幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第4章

155 二人でゲーム

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「うぎゃーーーっっっ!!!!」

 ──おかしい。

 なんだこれは。

 (俺がボコボコにしようと思ったのに……!!!)

 秋風にゲームで勝ってぎゃふんと言わせるために、意気揚々とスタートしてみたは良いものの。

 現実は、後ろからアイテムの甲羅が当たって、俺のレーシングカートがスピンしてしまっている。

 やっと復活したかと思えば今度はバナナを踏んで、またもクルクル……。

「あー……っっ!!!」

 そうこうしているうちに、コンピューターにすらどんどん抜かされていく。

 そんな俺を横目に、秋風がすんなりと一位でゴールしてしまっている。

「っ……!!」

 (く……くそう!! なんでだよ!! 俺がボコボコにされてるじゃねーか!! 計画と違う!!)

 おかしい。おかしすぎる。

 初心者にこんな大差で負けるだなんて……、あり得ない。

「おまっ……コソ練したな!??」

 俺は思い切り眉を吊り上げ、秋風を尋問した。

 しかし、秋風は目を瞬いてとぼけている。

「? してないよ」
「で、でも……! じゃあ、ソフトすら持ってないのになんでこんな上手いんだよ!!?」
「! あ……」

 すると、秋風は思い当たる節があったのか、気まずそうな顔をした。

「ソフトは持ってないけど……珀斗に付き合わされて、ごちゃハウスでやったことならあるよ。完全な初見プレイというわけではないんだ。あと、波青とゲームするのが楽しみだったから、色んな動画を見てた。そしたらつい、やり方を覚えちゃったのかな…………」
「……」

 何が、『ついやり方を覚えちゃった』だよ。申し訳なさそうに言うな。『この万能マンが! 悔しいっっ!!』と『そんなに楽しみにしてくれてたのかよ! かわいいっっ!!』の感情が混ざってぐちゃぐちゃだ。

「く~~っ……! もっ……もっかいだ!!」
「ふふ。うん」

 俺は悔しさに悶えながら、レースを再スタートさせた。

 (次こそ絶対勝つ……!!!)

 うちの実家とは全然サイズの違う大きなテレビ画面に、色とりどりのカートがびゅんびゅん爆走する映像が映っていく。

 今のところ秋風の後ろではあるけど、そんなに距離を離されてはいない。
 二レース目の俺は結構順調だ。

 ようし、今回は後ろから来る甲羅に気をつけて……。

「──あーーーー!!!」

 と思ったら、アイテムボックスの前で、突然雷を落とされてしまった。
 雷のせいで俺のカートがまたもスピンし、体も小さくなってしまっている。

「くっそー……!! 今……!! 今、お前だろ!! 秋風!! 俺にサンダー落としたなッ!?」
「違うよ……! 俺じゃない」
「ほんとかよっ!」
「ほんとだよ。俺、波青の前にいるもん。雷は下位の人しか引けなかったよね? たしか」
「! お、おお……。そうだな……。疑ってごめん」
「ううん。可哀想だからしばらく待っていてあげるよ」
「……っっっ」

 (くそぉ!!!)

 『可哀想だから待っていてあげる』、だと……!?

 こやつ、間違いなく俺を舐め腐ってる。完全に舐めプしようとしてやがる。

 (てか、本当に止まってるし……!!)

「……あ。波青、来た」

 近づくと、秋風のカートは本当に止まっていた。

 しかものんびり『波青、来た』だなんて呟く余裕もあるとは。

 (そうやって俺を舐めてっと、痛い目見るんだからな……!?)

 俺は絶対に目に物見せてやる! と思い、抜かしざま秋風を思い切り挑発した。

「なははは!! 抜かすぜーー!! ばーかばーか!! お前、『うさぎとかめ』知らんのか!? そうやって、うさぎみたいに舐め腐ってサボってっと──」
「えいっっ」
「ぎゃー!!!!!!」

 抜かした瞬間、秋風からブーメランが飛んできて、思い切り被弾してしまった。

 大爆発している画面の中の自分のカートを見ながら、俺はブルブル悔しさに震えた。

「おまっ……! おま……!!!」
「あははっ……!」
「これがやりたかったから俺を待ってたんだな!?」
「違うよ。良くないね、波青は。またそうやって人を疑って……」
「嘘つけ! 今度は絶対そうだろっっ!!」

 コントローラーを持ったまま肩で体当たりすると、秋風が笑いながらよろけた。

「あはは、ずるい。リアル攻撃してくるなんて。フェアじゃないよ」
「うるせー! 勝てばいーの、勝てばッ!!」

 俺のリアル攻撃によって、秋風は今操作できないでいる。

 (よーし、今のうちだ……!)

