いします」
ガラガラと馬車の車輪が回る音がする中、わたしは一番気になることを聞いた。
「あのー、わたしがお勤めするのは別棟の方ですよね? ルーク様のいらっしゃるところと思っていてよろしいでしょうか?」
「そうですね。しばらくの間は、会うことはまずないと思いますが、ルーク様が生活なさっているところが別棟です」
やっぱり、そう簡単にはお会いできないか。
でも、お姿をお見かけすることはあるわよね?
「そうですよね。偉い方なんですものね。わたしのような者はお目通りすることは難しいですよね」
残念だけど。
それでも、遠くからでもルーク様がお幸せそうに笑っているところが見られればそれでいいわ。
だって、ジーナはもういないんだもの。
ルーク様が他の人と結婚なさるのは、胸がとても痛いし、焼きもちを妬いてしまうけれど、それは仕方がない。
わたしは今はニーナで、ルーク様からしたら、他人なんだから。
だから、わたしが大好きだった、ルーク様の笑った顔が見られればそれでいい。
ルーク様のお姿を見ることができるかもしれないと、上機嫌で窓の外を見ているわたしに、フランクさんは残念そうに言う。
「そういう訳ではないのです。ルーク様は身分で会う会わないを決める方ではございません。ルーク様は、必要最低限の者以外、誰ともお会いにならないのです」
誰とも……って、どういうこと……?
今まで感じていた違和感。
覚えのない思い出。
それらは前世の記憶だったのだ。
記憶が蘇って、とても悲しかった。
ルーク様をあそこに一人で置いていってしまったこと。
愛する家族を悲しませてしまっただろうことが、とてもとても悲しかった。
もう、どうすることもできないけど、どういう風に過ごしているか、こっそり見に行くくらいは許されるだろうか。
それに、ルーク様はローゼリア様と婚約したという。
あんなに毛嫌いしていたローゼリア様と婚約って、大丈夫なのだろうか……。
それとも、わたしが死んでから、徐々に近付いていって、愛に変わったのだろうか?
いずれにせよ、婚約もご結婚も、ルーク様のご意志なら良いのだけれど。
とにかく、幸運にもわたしはルーク様のお屋敷にご奉公に行くことができる。
もう、婚約者ではなくなってしまったから、何かあってもどうすることもできないけど、近くで見守ることはできる。
なによりも、わたしがルーク様に会いたい。
会いたくて会いたくて、ここに生まれてきたんだ。
もう一度あなたに逢いたくて。
生まれ変わっても記憶をしっかり掴んだまま、生まれてきたんだ。
デイヴィス侯爵家に行って、ルーク様に会いに行こう。
近くで、ルーク様にお会いするんだ。
わたしは希望を手に、侯爵家行きの支度を始めた。
出発の日。
「何か困ったことがあったら、すぐに帰ってくるんだぞ」
「はい」
「お父さんは、二週間に一度、本家と別棟の裏口から注文を受け取りに行くからな」
「はい」
「それから」
わたしの両腕を掴んで、目尻に涙を浮かべながら、まだ何か言おうとするお父さんを、お母さんがギロリと睨む。
「あなた。いつまでもそんなこと言ってたら、ニーナが行けないし、お待たせしている侯爵家の馬車の人にも申し訳ないわ」
「だって、おまえ」
「だってじゃありません! それに、二週間に一度は会えるんだからいいじゃないの」
ぐすぐすと、聞き分けのないお父さん。
わたしもお父さんに言う。
「お父さん。わたしにはお休みもあるのよ。お休みの日には帰ってくるわ。だから、安心してね」
「うん……うん」
ひよっこりと、デイヴィス家の執事フランクさんが馬車から降りてきて、お店に顔を出す。
「あのー、そろそろ出発したいのですが……」
フランクさんは、前世に会った時からおじいさんだったけど、全然変わっていなかった。
年、取ってないのかしら……。妖怪?
じーっと、フランクさんの顔を見るわたしに、「なにか?」と首を傾げるフランクさん。
「ごめんなさい。なんでもないです」
わたしは急いで鞄を掴んだ。
「では、お父さん、お母さん、ルフィ。行ってきます」
「……行ってらっしゃい」
3人は、わたしをぎゅっと抱きしめて、送り出してくれた。
馬車に乗り込んで、窓から手を振る。
「行ってきまーす!」
お店の外で見送ってくれた3人が見えなくなるまで、わたしは手を振った。
お店も見えなくなったので窓を閉めると、フランクさんか微笑んで向かいの席からわたしを見ていた。
「すみません。馬車で1時間もかからない距離なのに、今生の別れのように大袈裟で」
フランクさんはにっこり笑ってくれた。
「いいんですよ。今まで長い間家を空けたことなどないのでしょう。次のお休みには馬車を出して差し上げますから、ご実家に顔を出してあげるといい」
「はい。ありがとうございます」
「これから、侍女としての教育と実習が始まります。できれば、このままデイヴィス侯爵家の侍女として仕えてくださると助かります」
「はい。そのつもりです。どうぞよろしくお願いします」
ガラガラと馬車の車輪が回る音がする中、わたしは一番気になることを聞いた。
「あのー、わたしがお勤めするのは別棟の方ですよね? ルーク様のいらっしゃるところと思っていてよろしいでしょうか?」
「そうですね。しばらくの間は、会うことはまずないと思いますが、ルーク様が生活なさっているところが別棟です」
やっぱり、そう簡単にはお会いできないか。
でも、お姿をお見かけすることはあるわよね?
「そうですよね。偉い方なんですものね。わたしのような者はお目通りすることは難しいですよね」
残念だけど。
それでも、遠くからでもルーク様がお幸せそうに笑っているところが見られればそれでいいわ。
だって、ジーナはもういないんだもの。
ルーク様が他の人と結婚なさるのは、胸がとても痛いし、焼きもちを妬いてしまうけれど、それは仕方がない。
わたしは今はニーナで、ルーク様からしたら、他人なんだから。
だから、わたしが大好きだった、ルーク様の笑った顔が見られればそれでいい。
ルーク様のお姿を見ることができるかもしれないと、上機嫌で窓の外を見ているわたしに、フランクさんは残念そうに言う。
「そういう訳ではないのです。ルーク様は身分で会う会わないを決める方ではございません。ルーク様は、必要最低限の者以外、誰ともお会いにならないのです」
誰とも……って、どういうこと……?
14
あなたにおすすめの小説
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?
白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。
王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。
だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。
順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。
そこから始まる物語である。
【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜
よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。
夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。
不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。
どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。
だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。
離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。
当然、慰謝料を払うつもりはない。
あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる