幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

文字の大きさ
235 / 264
第4章

157 パジャマ

しおりを挟む
 
「ふう……。すごかったな……」

 秋風の家のお風呂から出た俺は、タオルでゴシゴシ髪を拭きながら洗面台の鏡に向かった。

 鏡には、ほてった頬と心なしかいつもよりトーンアップして見える肌の自分が映っている。

「! おぉ……」

 普段自分をまじまじと見ることなんてないが、キモいと思いつつ、つい物珍しく眺めてしまった。

「……!!」

 そうっと腕に触れてみれば、俺の腕とは思えないしっとりした肌触りだ。いつものかさつきが全くない。なんてことだ。

 (あの泡が出てくる機能のおかげか……? それとも、入浴剤か)

 どっちにせよ、すごかった。本当に最高だ。

 楽園にいるかと錯覚してしまうほどで。完全に俺はあのお風呂の気持ちよさの虜になってしまった。

 ごちゃハウスのお風呂ともまた雰囲気の違う、広くてピカピカなお風呂……。

「あ~~。俺毎日ここの風呂入りてぇ~!」

 あれを味わった今、実家の狭くて窮屈な浴槽が余計微妙に思えてしまいそうだ。
 というか、双子にも秋風の家のお風呂を味合わせてやりたい。

 (あいつら、うちの古い風呂しか知らないからな……)

 でも、秋風の家に俺の家族を勝手に招くのはさすがに意味が分からないし、失礼かもしれない。

 (ならいっそうちもリフォームして、良い風呂にするとか……。……いやいや、さすがにそんな余裕はないか。いつ俺が大炎上して職を失うかわかんないのに……。もっともっと貯金しないとだよな)

 なんてことを取り止めもなく考えながら、俺は自分の家から持ってきたパジャマを着た。

 それから、秋風の家のドライヤーで髪を適当に乾かしてから洗面室を出ていく。

 さっきゲームをして、手を繋いだ後、お互い恥ずかしくて変な空気になってしまったから──。少し早いけどお風呂に入らせてもらえて良かった。これは逃げではない。戦略的撤退である。

 お湯に浸かって癒されたおかげで、一旦頭を切り替えられたし……今ならもう、秋風の目を普通に見られるはず。

「ういー。秋風、出たぞ~。良い湯だった! ありがとな~」

 俺はリビングで待っている秋風の元に戻って、声をかけた。

「あ……! うん。お疲れ様波青。ゆっくりで──」

 ソファでスマホをやっていた秋風が顔を上げ、俺に笑いかけようとする。
 しかし、変なタイミングで固まってしまった。

「……」
「……?」
「…………」

 なにやら、目を見開いて俺をガン見している。なんだろう。

「どした?」
「……!! ──うっ、ううん。なな、なんでもない…………」
「いや、さっきの不自然な間は絶対なんでもなくなかったろ!」
「……! いや、あの……ごめん……」

 (はぁ!? 何がごめんなんだよ……!)

 秋風はもじもじと下を向いてしまって、全然目を合わせてくれない。

 まださっきの空気を引きずって緊張しているのだろうか。俺はお風呂に入ってきて切り替えられたけど、秋風はそうじゃないから。

 (……ここは、俺がリラックスさせてあげるか!)

