幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第4章

173 告白

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「──秋風……!!」

 今日ばかりは、無駄に広い秋風の家がもどかしい。

 大急ぎで廊下を走った俺は、やっと秋風の配信部屋に辿り着いてドアを開けた。

「……! 波青……!?」

 PCデスクの前に座っていた秋風がこちらを振り返った。

 モニターを見ていたようだから、今公開されているMVを確認していたのかもしれない。

 普通の動画だと後からコメントがつくけど、プレミア公開の時は公開中にリアルタイムでリスナーのコメントが表示される。初めて自分で作った曲ということもあって、きっと反応は気になったことだろう。

 でも秋風は今、画面から目を離して、俺のことだけを見つめている。邪魔をしてしまったみたいで申し訳ない。

「大丈夫? どうしたの……?」

 俺が肩で息を切らせているからか、心配そうだ。

 (なんでこんな俺が急いでいるのか分からないんだろうな……)

 秋風は、配信を見ないようにと俺にお願いをしていたから。
 まさか俺がこっそり視聴者の一人になっていたとは思いもしないはずだ。

「? あ……もしかして、俺が遅いから迎えにきてくれたのかな? 待たせてしまってごめんね。さっき、ちょうど配信を切って、終わったところなんだ。波青の作ってくれた御馳走楽しみだな。ごめんね、今、行──」
「──あああああ!!!?」
「……!?!」

 立ちあがろうとしている秋風の言葉で思い出した俺は、絶叫して口を押さえた。

 そ、そうだ。御馳走……。

 配信が終わったら、二人で誕生日パーティーをやろうって決めていたんだ。
 秋風は俺の手料理を楽しみに、これからダイニングに向かおうとしている。

 ……しかし俺は、まだ準備ができていない。

 本当は配信の途中で視聴をやめて、料理を温めたりお皿に盛り付けたりしようと計画していたのに、ついつい最後まで没頭して見てしまっていた。

 (な……っ何やってんだ俺……ッッ!!)

 しかも、ノープランで駆け出してきたせいで、今は手ぶらだ。

 いても立ってもいられず、ここに来てしまった。一刻も早く、秋風に気持ちを伝えたくて。

「~~~ッちょっ……まっ、いったん、ちょっと待っててくれ!!」
「!? え……っ」

 『手料理で胃袋を掴んでから告白作戦』はもう、諦めよう。
 だって俺は、聞いてしまった。秋風の配信も、気持ちがこめられた曲も……。
 今更、何もなかったような顔で夕食を共にして、食べ終わったら仕切り直し……なんてやってられる余裕は正直ない。

 (けど、プレゼント……っ! プレゼントだけは……!)

 せめて用意したものは渡したい。さすがにこんなに大事な時に手ぶらは、まずい。

「はぁっ……はぁ……! あった…………!」

 全速力で自分の部屋に引き返した俺は、隠していた花束を回収した。

 それから花束を両手に抱え、ゼェハァしながら再び秋風の元に戻った。

「……──!??」

 秋風はさっきと同じ体勢のまま、表情も動きも止めて固まっていた。

「っ……あ、あの……! 俺……っっ」

 俺はジリジリと秋風の部屋の中に入った。心臓が尋常じゃなく弾んでいる。

 走ったからか、緊張からか、どっちだ。分かんない。そんなのどうでも良い。告白なんて、人生で初めてすぎる。どうしよう。どうもできないわ。とにかく、伝えなきゃ。伝えたいことを伝えないと。それしかない……

「俺ッ、お前に言いたいことが──ッッ」

 ぐるぐる考えながら意気込み、一歩、大股で秋風に近づく。

 しかし意気込みすぎたのか、勢い余って足がもつれてしまった。

「えッ……!?」

 ずるっと滑り、気がついたら目の前にカーペットが迫ってしまっていた。

「うわあぁっ……!!!」

 とっさに俺は、防衛本能で前に手をついた。

 (──あ……!!? し、しまった! 花束……ッ!!!)

