幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第1章

20 不器用で臆病

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「……え?」
「アッキー……? 珍しいな。アッキーが焦って失敗すんの。いつも冷静沈着なのに。ごちゃリス喜べ~レアな罰ゲームが見られるぞー!!」
「…………」

 びっくりした。まさか、小さい頃から何だって完璧にこなせる秋風が、ジェンガを一番に崩すなんて。
 どうせ罰ゲームを受けることになるのは俺だろうと思っていたのに……。

『やったーー!!! アキが罰ゲームだー!!』『ユウさんのいう通り、失敗するアキくん貴重な映像すぎる!この配信神回だねっ!!』『まじ最高!!』『ありがとう神様……!(´;ω;`)』『アキくんめっちゃ驚いててかわいいっ! ジェンガ崩れてびっくりしたのかな??』『はぁ尊……泣』『アキにして欲しい罰ゲーム、考えておくね♡♡』『あきーーーっっ』

 リスナーはめちゃくちゃ喜んでいるみたいだけど。

 罰ゲームを受けることになった秋風は、嫌だろうな。

 秋風がビクッとしたのは、俺が触ったタイミングだから、俺に責任があるみたいでなんか申し訳ない。急に太ももに触れて驚かせてしまったのだろうか。

 (……ん?)

 俺がテーブルの下に散らばったジェンガを拾っていたら、固まっていた秋風も慌ててしゃがんで拾い出した。無言で。

 動いたことで、髪の毛で隠れて見えなかった秋風の耳が、チラリと見えた。

 (……真っ赤…………)

 耳が赤い。熱でもあるのだろうか。
 秋風がミスったのは俺のせいかと思ったけど、そうじゃなくて、ただ単純に体調不良だったのかもしれない。

「秋風、体調悪いのか?」
「ぁ……。ち、……ちがう……、ごめん。大丈夫だよ」

 こっそり配信に拾われない小声で聞いてみたら、秋風は震える声で否定してきた。

「いやでも、耳すげー赤いぞ……?」
「……!!」

 指摘すると、慌てて横髪の乱れを直し、耳を隠してしまった。

「……気のせいだよ」
「えっ。そ、そうか……?」
「もしくは、この部屋が暑いからかな……」
「……あ、なるほど……」

 散らばったジェンガを俺と会話をしながら集め終えた秋風は、すっと立ち上がった。

「……罰ゲームが嫌すぎて緊張して、手が滑っちゃったみたい」

 カメラに向かって照れくさそうに笑った顔は、いつも通りの秋風だ。
 飄々としていて、余裕があって、爽やかで、品があって。
 先ほどの慌てた姿はもうどこにもない。

 本人の言う通り、手が滑っただけだったのだろう。たぶん。

「なにそれ~。超カワイイ~っアキ! 僕が罰ゲーム変わってあげたいっっ」

 桃星がでれっと表情をとろけさせ、秋風ファンを発揮しているところで、配信終了の時間が来た。

「お、もうこんな時間っすね、ユウさん」
「本当だアオたん! ちょうど良かったな。……ハッ! もしかしてアッキー、質問コーナーで時間が押してるから、そろそろジェンガ崩そうって空気を読んでくれたのか!?!」
「……え。いや……そういうわけでは……」
「さすがアッキー……!!」

 夕陽さんが目をキラキラさせて感激している。なぜだか、珀斗が一人で「ぶはっ」と吹き出していた。


「──ということで、無事に質問コーナーとジェンガが終了しました。今日の配信はここまで! みんな、来週の配信もぜひ見に来てね。今週出る動画も、アッキーの罰ゲームも、全部楽しみにしてて! それじゃあ、おつごちゃー!」

『おつごちゃ!!』『おつごちゃ~』『配信お疲れ様です』『今日も楽しかったよー!』『ユウさんばいばーい!』『おつ!』『おつごちゃっ』『配信ありがとう! また来ます!』『来週の配信まで動画いっぱい見て待ってるね~!』『お疲れさまー!』『神回だった!』『すばら!』『ごちゃまぜありがとう!』『ごちゃまぜーー』『おつごちゃ!!!!』『ラブ!!』