「おい、隠しごとするな! 白状しろ~!!」

 俺は冗談まじりに言って秋風に飛びかかった。

 学生の頃のノリでくすぐったりすれば、秋風もホッとしてくれるだろうと思ったのだ。

「……!!」

 でも秋風は俺が触れる前に、びくっと立ち上がって避けた。

「ぎゃっ……!!」

 標的を見失った俺は、勢いを止めることもできないまま、ソファの座面にぼふんっと顔面からダイブすることになってしまった。

「わー!?! 波青……!! 大丈夫……!?」
「いってぇ~! なんだよ! ひどいっ……! 避けるなんて!!」
「ごめんね……! 怪我してない……?」

 オロオロ俺の周りを動き回る秋風……わんこみたいだ。かわいいから、避けたことは許すか。

「むー……」
「……! 本当にごめん、波青」
「……じゃあ、説明してくれたら許すぞ! さっき固まったのはなんでだよ」

 睨んだら秋風が申し訳なさそうにしたので、これ幸いとばかりに俺は問い詰めることにした。本当はもう許してるけど、内緒だ。

「それは……」
「それは!?」

 俺が相槌で促すと、秋風は言いにくそうに声を絞り出して答えた。

「~~っ……。その、波青のパジャマに、びっくりしてしまって…………」
「……? え? 別に、普通のパジャマじゃね?」

 俺はぽかんと自分の着ているパジャマを見下ろした。

 (……うん。やっぱ、普通だな……)

 家から持ってきた、水玉模様の地味なやつだ。しまむるで買ったやつ。

 (でも……そうだな。そういえばパジャマ姿って、あんま秋風に見られたことないかも)

 俺だけごちゃハウスに泊まることがないから、確かに秋風に見られる機会はなかった。
 それで新鮮味があると思われているのかもしれない。

「あぁ、見慣れないからびっくりしてるんだな。でも、今後は毎週見るんだからすぐに飽きるだろ! てかドライヤーの案件の時だってパジャマ着たしな」
「! あれは、桃星のだったから……。あれもかわいかったけど、特別な衣装という感じで、リアルな生活感はなかったでしょう。……で、でも、これは……」
「『リアルなセイカツカン』……?」
「……俺の家に、波青がいるんだなって、パジャマの波青が……。これは本当にとんでもないことだなって、痛感してしまっているというか…………」
「……? ほ、ほう…………」

 秋風の話す言葉はたまに難しい。宇宙人が言っているように聞こえてしまう。

 正直理解はできないけど、話が通じないアホだと思われちゃうのは嫌だから、俺は大人っぽく分かったふりをして頷いた。

「う、うん……なるほどな! 秋風は、そんなにパジャマが好きなんだな! 分かった分かった! 生活感……、なっ! 俺も好きだぞ~! だって俺、誰かとお泊まり会? パジャマパーティー? っていうの、ずっとやってみたかったし……!」

 そもそも俺は友達がいないうえに、家に帰らないといけないからお泊まり自体NOで、今まで全然できていなかった。
 ──でも今日は違う。
 ついにパジャマパーティーの夢が叶うのだ。

「パジャマパーティー、やった~! ほら、秋風も早くシャワー浴びてこいよ! パジャマ着て、寝るまで一緒に遊ぼうぜ!」 

 テンションが急上昇して、俺は思わず両腕を伸ばして上げた。
 秋風はそんな俺を目を瞬かせて見つめ、くすりと微笑んだ。

「……うん。ちょっと待っててね、すぐ洗ってくるよ」
「? おう!」

 なんだか生温かい目をしていた気がするが俺の気のせいだろうか。

 なんで笑われたのか分からないまま、俺はお風呂に向かう秋風を首を傾げながら見送った。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた

BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。 断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。 ーーそれなのに。 婚約者に婚約は破棄され、 気づけば断罪寸前の立場に。 しかも理由もわからないまま、 何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。 ※最終的にハッピーエンド ※愛され悪役令息

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

ブラコンネガティブ弟とポジティブ(?)兄

むすめっすめ
BL
「だーかーらっ!皆お前に魅力があるから周りにいるんだろーがっ!」 兄、四宮陽太はブサイク 「でも!それって本当の僕じゃないし!やっぱみんなこんな僕みたら引いちゃうよねぇ〜 !?」 で弟、四宮日向はイケメン 「やっぱり受け入れてくれるのは兄さんしかいないよぉー!!」 弟は涙目になりながら俺に抱きついてくる。 「いや、泣きたいの俺だから!!」 弟はドのつくブラコンネガティブ野郎だ。 ーーーーーーーーーー 兄弟のコンプレックスの話。 今後どうなるか分からないので一応Rつけてます。 1話そんな生々しく無いですが流血表現ありです(※)

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

処理中です...