幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第4章

140 家族

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 俺は正直……秋風を酷い目に遭わせたなんて許せないし、秋風のご家族に対してどうしようもない怒りを感じてしまっている。

 (俺も秋風のことをたくさん傷つけたから、人のことを言えるような立場じゃないけど……)

 でも、やっぱり腹は立ってしまう。

「……どうかな……」

 秋風は静かに俯き、俺の質問に答えてくれた。

「憎んではないんじゃないかな。……ただ、俺は……ご家族を大事にしている波青を見て。俺もそうなれたらって、思ったんだ」
「え……?」
「俺も家族のことを……大事にしてみたかった。さっき言ったように、実の父親は顔も声も知らなくて、生まれてから一度も会ったことはないんだけど……。母はちゃんと本当の母親だし、妹も、半分だけど血が繋がっている」
「うん……」
「だから、波青がみーちゃんやかいくんを可愛がっているように、俺も妹と良い関係を築けないかなと思ったんだ。……でも、どうしても、妹のことをかわいいと思えなくって。いつも母から望まれるまま、『かわいい』と口に出すだけで…………」
「……」

 (『母から望まれるまま』……)

 そうか。そうだったのか。

 (秋風は妹さんを可愛がってるイメージがあったけど……あれはお母さんの期待に応えようとしてだったんだ)

 配信上でかわいい妹と聞いていた割に、ミュージカルの時初めて二人の会話の様子を見たらなんだか嫌な感じがしたから不思議だった。

 あの時俺が感じた謎の不快感は……多分合っていたんだろう。

「…………」

 さっき秋風に聞いた話では、妹さんは結構曲がった人だ。

 秋風を顎でつかうわ、暴力を振るうわ、卑劣な手段で陥れて家を追い出されるよう誘導するなんて。
 許せるわけがない。

 (……だけど……。ここで俺がキレるのは、違うよな。……ちゃんと、冷静にならないと)

 俺は込み上げてくる怒りをなんとか抑えながら、秋風に聞いた。

「そういえば、ミュージカルの時、お前楽屋で妹さんに何か耳打ちされてたよな。あれは、なんて言われてたんだ?」
「! あ……」

 聞いた瞬間秋風の眉間に皺が寄り、険しい表情になってしまった。

「……秋風?」
「……波青を……嫌な気持ちにさせてしまうかも……」
「大丈夫。教えてくれ」
「……。……分かった」

 俺が頼むと、秋風は自分の顔を押さえて小さく口にした。

「……アキとかなんとかチヤホヤされて勘違いしてるみたいだけど……お兄ちゃんは、どこまでいってもただのペットじゃん、って。ペットのくせに、何調子に乗ってんのって……、……そんな感じのことを、言われたよ」
「………!!!」

 (……~~っふざけんな……!)

 まさか、そんなことを言われていただなんて……。

 完全に、秋風のことをわざと傷つけようとしている。妹さんの言葉からは、悪意しか感じない。

 思わず、拳に力が入ってしまった。

「……っ……、みんなで、関係者席に来てたの……。あれも、命令されてか……?」

 俺は怒りで声が震えないように、深呼吸をしてから言った。

「!! あ、うん……。あれは、妹じゃなくて母から頼まれたんだけどね」
「……! お母さんから……」

 すると秋風は寂しそうに笑い、遠くを見つめた。

「……俺は結局、今もまだ母を諦められていないんだろうな」
「え……」
「……母から俺の舞台を観に行きたいと言われた時、すごく驚いたんだけど、同時に嬉しかったんだよ。あの人が俺の仕事に関心を示すのは初めてだった。二十四年間生きてきて、初めて母の視線が俺に向いたって、本気で思ったよ」
「秋風…………」

 秋風は長いまつ毛を伏せ、無感情な声で続けた。

「でも……終わった後に感想の連絡が来たのは妹からだけだった。怜さん……俺の義姉が関係者席のチケットを気まぐれで欲しがったから、母はそれに従っただけなのだろうね。なのに、妙な期待をして……本当に愚かだったな」
「……」

 (『終わった後、連絡』……)

 そういえば……。ミュージカルの日俺が秋風の楽屋に行った時、話し声が聞こえてきたんだっけ。

 あの時秋風が電話していたのは、妹さんだったのかもしれない。
 秋風の様子がおかしかったのも、きっと妹さんにまた酷いことを言われていたからだろう。

「……妹にも、『良い歳して諦められないでバカみたい』と言われたよ。……本当にその通りだと思った」
「……!」
「母に、今まで俺にかけてくれたお金を返した時の反応で、もう分かっていたはずなのに。一人暮らしをして、もう物理的に距離もとっているのに。なんでだろうね。長い年月、諦められずにいる。どうしても……。華の言う通り、本当に馬鹿馬鹿し──」
「秋風はバカなんかじゃない」
「……!!」

 俺は思わず身を乗り出して遮り、秋風を正面から抱きしめていた。

 今は恋愛どうこうではなく、一人の友達として、そうしなきゃいけないような気がした。

「子供が親に……っ期待して、何が悪いんだ? 年齢なんて、距離なんて、関係ないだろ。親は、唯一無二の存在なんだ。その人しか、いないんだ」

 秋風にとっては、お母さんしかいない。誰にも代わりなんてなれやしない。
 俺は、母さんから無償の愛を受けた。でも、双子や……秋風は、知らないんだ。それが、いったいどんなものか。

