幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第1章

34 ピカピカ

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 高校に入ったらすぐにバイトを始めて、初給料でスマホを買った。
 自分の為にお金を使うのはこれで最後だ。父さんは仕事ができる時とできない時、不安定だし、これからのバイト代は全部家に入れて生活費にしなければ。

 (でもスマホだけはどうしても欲しかったんだよな)

 俺は秋風に渡されていた電話番号の書かれた紙をじっと見つめた。

 この機械でどこでも人と連絡が取れると思うとワクワクする。家の固定電話は、外には持っていけないもんな。これは外でも問題なしだ。最強か?

 初めての通話は、やはり秋風にしよう。

「『親友』だしな! そりゃ一番にしないと! なはははっ」

 俺はニヤニヤしながら秋風の電話番号を打った。すぐにコール音が途切れ、電話が繋がった。

『もしもし?』
「こちらは、秋風さんのお電話でお間違いないでしょうか? 私は──」
『!! 波青!』
「はやっ。なんでわかっちゃうんだよ、もー」
『声でわかるよ! やっと買えたんだね』

 なんだと。せっかく丁寧に喋って声を作って別人を装ったのに。秋風には敵わないな……。

「おう。アプリも色々入れてみた。これからはメール? のやり取りもできるぞ!」

 秋風とはいつも家の固定電話で連絡をとっていて、先週も話したばかりだ。
 でも家の電話だと家族に丸聞こえで何だか恥ずかしいし、ずっとそこにへばりついていなきゃいけないから疲れるし……。長電話はできなかった。

 今後はベッドでゴロゴロしながらだって通話できるのだから最高だ。

『波青と文字でも話せるだなんて嬉しいよ。夢みたい……』
「大げさかよ」
『ふふ。メッセージアプリも入れた? 波青のIDを教えてくれたら、俺がトーク送るよ』
「IDな。ちょっと待って……。……あ、これか」

 俺のIDを口頭で教えてから通話を切った。

 すると、すぐに秋風からメッセージが来た。

【波青! これ、送れてるかな? 祝! 初スマホ! おめでとう~】

 (すげぇ! 秋風って名前が書いてある人から、吹き出しが届いたぞ! これがトークってやつか)

 動物のキャラクターが祝っている絵も添えられている。これがスタンプというやつだろうか。秋風に見せてもらったことがある。俺も欲しいな。あとでやり方を教えてもらおう。

【うい。おれ、打つのおそいかも。ゴメン】

 すぐ返そうと思ったのに、小さい画面で文字を入力するのに慣れてなくて遅くなってしまう。
 中学の授業でパソコンはやったけど、スマホの扱い方もやってくれたらいいのに。今どきは皆スマホくらい持っていて普通にできるから、わざわざ授業でやる必要がないのか……。なんなら小学生だって持ってるもんな。

【大丈夫だよ! 全然待つから、ゆっくりやって。俺のこと友達追加できたりする?】

 一瞬で既読って文字がついて、秋風からの返信が来る。
 こいつ、打つの早すぎる……。

「えーと、えーと……」

 言われた通りに友達追加というものをやってみれば、友達欄に秋風が並んだ。

 まだ父さんを入れてないから、これが初めての友達だ。

「おおお……!」

【友達追加。できた】
【ありがとう! これでいつでも波青と話せる!】
【おー】
【約束してた卒業式の日の写真、さっそく送るね】

 メッセージと同時に、写真が複数枚、ぱぱぱっと送られてくる。便利だな、メッセージアプリって。

【さんきゅー!】

 (やったぜ……! 秋風とのツーショゲットだ!)

 ほぼ万年ぼっちな俺が、友達とのツーショットだなんて。すごい。しかも、ただの友達じゃない。親友なのだ……。海乃莉と海依斗に見せてあげたら感激して涙するレベルじゃないだろうか。

 (保存、保存!)

 むふむふ笑いながら写真を保存しようと俺は、ふと首を傾げた。

「……ん?」

 なんか、秋風のアイコンの画像、見覚えがある気がする。丸を押してみると、画像が拡大して見えた。

「……や、やっぱり。これ……」

【てかお前のアイコン。これ、俺の描いた絵じゃね?】
【あ! バレた……!】
【こら、勝手に使うなよ。著作権侵害だぞ】
【著作権あったのこの絵】
【あるわ】

 中学のテスト前の時期、優秀な秋風のノートを借りて勉強することは多々あった。
 借りておいてなんだが、俺は勉強に飽きた時、ノートの右下に猫のらくがきを描いてぱらぱら漫画にして遊んでいた。あれをまさか撮られてアイコンとして活用されていたとは……。

 (上手いイラストなら全然いいけどなぁ。俺、下手くそなのに……)

 いつも海乃莉と海依斗に絵を描くのを強請られては、渋々描くのだけど、残念ながら毎回はてなマークを浮かべられてしまっている。
『おにい、これ何を描いたの?』『にいちゃんの考えた架空の最強生物かな?』とか言われてしまう……。

 この秋風がアイコンにしてるやつも、猫が猫に見えないし。正直謎の物体である。

 【お前がこのヘンテコな絵を描いたと思われるじゃん。いいのか……?】
 【ヘンテコ? かわいい絵じゃない? これを見てると自然に笑顔になれて癒されるよ】
 【変わったセンスだな……】
 【そうかな。波青の描いたものだと思うと、すごい、好きっていうか……。離れてても、いつでも波青のことを思い出せて良いんだ。でも勝手に使っちゃっててごめん。アイコンにして良い? って聞くのが恥ずかしくてこっそりやっちゃった】