 離してしまった花束が宙を舞っていく。

 ──ばさっ。

 床に落下した花束が花びらを散らすのと、綺麗な包装が無惨にもひしゃげるところが目に映った。

 バカみたいにうつ伏せに突っ伏している俺には、どうすることもできなかった。

「…………」

 (……、……マジで俺……、何やってんだ…………)

 秋風の家のカーペットが優秀だからか、それとも俺の倒れ方が上手かったのか、特に体は痛くない。不幸中の幸いだ。良かった良かっ……いや違う。俺は今日一日、上手に一直線に倒れこむ床ペロの練習をしていたんじゃないぞ。そうじゃなくて、告白の練習をしていたんだぞ。

 あんなに完璧なプランを考えて、リハまでしたのに……。

 (……プラン……)

 自分の考えにハッとし、俺はノートに書いていた段取りを思い出した。

 (そうだ……。プランでは、もっとシャキッとしてるはずが…………)

 本当だったら──ちゃんとスーツを着て、髪もセットしてきて、めちゃくちゃかっこいい大人の男の姿で秋風をメロメロにするはずだったのに。

 今の俺ときたら、どうだ。
 髪はボサボサ、服もまだ着替えていなかったからいつもの適当な部屋着。

 こんなダサい姿じゃ……、秋風を口説けない。

 てか、服だけじゃなくてシチュエーションも。

 あんなに頑張ってリビングの飾り付けをして、ロマンティックな完璧すぎる告白の舞台を用意したはずなのに。慌てすぎて、先走って、つい花束持って秋風の部屋まで来ちゃった。何をやってるんだ、俺は。一体どうしてこんなことになっちゃったんだ。

 (っ……こ、こんなはずじゃ…………)

「波青……!!」

 自分の情けなさに思わず涙目になっていたら、潤む視界に秋風が現れた。

 急いで駆け寄ってきて、俺の目の前に跪いている。

 倒れ込んだ俺を心配してくれているんだろう。

「大丈夫!? 怪我は!? 痛かったよね……!?」
「だ、……いじょうぶ……」
「ごめん、助けられなくて。波青を転ばせちゃって……」
「……」

 いや、そりゃそうだろ。座っていた秋風とは、かなり距離があったし。あの一瞬の時間で俺のことを助けるんなら、腕がびよーんと伸びるか、瞬間移動でもできなきゃ無理だ。どちらにせよ人間を辞めている。

「…………」

 (てか、ごめんってなんだよ……)

 俺がこけたのは秋風のせいではない。俺の責任だ。なのにそんなふうに秋風が申し訳なさそうに謝ってきたら、余計に惨めになってしまう。いたたまれない……。

「痛むところはどこ……?」

 床に膝をついている秋風が、そう心配しながら俺の脇の下に手を差し込み、上半身を起き上がらせてくれた。
 ありがたいけれども、ひょいってあまりにも簡単に持ち上げるものだから、子供か俺はってまた恥ずかしくなってしまった。

「……ねぇよ…………」
「本当に? 我慢しないで教えて欲しいな。波青はいつも強がって溜め込むから──」
「ねーってば……ッ!!」
「……!!!」

 (ああぁぁぁ…………!! バカ……!!?)

 自分が情けなすぎることにむしゃくしゃして、つい叫んでしまった。

「……っ、ご、ごめん……」

 告白プランが上手くいかないからって、ダサいところを見られてしまったからって、秋風に八つ当たりするとか。俺、バカか。ひどすぎる。

 (今の俺、絶対、今世紀最大にダサい…………)

 しかも、支えてもらっている体勢で怒るなんて。最悪だ。

 マジで何をやってんだと自分に呆れすぎて、俺は俯いた。いたたまれないし、恥ずかしいし、秋風の顔が全く見られない……。

「……」
「…………」

 (……うああ。沈黙が痛すぎる…………)

 何が痛いって、体じゃなくて、沈黙だった。

 こんなに無言だってことは、秋風も滅茶苦茶な俺にドン引きしたのかも……。

 何から何まで、大失敗だ。

 (観葉植物だって、忘れちゃったし…………)

 せっかく用意したのに、慌てて取りに戻ったから、結局花束しか持ってこれていない。
 かっこいい台詞だって事前に考えて復唱したのに……。俺の完璧な告白プラン、全部が台無しだ。

 (ッ……唯一持ってこられた花束だって、あんな有様に…………)

