幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第1章

56 ボディガード力

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「ど、どうしよう……」

 俺はどうにもできずキョロキョロ周りを見渡した。

「どうしようもなにもだよ! これじゃあ、車内で時間を潰すしかないんじゃない? はぁ……。ゆっくりお茶もさせてくれないなんてあり得ない! 僕が可愛いからってこんなに集まらなくてもいいのにねー」

 正面の桃星がムスッと頬を膨らませている。

「モモを見にきた人だけじゃないだろ?」

 思わずツッコんだら、プンプン怒られてしまった。

「うっさい!!」
「理不尽っっ」
「ははは……」

 俺たちのやり取りに苦笑いしながら、夕陽さんは伝票を持った。

「俺、会計行ってくるね。俺が女の子たちのタゲ取ってるうちに、三人は先に外に出といて? 外も外でやばいと思うから珀斗を盾にしてなんとか頑張って! 珀斗、二人を守れよ!」
「あっ、夕陽さん……!!」

 夕陽さんが爽やかに言葉を残し、レジカウンターに向かって行ってしまった。

 レジカウンターに行くには、女子の席に包囲された通路を通る必要がある。この店は狭いから。

 (ああああああ……!!)

 案の定、通路を通った夕陽さんは四方八方から手を伸ばされ、身体中を知らない女の人に触れられまくっている。

 (夕陽さーーーん……!!)

 最初の犠牲者が爆誕してしまった。有名人だと勝手に触ってもいい的なアレ、なんなんだ。可哀想。

「…………」

 この隙に俺たちも──とは思うが、夕陽さんと同じ目に遭うのかと思ったらどうしても尻込みしてしまう。

 (あんなもみくちゃにされるのか。こええぇーー!)

「……しゅーかぁ……っ」

 桃星も夕陽さんの姿を見て自分がこの後どうなるかを察したのか。ここには居ない秋風に涙目で助けを求めている。
 確かに秋風が居れば、絶対守ってくれただろう。こんな時に限って一番リスナーをいなすのが得意な人間が居ないのが悔やまれる。

「弱虫チビすけ共、ばいばーい」
「あ、ちょっ! 置いてくなよ……!」

 怯えている俺たちを放って、珀斗はさっさと一人で夕陽さんとは別の通路に行こうとしている。こいつは血も涙もないのか。

 慌てて俺もその後を追おうとしたのだけど、くんっと服の裾を引っ張られて、前につんのめってしまった。

「──うわ!」
「ま、待って!! 僕最後はやだぁ~……!」

 振り返ると、桃星が上目遣いで俺を見上げてきていた。

 (えっっっ──か、かわいい……!!!)

「…………」

 ……いやいやいやいや! 落ち着こう。

 (こいつは男、こいつは男……っ)

 性別を知らなかったら今、絶対にときめいてた。危ない。
 視界的に女の子にしか見えないのに、これで男とは。脳がバグりそうだ。

「っ……お、おう。最後尾はやだよな。それなら、モモが先に行っていいぞ!」
「……うん……」
「ほら、ハクの後に続け!」

 体を押すと、桃星はあわあわと珀斗を追いかけた。でも体には触れずに距離をとっている。夕陽さんか秋風だったら喜んで抱きついていただろうに。珀斗のことが相当嫌いなんだろう。

「よーし! それじゃあ、しんがりは俺に任せな……!」

 俺は一生のうちに一回は言ってみたかった台詞をボソッと口にし、一人でニヤついた。

 (ぐへへへへ! なんかのアニメで見てかっこいいと思ったんだよな……やっぱりかっこいい! このセリフ!!)

 頼れる男って感じがする。

「モモー!!」
「モモたんー!!」
「可愛すぎる!! お人形さんみたいっ……!!」
「近あっ! いい匂い! ステージにいる時と全然違う距離感だよぉ!」
「モモちゃんこっち向いて! その服似合ってるよ!」

 (……ああっ……!)

 まずい。ニヤついている場合ではなかった。

 俺の前を歩く桃星が左右のテーブルから伸びてきた手に囲まれているではないか。

「……み、みんなありがとー……っ……」

 桃星の笑顔はいつにないほど引き攣っている。

 安全なステージ上から見下ろしてするいつものファンサならともかく、ファンが自分と同じ目線にいる今の状況は相当怖いはずだ。桃星は身長が低いし。

 それに、何をされるかわからない。向こうが危険物を持っている可能性だってあるのだ。

「モモてゃ、手ぇ小さすぎー! 私より小さい!」
「サインお願いしますっ」
「モモの歌いつも聴いてるよ~!」
「モモたんハァハァハァ……ッッ合法ロリッ……ふぅ……」
「ひっっ……さわんないで……!!」

 (どさくさに紛れて変態そうなおじさんもいる……!? やべぇっ!!)

