幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第1章

7 ごちゃハウスへ

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 朝起きてすぐにスマホをチェックした。

「……うーん」

 昨日送ったフレンド申請の返事はまだ来ていないみたいだ。

 (ちょっとドキドキするな。あの回答で受け入れてもらえんのかな……)

 書いた情報に間違いはないはずだし、結構時間もかけたけど。俺はBL好きではないから、知らず知らずのうちに回答に一般人感が滲み出てしまっているとしたら、断られる可能性は高い。

 一人でソワソワしながらスマホをベッドに置いた。

 とりあえずじっと待っていても仕方ない。普段通り父と弟と妹の弁当を作ろうと思い、あくびをしながらキッチンに向かう。
 すると、なぜかキッチンには明かりがついていた。

「え、海乃莉みのり!? 何してんだ!?」
「あ、おにい! おはよー。体調大丈夫!?」
「おはよう。もう大丈夫だけど……、じゃなくて、お前朝弱いのに何やってんだよっ?」
 海依斗かいとと話し合って、今日からお弁当当番を毎日交代制でやることにしたの! 今日が海乃莉で明日が海依斗。おにいはもう作らなくて良いからね!」
「そんな急に……」
「レッツ、自立!! おにい離れ! 頑張ろ~っ!」

 なんだか燃えているようだ。
 まあ張り切っているのだから放っておくべきか。どうせ少ししたら飽きて元通りになるだろう。

「って、おにぎりしかないじゃん」
「れ、レパートリー問題はこれから解決します……ふがいない」
「おいおい……。野菜は食べないとダメだろ。作り置きの副菜のタッパーがここに入ってるから、使って。これ弁当用なんだ」

 冷蔵庫の段を開けて作り置きを海乃莉に見せる。タッパーから出してお弁当に盛り付けるだけなら簡単だから、そういうのから始めて貰えばいいかもしれない。

「……!! ふわあぁぁっ。さすがおにい!」

 目をキラキラさせて俺の仕込んでいた作り置きたちを眺める海乃莉。でも、すぐに我に返って「いかんいかんっ」と首を横に振っている。

「こんなんじゃだめだぁ。結局おにいの家事スキルに頼りきりに……」
「なら、海乃莉も料理覚えるか? そろそろ」

 双子が中学生の時は部活で忙しそうだったから、教える時間がなかった。どちらもバスケットボール部のレギュラーで、遅くまで練習していたのだ。帰ってきてからは受験勉強に集中してもらいたいし、家事は暇な俺がやれば良いと思っていた。
 でも双子的にはそれを申し訳なく思っていたらしい。ならば、高校入学してまだ部活は決まってない今、少し教えてしまったらいい。

「えええ! 覚えたい!!」
「じゃあ、今度の土曜夕陽さんの動画見ながら一緒にやってみような。まずは色んな味の卵焼きでも覚えるか」
「わーい! 海依斗にも言っておく~!」

 喜ぶ海乃莉と一緒にお弁当を包んでいると、父さんも起きてきた。

「お。父さん、大丈夫? 今日は仕事休んだほうがいいんじゃね?」
「いや、問題ない……。波青、悪かったね。昨日は父さんが夕飯を用意する日だったのに……」
「んーん。そんなのいいんだよ」

 父さんは持病を持っていて体調が悪い日が度々ある。
 母さんが亡くなってからは精神面もかなり不安定になってしまい、それを誤魔化すようにお酒に頼ろうとして、持病が悪化しての繰り返しだった。

 仕事は休みがちになり、やがて正社員はダメになった。今は自分のペースで清掃員のアルバイトをしてくれている。

 俺のごちゃまぜでの収入があるから本当は働かないで休んでいて貰いたい位なんだけど、申し訳ないと言ってアルバイトに出ることをやめてくれない。
 俺が双子の学費や生活費を払っているのを、少しでも返そうと思っているみたいだ。家族だからそんなの良いのに……。


「──にいちゃん、行ってきます!」
「おにい、またね!」
「はいはい、気をつけてな。友達百人作るんだぞ」
「「もうできたよ~!」」」

 俺と違いコミュ力の高い双子はドヤ顔で手を振りながら高校に向かって行った。

「じゃあ父さん、俺も出てくる。夕方には戻るよ。仕事、気をつけてな?」
「あ、ああ。行ってらっしゃい、波青……」

 父さんのアルバイトは昼間からなので、俺は先に家を出た。

 (さて、今日は編集作業を進めないとだ。動画のストックもだんだん減ってくるし)

 ごちゃまぜはプロに編集を委託していない。各自時間のある人が編集して出すスタイルだ。
 なので、夕陽さんがグループ用にわざわざ契約してくれている高層マンションの最上階角部屋、通称『ごちゃハウス』で俺は今日も作業をする。

 俺の実家は都内でも割と郊外の方なのでごちゃハウスがある都心部には電車で向かう。

 電車の中でお気に入り配信者の動画を見ていたら、あっという間に目的の駅についた。

 (そうだ。新刊買ってから行こう)

 目についた駅前の大きな本屋に寄っていく。お目当ての少年漫画を手に、ふんふんと鼻歌を歌いながらレジに向かった。

 その時、女性雑誌のコーナーでよく知る人物のプリントされた顔が見えた。

「しゅ、秋風……ッ!? お前、こんなところにも……!!」

 どこもかしこも俺の幼馴染は出現するな。見下しアングルの秋風が、俺にはよくわからないオシャレな服を着て雑誌の表紙になっている。

「……売り上げに貢献してやるか」

 発売前に一応本人から見本誌はもらっているのだけど、やっぱり自力でも買ってあげた方がいい気がする。
 そう思って手を伸ばしたのだが、「ギャー!!」という悲鳴で俺の動きは止まった。

「──あ、あ、あったぁぁあ!」
「やった……! ラスト二冊っ……!!」
「ネットの予約販売すぐ売り切れて、どこの本屋も瞬殺って、もうどうしようかと思ったぁ……っ」
「ほんとにね。電子で中身は見られても、やっぱ手元に紙も欲しいもんね! はぁ~アキ~~!!」
「かっこよすぎ、神様ありがとう、アキぃ~っ!」
「わーーーん!! 好き好き好きーー!!」

 若い女子達がキャピキャピと騒いでいる。俺は伸ばしていた手を慌てて引っ込め、くるりと背中を向けた。マスクの上から顔を手で隠し、俯いておく。

 (ごちゃまぜリスナー……ッ!? バレないようにしねーと……!!)

 ごちゃハウスの場所が特定でもされたら大変だ。

 しかし、俺のオーラなんて一般人以下だからか、全く気が付かれることなく、女子達は興奮しながらレジに並びに行った。

 (ふぅ……)

 俺はホッとしながら振り返る。買おうとしていた雑誌はもう綺麗サッパリなくなっていた。

 (……なんだ。売り上げに貢献してあげようとか思ったけど、そもそも買えないくらい人気なのか……)

 ちょっと悔しい。今のが秋風だったらマスクしてても一発でバレたんだろうなとか。考えると、やっぱ男として劣等感に苛まれる。

 目当ての少年漫画はちゃんと買えたものの、どうにも釈然としない気持ちで本屋を出た。

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