 涙で潤みそうになる視界の中、俺は床に落っこちた花束を未練がましく見つめた。

 すると、ふとその花束が持ち上げられた。

「…………?」

 つられて視線を上げれば、花束を持ち上げたのは秋風の手だった。

「え……」
「……これ、もしかして俺に……?」
「……!!」

 俺が落っことしたせいでよれよれな花束。
 なのに秋風は、そっと大事そうに持って笑いかけてくれた。

「俺が誕生日だから……お花をプレゼントしてくれようとしたの? ……ありがとう、波青」
「…………」

 俺が、とちる自分のことが嫌になって、自己嫌悪に陥っていることに気づいてくれたのだろうか。

 秋風のその言葉と笑顔のおかげで、一瞬にして掬い上げられたような気がした。

 (……好きだ…………)

 思わず、口からこぼれ落ちてしまった。

「好きだ……」

 観葉植物は忘れたし、良い感じのBGMも流せてないし、スーツも髪の毛のセットもなんにもできてない。

 でも──もういい。そんなの、どうでも良かったんだって、今気がついた。

 かっこよく口説くだとか、失敗しないようにだとか、一生に一回だから完璧にだとか。

 そんな自分の体裁を気にするより、もっともっと大事なことがあった。大事なのは、俺じゃなくて、秋風が笑ってくれることだ。
 ボサボサでも、ダサくても、秋風にさえちゃんと伝わったら、それで良いんだ。

 (秋風に、伝えるには……)

 きっと、自分の言葉にした方が秋風は喜んでくれる。

 事前に考えてきたスマートな台詞じゃなくて、今本当に頭の中に浮かんだ言葉で。

 嘘も小手先のテクニックも捨てて、真っ向からぶつかる……そうするべきだったんだ。

「え…………?」

 大きく目を見開いた秋風に向かって、俺はもう一度同じ気持ちを繰り返した。

「お前のことが好きだ」

 いまいち決まらない、カッコ悪い俺だけど。

 これが、俺だから。

 背伸びしたりしない。

 何も取り繕わないで、ありのままで、秋風と向き合いたい。
 伝えたいから、聞いて欲しい。

「俺……見ての通りカッコ悪いし、どんくさい。秋風の方が、できることいっぱいあるし、俺なんか頼りにならないかもしんない。だけど……こんな俺だけど、お前のこと本気で守りたいと思ってる」

 俺はぽかんとしている秋風の目を見て、思いつくままに言葉を続けた。

「お前のこと、絶対に幸せにする。たくさん笑ってもらえるように、一生懸命頑張る。頼りないかもしんないけど、努力する。それに、俺も絶対に絶対に幸せになる」
「…………」
「秋風と一緒にいたら、俺は自動的に幸せだから、えっと、だから……なんというか……っ」

 俺は正座の体勢で自分の膝に手を乗せ、深く頭を下げた。

「ずっと俺の隣にいてください……!」
「……──」
「…………」
「…………」

 (…………へ、返事がない…………)

 やばい。まわりくどくて伝わりにくかっただろうか。
 伝わらないのはダメだ。

 冷や汗がダラダラ出るのを感じながら、俺はカーペットを見つめた。

「……っ」

 (いや……っ、めげるな! 伝わらないなら、もっと直接的に言えば良いんだ……!)

 ガバッと顔を上げ、俺は言葉を単刀直入に言い直した。

「お、おおおれと付き合ってください……!!」
「…………」

 (くそ、どもったぁ……っ!!)

 肝心なところで、やばい。恥ずかしさでもはや消えてしまいたい。いや、今消えたら困る。
 俺はなんとか精神を保ち、震える唇を動かした。

「秋風くん……! 俺の、俺の本当の恋人になってください……!!」
「………………」

 (! 言えた……!!)

 今度は、はっきりと。言い淀むこともなく。

 さすがにこれで伝わったはずだ! と反応をうかがってみれば、押し黙っていた秋風の口がやっと開かれている。

 秋風はとても小さな声で呟いた。

「……俺が…………」

 言葉の途中で、表情がくしゃりと歪む。

「……っ……」

 秋風の綺麗な瞳から涙が一筋流れていった。

「俺で、いいの……?」

 美しい光景だと思うよりも先に悲しみがまさって、胸が震えた。
 そんな顔を、させたいわけじゃなかった。

「当たり、前だろ……。俺は、お前がいい」
「……っっ」

 俺の答えに、秋風はひび割れた声で返してきた。

「俺は、男だよ」
「分かってる」
「波青より、無駄に背が高いし、ハグしても硬いし、女性みたいにふわふわしていないし……」
「……」
「波青は……っ勘違いしてるんだと思う。本当は、同性は生理的に無理なのに、優しいからこの期間に付き合ってくれた。そして、今は俺への同情を、恋愛感情だと誤解してしまっているんだ。もしくは、プレッシャーに押されてしまったのかもしれない。俺と上手くいってほしいって周囲から応援されてしまっているこの状況はとてもとても重圧があるだろうし、『ここまで来て断るのはさすがに酷なんじゃないか』っていう罪悪感も関係して──」
「…………」

