幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第4章

135 信じて

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「ごめんな、秋風。俺……お前のこと、気持ち悪いなんて……思ってない」
「……え…………?」

 秋風の体が震えているのも、心臓が跳ね回っているのも、くっついたところから痛いほど伝わってくる。

 俺は嘘のないよう、できるだけ赤裸々に心の内を吐露した。

「正直……ドッキリかと思うほどびっくりはしたんだ。俺のこと、好き……とか、言ってくれる人、この世にいるわけないって思ってたから。俺の貯金とか、立場目的なら分かる。ごちゃまぜの看板って、すごいもん。でも……秋風に限ってはそれがあり得ないじゃん」
「……」
「お前は、俺よりずっと成功してて……すごい奴だし、綺麗だし、手に入らないものなんてない。俺なんか選ばなくても、選びたい放題なのに。そんな奴が、俺を? ……あり得ないって……思った」

 俺は顔を上げ、秋風を見上げて続けた。

「だから、すげーびっくりしたし、無理やりされそうになって怖かったし、目の前にいるのが俺の知る秋風じゃないように見えて、おかしいってパニックになったんだけど……。でも、気持ち悪いとは、全然思わなかった。……今は、あれは演技だって分かってるから、怖くもないし」
「…………」

 秋風は目を見開いて固まっている。

 しばらく返事を待って見つめていたら、やがてか細い声で俺に聞いてきた。

「…………ほんとう…………?」
「……うん……本当」
「でも、波青は……、…………」
「……」

 言いかけて黙ってしまった秋風の引っかかっていることが、俺はなんとなく分かる気がした。

 ──『あ、誤解しないでくれ!! イチャイチャとか言ったけど、俺は断じてホモではない!! 男同士とか、BLとか、リアルは気持ち悪いと思ってるし!!』

 きっと……あの言葉のせいだ。

 あんなことを言った俺が今更『気持ち悪くないよ!』と言ったところで、そんなの見え透いた嘘に聞こえるに決まっている。

 本当、愚かでしかなかった。

「……っ」

 過去の自分の発言を思い出し、後悔しながら、俺は秋風に伝えた。

「こないだの打ち上げの時……最悪だったよな? 俺」
「……! いや…………」
「リアルは気持ち悪いって言ったのは、あの時……BLって単語出した自分がみんなに引かれてるって思って、なんとか誤解を解かなきゃって……。それで、慌てて男同士を下げるような言い訳をしたんだ。そしたら、俺に狙われてないって分かってくれて、みんなが安心してくれるかと思った。そういう、ただの自己保身だったから、あれは特定の誰かとか、秋風に向けたものじゃなかったんだけど……。……」

 我ながら、全く弁解にもなっていない最低な発言だ。

 それでも、もうありのまま言うしかない。

「けど……誰かに向けたものじゃないって言っても、そんなの通用しないよな。俺の発言の主語がでかいせいで、色んなところを巻き込んだし、全方位に失礼だし、しかも無意識なのが余計やばいんだって。みんなに教えてもらった。それでやっと、色々理解できて……。良い歳なのに、まじで恥ずかしい、俺……」
「…………」

 秋風は俺の大人とは思えない稚拙な説明を、黙って聞いてくれている。
 俺はそれに甘えて、話を続けた。

「男同士が『ないわ』って思ってたのは……身近にそういう人が全然いなかったから、想像力が足りてなかった。ネットとか漫画とかアニメで見るものとしか、捉えられてなくて。俺にとっては、輪郭がぼやけてて、それは、ファンタジーというか、遭遇しないものというか……。実際にそれで悩んでいる人たちもいるのに、自分や自分の周りには関係ないことだからって、簡単にディスって。とにかく、視野が狭かったんだ。すごい、浅はかだった……」

 もう、苦しすぎて今すぐにでも逃げ出したい。こんなにもバカな俺を秋風に見られていることが辛い。きっと、秋風にも『なんて奴だ』って軽蔑されているはずだ。

 (……っ……でも……)

 これも受け入れるべき一種の罰だと思い、俺はなんとか目を逸らすのを耐えた。

「……」

 しっかり、自分の目で現実を見なければ。自分のした発言の責任は、自分でとらなくては……。

「ごめんなさい。これに関しても自分目線で、自分にとってはあり得ないって思ってただけで、他の人の恋愛のことを言ってるつもりじゃなかったんだ。それでも、秋風を傷つけたことや、該当の人が聞いたら傷つくことには変わりないから、ほんとに反省してる。もう軽率なこと、言わないように気をつける……。自分以外の人のことを、もっともっとちゃんと考えられるようになりたいと思う」