「妹さんのことをかわいいと思えないのも、当たり前だ。自分を大事にしてくれない人は、お前だって大事にしてあげる必要はないんだ」
「! え……」
「桃星が言ってたぞ。『僕を人間として尊重してくれるから、僕もしゅーかを人間として尊重する。そういう関係が居心地良い』……って。お前は、たくさんの人に優しさを向けられる人だから、みんながお前に優しさを返したがる。妹さんみたいに、優しさを返してくれない人は、対等な関係じゃないから、無視で良いんだよ。秋風が一方的に頑張る必要なんかない」
「…………いい、のかな……? 頑張らなくても……」

 秋風がぽつりと呟いたから、俺は一度距離を取ってその顔を覗き込んだ。

「良いに決まってるだろ?」
「……妹を……家族を愛せない俺は、おかしくない? 波青にとって」
「……。秋風さ、海乃莉と海依斗にかなり好かれてるぞ。あいつらと裏で交流あったんだって? 二人に話聞いたけど」
「……!! 聞いたの……?」
「うん。俺が知らないところで色々やり取りしてたらしくてビビったわ……」
「ご、ごめん……っ!」
「いや、あいつらからお前に接触してきたんだろ? 秋風の学校に突撃したって。むしろ、今まで色々迷惑かけて悪いな」
「ううん。迷惑どころか、かいくんやみーちゃんと話すのは、すごく楽しかった。それに、離れていても波青の気配を感じられて……救われたよ」
「……」

 秋風の言葉を聞き、俺はにんまり笑った。

「あいつら、良い子だよな」
「! うん。すごく……」

 秋風も即答で頷いてくれた。

「……へへ。あのな、俺……秋風の妹や弟があいつらだったら、すっごい良い関係を築けたと思うんだ」
「……!」
「つまり……何が言いたいかって言うとさ……。……絶対、『お前が悪いわけじゃない』んだってこと。俺だって、双子が良い子達だから特にギスギスすることもなく可愛がれてるんだよ。俺の家族があいつらじゃなかったら、もしかしたら結果は違ったかも。たぶん、この世の中、家族だったらどんなに酷い奴でも愛せる!! って、そんなわけはない……、……と思う」

 今までの俺は、自分の枠にはめ過ぎていた。

 家族なら、絶対に〇〇だろって、いつも決めつけていた。秋風が泊まりに来た日、本人にもそんなようなことを言ってしまったかもしれない。

 けど……違ったんだ。

「全部人それぞれだって、みんなと話して分かった。人それぞれ違うから、仲の良い家族もいるし、そうじゃない家族もいる。それは……本人の努力が足りないとかじゃなくって、人間としての相性の問題も、環境の問題も、心の余裕の問題も、時間の問題も、人それぞれに、たぶん事情は色々あって……。絶対こうじゃなきゃってものはない。……だから、秋風はなんにもおかしくないんだ」
「……波青……」

 秋風は瞳を揺らし、どこか幼い表情で俺を見ていた。

「……俺……波青に、嫌われちゃうかと思った。波青に幻滅されたらどうしようって。家族と良い関係を築けない俺は、人を大切にできない奴だと思われるって……」
「んなわけねーよ! そんなことよりな、俺はお前が苦しむのが一番嫌だ」
「……!!」

 俺は不安そうな秋風に、ゆっくりと言い聞かせた。

「秋風は、嫌な人から離れて、自分を大事にして欲しい。いや、お前のことをたくさん傷つけた俺が言えることじゃないんだけど……それでも……。……──あ……っ!」

 俺は言っている途中でミュージカルの日のことを思い出し、眉を釣り上げた。

 あの時妹さんが秋風に書かせようとしていたサインの数はあまりに多かったし、こき使われているとしか思えなかった。嫌な人から離れるってなんだろうって具体的に考えれば、それは、ああいうのにちゃんとNOをしていくことだと思う。

「そうだ! サイン……! もちろん、妹さんからのサインの招集とかも、ああいうのも嫌だったら全部断って良いんだぞ!? 一方的な命令なんて、秋風が従順に聞いてやる必要ないんだからなっ」
「……そうだよね……。言うことを聞いていたのは、良い兄でいなきゃと思っていたのもあるし、華を無碍にするといつも詳細を母さんに告げ口されるから……。華から俺のことを聞いた母さんに、やっぱりこんな奴産まなきゃ良かったってまた言われるのが怖かったんだ」
「…………っ」

 秋風の言葉に、胸がズキリと痛んだ。

 『また』ってことは、今まで言われたことがあるのだろう。

 実の親からそんなことを言われて、どれほどの傷を負っただろうか。絶対に、簡単に癒えるような傷じゃない。
 俺だったら、四六時中頭から離れなくなってしまう重い言葉だ。

「だけど……、もう……離して、良いんだね」
「え?」

 秋風はぽつりと言い、目を閉じた。

「母さんや、華の手を……」
「……。うん。秋風が……離したかったら離していいんだ」

 俺は手を伸ばして、秋風の頭をできるだけ優しい力で撫でた。

 さらさらと、綺麗な色の髪の毛が俺の手の下で流れている。

「でも、まだ持っていたいなら、持っていたら良いと思う」
「……!」

 俺の言葉に、秋風がぱちっと目を開けてこっちを見た。

「嫌な人から離れてとは言ったけど……こういう大事なことは、俺が決められることじゃないから。秋風自身が、悔いの残らないようにじっくり考えたら良いと思う。誰にも急かされる筋合いはないし、本当にゆっくりで良いんだ」
「……うん」
「秋風、今までよく頑張ったな」
「…………うん……」

 秋風が再び目を閉じて俯いた。

 涙が流れないようにそうしていると気づいたから。

 俺は静かに、秋風から目を逸らした。
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