 (……よく喋る口だな……)

 いつになく早口で、まくし立てるように秋風が反論してきている。

 俺だって、分かっていることだ。いくら綺麗な姿をしていても秋風は女の子じゃないということなんて。俺はそれでも秋風が良いと思っているし、この気持ちは同情や誤解や罪悪感なんかじゃない。

 だけど……いくら言葉を尽くしても秋風は百パーセント俺のことを信じれるわけではないだろう。

 『言葉』はいくらでも装飾できて、気遣いや空気を読んだ結果いくらでも偽れるものなんだということは、秋風が一番分かっているだろうから。

 (……なら……)

 どうしたら、俺の覚悟と本心が秋風に伝わるだろうか。この気持ちが恋愛感情だと証明できるだろうか。

「…………」

 考えた末、俺は秋風の両肩をがしっと掴んだ。

 ちょうど、お互い座っている体勢で良かった。

 秋風に立たれようものなら、俺は背伸びしても届かないから。

「!? は──……」

 俺が至近距離に迫ったら、秋風がびっくりして口を閉ざした。

 俺はその隙を狙い、秋風の唇に自分の唇をむぎゅっと押し当てた。

 近すぎたらぼやけて見えなくなるものなんだって、初めて知った。
 距離感がうまいこと掴めなくて、唇の端っこになってしまったかも……。

 (で、でも……キスはキスだ……!)

「っ……、……な?」

 俺は照れ隠しに唇を尖らせながら、秋風を見上げた。

「ちゃんと恋愛感情だろ?」
「……──」

 秋風は先ほどまでの反論も忘れ、呆然と俺を見返してきている。
 許可なくやってしまったのは申し訳ないけど、秋風がひるんで黙っている今がチャンスだ。

「俺、お前が好きだ」
「…………」
「……ちなみに、今の、俺のファーストキス」

 秋風を追い詰めるべく、俺はニヤッと笑った。

「もうあげたから、返却は不可な」
「……!!!」

 我ながらもはやただの脅しになってしまっている。いや、秋風が俺の言葉を信じないのが悪いんだ。うん。

「秋風。ファーストキスの責任を取って、俺のことを幸せにしろ!」
「…………」

 瞬間、秋風の瞳から、感情の波が一気に押し寄せたように涙が溢れた。

「っ──……」

 止めどなく、伝っていく。

 (!!? なっ……ちょっおい……!)

「な、泣くな……!」

 秋風は顔を片手で覆い、無言で項垂れてしまっている。

 どうしよう。また俺が泣かせてしまった。どうやって止めれば……。

 落ち着きなく手を彷徨わせていた俺は、ハッと気がついた。

 (あ……! そ、そうだ……!)

「っ……」

 俺は泣いている秋風に向かって、慌てて声をかけた。

「おっ、おい! お前、返事は……!?」

 こんなこと言ったら多分、グループチャットのみんなに『ノンデリこら!!』って絶対怒られてしまう。泣いてる人に催促するなって。ちょっと待てって。

 でも、仕方ない。

 返事がないと、俺が彼氏になれたのかそうじゃないのか分からないから。彼氏になれたのなら、泣いている恋人を今すぐに抱きしめることができるから。

「…………はい……」

 秋風が俺の催促を受けて、掠れた声で答えてくれた。

「世界で一番、幸せにする……」
「え」

 秋風はようやく顔を上げたかと思えば、俺の手をぎゅっと力強く握ってきた。

「世界で一番、大切にする」
「……お、おおぉ…………。相変わらず、壮大だなぁ。お前は……。……」

 宣言してくるその真剣な表情がかわいくって、俺はつい意地悪したくなってしまった。

「……んーじゃあ、俺たち、これで本当の恋人ってことだよな!? 『はい』って言ってくれたし。それじゃあ、手始めに。恋人記念に、秋風からも俺にキスが必要だな!」
「……!?! え……っっ!?」
「幸せにしてくれるんじゃねーの?」
「……っ……」