 秋風が戦闘不能になっている間に俺は急いでカートを動かし、今度こそ秋風を抜かした。

 あと一周でゴールだ。

「波青、待って」
「へーん、待たないよーだ!!」
「でも、危ないんだよ。波青の後ろからスターの人が……」
「──ええ!?」

 スターは無敵状態だ。スターの人に当たったらやばい。

 でも、これは引っ掛けだろうな。秋風はすぐ嘘をつくから。

「俺は騙されないぞ!!」
「あ……」
「ギャーーー!!!」

 今回は本当だった。

 (なんでだよ!!!!)

「だから言ったのに……」

 スターの人にぶつかったせいでまたもやスピンしてしまった。
 そんな俺を可哀想な目で見ながら、秋風がすーっと追い越して行ってしまう。

「ッ……、っううう……ひどすぎる。秋風、許せねー」

 俺は座っているカーペットをバンバン叩いて悔しがった。我ながら、子供みたいだ。
 秋風とこうしていると、まるで小中学生の頃に戻ったように思えるからかもしれない。

「許せないって……スターの人は俺じゃないよ? なんで俺に怒るの?」
「全部全部秋風が悪いっ……!!」
「理不尽だ」

 半泣きの俺を気にしてか、秋風はゴールの少し手前でまた止まってくれている。

「波青、ここで待ってるよ。だから泣かないで」
「……!!」

 勝ちを譲ってくれるというのか……。優しい奴だ。

 (…………それとも、さっきみたいにまたブーメランをぶつけてくるか……?)

 俺が油断したところをいじめる作戦かもしれない。油断できない……。

 (でも……秋風のカートの周りに、今度は何も浮かんでないな……?)

 ブーメランみたいな危ないアイテムを持っていたとしたら、俺から見えるはずだ。何も見えてないってことは……つまり、秋風は今丸越し。

 (……!! まるごし……ちゃ、チャンスだ……!!!)

 俺はハッとし、急いで止まってくれている秋風を抜かした。

 そして、『復讐するチャンスありがとな!』と思いながら、後ろの秋風めがけてバナナの皮のアイテムを投げつけてやる。

「ざまぁ! 秋風め、これでもくらえ~~!!」
「……」

 ヒューーーン。

 ──その瞬間、秋風が爆速で隣を駆け抜け、俺よりも先にゴールテープを切ってしまった。

「…………へ? え……な、なにっ……!?!」

 俺はたった今目の前で起こったことが理解できず、あんぐり口を開けて秋風と画面を二度見した。

「連打できるキノコを持ってたんだ」
「!! なっ……!!」

 キノコとは、スピードがアップするアイテムだ。甲羅みたいな危ない物を持っていないと思ったら、キノコを隠し持っていたとは……。全然見えなかった。
 それで急に加速して、ゴールしてしまったというわけか。

「おまっずるい……!! 持ってんなら先に言えよ!!」
「波青がバナナでいたずらをするからだよ。いたずらをしなかったら、そのままゴールを譲ってあげていたのに。悪いことをすると自分に返ってくるという教訓だね」
「ッッッくっ……! う、うるせーー!! 屁理屈言うなっっ!!!」

 俺はみっともなく叫んで秋風に飛びかかった。

「ははは……!」

 秋風は爆笑して、簡単に俺に押し倒されている。

「バカ!! もー!! 俺、怒った!! マジで怒ったからな!?」
「ふふ。怒ったの?」
「怒ったぞ!!」
「かわいい……」

 秋風がくすくすと笑っている。怒られているのに、嬉しそうだ。こいつ、ドMか……?