「ッッおおおお触り禁止ですよ……!!!」

 俺はずさあっとファンと桃星の間に滑り込むと、思い切り両腕を広げてガードした。

「はーい! セクハラやめてください!! はい、はいはいっ、失礼しまーす!! どいてねー、勝手に写真撮影も良くないですよっ!!」
「あっ……モモたぁん……!!」

 俺に割り込まれたおじさんは悲しそうに伸ばしていた手を降ろした。

「……」

 (す、すまん、おじさん…………)

「うわ、うざ! なんだよ! マネ同行してたの!?」

 若い女の子達からは鋭い罵声が飛んできた。

「マネめんど」
「や、違うわ! マネじゃない! これアオだ!」
「あっ、アオか。オーラなすぎて一般人かと思った」
「それな」
「待って、アオ中学生みたいな服着てるんだけど」
「うわぁ……ダッサ…………」

 ヒソヒソ悪口を言われてしまっている。

 (ちゅ、中学生……!? せめて大学生ファッションと言ってくれよ……!! あと、ダサって呟くのやめて! 地味に辛いから!!)

「アオのせいでモモが見えない~~!」
「アオどけー!」
「邪魔すぎる」
「……モモたん……」
「……はいはいはい! と、通りますよ!!」

 俺は周囲からのブーイングを気にしないようあえて大声で返し、桃星を体で守りながら早足に進んだ。
 気持ちはさながら専属ボディーガードだ。

「……」

 桃星は無言でちらちら俺を見たり床を見たりしながらしおらしくついてきた。

 カランコロン。

 珀斗が喫茶店のドアを押して、音が鳴った。

 (やっと出口だ……!!)

「……!」

 しかし、外もやはり野次馬で溢れている。

 (うう……なんだこの人の量。えぐい。ここだけ渋谷か??)

 囲まれていて一歩も動けない。

 どうしようと困っていたら、珀斗が低音ボイスで呟いた。

「……どいてくんね?」
「…………!!!」

 その瞬間、さあぁぁぁっと人垣が二分された。

 (ええええ……っ! モーセの海割り……!!?)

 こんな力があるなら最初からやってくれていたら良かったのに……。

「ちなみに、盗撮をSNSに載せる奴のアカウントはチェックしてブラックリストにぶちこんでるからね~」

 珀斗はしーんとする周りを見渡し、嘲笑しながら続けた。

「ルール守れないならリスナーじゃねーから、諸々のイベントは絶対外れるようにさせていただきまーす」
「……!!」

 それを聞いた女の子たちは、掲げていたスマホを一斉に下ろした。
 無断でこちらに向けられていたカメラの数を思うと本当に怖かったから、助かった。

「ご、ごめんなさい……!」
「もうしません!!」
「ハク様、すみませんでした」
「ありがとうございます!!!」

 (……ありがとうございます???)

 最後にドM混じってないか? と気になったものの、その他の人はちゃんと分かってくれたようだ。
 盗撮ダメ、絶対。

「──みんな、お待たせ! ……お? 人が離れてるね。良かった良かった」

 場が落ち着いてすぐ、ちょうど夕陽さんも店から出てきた。

「あ! 夕陽さん……! 支払いありがとうございます。おいくらでしたか?」
「いーよいーよ! ここは俺の奢り!!」
「ま、まじっすか……。すみません、ごちそうさまです」
「ごちーっす」
「ユウ兄、ありがとー! ごちそうさま~」

 夕陽さんはうんうんと頷いた後、眉をキリッと上げ珀斗を見た。

「珀斗お前、ちゃんとせいちゃんとなおちゃんを守ったんだろうな!?」
「は? なにそれ」
「何それじゃないだろ! さっき頼んだだろ!」
「勝手に仕事を渡されてもねぇ。俺は了承した覚えないからなぁ」
「なんだって……!?」