「…………」

 【お前、俺のこと好きすぎるだろ】
 【えへへ!】

 (……えへへじゃねーよ……)

 呆れる。

 呆れたフリをしながら、一々嬉しく思ってしまっている自分に呆れる。

 秋風の真っ直ぐな好意がこそばゆい。だけど、嫌じゃない。たった一人の親友だから。

 俺は秋風を大事に想っていて、秋風も俺を大事に想ってくれている。
 それってなんか……すごいピカピカしているじゃないか。
 どんなものにも変えられないものな気がするんだ。

「……」

 俺は口を尖らせながら、秋風のアイコンを見つめた。

 アイコンの中のへんてこ猫が、

 『変な絵だって波青は言うけどな! 俺はこんなーに秋風に大事にされてるんだぞ!』

 そう言って誇らしそうに、ふんぞり返っているように見えた。




 だけど──それから二ヶ月後。


 高校一年生の夏休み、秋風のアイコンが突然変わった。俺の描いた猫はお払い箱になっていた。

 アイコンが変わったのと同時に、それまでしていた長時間の通話が無くなった。
 トークのやり取りがそっけなくなった。
 遊びに誘っても絶対に断られるようになった。

 唐突すぎだ。
 今までがべったりしていたから、いきなり開いてしまった距離感に俺はどうしたら良いのか全くわからなかった。

 俺が無意識に何かしてしまったのだろうか? 秋風は怒っているから、俺を避けるようになったのだろうか。
 そう思って、わけもわからず謝ったりもした。

 でも、全てが無駄だった。秋風は、ただ忙しいの一点張り。

 親友と言ってくれたのは、卒業しても仲良くしたいと言ってくれたのは──嘘だったのか?

 俺はあいつに……弄ばれていたのか。

 (……いや、ちがう……。忙しいってのは本当そうだし……。単純に、会える時間がないんだよ。秋風はわざと俺を揶揄って遊ぶような奴じゃない)

 俺は自分に言い聞かせ、疑いかける思考をなんとか止めた。

 偏差値の高い高校だから、授業が大変なんだろう。

 それに秋風は中学の頃から早く一人暮らしをしたいと言っていたし、高校からはその資金集めの為のバイトを頑張っている。
 俺もバイトを入れまくっていて時間はないから、一緒だ。

 でも、たまの休日くらい、あいつの顔を見られたらって。そう思ったんだけど……。

 【秋風、再来週の土曜ちょっとだけ会えね? それか来月末】
 【どっちも埋まってる。ごめん】

「……」


 【そしたら、お前の空いてる日を教えて。俺が合わせるから】
 【申し訳ないけど、忙しくて空いている日が無いんだ】
 【そっか、わかった。それなら仕方ないよな】
 【ごめん】
 【じゃあ時間ができたら連絡くれ。待ってるから。忙しくても、体には気をつけろよ】
 【ありがとう。波青も、元気でね】

 それきり、トークが途切れた。

 連絡が来るのを待っているうちに、一年以上が経ってしまっていた。

 一年間一日も空いてる日が見つからないなんてことは絶対にないだろう。

 俺はもう諦めていた。

 (秋風はわざと、俺に会わないんだ)

 突きつけられた現実に胸が痛い。

 高校でも友達と呼べる友達はたいしてできず、ずっと孤独だった。

 俺は寂しさを誤魔化すようにバイトをしまくり、家事をして、父さんと双子のそばにいた。

 そんな日々、バイト代で双子にゲーム機を買ってあげていたら、同じものが俺の誕生日に渡された。

 双子は、婆ちゃんと爺ちゃんが生きている頃にくれていたお小遣いの貯金から買ってくれたのだと言う。

 嬉しいけど、こんなの買わなくて良いのに……と断ったが、クリスマスにもやっぱり色んな種類のゲームソフトが枕元に置いてあった。

「──おいっ! 誰だっ、俺にサンタさんごっこをしたのは!!」
「え、えーと、おにい、これはね~……」
「僕たちが……。う、うん……」

 双子を問い詰めると、二人揃って目をさまよわせていた。

「……?」

 (よく分からないけど。せっかくお小遣いをはたいて買ってくれたんだし。ちゃんと遊ぶか……)

 売りに行くというのもちょっと可哀想だし。

 俺は好意に甘え、初めてゲームというものをやってみた。

 すると存外面白くて。すっかりのめり込んでしまった。

 対戦系は苦手だから、ほのぼのとした箱庭ゲームや無人島ゲームしかやらない。
 ゲームというものは、非日常の世界に行けて、悲しい現実から逃避できて……癒される。

 特にどうぶつの島というゲームが俺のお気に入りだ。

 学校とバイトと家事の合間に、一人でずっと遊んだ。

「……へー。友達の島と行ったり来たりできるんだ。そこにしか生えないフルーツを交換……。いいな。秋風どう島持ってっかな? 電話して──」

 聞いてみよう……そこまで思って、独り言が勝手に止まってしまった。

 (…………あ…………)

 そうか。

 もう電話できないんだった。

 メッセージをしても、きっと返ってこないんだった。

 忘れてた。


「…………」


 (そっか…………)


 ピカピカ光るゲーム画面の前で、俺はうずくまった。


 もうピカピカなんて、ちっともしていない。
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