 俺はぐっと拳を握りしめ、秋風の瞳に向かって訴えかけた。

「俺、頑張って、ちょっとずつ変わりたい。だから……こんなこと言う資格もないかもしれないけど……、……俺のこと……信じてほしい。……です……」
「…………」

 秋風は瞳の中を揺らしながら、俺に言い聞かせるような優しい声で返してきた。

「あのね……波青。俺……なにも怒ってないよ」
「……え?」
「波青は、なに一つ悪いことをしてない。勝手な気持ちを隠してた俺が悪いだけだよ。波青は、知らなかったんだから。知ったから……今になって悪いことをしたなとなっているんだろうけど、それは良くないんじゃないかな」
「え……」
「だって、それは、波青の気持ちを歪めていることでしょう? 俺への罪悪感で、波青の形が無理やり変えられてしまうのは良くない。波青には、自分の中のありのままの感情を大事にしてほしいし、大事にする権利があるよ。だから、そんなふうに、俺に対して謝ったり、申し訳なく思ったり、気を遣ったことを言わなくていいんだよ。俺は大丈夫だか──」
「違う!!!」

 思わず大きな声で反論してしまった。秋風はびっくりした顔で、俺を見返している。

「秋風に気を遣ってるわけじゃ……ない」
「……」
「本当に俺、本心から、心の底から言ってるんだ! 俺が取り返しのつかないことをしたから、お前が疑わしく思うのも当然だけど、でも本当なんだ。……えっと、た、っ確かに、お前は俺の理解の範疇の外にあることばっかする……! 理解できないし、意味分かんなくて、こいつどうかしてるって……不安になる時は少しあった……正直に言うと。あと、部屋も……人間味が……、……いや、これは今は関係ないかもだけど…………」
「…………?」
「つ、つまり……! 正直、お前と俺の価値観はあんま一緒じゃないと思うっ……! 俺にとっての普通が、お前にとっては違うかもしんない。よくわかんない。俺からしたら……。お前も、そうだろ? ……でも……意味わかんなくても、普通じゃないとしても……秋風は、秋風じゃん。わかんないなら、これからいっぱい話して、ちょっとずつわかるようになりたい。……と思う」
「…………」
「だって、秋風は、小学生の時からずっと、俺にとって特別で、大切な存在だから……。お前のこと、諦めたくない。秋風との今までの思い出、貰った言葉、見せてくれた笑顔……全部全部嘘とか、そんなの……。思えないし、俺、思いたくないんだよ……」

 俺はぎゅっと眉を寄せ、秋風の頬に触れた。

「なぁ、秋風。俺を信じて」

 目を見開いたままの秋風が、呆然と言った。

「……波青…………。……無理して、ない?」
「無理してない」
「……本当に、俺が、気持ち悪くないの……?」
「うん」
「……」

 どこか幼子のように見える喋り方だ。
 俺は不思議に思いながらも、秋風の問いに何度となく頷いた。

「俺が、怖くない……?」
「うん」
「俺のこと……嫌いじゃないの?」
「うん……嫌いじゃない」
「嘘だ……。俺に、裏切られたって、思うでしょ。許せないって……」
「思ってない」
「……っ」

 秋風はあり得ないと言わんばかりに弱々しくかぶりを振った。

 それから、まるで罪人が罪を告解するみたいに、笑って、震えた声で言った。

「俺……波青のこと、好きなんだよ」

 それを見て、気がついた。

「波青に……恋愛感情を持ってる…………」
「…………」

 ──ああ。秋風は、俺の反応を怖がってるんだ。俺に自分を怖いと思われることを、怖がっているんだと。

 どうして、今まで気づいてあげられなかったんだろうか。

 こいつが毎日、どれだけの恐怖を抱えていたか。

 いつ俺にバレて、全てが終わるか。俺に軽蔑の眼差しを向けられるか、覚悟して、それでも恐怖を閉じ込めて、ずっとずっとそばにいてくれてたんだろう。

 (俺は…………)

 ずっと、秋風を安心させてあげられないまま、無理やり笑わせていたんだ。

 内心ビクビクしたまま、俺の望む友達として振る舞い続けるのは、どれだけ苦しかったか。俺なんかには、推し量れないくらい。信じられないくらいの苦痛があったはずだ。

「知ってるぞ。お前が教えてくれたから、もうちゃんと知ってる……。お前が、俺のことを、好きだって言ってくれてること。それは『友達の好き』じゃ、ないんだってこと」
「……!! っ……」

 びくっと体を跳ねさせた秋風が、後ろに一歩引こうとする。

 でも、俺は秋風の体を掴み、自分のそばに引き留めた。

「だけど……お前はお前だから。気持ち悪くないし、怖くないし、嫌いじゃない」
「……え……?」
「お前は俺を、裏切ったりしてない。俺が言うんだから、絶対にそうだ」
「…………俺は、波青を、裏切ってない…………?」
「うん。秋風は俺を、裏切ってない」

 俺は秋風の言葉を復唱するように繰り返した。

「だから、大丈夫」
「…………っ……」

 その瞬間、秋風の目から涙があふれて、落ちてきた。

「…………」

 少しでも、秋風を安心させてやりたい。恐怖から、不安から、解放してあげたい。

 そんな気持ちを込めて、俺はゆっくり背中をさすった。

 静かに泣く秋風のことを、ずっとずっと抱きしめていた。
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