幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第4章

157 パジャマ

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「ふう……。すごかったな……」

 秋風の家のお風呂から出た俺は、タオルでゴシゴシ髪を拭きながら洗面台の鏡に向かった。

 鏡には、ほてった頬と心なしかいつもよりトーンアップして見える肌の自分が映っている。

「! おぉ……」

 普段自分をまじまじと見ることなんてないが、キモいと思いつつ、つい物珍しく眺めてしまった。

「……!!」

 そうっと腕に触れてみれば、俺の腕とは思えないしっとりした肌触りだ。いつものかさつきが全くない。なんてことだ。

 (あの泡が出てくる機能のおかげか……? それとも、入浴剤か)

 どっちにせよ、すごかった。本当に最高だ。

 楽園にいるかと錯覚してしまうほどで。完全に俺はあのお風呂の気持ちよさの虜になってしまった。

 ごちゃハウスのお風呂ともまた雰囲気の違う、広くてピカピカなお風呂……。

「あ~~。俺毎日ここの風呂入りてぇ~!」

 あれを味わった今、実家の狭くて窮屈な浴槽が余計微妙に思えてしまいそうだ。
 というか、双子にも秋風の家のお風呂を味合わせてやりたい。

 (あいつら、うちの古い風呂しか知らないからな……)

 でも、秋風の家に俺の家族を勝手に招くのはさすがに意味が分からないし、失礼かもしれない。

 (ならいっそうちもリフォームして、良い風呂にするとか……。……いやいや、さすがにそんな余裕はないか。いつ俺が大炎上して職を失うかわかんないのに……。もっともっと貯金しないとだよな)

 なんてことを取り止めもなく考えながら、俺は自分の家から持ってきたパジャマを着た。

 それから、秋風の家のドライヤーで髪を適当に乾かしてから洗面室を出ていく。

 さっきゲームをして、手を繋いだ後、お互い恥ずかしくて変な空気になってしまったから──。少し早いけどお風呂に入らせてもらえて良かった。これは逃げではない。戦略的撤退である。

 お湯に浸かって癒されたおかげで、一旦頭を切り替えられたし……今ならもう、秋風の目を普通に見られるはず。

「ういー。秋風、出たぞ~。良い湯だった! ありがとな~」

 俺はリビングで待っている秋風の元に戻って、声をかけた。

「あ……! うん。お疲れ様波青。ゆっくりで──」

 ソファでスマホをやっていた秋風が顔を上げ、俺に笑いかけようとする。
 しかし、変なタイミングで固まってしまった。

「……」
「……?」
「…………」

 なにやら、目を見開いて俺をガン見している。なんだろう。

「どした?」
「……!! ──うっ、ううん。なな、なんでもない…………」
「いや、さっきの不自然な間は絶対なんでもなくなかったろ!」
「……! いや、あの……ごめん……」

 (はぁ!? 何がごめんなんだよ……!)

 秋風はもじもじと下を向いてしまって、全然目を合わせてくれない。

 まださっきの空気を引きずって緊張しているのだろうか。俺はお風呂に入ってきて切り替えられたけど、秋風はそうじゃないから。

 (……ここは、俺がリラックスさせてあげるか!)

「おい、隠しごとするな! 白状しろ~!!」

 俺は冗談まじりに言って秋風に飛びかかった。

 学生の頃のノリでくすぐったりすれば、秋風もホッとしてくれるだろうと思ったのだ。

「……!!」

 でも秋風は俺が触れる前に、びくっと立ち上がって避けた。

「ぎゃっ……!!」

 標的を見失った俺は、勢いを止めることもできないまま、ソファの座面にぼふんっと顔面からダイブすることになってしまった。

「わー!?! 波青……!! 大丈夫……!?」
「いってぇ~! なんだよ! ひどいっ……! 避けるなんて!!」
「ごめんね……! 怪我してない……?」

 オロオロ俺の周りを動き回る秋風……わんこみたいだ。かわいいから、避けたことは許すか。

「むー……」
「……! 本当にごめん、波青」
「……じゃあ、説明してくれたら許すぞ! さっき固まったのはなんでだよ」

 睨んだら秋風が申し訳なさそうにしたので、これ幸いとばかりに俺は問い詰めることにした。本当はもう許してるけど、内緒だ。

「それは……」
「それは!?」

 俺が相槌で促すと、秋風は言いにくそうに声を絞り出して答えた。

「~~っ……。その、波青のパジャマに、びっくりしてしまって…………」
「……? え? 別に、普通のパジャマじゃね?」

 俺はぽかんと自分の着ているパジャマを見下ろした。

 (……うん。やっぱ、普通だな……)

 家から持ってきた、水玉模様の地味なやつだ。しまむるで買ったやつ。

 (でも……そうだな。そういえばパジャマ姿って、あんま秋風に見られたことないかも)

 俺だけごちゃハウスに泊まることがないから、確かに秋風に見られる機会はなかった。
 それで新鮮味があると思われているのかもしれない。

「あぁ、見慣れないからびっくりしてるんだな。でも、今後は毎週見るんだからすぐに飽きるだろ! てかドライヤーの案件の時だってパジャマ着たしな」
「! あれは、桃星のだったから……。あれもかわいかったけど、特別な衣装という感じで、リアルな生活感はなかったでしょう。……で、でも、これは……」
「『リアルなセイカツカン』……?」
「……俺の家に、波青がいるんだなって、パジャマの波青が……。これは本当にとんでもないことだなって、痛感してしまっているというか…………」
「……? ほ、ほう…………」

 秋風の話す言葉はたまに難しい。宇宙人が言っているように聞こえてしまう。

 正直理解はできないけど、話が通じないアホだと思われちゃうのは嫌だから、俺は大人っぽく分かったふりをして頷いた。

「う、うん……なるほどな! 秋風は、そんなにパジャマが好きなんだな! 分かった分かった! 生活感……、なっ! 俺も好きだぞ~! だって俺、誰かとお泊まり会? パジャマパーティー? っていうの、ずっとやってみたかったし……!」

 そもそも俺は友達がいないうえに、家に帰らないといけないからお泊まり自体NOで、今まで全然できていなかった。
 ──でも今日は違う。
 ついにパジャマパーティーの夢が叶うのだ。

「パジャマパーティー、やった~! ほら、秋風も早くシャワー浴びてこいよ! パジャマ着て、寝るまで一緒に遊ぼうぜ!」 

 テンションが急上昇して、俺は思わず両腕を伸ばして上げた。
 秋風はそんな俺を目を瞬かせて見つめ、くすりと微笑んだ。

「……うん。ちょっと待っててね、すぐ洗ってくるよ」
「? おう!」

 なんだか生温かい目をしていた気がするが俺の気のせいだろうか。

 なんで笑われたのか分からないまま、俺はお風呂に向かう秋風を首を傾げながら見送った。
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