「何がかわいいだ!! 絶対絶対ぜーったいに俺が勝つまでやるからな!!」
「良いけど……そうなると、日が暮れちゃうよ?」
「ッッッ!! もー!!!!」
「あははっ……!! 『もー』って……! かわいすぎる……」
「うるさい!!」

 俺は口の減らない秋風に一発頭突きをおみまいしてから、新しいソフトに変えた。

 (くそが…………)

 レースゲームはダメだ。不利だ。誰だよ、レースゲームなんて持ってきたやつは。

 (…………──俺か…………)

「……っっ……今度はパーティゲームにするぞっ!!」

 俺はぶんぶんと首を横に振って気持ちを切り替え、同じシリーズのパーティゲームを起動させた。

「いいよ、やろー」
「くーっ……今に見とけよ……!」

 運要素もある簡単なミニゲームなら、俺にだって秋風に勝てる可能性はあるはず……。



 *


 一時間後。


「──やったー!! 勝ったー!!! 勝ったあああああ!」

 俺は勝利のトロフィーを持った自分のキャラクターが映っている画面を前に、思いっ切り万歳した。

 思った通り、実力がほとんど影響しない運ゲーでなら勝てた。

 (秋風に勝てたっっ!!!)

「良かったね。波青。さすがだね」
「ふーんだ」

 (……若干、手を抜いてくれた疑惑はあるが)

 まあ、勝てたらそれでいい。万事オッケー。終わりよければ全て良し。
 秋風を負かして、めちゃくちゃ気分が良いぞ!

「楽しいなっ!!」

 コントローラーを置いて秋風を振り返れば、秋風は負けたはずなのに嬉しそうに微笑んでいた。

「うん。楽しい……。波青と一緒にいると、本当に幸せ」
「…………!!!」

 真っ直ぐな言葉に、思わずドキッと心臓が跳ねた。

「…………」

 秋風の綺麗な笑顔に、自然と視線が吸い寄せられていく。

 (……。……俺たち、高校の時、疎遠になっちゃったけど。……もし、あの時……もし、まだ仲良くしていられたら……)

 こんな日常がずっとあったんだろうか。

 なんて、どうしようもないことが一瞬頭に浮かんでしまった。

 (……、でも…………)

 過ぎ去った時間は絶対に戻ってこない。

 戻ってこないから、今、昔の分もいっぱい、秋風と毎日を過ごせたら。

 そうできたらいいなと、心の底から思う。

「……へへ……。じゃあさ、次は──」

 俺は照れながら首をかき、新しいソフトを探した。

 だがしかし、寸前で気がついた。

 (…………んっ? あれ……? ま、待てよ。なんか俺ら、普通に友達として遊んじゃってね……?)

 お試し交際というのはどこに行った。

 まずい、完全にうっかり忘れてゲームを楽しんでしまっていた。
 秋風とお試し交際できる期間は、三ヶ月しかないというのに。

「……? 波青? どうかした?」
「…………」

 (え……。待てよ、これじゃダメだよな……?)

 お試し交際ってどうすればいいんだ。

 今のところ、ただ友達とバカ騒ぎしてゲームしてるだけになっちゃってる。こういうノリは違うはずだ。

 なんか……、もっとこう……。恋人っぽいことを…………。

「波青……?」

 (確かめる期間なんだから、そうだよな。恋人っぽいことしないとだよ。友達として遊んでても、前と全然変わんないじゃん……)

 このままじゃダメだ。
 秋風とゲームをするのは悲願だったし、正直めちゃくちゃ楽しいけど。
 だけど、もう友達じゃなくて恋愛目線で見るって決めたはずだ。

「……なぁ……。恋人って、なにすんだろ。秋風、知ってる?」

 俺は隣の秋風を見つめ、静かに聞いた。

「え……?」

 突然真剣になった俺にびっくりしたのか、秋風の表情が驚き一色に染まっている。さっきまでの俺をからかう笑みはどこへやらだ。

 とてもじゃないが、こんなぽかんとしてる秋風から提案してもらえるとは思えない。

 (……っ、俺から言わないとだよな……)

「……っ……えっと、さ、秋風。た、試しに……──」

 俺は秋風からカーペットに視線を移し、下を見たままボソボソ言った。

「て、手とか……! 繋いでみるか……?」
「……!!!!?」
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