 夕陽さんの締めにチャット欄も一斉にねぎらいをかけてくれる。

 俺たちはそれを見届けつつ手を振ってから、配信を切った。

 カメラを消せば、何十万人に見られている環境も同時に一瞬で消える。

 その瞬間、自分の両肩にどっと達成感と、疲労感がやってくる。
 俺はこの配信終了直後の気持ちのいい感覚が、結構好きだ。


 *


 配信終了後、諸々の打ち合わせをしてから、俺たちは解散となった。

「俺はこのまま個チャンの方で一人配信をしていくつもりだけど、みんなは?」
「ごめん、夕陽くん。夕方からラジオの収録があるので今から向かわなきゃいけなくて……」
「あ、そっか! しゅーちゃん、ゲストで呼ばれてるんだったね」
「はい」
「俺も。今日もチーム練だからお先に。めんどいけど参加しないとしつこいからなぁ」
「僕も新作アイテムのWeb会議があるから、お家に帰る~~」
「俺はなんもないんで、残って編集作業やって行きますよ」
「! なおちゃん……! 神すぎるっ」

 俺だけ残ると言ったら、夕陽さんに拝まれてしまった。
 秋風も、申し訳なさそうに眉を下げて話しかけてくる。

「波青、ごめんね……いつもいつも。俺もオフの日は絶対にやるから」
「いやいや、オフって言葉わかるか? 休みだよ休み! オフは家でちゃんと休め。お前ただでさえスケジュール埋まってて忙しいんだから、事務作業なんてしてる場合じゃないだろ」

 (今日なんか可笑しかったしな……秋風、働きすぎて体壊してる説がある)

「でも……」
「適材適所だ、こういうのは! 俺が好きでやってるだけなの。それに、本当にパンクしそうになったら編集さんを雇えば良い話だし。そんな顔するなよ」
「そうそう。できる人がやればいいんだよ! それがグループの良さだもんっ!」

 俺の言葉に、桃星がうんうんっと頷いている。
 夕陽さんはそんな桃星に苦笑し、肩に手を置いた。

「それはそうだけど、せいちゃんも出来る時はちゃんと手伝いましょうね?」
「はぁい~……。でもユウ兄……僕、本当に忙しいんだよ? 個チャンの動画収録と編集があるし、コスイベあるし、お店あるし、曲作りもあるし……。こうやって週一必ず集まって配信するのだって、頑張って時間を捻出してるほうなんだからね? アオみたいに個チャンを動かしてない人には分からないだろうけどさ」
「……そ、そうだな……」

 俺は個人チャンネルの更新は停止している。もう二年以上動かせていない。
 それに比べ、個人チャンネルで歌ってみた動画やメイク動画、コスプレ動画を載せてどんどん人気になっている桃星は、そこから新規リスナーをごちゃまぜに引っ張ってきてくれている。

 『アキモモ』ペアの歌ってみた動画は、ごちゃまぜの動画の中でもトップスリーに入る再生回数だし……。
 桃星はかなりグループ活動に貢献していると言えるだろう。

 さすがにいくら空気の読めない俺でも、そんな色々奔走してくれている奴に、『おい事務作業もやれや!』とは言えないし思ってもない。
 そもそも現状どこからも新規を連れてこれていない不人気メンバーな俺が、言える立場ではないのである。

 でも、俺の代わりになぜか秋風が桃星に言い返した。

「そんな言い方したらだめだよ、桃星。波青には波青の苦労がある。分からないのはみんな一緒だから」
「しゅーか……。そうだね、ごめん」
「えっっっ! 変わり身早すぎだろ!」

 桃星が即座に謝ったのを見て、思わず心の声がそのまま出てしまった。

「うっさい! 何か文句ある!?」
「な、ないです……」
「ないなら黙って」
「……ハイ」

 桃星は怒りっぽいし毒舌だけど、嫌なことを嫌とすぐ言ってくれるからありがたい存在だ。
 俺の言っちゃいけないことを言ってしまう癖に対して、ちゃんと毎回怒って注意してくれる。

 学生の頃はこういうタイプはいなかった。

 みんな、黙って離れていくか、その場では普通そうにしても陰で悪口を言ってきたり、そういう感じだったから。

 桃星のハッキリしているところは好きだし、尊敬できる。だから秋風の親友になれているんだろうな。

 (……親友か……)

「そんなことよりー! しゅーかー、ラジオ局行くまで十五分は時間ある? 久しぶりにティックトッカ撮ろー? ごちゃまぜ公式垢にアップするからっ!」
「あ……いいよ。こまめに更新しないとだもんね」

