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第1章
36 嘘つき
しおりを挟む(秋風が配信をしてる? 歌い手……?)
意味のわからないことだらけだ。
本田の言ったことを脳みそが処理できなくて、頭がぼうっとしている。
「……あっ……!」
校門の前で一人立ち尽くしていたら、高校生の集団に肩がぶつかってしまった。
「……っ」
俺はどしゃっと尻もちをついた。
「お前! それは違うだろ! おもろいのはこっちやん!」
「だからこいつがさぁ──」
ぶつかった男子高校生数人は、俺に気づくことはなく、ゲラゲラと笑いながら歩道を歩いて行った。
「……」
肩を組んで、頬を寄せ合って、冗談を言い合って……楽しそうだ。
その活き活きとした後ろ姿が、かつての俺と秋風の姿に重なって見えた。
「…………っ」
転んだ時にとっさについた手のひらに砂利が食い込んで、じくじく傷んでいる。
だけど、胸の奥のほうが、もっと痛かった。ズキズキズキズキ、痛んで。息ができない。
(…………俺……何してるんだ……?)
こんなところまで来て。
結局会えなくて。現実を思い知らされただけで。
バカじゃないか。
(……帰ろう……)
青春を感じる景色から目を逸らし、俺は一人で立ち上がった。
フラフラよろめきながら、校門から離れ、駅に向かう。
駅のホームでぼーっと電車を待っていたが、「──秋風くんさー」という声でハッと我に返った。
「……──!」
慌てて前を見る。
秋風がいるのかと思ったけど……違った。
「知ってる? 秋風くん、今B組のシオリちゃんと付き合ってるんだって~!」
俺と同じ列で電車を待っている目の前の女子高生たちが、秋風の噂話をしているようだった。
あいつと同じ学校の制服だし、秋風というのは珍しい名前だから、別人のことではないだろう。あの学校に同じ名前の生徒がたまたま二人いるとは考えられない。
「えっ! まじで!? こないだまでエマと付き合ってなかった!?」
「それ古い古い! エマのあと、ヒナっち、そのあとがシオリちゃんだったはず」
「やばー」
「毎月ペースで彼女変わってない?」
「そりゃーあんだけかっこよかったら遊ぶよね」
「ヤリチンかぁ~」
「そういうこと言うのやめて! みんなの王子だよ!?」
「うんうん。蓮見くんはヤリチンじゃない! チャラくない! 他の男子みたいなガツガツしたいやらしさ全然感じないもんっ」
「仕草にも言葉遣いにも品があるよね!」
「アハハッ! あんた達夢見すぎでしょ! チャラくない人はそんなコロコロと彼女変えんからっ」
女子高生たちはそんな下世話な話をしながら、お互いの体を叩き合って盛り上がっていた。
「いやいや、女の方から寄って来るんだから仕方ないじゃんか。何人の女が王子に告白して散っていってることか……」
「他校の女子も毎日見に来てるよね。競争率高すぎ」
「にしてもシオリちゃんまで秋風くん狙いだったとは意外」
「ほんと。あの子男子に興味ないのかと思ってたよ」
「王子みたいな人が同じクラスにいたら誰でも落ちるって。不可抗力だって! あの国宝級な見た目と美声で、成績もトップだよ……? 漫画みたい。同じ高校に通えてるだけでもラッキーよ。私王子のこと他校の友達に自慢しまくってる!!」
「わかる~。でも、彼女になれたらもっともっと鼻が高いんだろうなぁ。あーー私も蓮見くん彼氏って言ってみたい! 一週間だけでも付き合いたい~!」
「あんたレベルだと付き合えて二日かな」
「それでもいい。その二日間を一生の思い出にして生きていく……」
「ねぇねぇ、じゃあさ、来月みんなで秋風くんの次の彼女に立候補してみん? ダメ元でさぁ」
「えー。どうしようかな~」
「まず声がかけられないし、視界に入る勇気すらないんだけど」
「それな」
「あたしらじゃだめだわ」
「ひよんなよ」
「あはははは!」
楽しそうな女子たちの噂話がひと段落したところで、ちょうど電車がやってきた。
「ならバレンタインに──」
女子たちは再び話に花を咲かせながら、ぞろぞろと電車に乗って行った。
「……」
俺は一緒に乗ることもできず、閉じていく電車のドアをただただ呆然と凝視していた。
……秋風が、彼女を毎月変えてる?
(なんだそれ……)
──忙しいって、そういうこと?
女遊びで忙しかったのか。
彼女なんて要らないって、言ってたのに。
── 『もう彼女とか要らないんだ。言ったでしょう。大したことなかったよ、青春なんてって』
嘘つき。
中学で遊ばなかったのは、彼女良いなーって羨ましがる俺に気を使ったから?
高校では、鬱陶しく妬む奴がいないから、思う存分羽目を外しているんだな。
なんだ。
そういう、ことか。
*
「『aki』……」
家に帰って、最近人気な歌い手や配信者を調べてみた。
秋風の歌声なら小中学生の時一緒にふざけて歌ったりして知っていたから、バズってる歌ってみた動画を漁っていたら、すぐに見つかった。
アキという名前の動画投稿者から、秋風の声がする。
半年前にできたばかりのチャンネルなのに、もう登録者は十万人をゆうに超えていた。
(こんなのやってたんだ)
──『……まさかお前、そんなことも知らされてないのか?』
本田の言う通りだ。
親友なのに、親友……だったのに……俺は何も知らされていない。
秋風は、俺の知らないところで、たくさんのファンを作っていて、トウセイっていう新しい親友もいて。
俺の秋風は、もういないんだ。
──『クラスメイトとか、友達じゃないよ。俺は波青のこと親友と思ってる』
嘘つき。
──『…………そ……卒業しても、俺と仲良くしてくれませんか……』
嘘つき。
──『卒業しても、俺のこと親友と思ってくれる? ずっと仲良くしてくれる?』
──『ああ』
──『本当に……?』
──『っ、しつけぇな? ほんとだって』
嘘つき。
──『……ふふ。嬉しい』
「…………っ」
──『波青、だいすき』
「うそつき……!」
その日俺は、枕がびしょびしょになるまで、夜通し泣いた。
何がそんなに悲しいのか、自分でもよく分からなかった。
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