 俺は慌てて夕陽さんの顔の前で両手を振った。

「いやいや夕陽さん!! 待って待ってっ。ハクすごかったんすよ! ハクのひと睨みで、道がさぁぁあっ! ってひらけて! それはもう、特殊能力持ってんのかってくらいの活躍でした!!」
「……え? そうなの? なおちゃん」
「はい! ちゃんと仕事はしてました!」
「そうかあ。なんだ。やるじゃないか──」

 納得しかけた夕陽さん。
 だが、桃星が大きな声で言葉を遮った。

「違うよー!! クソガキはお店の中で僕らのこと置いてこうとした! 僕のことは、アオが守ってくれたのっっ!!」
「…………え?」

 夕陽さんと俺は思わずポカンと桃星を見下ろしてしまった。

「……」

 桃星は唇を尖らせて、照れ臭そうに横を向いた。

「頼もしかったよ? アオ。ボディーガード力だけは、認めてあげるっ。……ありがとね」
「…………!!」

 桃星は、俺のこと好きじゃない……いや、下手したら嫌いだろうに。
 それなのに──なんてことだ。

「ッッッモモ……!!」
「ちょっ! 調子に乗るなバカ……ッ!!!」

 喜びのあまり桃星に抱きつく俺。子供の成長を見守るように腕で目を拭う夕陽さん……という謎の構図を、リスナー達が『ええぇぇ……』と言いたげな困惑顔で遠目に見守っていた。


 *


 結局その後は車内で時間を潰すことになった。

「やっと時間になったね!」
「そーっすね。長かった……」

 公演開始時刻が近づいてきてようやく、夕陽さんの車から出ていく。

 これ以上騒ぎを起こしたくないので、俺たちはわざとギリギリの時間に劇場内に入った。

 一般のお客さんの目を惹かないよう、そーっと後ろから関係者席に向かう。

 関係者席は二階の通路から一番近いところになっていたから入りやすかった。

 それでも周りのお客さんには、あそこが関係者席だ! とバレてちょっとだけざわつかれてしまったけど、夕陽さんがしーと人差し指を立てるとみんな落ち着いてくれた。

「えーと、俺の席は……」

 左に三席空いていてその隣が俺の座席のようだ。

 俺の右には、桃星、夕陽さん、珀斗の順で座っている。珀斗の隣にはまさかの黒さんがいた。

 (お、おお……。黒さん。また会った)

 まあ、このゾーンは秋風の招待客で固められているんだろうから、当たり前か。

 (……ん? ということは……)

 この空いている三席は……。

「…………」

 ……なんだか嫌な予感がする。

「お姉ちゃん~華たちの席どこ~?」
「こっちよ」

 (うわあああああ!!)

 案の定、秋風の家族とも朝ぶりに再会してしまった。

「キャー!? またごちゃまぜに会えた~っ!!」
「……」
「どうも」

 妹さんは嬉しそうに目を輝かせ、お姉さんは無言。お母さんは静かに一言挨拶だけすると、俺から一番遠い席に座った。

「華、ハク様と隣がいい~!」

 そう言った妹さんが俺の隣に座ったので、俺は慌てて立ち上がった。

 秋風の家族の隣は怖い。なんか嫌だ。

「ハク……! ハク! 俺と席交換しねぇ!?」
「嫌でーす」
「いや、この子もお前の隣が良いって言ってるから──」
「アオくんさぁ、もう始まるんだけど。ちゃんと座れば? 周りに迷惑すぎ」
「くっ……」

 すげなく断られてしまい、俺は歯噛みしながら自分の席に再び腰を下ろした。

 正直珀斗が羨ましい。珀斗の隣の黒さんは身バレ防止の為に劇場内では絶対一言も声を出さないだろうから、静かなはずだ。俺も今だけは黒さんの隣が良かった……。

「……」
「えー!? ハク様こっちに来ないのぉ~??」

 ちらりと隣の妹さんを見てみれば、露骨に顔を歪めてがっかりしていた。

「せっかくごちゃまぜと一緒に観られると思ったのに、……よりにもよって、アオくん…………。……はぁ……一番ハズレ……。しょーもな…………」

 (ご、ごめんね!!??)

 ハズレとか言われてしまった。確かに珀斗ファンの子からしたらそりゃ俺はハズレだろうけれども……。

 俺だって好き好んでこの席に座っているわけじゃないのだから、そこは許してほしい。本当にごめん。

「華。どきなさい」
「……へ?」

 その時、凛とした声が聞こえた。
 
 なぜか、秋風のお姉さんが妹さんのことを冷たく見下ろしていた。

「その大当たり席は、私の席よ……」
 
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