 ごちゃまぜの主な活動媒体はワイチューブだけど、テイックトッカでも定期的に軽い動画を載せて認知度を高めている。

 今日もアキモモティックトッカを撮って出すのだろう。

 桃星と秋風はリビングのソファに改めて腰掛けて、楽しく自撮りを撮り出した。

 そんな二人から、俺はそっと目を逸らした。


 *


「じゃあね~」
「みんな。明日十六時からの企画会議忘れるなよ!」
「はーい」
「うい~」
「了解です」

 夕陽さんが注意事項を言いながら、玄関ドアを開けて帰宅する三人を見送っている。

「ねぇ、アキくん」

 その姿を何の気なしに見守っていると、珀斗が意地の悪い笑みを浮かべて秋風に絡んでいるのが見えた。

「さっきのさー……やっぱアンタのことだったね」

 靴を履き終わった秋風が立ち上がり、こてんと首を傾げた。

「ん? どうしたの珀斗。なんの話?」
「とぼけなくていーよ。アンタ、自分で言ったの返ってきちゃったじゃん。ダッッッッサ。不器用で、臆病で、かわいらし──、っ!!」

 詰めようと迫っていた珀斗が、突然がくっとつんのめった。

「あ。ごめん。足が引っかかっちゃった……。大丈夫……?」

 体勢を崩して自分にしがみついてきた珀斗を、秋風が難なく受け止め、申し訳なさそうに謝っている。
 前に出していた秋風の脚に気づかず珀斗がつまずいたのだろう。

「……やったな」

 単なる事故だろうに、珀斗が大学生のお子ちゃまだからか、ニコーッと笑いながら本気でキレている。

「やってない。ごめんって」
「ぜってー泣かす……」
「おい! クソガキ! しゅーかイジメたら僕が許さないから!!」
「え、肩たたき……? 珍しく気が効くじゃんおチビ。ちょうどこってたんだよね」
「肩たたきじゃなーーい!!」

 秋風を守ろうと頑張って手を伸ばし、珀斗を後ろからポカスカ叩く桃星だが、身長差のせいで完全にマッサージ状態になってしまっている……。

「……じゃ、おつかれさんっ!」

 ギャーギャーうるさい三人の声を追い出すように、夕陽さんがバタンっと容赦なく玄関ドアを閉めた。

「……ふう。やっと落ち着いた…………」

 さすが静寂と平和を愛する人である。

「今日も夕陽さんと俺の二人きりですね」
「そうね。もう慣れた光景だよねー。しゅーちゃんとせいちゃんはともかく、珀斗の奴はそろそろ引きずって来させなきゃなぁ。あいつがやると編集作業早いのに全然やらないからさ。無理やり机に向かわせないと」
「それは超助かります」
「あはは。……じゃあ俺、配信始めるから配信部屋に籠るね。なおちゃん、作業は程々に! キリのいいところでやめて全然先に帰っていいから!」
「分かりました。帰る時は声かけずに静かに行きますね。お邪魔しちゃうと悪いから」
「うん、ありがとう!」

 そうして夕陽さんは配信部屋へ入って行った。

 ごちゃハウスは広いし防音も完璧だしですごく居心地が良いらしい。夕陽さんは自宅でも個人配信をするが、ごちゃハウスに来てやっていることの方が多かったりする。
 もちろん、俺は夕陽さんが出て来るまで配信部屋の扉は勝手に開けたりしないし、音も立てない。配信中=仕事中だからな。

「よし、じゃあ俺も作業をしていくか」

 俺は一人で編集部屋に入ってゲーミングチェアに腰掛けた。

 動画編集ソフトを立ち上げながら、あ、そうだと思い出した。

 (床さんたち、喜んでくれたかな……?)

 さっきまでの配信。

 きっとみんな見ていたことだろう。

 俺が頑張って生み出した? 『アキアオ」の供給。

 みんなの反応がめちゃくちゃ気になる。

 (作業始める前に、ちょっとだけグループチャットを覗いていこうかな……)

 俺はワクワクしながらグループチャットに入った。

 それはもう活発に感想が行き交って、大盛り上がりに違いない! あんなに愛が強い人たちだから、そのはずだ。


「──うわっ!?」


 しかし。


「……なんだこれ…………」


 俺は画面を見て、絶句した。
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感想 32

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