 俺が首を傾げて煽ると、秋風が戸惑った瞳で固まってしまった。

 (……くッ……か、かわいい……)

 いや、しかし。ここは、心を鬼にして──。

 撤回はしないぞと、俺は頷いて促すだけに留める。

「ほら! 早く」
「……っ……わ……わかった……」

 すると、秋風が覚悟を決めた顔になり、俺の手を引き寄せた。

 ──そして、震える唇がくっついた。

 俺のほっぺたに。

「……──!! なはははは……!!!」
「なっ……!」

 やばい。思わず吹き出してしまった俺を見て、秋風が眉を下げている。

「わ、笑わないで……」

 可哀想だっただろうか。でも、可愛すぎて。つい笑ってしまった。

「だってお前、ほっぺって……! くっ……なんでだよ! ちゃんと口にしろよ! 俺は初めてで頑張ったのに」
「え……あ、う……」
「勇気を出せ!」
「……っっお恐れ多くて……」
「はぁ? もう恋人だろ……。何を恐縮してるんだよ。俺は神様かなんかか」
「波青は、この世で一番、尊い存在だよ。そんな波青に、俺なんかがキスするなんて……」
「でもたった今、お前の彼氏になったんだぞ」
「……!!!」

 俺は言い聞かせるように、秋風の瞳を覗き込んだ。

「尊い存在だかなんだか知らないけど、もう俺はお前のものだ」
「……──」

 秋風はまた瞳を潤ませ、苦しそうな顔になってしまった。

 (うっ……)

「……っっ」

 かわいすぎて呼吸がし辛い。なんだこいつは。

 さっき男なの分かってるって言ったけど、本当に男か? 秋風は男とか女とか、性別を超越した妖精さんだったのかもしれない。もしかしたら。

「……でも、ゆ…………」
「ゆ?」
「ゆ、遊園地の……観覧車の中とかじゃなくていいの……?」
「は……? 何が……」

 一瞬ハテナが浮かんで、すぐに意味がわかった。

 (! あぁ……)

 多分、キスのことを言っているんだろう。初めてなのにこんな場所でしてしまって良いのかと。

「いや、何言ってるんだよ。観覧車の中は確かに魅力的だけど、外で秋風とキスなんてできるわけないだろ。お前、芸能人だし、自分の知名度考えろよ。秘密の関係にしないと」
「! そうだよね……。やっぱり、俺みたいのと付き合うと、色々と制約があるし、波青の好きなロマンチックなこともできないし、不便だと思う。波青はやっぱり普通の人と幸せに──」
「バカーーーー!!!」

 ごちん。
 思わず額に頭突きを繰り出してしまったら、目を腫らした秋風がぽかんと額を押さえた。

「だからさ、そうやって振り出しに戻すな! 何度だって言うけどな! 俺は、お前が良いんだよ!!!」
「……!!!」

 秋風は唇をぐっと噛み締め、額から手を離して俺に聞いてきた。

「ほ、本当に……。……いいの……?」
「だから、良いって言ってるだろ」
「…………」

 秋風は考え込んでいたが、やがて視線を上げ、俺にお願いをしてきた。

「…………、め、目をつむってほしい…………」
「!! うんっ……!」

 (秋風め、やっと覚悟が決まったか……!?)

 了承してワクワクと目を閉じれば、俺の頬に手が優しく寄せられた。

「好き……大好き。ずっとずっと好きだった」

 暗闇の中、切実にささやく秋風の声が聞こえる。

 そして、冷たくて柔らかい感触がそっと唇に触れた。

「……波青のことだけが、ずっと……」
「……」

 目を開けると、普段の恐ろしく完璧な微笑はどこへ行ったと不思議になるくらい、いっぱいいっぱいな顔をした秋風が間近に見えた。

 耳は真っ赤で、まつ毛は涙に濡れている。

「ッ……ふはっ……」
「……!?」

 (かわいいなぁ、もう……)

 その瞬間、俺は確かに幸せを感じた。

「……俺も大好き。生まれてきてくれてありがとう」

 俺はそう言い、秋風に力いっぱい抱きついた。

 (ほんと、泣き虫だな、秋風は……)

 でも俺は泣き虫ではないから。

 ついつい滲んでしまったこの熱いものは、秋風の胸に押しつけ、隠蔽させてもらうことにした。
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